倉木
2024-01-08 19:45:10
18996文字
Public Rot
 

センチネルバース

Rot亀センチネルバース設定のオムニバス形式連載です。
嘔吐含む体調不良描写を含むのでご留意ください。
のRD、MLメインですが色々とぐちゃぐちゃです。

5/24シリーズにせずに一本にまとめました。


センチネルバース設定

レオナルド→センチネル
ドナテロ→パーシャル(聴覚と触覚に特化)
ラファエロ→ガイド(共感能力あり)
ミケランジェロ→ガイド(覚醒直後)

詳しいバース世界観の概要については記載していませんので、お手数ですが別途解説ページなどをご覧ください。


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1.


広がるのは真っ暗闇。
方向を定めようと左右を見回しているはずが、今自分が立っているのか座っているのかすら認識できない。
風が吹きつける音がずっと響いている。
握っていた武器はどこにいった?腕がもぎ取られたように感覚がないのに痛みもなかった。
何もわからない環境で喉元を絞められているように呼吸が圧迫されていく。

か、ひゅ」

それは誰かに首を掴まれているのかもしれないし、もしかしたら自分で掴んでいるのかもしれなかった。
定かではないのは苦しいと言う感覚以外に何も感じられないから。
浅い呼吸に呼応するように胸を打つ痛みと頭がぐわんと戦慄く。
いっそ呼吸をしない方が楽なのではないかと思い始めて、少しずつ意識が遠くなっていく。
そうして、息が止まった。
その感覚は先ほどのような不明瞭なものではなく、明確に呼吸を妨げられているせい。
空気の出入り口を塞いだ熱の塊が口内を舐る。
押し込まれる感覚は蹂躙に近く、しかし決して傷つけることはない。
傷口を直接コーディングされているようで、深淵に塗れていた意識がカーテンを開けるように開かれていく。
戻ってきた視界が映したのはぱっちりと開いた双眼と、それを覆う橙色。
レオナルドが目を開けたことに気付くとこれ以上ないくらいに目を見開き、顔を輝かせた。

「レオ!!大丈夫!?まだどっか痛い??」

いつのまにか煩かった風の音は止んで、耳元を擽るのは快活な声。
圧し掛かっていた重たい感覚は、覆いかぶさる弟ひとり分の重さでもって腹を圧迫していた。

………もしかしてゾーン入ってた?」

そう聞きながら身を起こすとレオナルドの顔をあちこち触れてくる手。

「突然いなくなったと思ったら倒れてるんだもん、びっくりしたよ!」

肩を握った手からじんわりと伝わる感覚は少しずつ呼吸を和らげていた。

「そっか……でもマイキーがケアしてくれたんだろ、ありがと」

「どういたしまして!ボクはレオのガイドだからね!」

そう胸を張るミケランジェロの手から緩やかに熱が伝い、活性し切れていない指先の痺れも収まってきていた。
太刀は手から滑り落ちていて床に転がっていた、空いた手で思わず首元に手を伸ばす。
恐る恐る触れるとそこに纏うものは何もない。
目を閉じるとそこには先ほどと同じ暗闇があるが、穏やかな熱があれば先ほどの恐怖はどこにもなかった。
何度か握った手はもういつも通りだ。
ようやく普通を取り戻し始め、それと同時にまたやってしまったという後悔が胸を渦巻いていた。
五感を研ぎ澄ませれば押されていた戦況を覆すのも容易い。
だがしかし能力の酷使による反動は自己のコントロールがなってないせいだ。
無茶を超えた時の反動は強く、だからこそ限界を覚えろと散々口うるさく言われている。
バレたら絶対に説教に入るに決まっている。

……あのさ、マイキー」

「内緒にはしないよ」

そうにっこりと笑っていたが、どうあっても覆らなさそうな返しにがっくりと肩を落とすしかない。
そう言えば途中で残りの兄弟たちとは分断されてしまったのだけれど、向こうは大丈夫だろうか。
耳鳴りはもう消えたし、耳を澄ませれば声を拾いあげることも可能だ。
ひとまず探しにいかなければと思ったところで、未だ肩に乗ったままの手に気付く。
修復は終わったのでもうケアは必要ないのだけど、と見上げたところでその手は唐突に両頬をわし掴んだ。

「んむっ」

視界いっぱいに映るミケランジェロに丸ごと口を食われた。
キスなんて可愛いものじゃない、捕食に近い。
歯列をなぞり柔く噛みつかれて、驚いた口に舌が潜りこんできた。
驚いて縮こまったレオナルドのそれを引きずりだして、じゅるじゅると舌を吸われると背筋を巡る感覚に身が震える。
そんな戯れは一瞬のことで、あっという間に口は離れていった。

「ご褒美、欲しくなっちゃって」

舌を仕舞忘れたままにっこりと笑うミケランジェロの目は笑っていない。
そしてようやく、無茶をしたこともしかして結構、怒ってる?と今更ながら気付いたのだった。



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2.


足裏を突き刺すような痛みに膝をつく。
すると脳天を突き破る衝撃となった。

「ヒッ!?」

耐えきれず傾いだ身体はそのまま背中を打ち付け、神経がむき出しになったかのような刺激に視界が明滅した。

「ぃ、いたぃ……うぅ

自分を守るように両の手で抱きしめると、触れ合った腕も腹甲もお互いに無数の針を突き刺しあっているよう。
痛覚を直に焼かれている感覚に呼吸が荒くなり、零れる唾液すら拭う余裕もない。
ノイズが脳を揺らすようにかき回している。
鼓膜を引き千切るような電子音が鳴り響き背中の装備が外れる感覚は、皮膚を丸ごとそぎ落とされたようで背中が反り返った。

『ゾーン入りしています、鎮痛剤を出しますか?』

恐らく稼働音は最低レベルまで下げられているはずだけど、それでもドナテロにとっては直接耳元でかき鳴らされたような爆音だった。
ドナテロはその不快感に耐え、震える唇を開く。

「いい、から……ラフを呼んで」

弱弱しい自分の声すら鼓膜を抉る。
抑制剤があれば回復はできるだろうことはわかる、が今の過敏な状況で針なんて刺したらその衝撃でショック死しかねない。
微かな声だったが認識は通ったようで、賢い紫色の相棒は頷いた仕草を見せると可動域を極力お抑え、静かな動作で視界から消えた。
目を閉じると余計に過敏になる、そのため意図的に目を見開いて極力身体を動かさないように。
その地獄のような時間は永遠にも思えた。

「ドニー!」

響き渡る振動と大きな音で心臓が破裂したかと思った。
言葉もままならず震えると、顔を覆うのは大きな掌。

「ごめん、驚かしちまった」

先ほどよりもはるかに抑えられた声量とともに、地面との間に差し込まれた腕。
それは唯一痛みのなく、ただ温かい。
慎重な動作で持ち上げられると持続的に痛覚を嬲り続けてきていた地面から解放される。
落ち着いた先は膝の上で、固い肩に頭を預ける。
唯一ぶら下がった左腕は揺れるだけで外気による痛みを受け、背中から回った手に回収され固定された。
肩に触れる手も押し付けられる固い胸元も、そこに痛みは感じない。
ようやく痛みのない場所に落ち着くと、その安心感に涙が零れる。
痛いのは嫌いだし、我慢だってしたくなかった。
間近で聞こえる鼓動がすべての聴覚を支配し、それは判断力の欠如を生みただ声を上げて泣いた。
敏感な甲羅を撫でる手は、しゃくりあげる度優しく叩く。

「寝ててもいいぞ。よく頑張ったな」

癒しの感覚は微睡と同一だった。
控え目に握られた掌に意識は抗えず。
最後に言いたかった感謝の言葉は終ぞ口から零れることはなかった。


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3.


湯気を立て始めたケトルの取っ手を握ると、指先を直接熱湯を吹きかけられたかのうような刺激となり慌てて手を引っ込める。
ぐらぐらと揺れたが水分の重量もあり倒れることはなかった、思わず落とさなかったのが奇跡だ。
適切なケアが行われれればゾーン後でも後遺症が残ることは少ない。
過敏に感じてしまうのは感覚の名残のようなもの。

「こんばんわ夜更かしボーイ、暇してる?」

そんな背後からの声に振り返ると、寝間着のままのレオナルドが立っていた。
人を小馬鹿にした態度にむっとするがレオナルドはどこ吹く風。
とりあえず無視をしアームを起動して代わりにケトルを持ち上げた。
コーヒーを取り出したところでそっと横からカップが差し出される。
隣を見ると口笛を吹きながらしれっとしていた、ミルクを頭吹っ掛けてやりたい。
そんなことしたらミケランジェロに激怒されるくらいじゃ済まないだろう。

「なぁ、ゾーン入った日って目を瞑るの恐くなったりしない?」

お湯が注がれる様子を見ながら、そうレオナルドが言った。
良く見ると目元がうっすらと黒くなっている。
それを見、ドナテロは溜息を吐いて冷蔵庫からミルクを取り出すとケトルに流しこむ。

……僕は視覚に影響ないから」

五感に優れているということはもちろん便利ではあるのだが、その代償は時に人格すら破壊しかねない。
ドナテロより遅れて覚醒したレオナルドは、特定の器官のみ特化しているパーシャルなドナテロよりも優性なセンチネルだった。
それに嫉妬だってしたし、僻みもした。

「そもそもゾーンになるくらい無茶するのが悪いんだよ」

いくらケアによって戻ったからと言ってゾーンの時の感覚は記憶として残り、それがふとした時にフラッシュバックすることもある。
ドナテロとて、ゾーン入りした時の感覚は耐えがたい。
それが五感全てに適用されることを考えると、想像すらしたくない。

「ドニーだってなってくせに

そう言い返す言葉はいつものあの無駄に自信に溢れた態度のレオナルドに比べて憔悴した様子だった。
程よく使用すればいいのにわざわざ限界を振り切るレオナルドも悪いのだけれど、嫉妬よりも同情の気持ちの方が最近では勝ってしまっていた。
湯気の立つ色が真逆なカップの一つを差し出すと、小さくお礼を言われた。
そうしてカップを手にレオナルドがそのまま近くの椅子に腰かけたので、ドナテロも同じように向かいに座る。
何か言いたいことがあるのだろう、レオナルドは口元にカップを傾けながら、ちらちらとこちらを見ていた。

………ドニーはさ、ケアの時ハグ以外になんか、してる?」

そして飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

「な、な、なんだよいきなりっ!」

「なにかあったとかじゃないけど!なんもない、けど、たまには他人を参考にするのもいいかなって思って、さ?」

目を泳がせまくるレオナルドだったが、ドナテロには追及する余裕がない。
脳裏には嫌でも自分の状態が浮かんでしまい、赤面した顔を押さえる。

「っ僕がケアされているところはレオだって見てるだろ!」

一部の人間に現れる特異な性質が自分たちにも有効なのだと判明したのは、ドナテロが覚醒した時だった。
地面に触れるだけで地下の構造や地質、そこにいる生き物の数まで把握できるようになり、そんな触覚を過度に酷使したせいで痛みにのたうち回った。
ラファエロが次いでガイドを覚醒しなければそのまま耐えきれず舌を噛み切ってでもおかしくなかっただろう。
ドナテロ自身の記憶は朧気だが、みっともなく兄弟の前で泣き叫んでいた事実はできれば消し去りたい過去のひとつだ。
今でもできればガイドであるラファエロはしょうがないとしても見られたくはない。

「あれは最初の頃じゃん、今はどうなのかなって」

自らの身体を含め触れたものすべてに痛みを伴うくらい過敏になるドナテロは、何もしていなくとも死にたくなるような痛みに苛まれる。
そんな中触れられるのはガイドであるラファエロだけだった。
できるだけラファエロ以外一切に触れずにいることでようやく安寧を得ることができ、そこでようやく回復の兆しが見れる。

……何も変わってないよ、あれから」

外から見たら抱き上げら、甘えてすり寄っているようにしか見えないだろう。
羞恥に目元を染めながらそう答えたが、レオナルドはなんだか納得いかないようだ。
頬つえをついて、時節口元を触っているのは無意識なのかどうか。

「そんなもんなの」

最近ガイドとしての能力を覚醒したミケランジェロは、親和性のチェックでより高い数値のレオナルドの仮パートナーとなっていった。
正直ラファエロよりも高い親和性が出ていたのは少し驚いた、本人達は深く考えずにカップル成立だね!なんて何かの相性診断のように捉えていたみたいだが。
ゾーンに入ったセンチネル相手に他のセンチネルが近づくことは共鳴を引き起こしかねないのでドナテロは彼等のケアシーンを見たことがない。
頻繁にゾーン入りする上にセンチネルという高い能力を持つレオナルド相手に、覚醒したばかりであってもミケランジェロは想定以上にうまくケアしてくれている。

「まあ、世の中にはそれ以外にもしてるペアもいるみたいだけど」

ここから先は一般論の話。
本来センチネル相手のガイドは特定の訓練施設を出た優秀なガイドが付くことになっているが、もちろんそれが自分たちに当てはまるはずもない。

「たとえば?」

「セックスとか」

顔色を変えたレオナルドにパートナーである可愛らしい弟を考え、ふと思い立ったドナテロは眉を顰めた。

「お前まさか

「し、してない!なんもしてないって!第一お前らの方がなんかしてそうじゃん!」

「ハァ!?せっかく心配してやったのに勝手に想像して変なこと言うなよバカレオ!」

そんな口喧嘩は深夜には十分に響きわたった。
早々に飛び込んできたスプリンターに飛び蹴りを喰らうまで張り上げる声は止まらなかった。


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4.


ソファに深く沈みこんでいたら、ずるずと背もたれは甲羅を抉りやがて地面に尻もちをついた。
それでも元に戻る気にはなれず、柔らかいクッションにそのまま頭を預ける。
纏わりつくのはなんとも言えない倦怠感。
ダラダラしていても理由を説明するといつもは口うるさいラファエロも同情的になるので、だらけ放題になるのは良い。
しかしドナテロに見つかるとそれは勘違いだの幻惑だのうるさく言われるので、ラボに引きこもっているらしい今が一番だらけられる時間だった。

「はぁ」

常に泥を纏っているような不快感が気のせいだなんてよく言えたものだと思う。
最初は特別な才能に目覚めたんだと思って浮かれていた。
発現した当初は澄み渡った感覚が気持ちよかったしなんでもできる気がしていた。
しかしその後すぐに襲ってきた代償が酷すぎてそんな夢は一瞬で飛んでしまったのだ。
当初ドナテロにずるいだのなんだの言っていた時、苦い顔をされていたのを身に降りかかってようやく理解した。
それにこんなチートじみた能力があると、何を達成したってこの能力のせいだって感じてそれがすごく嫌になる。
いつまでも自分を認められない苛立ちにだからできるだけ使わないように、と思っているのに気が付くと神経が研ぎ澄まされているなんてことばかり。
技や魔法ではなくあくまで自分の身体の体質なのだから、能力を使わない境目ってやつがもうわからなくなっていた。

「レオ!」

「ぶえっ!」

腹に落ちた衝撃と共に突然、ミケランジェロが視界に入りこんできた。
両手を頭上に掲げ、何やら大きなボウルを持っている。

「マイキー重いって!潰れるかと思った」

そう言ってどけようとするが、太ももでしっかりと両腰を挟まれる。
そうしてぷくっと頬を膨らませた。
ガイドとセンチネルという立場になり触れ合いの必要が出てきたが、それがなくともミケランジェロは元々スキンシップが過度なタイプだった。
愛嬌があり、可愛らしい弟のままだ。
ひとり取り残される空間から戻ってきたときに一番にその笑みがあると、それがなんだか日常と切り離されない架け橋のようにも思えてくるくらい。

「何もないのにくっついちゃダメなの?」

だからその一言はレオナルドから反論の手段を奪うに十分だった。
別にガイドの能力としてだけ触れ合いを望んでいるわけじゃない、そんな当たり前のこと。
しかしそう無邪気に問いかけられると罪悪感で降参するしかなかった。
動かなくなったレオナルドに、ミケランジェロは満足そうに両手を下ろす。
持っていたのは皿いっぱいのピザパイだったようで、焼き立てらしい芳醇なチーズの匂いが鼻腔を擽った。
片手に抱え直して一個摘まむと、レオナルドに向けて差し出される。
促されるまま口を開くと放り込まれた、一口にはちょうど良いサイズだ。
咀嚼するとしみ出してきたトマトソースと相成り幸せがそのまま体現された美味しさだった。
しかし味わって咀嚼していると、再び口に押し付けられる感触。
防がれたせいで破片がボロボロとレオナルドの胸元に落ちてきた。

「まだ食べ終わってな、むぐっ」

「疲れてるみたいだからいっぱいピザ食べれば元気でるよ」

ミケランジェロの目は本気だ、もしかしてそのボウルいっぱいのそれを全部食べさせる気なのかもしれない。
逃げようにもかろうじて地面に肘をついた状態で完全にマウントを取られていればそれも叶わず。
力づくで押しのけてうっかり食べ物がひっくり返りでもすれば粗末にしたことに対する彼の怒りの度合いを知っているととてもできない。
餌付けされるペットのようだと思いながら、次々に口に放り込まれる際に唇を一瞬触る手触りに、不意に唇の感触を思い出してしまった。
動揺し飲み込み損なったせいで咳き込むと、レオナルドから飛び降りたミケランジェロは優しく背を撫でてくれた。
ケアとは言え、ミケランジェロ相手に何回もキスしてるんだよなって思うと、なんだかすごくいけないことをしている気分になる。
落ち着く、とか安心、とはちょっと違う。
自己嫌悪も無茶苦茶な反動も辛いという感情を通り越すような苦しみも、ミケランジェロは全てを吹き飛ばしてくれるエネルギーの塊みたいなものだった。
涙の溜まった目を拭いようやく落ち着くと、覗き込んでくるミケランジェロは心配そうで可愛らしく見えた。
そう、口元だけで弧を描いたその表情も同じように。

「レオから美味しそうな匂いがする」

そう言ったミケランジェロに、同じように自分でもひとつ掴んで差し出すと、レオナルドの指ごと食いついた。
幸せいっぱいといった表情に思わず同じように顔が緩んだ。
センチネルは窮地から救い出してくれる存在であるガイドに依存しやすいらしい、前にドナテロが言っていたことを不意に思い出した。
一緒にいると安心する、というより逆にいないと安心できないと言った方が正しい。
レオナルドの指先についたトマトクリームを舐めしゃぶる様子に、何故だかむず痒い感覚が腕を伝った。


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5.


作業が満足のいく結果で一息つくと、目の奥の鈍痛にいかに集中していたのかがわかる。
一度息抜きをしようと部屋出て間もなく、ラファエロと鉢合わせした。
驚いたのはドナテロだけで、ラファエロはどこか困った様子で目を泳がせた。
家の構造からして可能性はゼロではないとはいえ、普段部屋の前でそう遭遇することはない。
そしてラファエロの表情に恣意的なものであることはすぐに理解できた。

「ケアしておいた方がいいかなと思って、よ」

待ち伏せされていたのはあまり気分が良くない、そんなドナテロの視線にラファエロは頬をかいて言った。
その言葉に余計眉を顰めることになる。

「ゾーンに入ってないこと見てわかんない?それに日常的なケアなら僕じゃなくてレオに行くべきだと思うんだけど」

「レオのゾーンが多いってのはわかるんだけどよ。でも、ドニーも最近ゾーンになること増えただろ」

論破する気満々だったんだけど、痛いところをつかれて押し黙ることしか抵抗できる術がなくなってしまった。
共鳴によるゾーンの誘発は危険性も高く、本来であればあまりセンチネル同士の接触は好まれないとされている。
あくまで唱えられている学説の一種なので信ぴょう性は定かではないが、最近はある程度コントロールができていたはずなのにレオナルドに引っ張られるように能力を過度に駆使してしまう機会は確かに増えていた。
真っすぐに見てくる視線は流石、兄弟のことを良く見ている。

「ドニーがあんまりハグとか好きじゃないのはわかってるけど、でも」

「もういい、わかった」

はぁ、と溜息を吐くと不安そうな視線。
でかい身体の癖にそんな捨てられた子犬のような顔をするものだから、こっちがいつだって悪者の気分だ。
まるで怒られるのがわかっているかのような態度は少しだけ腹が立つ。

「せめて場所は考えて欲しいんだけど、ここじゃイヤだし」

「!わかった任せろ!」

安心したように顔を綻ばせたラファエロは、喜びを全身に現したままドナテロを抱き上げた。
驚いて声を上げても聞こえているのかいないのか、ドナテロを担ぎ上げたまま足早に部屋へと歩を進めた。
向かった先はすぐそこにあったドナテロの部屋ではなくもう少し離れたラファエロの部屋だ。
部屋に着いてドナテロを下ろすと、ベッドに勢いよく腰かける。
反動でぬいぐるみが2度跳ねていた。
嗅覚は特化しているわけじゃないのに、部屋に充満するラファエロの匂いが落ち着かなかった。
部屋そのもののラファエロに包まれているようで。

「ほら」

そう両手を差し出された。
どうせなら抱えたまま連れていってくれればよかったのに、と思うが大きく深呼吸。
自らの足で歩いていって膝に乗り上げた。
筋肉質な膝に腰を下ろすと、空いていた隙間を埋めるように背後から回った手に引き寄せられた。
触れることで伝わる体温に、平常時に触れるのはちょっと、いやかなり恥ずかしい。
両の手で包まれれば聞こえるのは自分とラファエロの息遣いと呼吸音。
緊張で早鐘を打つ心臓はきっとばれているのだろう。
肩をまさぐった手の意図を理解し、背中の防具を外すと直に触れる感覚に小さく息が漏れた。

……っ」

柔らかな体質である分密着すればするほど全てが暴かれているような気になるから、本当は誰かに触れられるのは好きじゃなかった。
聴覚にも影響が出るため互いに言葉を発さなくのもケアのひとつだった。
そう、だってラファエロはケアだって言っていたから、これはひとつの医療行為の延長に過ぎない。
そう言い聞かせ、不意に太ももに触れた手にびくりと跳ねた。
それはゆっくりと内側を巡り、少しずつそれは際どいところまでのぼってくる。

「ドニー」

ルールを破って呟かれる名前は低く、そしてどこか色気を孕んだような響きで脳神経を揺らした。
明らかにケアを超えた手の動きに投げるには本来否定の言葉だったんだろう。
そうわかっていて、ドナテロはそのまま自分より遥かに大きな肩にしがみついた。
だって少し期待してしまっているのが、わかるから。
太ももの一番上、布越しにするりと撫でられるとむず痒い感覚に小さく鳴いた。
緩やかな快感に涙が零れると、その目尻を唇が触れる。
涙を舐めとる際に見える僅かに見えた鋭利な牙に食いつくされそうで、涙腺は決壊したまま治ってくれなかった。


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6.


頭上に向かって振りかぶると、迫っていた最後の一体が斬り捨てられた。
紙で出来た敵は気配が薄い。
それゆえ一層研ぎ澄ます必要がある。
耳をつくのは静寂の中、おそらく上に立っているであろうショッピングセンターの笑い声を拾ってしまう。
それを無理矢理排除してより近い方に神経を研ぎ澄ますと、瓦礫の崩れた音がしてそこに持っていた刀を投げつけた。

「レオ!無事か!」

飛んできた刃物を避けつつ出てきたのは、ラファエロだった。
それ以外に聞こえる音はない、瓦礫の向こうでドナテロとミケランジェロの声がする。
会話の内容はあまり頭に入ってこないが、聞いたところふたりとも深い怪我はないらしい。
それ以外に動いているものは感じられない、逃げているような音も聞こえないがおそらくワープの類で逃げていったのだろう。
ひとまず、終わったらしい、ようやく落ち着いて大きく息を吐いた。

「へーきだって、そんなに呼ばなくても聞こえてる」

何度も自分の名を呼ぶラファエロにイラっとして彼を見ると、彼は驚愕した顔を浮かべていた。
ラファエロの口をは動いていない、のに未だに名を呼ぶ反響は聞こえている。
そんな違和感を感じたと同時、バチンと頭が切れる音がした。

「う、……ぁ?」

こみ上げる何かを避ける余裕がなく、口元を抑えた両手から何かが零れ落ちる。
極彩色に見えたそれは次第に視界いっぱいに染まり、名を呼ぶ声は怒り狂う調子に変わる。
解読できない言語での怒声は何もわからないのに、ただ罵倒に塗れた空間は呼吸することも忘れるくらいの恐怖だった。
まるで生きていることすら否定されているように見えて、汚物で塗れているはずの手で全身をこすり付ける。
苦しくて、辛くて、もう泣いてるのか何を叫んでいるのかわからない。
喉が焼き切れてしまえばいいと思ってわからない感覚の中で喉元に爪を立てると、その手は何かに掴まれた。
ぶたれるんだってその手を振り払おうとしたけどそれが離れる様子もなくて、余計に混乱した。
自分が何をしているのかわからないが暴れて、暴れ疲れて、そうして憔悴した頃涙を伝う感覚。
少しずつ戻ってきた感覚に、ゆるやかな熱が感じられる。

「レオ、聞こえるか?」

普段なら張り上げる声も穏やかだ。

「あ、れ……

絞り出した声は随分と掠れていたし、発しただけで痛みに喘ぐ。
舌に纏わりつく血の味は不快極まりない。
次第に呼吸が落ち着いてきて、目の前にいるのがラファエロだって気付いた。
四肢を拘束するように掴まれている感覚がうっすらとわかったが、覆われる感覚は心地よさすら感じた。

………

何かを発したはずなのだけど自分では聞こえなくて、それは意味を為しているのかすら危うかった。
もしかしたら音すら出ておらず、ただ空気が抜けていっただけなのかもしれない。
だが濡れた視界で見える兄の顔はほっとしたように緩んでいる。

「良く頑張ったな」

その声は耳に心地よく響いた。
遠くでふたり分の足音が聞こえるがそれに応える力はなく、そのまま意識が落ちていく。


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7.


バイタリティチェックの結果はモニタ上では正常の〇マーク。
少し平常とは違う項目もあるようだが、誤差の範囲として取れる程度らしかった。
ドナテロは意外そうにその結果を眺めているのを横目に起き上がる。
腕を回すと凝った首を捻る、全身のだるさも気にならない程度だ。

「それにしても最近ちょっとゾーンに入りすぎなんじゃない?あまり依存しすぎるなよ」

所謂ゾーンアウトと呼ばれる過度に能力を駆使した後の代償。
度合いによっては命すら危うくなるらしいが、今回は神経を焼き切るまではいかずに済んだようだ。

「わかってるんだけどさぁ……いつの間にかそうなってるんだって」

戦闘に入った時は無意識に神経を研ぎ澄ましてしまう、ほぼ自分の感覚と同化しているものを意図的に使用せずにいるなんて難しい。
それについてはドナテロも思うところがあるのだろう、反論はせずに溜息を吐くに留めていた。
精神が未熟なせいだと修行の項目を増やされそうになっていたりもしている、うまいこと逃げてきたけれど流石に今回は逃げられなさそうだ。

「あーもう、自分の抑制剤もまだできてないのに面倒事増やすなよ」

「でもラフがいるし、そこまで急がなくてもなんとかなるって」

今までで一番酷い症状だったけど、立ち直りがこんなに早かったのはラファエロのケアが適切だったおかげだろう。
全身を包み込むような温かさを思い出すと、どうにも背中が肌寒く感じるくらい。
ミケランジェロもいるわけだしそんなに急ぐ必要性はあまり感じられないとレオナルドは思っていた。

「いやぁちょっと癖になるなって思ったイッテェ!」

思い切りタブレットで叩かれた、ゾーンの時よりずっとずっと痛い。
乱暴な諸作であったがドナテロの顔に怒りはなく、むしろ呆れてものも言えないと言った態度。

「それ、仮とはいえパートナー相手に言うことじゃないと思わない?」

「う、だってほかに言える相手いないしさぁ」

「何なに、なんの話?」

「うわぁっ!」

突然、下から割り込んできたミケランジェロに驚いて飛びのいた。

「レオもうよくなった?まだどこか悪いの?」

跪くようにしてレオナルドの膝に手をつき、ミケランジェロは心配そうに見上げる。
大きな丸を映している画面を映している画面を指を指す、するとぱっと顔を輝かせた。

「よかった!あの時突然いなくなったからびっくりしたんだからね!」

そう言えば途中まで一緒にいたはずなのに気付いたらひとりにいたんだっけ。
見たところ喜んでいるミケランジェロも怪我した様子はない、よかった。

「それで、何の話してたの?」

「ラフのケアが気持ち良かったって話」

「あっバカ!」

はぐらかそうとする前にドナテロの追撃が早かった。
慌ててドナテロを見るがツンとした顔でそっぽを向いていた、どうやら思っていたよりも怒っていたらしい。

「ふーーーーーーん」

下から聞こえる声におそるおそる見ると、唇を尖らせたミケランジェロがいた。
可愛らしい仕草の背後から見えるオーラはドス黒いような気がする。

「いや、えっとぉ緊急事態だったし」

そう言い訳をしていたが、いや、でもオレ悪くなくない?
だってガイドに頼っただけだし、なんで浮気した恋人みたいな攻められた方してるんだろう。
そう思うのに、何故だかすっごく、罪悪感。

「レオ、こっち向いて」

しかし無意識に逸らしていた目線に、言葉とともに頬をわし掴まれ気が付いたら間近にミケランジェロの顔があった。
思ったより大きい口は食いつくさんばかりにレオナルドの唇にかぶり付く。

「んぅ~~~!?」

舌を巻き込み強く吸われる感覚はぞくぞくとした刺激をかき鳴らし、そんな様子にぱっちりと開いた目が喜びに弧を描く。
後ろに倒れそうになるのを細い腕2本で捕らえられ、逃げられない。
顎下に唾液が伝うころ、最後に愛らしいリップ音を立てて離れていく。

「今度はちゃんとボクのこと呼んでよね」

そう言い嵐のように去っていった。
残されたのは荒い息を吐いたまま呆然としているレオナルドと。

……まあ、今回のことは許してあげるよ」

頬を赤くしたドナテロがぽつりと呟いた。


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8.


部屋を出てふたりの声が聞こえなくなった頃、おもむろに唇を拭う。
しつこく擦ったせいで触れるだけでヒリヒリした。
未だ余韻の残るそこを何度か擦り、そしてがっくりと肩を落とすと足取り重いながら歩を進めた。

「マイキー?」

早く自室に戻るつもりだったが背後から呼ばれた声。
口元を隠しながら振り返ったが、ラファエロはそんな様子を気にしていないようだ。
多分そんな些細なことより元気のないミケランジェロを心配しているのだろう。

「レオはそんなに悪かったのか?」

「ううん、問題なさそうだったよ」

そう言うとラファエロはそっか、と胸を撫でおろした。
心底嬉しいという様子に、だからこそミケランジェロは肩を落とす。
右肩に巻かれた包帯と同じく真白く染まった両掌を見ると気分が落ち込んで仕方がない。

「でも、元はと言えばボクがちゃんとできなかったせいだし」

戦闘中追撃を受けきれず吹き飛ばされ、一瞬意識が飛んでしまった。
それを見たレオナルドが豹変して以降気が付いたミケランジェロは座り込んだまま何もできず。
あっと言う間に周囲を蹂躙した後、残党を狩りに消えたその影を追う余地すらできなかった。
後を追ったラファエロを見送ることしかできなかったのだ。
本来自分は支えなきゃいけない立場なのに、暴走させてしまったのは自分のせい。

「そんなに凹むなって。マイキーはまだ覚醒したばかりなんだから、これから少しずつ慣れていけばいいんだよ」

そうして傷ついてでもケアをやり遂げたラファエロもまた、同じくミケランジェロのせいなのに全く気にしていない様子だ。
こんなよくわからない能力ができてからじゃない、ラファエロは昔からそんな感じだ。
ちょっとしつこいくらいに過保護で、良く見てくれている。
頼りになる背中、そう考えると自分のなんと小さいことか。

「でもラフは最初からうまくやってたでしょ。ボクなんてドニーのこともケアできないし」

ラファエロのガイド能力はほぼ天賦の才なんだって、前にドナテロが言っていた。
ドナテロが色々評していたけど、結局彼が優しくて兄弟が大好きだからそれが力になっているんだってレオナルドがそうまとめてくれた。
そう言われた本人はとても恥ずかし嬉しいみたいな態度だったがまさしくその通りだと思う。
どうあっても気分が上がらず、落ち込んだ気持ちは直らない。

「うまかったのかはわかんねぇよ。あの時は必死だったし」

ほぼ事故とも言っていいドナテロとラファエロの覚醒時のことは、正直ミケランジェロは良く覚えていない。
なんだかよくないことがたくさん起こって、レオナルドに抱えられていたらいつの間にかすべて終わっていた。

「オレ達は兄弟なんだから、パートナーとかじゃなく助け合っていこうぜ」

ラファエロはたまにレオナルドもケアすることはあるがドナテロ相手にミケランジェロがケアすることは拒否されている。
理由はちゃんと説明されたが、ドナテロ自身の意思が固く心が開かれなければできない。

「わかってるけどさぁ」

悔しいと思う気持ちは、独り占めしたいという気持ちと拮抗している。
困ったように笑うラファエロに、なんだか悔しい気持ちが芽生えた。
面白くないなんて思っちゃいけないはずなのに心のもやもやはずっと続いてる。

「じゃあボクがもっと強くなって、ドニーをケアしたらラフはなんとも思わないの?」

ちょっとした意地悪だったつもりだったが、そう言ってやるとあからさまに動揺する。

「えっ!?あ、いや、そりゃ、もちろん、

どんどん声量が小さくなる。
ミケランジェロはその様子に目を瞬かせた。
センチネルはガイドに依存しやすいから適度な距離感を保つこと。
最初にドナテロに講義されて知っていたけど、レオナルドよりもガイドな筈のミケランジェロの方がその気が強いように思ってた。
それはいけないものだって、聞いてたから自分が弱いせいだって。
でも、もしかしてそんなに変なことじゃないのかも?助けてあげたいと独り占めしたいってもしかして同じなんじゃないかも?
そう気付き始めた時、ほのかに胸の奥が熱くなってきた気がした。


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9.


増えてきたカルテに吐いた溜息は重たく、深い。
抑制剤の類も一般的に処方されているものは自分たちでは効かない。
更に自分で作ってみてもドナテロとレオナルドでは特性が違いすぎて、同じものを使うのは無理だ。
蓄積されていく解析結果に反して、明確なコントロールの方法はまだ思いつかない。
やれるとしたらガイドの補充なのだけど、立場を考えればそれも難しい。
行き詰った考えに苛立ち交じりに息が漏れ、ラボの入口を睨みつけた。

「立ってるなら入ってきたら?」

解放したままのラボの入口外で何かがぶつかる音。
打ち付けたらしい腕を抑えながら姿を現したラファエロは大きな体を精一杯縮こませているが、残念ながら隠れられる遮蔽物なんてない。

「いや、特に用事があったとかじゃ!な、なんか困ったこととかないかと思ってよ!」

「特にないけど。強いて言うなら今、邪魔されて困ってる」

「そ、そうだよなごめん」

身体の至るところ巻かれた包帯はその大きな身体を真っ白に染める。
しっかりと映る処置の後を見ると、深い溜息が漏れた。

ちょっと喉が渇いたかも」

「!わかったすぐ取ってくる!」

瞬間姿が見えなくなったが奥から聞こえる音は騒がしい。
息つく暇もなく戻ってきた彼から手渡されたコーヒーは零れて半分くらいなくなっていた。

……包帯汚さないでくれる?」

「あっ」

「巻き直すからそこ座って」

ストックから通常の倍の厚さであるラファエロ専用の大きな包帯を取り出してデスクに置いた。
今日一日で彼専用のストックが半分になってしまったので、また補充しないといけない。

「マイキーが気にしてたぞ。ドナテロのケアできないのは能力不足かもって」

目線は手元に向けたまま、ラファエロはそう零した。
あの優しい子はそう思うだろう。
ドナテロもまた彼の腕に巻かれている布の結び目を解きつつ、ドナテロはきっぱりと言った。

「絶対無理」

ガイドは必ずしもひとりじゃなくて良い。
センチネルの能力は強大かつ繊細だ、適合さえすれば複数のガイドを従えているセンチネルの方が一般的なくらい。
ドナテロ達も咄嗟の時混乱しないように仮のパートナー制をとっているだけで、ラファエロはどちらのケアも可能だしレオナルドはどちらからもケアを受ける立場だ。
だが今の時点でドナテロをケアできるのはラファエロだけだ、ミケランジェロ相手にはまだシールドは崩れていない。
包帯を取り去ると出てきたのは大きなガーゼ。
特別大きな怪我ではなかったけれど、ひっかき傷と噛み傷はかなりの広範囲だったので覆う箇所が大げさなくらい大きくなってしまった。
武器を持ち出さなかっただけレオナルドにも錯乱状態にありながら、本能で傷つけたくないという理性が出ていたのかもしれない。
しかし生傷の多さに長い時間抵抗するレオナルドに対応したのだろうということは想像できた、

「もしマイキーを傷つけでもしたら……多分死んじゃうと思う」

自分の錯乱した様子は意識が混濁していても酷いものだって自覚している。
苦しいのも痛いのも、自制が利かなかった自分のせいだから自己嫌悪はあれど我慢はできた。
理性の飛んだ自分何をしでかすのか、何よりも怖い。
指先が震えて手が止まったドナテロの手に、包帯が巻かれた手が重なる。
じわりと浮かぶ熱、自然と手が動きは再開した。

「まあ、ラフなら多少反撃しても大丈夫そうだし」

「任せろ!丈夫なのが取り柄だからな!」

そうふんぞり返る嫌味の通じない様に笑ってしまった。
親指の付け根とくるりと巻いて、掌を覆うように白い布が伸びる。

……ボンディング契約すれば、マイキーも気にしなくなるんじゃない?」

本来複数のガイドとの繋がりが可能なセンチネルが番であるガイドを決めてしまうのがボンディングだ。
ひとりだけしか向き合えなくなるが、その分繋がりは深くなり、ペアによってはただ隣にいるだけでセンチネルの能力を無限に駆使できる。

「そ、れは……

ラファエロの表情に首を振った。
わかってるという仕草なのか、それ以上聞きたくないという拒否なのかは自分でもよくわからない。

「いいよ、わかってるし」

パートナーを得ればレオナルドのケアもできなくなる。
覚醒したばかりのミケランジェロに任せるにはまだ荷が重いし、昨日のことはラファエロがいなければゾーンアウトしたレオナルドはそのまま命を落としていてもおかしくなかった。
そんなリスクが伴うことをラファエロが容認するはずもない。
能力が高い分錯乱した時の被害はレオナルドの方が酷いし、ふたり以上ガイドが必要なのはどうしても必要なのだ。

「別に気を使わなくたっていいよ、今の状態でボンディングする必要性もないし」

ドナテロだって自分の私欲だけでもしものことが起こったらと思うととてもできない。
ちょうどよく包帯が巻き終わった。
汚れた布を適当に丸めていたその腕を、ひとまわり大きな手が掴む。

「気を使ってるわけじゃないよ、ドニー」

……それでも、できないことをいつまでも討論するのは無意味だよ」

奇跡に近い出来事で知性を持って産まれることができた。
理性はひとつの防波堤、本能だけで動いたらそれはもうただの獣、いや化け物だ。
元はといえばドナテロがこんな能力を発現なんてしなければよかったのに。
幾度となく思った嫌悪感は全身を回る痛みを呼び覚まし、ただ唯一繋がっているその掌に縋った。


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10.


余計なことを言った自覚はあった。
見るからに落ち込んだ様子で部屋を出ていくラファエロに何か慰められるような良い言葉も思いつかず、その後悔はずっと引きずる。
それはその後のうまくいかない作業にも影響していた。
もう今日はやめよう、少しでも気を紛らわそう。
そうして部屋を出て間もなく、弟が床に落ちている場面に遭遇してしまった。
両手足を引っ込ませて甲羅しか見えなず、上から軽く叩くが反応がない。
コンパクトになった姿は視認しなければ躓いてたかもしれない。
微かに聞こえる息遣いは深く、どうやら寝ているようだ。

「こんなところで寝てると風邪ひくよマイキー」

そう問いかけたがむにゃむにゃした声の後音沙汰はなかった。
しょうがないので甲羅をそのまま拾う。
中から聞こえる寝息に穏やかな心地良さを感じて思わず口元が綻んでしまう。
時折、こういった感情が心からのものなのか体質による本能なのかわからなくなる時がある。
誰かを好きだという感情が本当はケアの延長線によるものなのではないか。

「え、わ、っ!」

突然腕の中の甲羅からぽんと腕が飛び出し、頭が顎に激突した。
衝撃にのけ反り、かろうじて抱えたまま背中を打ち付ける。

「ちょっとマイキー!?」

顔を出したものの薄目を開けて頭がぐらぐらしているところを見るに、半覚醒状態と言ったところだろう。
両手足でしがみつかれると単純にひとり分の体重が乗っかり、壁を支えにしても堪えられず地面に落ちていく。
背を軽く叩くと首元にすり寄った頭がぐりぐりと擦った。
元より触れ合いを好まないドナテロにとってスキンシップは概ねケアの時が多くなるせいで、相手は専らラファエロだった。
たまにレオナルドが不意に絡んでくるにしても、お互いセンチネル同士だし、気にもしない。
だけどミケランジェロ相手だとこういった触れ合いにガイド能力の性質が頭をチラついてしまい、それが凄く嫌だった。

「大丈夫だよ、ドニーがみんなを好きなのはみんな知ってる」

そう聞こえると同時飛びつかれ、再び床に押し付けられた。
穏やかな熱でもって抱きしめる感覚は温かい、彼にはまだシールドは有効なはずなのに、
ガイド相手に感じる穏やかな気持ちとか心地よさは全て性質によるものだとしたら、感情なんて全て嘘に思えてくる。

「よくわかんないけど、ボクがドニーのことダイスキってことが伝わったんじゃない?それに生物って普通あったかいんだよ、ドニー知らないの?」

ふわりと、包まれた体温は何故だか少し泣きたくなった。
そんな感情の高ぶりが落ち着いて、そうしてようやく違和感に向き合うことになる。

「マイキー………今、心読んだ?」


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11.




「レオー!!!」

突然後ろから響いた声に振り向くと、跳躍したミケランジェロが目に入った。
それは間髪入れずに飛び込んでくるとぞのままふたりして地面をゴロゴロと転がった。

「びっくりしたぁ」

首に巻き付いた腕はぎゅうぎゅうと締め付けてきて、目の傍で後頭部の橙色の尾がぴこぴこと揺れている。
無邪気なそれに正直ちょっと気まずいとか思っていたので、いつも通りな様子にちょっと安心した。

「なんだぁレオ、まだそんなこと気にしてたの?大丈夫だよ、ボクもうなんにも怒ってないから!」

「そりゃどうも、……えっ?」

引き剥がそうとしたが思いのほか首元の腕は力が強く、顔が見れない。
むしろそのまま後ろに周りこんで背中からの飛びつけ体制になった。
上機嫌に上ではしゃぎ回るミケランジェロは最近でも見ないくらいだった。
ちょっと怖いくらい。

「大丈夫大丈夫!何も怖くないって!レオの大好きなマイキーだよ!」

「はぇ、いやいや、えっと!」

何が何だかよくわからなくておろおろしていると、ちょうど良く連れ立って覗き込んできたラファエロとドナテロ。
ふたりの様子を見てるのに助ける様子もなく、ドナテロに至ってはゴーグルを装着して解析に走っている。

「マイキーが覚醒したって聞いたんだけど、どう変わったんだ?」

「うーん、多分だけど、マイキーの覚醒能力読心ぽいんだよね」

どくしん?

「ドニー、レオが良く分かってないみたい」

レオナルドが声を上げる前に頭上のミケランジェロが声を発した。
驚いて見上げるレオナルドに、ゴーグルを外したドナテロは肩を竦めた。

「ケア相手の心が読めるってこと。今も考えてることバレバレだよ、レオ」

「えっ!?」

「あはっ、レオ心の声と一緒じゃんおもしろーい!」

「いや、ちょっとまってちょっと離れろってマイキー!ちょっと心の整理つけさせて!」

引き剥がそうにもレオナルドの上から逃げるミケランジェロの器用さに勝てないようで。
地面を転がりながらも攻防するが、ミケランジェロは都度レオナルドの思っているであろう言葉を発して逃げ回っている。
そんなある種平和ともいえる図を長め、ラファエロは首を傾げた。

「でもガイドの覚醒ってよっぽど通じてないと起きないんじゃなかったか?」

ガイドの能力がどれだけ強くとも、センチネル側の信頼度によって変動する。
最大限に能力が生かされるのはそれこそ、依存に近いほどに繋がりが深くなければいけない。

「さあ、バカだから気付かないんじゃない?」

つまりレオナルドはミケランジェロに信頼を置いているということ。
こんなバカみたいな光景が染色体で決められた生態であってたまるか。
元より一般論とはかけ離れた生命体である以上全ての学説は当てはまらないのかもしれない。
全てが初めてで、全てが正しい、そんなことでいいのかもしれない。