舞台『ブラインド・タッチ』感想

2018/03/25の昼公演です。台詞、登場人物の名前などネタバレ満載のため自己責任でお願いします。→2018/04/01千秋楽見ました。【最終更新2018/04/01】

2000年代初頭は、バブルが崩壊して日本がどんどん不景気になっていった時代。J-POPが最も華やかで、CDの売上枚数とオリコンランキングが音楽をやるアーティスト達の運命を決めていた最後の時代かもしれない。

スズナリ2階の劇場は満員で、中ではその時代に流行った曲が流れていたので、気持ちはすぐタイムスリップした。

観劇中に私は以下の番組を思い出した。

NHKスペシャル「時間が止まった私 えん罪が奪った7352日」
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/46/2586977/index.html

獄中の生活が長くて、という前置きがあり。
鏡に映る自分は、この年を取った男は誰だ?
みんなが思い描いている自分は誰だ?
自分は何者なんだ?
ガッカリさせたくない、でもどうしたらいいか分からない。
どう向き合えばいいか分からない。
なぜ自分だけこうして外に出て生きているんだ?
なぜ自分だけ自由なんだ?
なぜ自分が獄中にいる間に、日本はこんな国になってしまった?

自分の事を振り返ってみる。
沖縄の基地問題とか、殺人事件とか、その裁判とか、なんでもそうなんだけど。
そういう話は大多数の『市民』にとってはどうでもいい話だと思う。
それより買い物する商品の値上げの方が気になるし、個人情報漏洩の方が気になるし。
夕飯の献立とか、電車の遅延とか、見たいドラマとか、給料と貯金のお金とか、週末の予定とか、身の回りの人間関係とか、季節の新商品とか。
そっちの方が気になるし。気を取られるし。
だからその気になれば、政治的なニュースに耳を塞いで生きていく事はいくらだって出来るのだ。
殺人事件のニュースはサスペンスドラマの延長で、火事や事故のニュースはアクション映画の延長だ。
耳を閉していれば、ニュースはすべてエンターテイメントだ。
耳を塞いでいれば。
思考を止めていれば。

私は何も考えていなかったのかもしれない。
逃げていたのかもしれない。本当は其処で思考を止めちゃいけないのに、どうでもいいとか、関係ないとか理由をつけていたけど。
本当はひとりひとり、きちんと考えなければいけなかった事だったのに。

でも多分それが真実だ。
だって自分の事じゃないから、みんな分からないんだ。
本当の事は誰にも分かってもらえない。
自分にしか分からない。
自分でも分かるかどうか怪しい。
他人の気持ちを推し量るなんて、もっともっと難しい。
まるで目を閉じてピアノを弾くように。
しっちゃかめっちゃかで手当り次第で、傷付けたり傷付けられたり。

だけど。
見えないけどわかるものがあったり、見えない状態にならないとわからない事があったり。
見えないと自覚しているかどうかだけでも変わってくるものがある。
見えないけど、分からないけど。
信じる事はできる。
ニュースの影の何処かで誰かが悲しんでいたり喜んでいたりする、人の気配を。
性善説も性悪説も。
嘘も本当も、事実も。

「君を愛してる」
「うそつき」

その鍵盤の音は思った音ではなくて、嘘かもしれない。
嘘を本当の、思い描いて出した音だと信じる事はできる。
嘘も本当も抱えて信じていく。
人間関係ってそういうものだ。
生きる事ってたぶん、そういうことだ。

この舞台を見られたこと、誇りを持って明日からまっさらな気持ちで生きていけます。
アンケートにそれを書いて、劇場を後にしました。

劇場の外があたたかい春の陽射しに包まれてて、桜と椿が咲いていた事を思い出した。



***



という真面目な感想はここまで。
ここからは不真面目な感想の箇条書き。

・観客席は完璧に40代後半、平均年齢めちゃくちゃ高い空間
・台詞劇というより言葉の殴り合いアクション劇。表記は「台詞劇(物理)」
>元学生運動家、活動家という設定なので言い回しがいちいち特殊で無駄に長ったらしく観念的になる。傍から聞いていると『意識の高い勘違い大学生』みたいな会話
・高橋さんと都築さんそれぞれ二回くらい台詞を噛むも却ってそれが人間味を出している。考えて言葉を発している様子が出ている
・ライトに当たるとより瞳が鳶色に輝く高橋さんの圧倒的光属性感。マハンマオン唱えれそう(※ペルソナ)
・立ち尽くしたまま下ろした両手を膝の辺りで宙を掴むように何度も握ったり開いたりする高橋さんの太い指
・高橋さんの血管の浮き出た額の‪顳顬‬、首筋、手の甲、腕。首の太さと太腿の太さに比べ手腕筋群辺りの、肘より下の腕と手首の細さ、指の太さ
・男の名前は「しのたによしひで」
・女の名前は「あや」さん
>「やえ」さんだった(追記)
・バンド「ブラインドタッチ」の相方は「うえの」という男
・一度寝た相手の女の名前は「ささき」
>やえさんが昔付き合ってた人の方だった。しのたにが一度だけ寝た相手は「はせがわきょうこ」(追記)
・支援の仲間の名前は「たなか」など
・走る様子の演技の為にめっちゃその場で足踏み運動する高橋さんに、自分が座ってた座席後方より「大変だこれは……」の声。わかりみが強い
>『三文オペラ』の時より更に身体が引き締まったなー、刑務所暮らししてた男の役だから絞ったのかなー。と思ったけどそうじゃないかもしれない、あれは稽古だけで痩せそう
>「痩せました。稽古だけで痩せてって……」とロビーで話している高橋さんを見かけた(追記)
・高橋さんと都築さんの渾身の叩き付けるような弾き方のピアノ
>手の形が卵を掴む形になってなかったので本当に”独学で”ピアノを弾けるようになったという設定かもしれない
>手の形がちゃんと卵を掴むような形になってた。この一週間で進化した(追記)
>坂出さんが「今日の演奏が一番良かった」とロビーで言っているのを見かけた(追記)
・いちいち座る動作をする時に膝の上辺りでズボンをつまんでから座る高橋さん
・麦茶の入ってるボトルに直接口を付けて呷る行儀の悪い高橋さん。小学生か(かわいい)

立ってピアノを弾く高橋さんの後ろ姿に、ロックバンドでキーボードを弾いていたあの人の姿を勝手に見た。
「うえの」とバンドの相方の名前を呼ぶ声の音の中に、はじめに高橋さんと一緒にバンドを組んでいた、ギターと歌が好きなあの人の名前の音を、勝手に聞いた。

さみしくてせつなくて胸が痛くて、瞬きを忘れる二時間だった。
良い子のみんなは目が乾いてシパシパしないように目薬持って行こうな!目が乾いて涙も出てこなかったぜ!