ダベミ
2021-09-29 22:57:05
16134文字
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ダブルハンターXの6話多分こんな感じですって妄想です

雰囲気だけはあるので初投稿です

「爆弾、ですね、これ。」


僕は、その危険物を眺めていた。あまりにも浮世離れしすぎた経験が多すぎて、まるで他人事にすら感じる。

「ちっ、くしょう!」『ダメだ、開かねえ。外から鍵でもかけられたか?』

「くそ……あかん、閉じ込められてますね」『なんやねん、俺が何したって……

向こう側が騒がしい。どうやら扉が開かないらしい。だが、そんなことあり得るのだろうか。

「まずはこっちですよ。これ……どうします?」

「いやあ、どうするもこうするも……」『俺らでどうにかなるもん?そもそも』

「ですよね。僕達の専門を外れてます」

「けど、どうにかせんと俺ら、このままやと死んでまうやないですか」『なんや頼りないな、なんとかしてくれ』

『相川、どう思う。なんとかできそうか』

(………正直厳しい、ですね。だけど確かに、これをなんとかしないと)

『じゃあ、どうする!』

「今考えてます。焦ってもろくなことないですから、一旦落ち着いて……

「おたくら警察でしょう?爆弾のひとつ、こう、ちょいちょいっと解体できひんのですか」『ていうかできるって言うてくれ、頼む』

「いやあ、それはちょっと」『不器用だし俺』

「不器用かどうかは関係ないと思いますよ。そもそも僕達、爆弾見たの初めてなので」

「えっ、そうなん?」『……みんな見てると思ってた……

「でも、なんとかはなんとかしない…………

「なんとかって……どうす、」『そやけどなんとかせな、ヤバ       』

……ん?」

狭い空間で焦る僕達と、巻き込まれた男が一人。
その巻き込まれたはずの男は、困っている顔を突然がくん、と下げた。
同時に、僕の脳内に響いていた声色がひとつ、ぷつんと途切れてしまう。

「声が……聞こえない?」

「え?なんて?」『あ〜?こんな時に何を言って……

次の瞬間、僕達は二つの危機に直面した。

「動くな、相川 終」

……え?」


◆◆◆


.6:しんきんぐ[かんがえぬく]


『ラジオ局【✕✕FM】に爆弾を仕掛けた。パーソナリティ【坂口 兼太】の命が惜しければ、特殊犯罪捜査課の刑事二人が坂口を連れて【✕✕FM】のラジオブースCへ来い』

と言う内容の脅迫状が警察と✕✕FM宛に送られてきたのは、今朝の話だった。差出人は不明。配達人は「なんのこっちゃ」と言う顔をして運んできたようで、なんだったらこの封筒を手にした記憶がないという。
まさに真っ当な脅迫状。
内容のあまりのフィクションっぷりに、僕は、いよいよ僕達も売れてきましたね、などという謎の感想を述べることしかできなかった。売れたからなんだって言うんだ。
人命がかかっているなら、セリフの遊びっぷりはともかく我々も真剣に取り組まなければならない。もしたとえ冗談やからかいのようなレベルだとしても、放置するわけには行かないだろう。
というわけで僕達は、早速現場に向かった。

【✕✕FM】というのは、この✕✕市にある放送局だ。できてから四十年は経過しており、それなりに歴史のある場所である。毎日いろんなプログラムがあって飽きが来ないので、署では多くの警官が好んで聴いているらしい。
僕はと言うと、ラジオは嫌いじゃないのだが、毎日ラジオを聴かされているような有様なので、まあそこまで自分から聴きたいとは思わないのだ。ひとりで、かつ、心の声が聞こえない場所で、という特殊な条件が揃ったのならば、きっと僕は喜んでラジオを聴くだろう。
さて、そしてこの手紙に書かれているパーソナリティ【坂口 兼太】というのは✕✕FMで人気の(?)番組、【お悩みケンタウロス】という生放送を担当している、✕✕市の人気タレントだ。
月〜木の午前十一時から、午後一時まで。おおよそ二時間、毎週生放送。
よくやるなあ、と思った。パーソナリティっていうのはみんなこうなのか?二時間も生放送で、それも四日も連続で。自分に置き換えて考えても恐ろしい、果たしてそんなに話すことはあるのか?と不安になる。
でもまあ、時間帯はいいんじゃないかな。アラフォーだったら、深夜三時五時の生放送をこなすだけでもゲロきちぃだろうと言うのはすぐに分かるので、昼間ならまあ保ちそうな気がする。なんとなくだけど。
ていうか坂口が何歳なのか知らないんだけど。

ぱたん。

やっと一台空いたパトカーを支給され、✕✕FMに向かった。今回ばかりは急用とあり、どこの馬の骨とも分からない車で「警察だ!」などと行くわけにはいかないのでありがたい。
局の人間は既に事態を把握している。
事前に電話連絡してみたところ、当然ながら局長以下全員が脅迫状について把握していた。文面については意味不明と言わんばかりであったが。
今日は万一のことを考えてプログラムを一部変更してオンエアする予定だ。ちなみに放送そのものを休止しないのかと聞いたら、リスナーには関係のないことだから、ギリギリまでは放送できるように粘ると言っていたらしい。

「なんで俺達だけじゃないんだろうな?」

平原さんのご指摘ごもっともだ。
僕達を狙い打つなら、別に僕達を呼び出せばいいだけの話だろうに、なぜか分からないがラジオ局のパーソナリティまで巻き込んでいる。その真意が未だに分からない。
もっと言えば、なんで僕達が坂口を連れてかなきゃなんないの?なんかめんどくさくない?
場所に何か意味があるのだろうか。……なんて思っていると、思わず勘ぐってしまう平原さんの思考が読み取れた。

『もしかしてその、サカケンがお前と同じような【作られた子供】つったっけ?あのー、組織に狙われてるようなヤバい連中の一員だったりすんじゃねえだろうな?それともこの手紙そのものが、サカケンが仕組んだ罠とか……?いや、それだったらサカケン自体が敵じゃねえか。おいどうすんだよ、おいどうすんだよ!?』

どうすんだよ、も、こうもないだろ。冷めた目でそちらを見るしかない。
ちなみに、サカケンと言うのは坂口のあだ名である。誰が言い出したか覚えていないが、妙にどこかで聞いたことがある気がする名前だ。具体的に思い出せないが、ただ馬鹿騒ぎしている連中がどこかで、言っていた、ような。
いや、今はそんなことはどうでもいいんだった。

「いいから行きますよ。……まずはその、坂口に会いましょう」


◆◆◆


「あ、どうも。おふたりが……その、【特殊犯罪捜査課】とか言う……なんやその、よお分からんところの人らですか」『普通の人らやなぁ。なんやろうなぁ特殊犯罪って』

局の人間に連れられて入った部屋の中、事前の資料で確認していた声のイメージとは少し違う人がいる。ふわっと膨れ上がった髪の毛が室内の換気に合わせてゆるく揺れ、衣服はやはりゆるっとややオーバーサイズ気味に見える。ちらっと見えた腕は健康的を少し超したレベルの焦げ方で、話を聞いたところどうやらゴルフ焼けらしい。
まぶたは重たそうで一見すると眠そうだ。リスナー達が時折「イケメンだ」と持て囃しているが、そうだろうか?と思いがけず首をひねってしまいそうになる。
……うーん、これが人気パーソナリティというやつなのだろうか?よくわからないなあ。
それにしても、とっても正直な人なんだと思った。初見の警察が怪しいからと言って、いくら何でも『よお分からんところの人ら』って言い草は無いじゃん。

「一応身分はしっかりしてるんですけどね……相川です」

「まあそう言わずに。平原です」『疑わしいのは確かだからな、こんな課がほんとにあるのか?ってなるのは当然だろ』

そりゃ聞いたことも見たこともない課を名乗る人間が警察だと言ってやってきたらそうもなるのか、なるのか?
いや、僕の場合は心の声が聞こえてしまうから、疑う以前に嘘か本当かすぐに見分けがつくし……と考えて、やっぱり、自分の立場からでは、相手の気持ちは分からないもんだな。と思い直す。

「それで……」『俺もしかして巻き込まれてんちゃうかな、変なことに』

いやあ、その通りだ……

「はい。警察署とこちらの放送局にこれが。ご覧になられましたか」

「ええ。見ましたけど……、なんでわざわざこの三人を指定してきてるんでしょう?」『俺、この人らと接点ないはずやしな。知り合いでもないし』

「それは僕達にも……

坂口はものすごく困っている。
正直心当たりがないのは僕達も同じだ。坂口が困っているのはわかるが、僕達も困惑しきりなのだ。なので彼をなんとか落ち着かせたいが、いいワードも思いつかない。
周りのスタッフの雑念が僕の脳に出たり入ったりするものの、日常会話に差し支えのないレベルなので放置する。

「それで、この指定されているブースっていうのは?」『ラジオブースねえ、あんま詳しくないんだけどあれでしょ、カフとかあるんでしょカフとか。放送作家とかいるんでしょ』

(平原さん、詳しいんですか?)

……」(なわけねえだろ。wiki知識だよ)

(充分ですけどね……)

「あのー……?」『なんや突然黙って』

「あ、えっと、はい、すいません」

「手紙で言うてるとこは……隣のブース、ですね」『しかし、なんでブースまで指定してきてんねやろなあ、危ない人のやりよることはわからんわあ……

ひとまず推理するならば、このラジオブース、ラジオ局のことを知っている人間がこれを書いたと考えるのが自然だろうか。しかし、それだけだとあまりにも安直というか、それならわざわざラジオブースを指定した理由がやっぱり分からないし……
ラジオブースである必要があるのか。
それとも、ラジオブースなんてどうでもよくて、ただのブラフなのか。
であれば、僕達だけではなく坂口を巻き込んでいるのはなぜなのか。

やはり三人だけでブースに入るのは危険ではないだろうか、と思ってしまうが、かと言ってこれを無視した時に何が起きるのか想定できないのがまたまずい。僕達だけが危険な目に遭うなら、なんとでもなるだろうが。いや、無視してもいいのか?とは言え、目に見える形での脅迫をしている以上、犯人は本気だ。
坂口が僕達のそばにいてくれるのならば何かあってもフォローできるかもしれないし。それならかえって、遠くよりは僕達の手の届く範囲にいてくれたほうが助かる……当然ながら、何も起こらないのが一番ではある。

がちゃり、と重々しい扉を開く。指定されたこのブースは今日は使用されておらず、前日よるに業者が消毒作業をして清潔にしてそれで終わっているようだ。
他のスタッフに配慮しつつ、三人でブースに入った。ブース前の空間、いわゆるコントロールルームのところから、生放送に携わっていない少数のスタッフがこちらを見ている。ラジオブースと言うのはなんともありがたいことに、大きな窓が付いているため僕達が何をしているのかが外からも見られるようになっている。

……それにしてもこのブースになにがあると言うんだ?そう思って三人して入ったわけで。


「あ。」

最初に入った僕が、見つけてしまった。
あった。普通にあってしまった。
そう、それはブースの外側からは見えない、座席の上に。

「これ、って」『うそやろ……?』

「爆……っ!?」

緊迫感上昇。

『おいおいおいおい、相川ぁ……それ、本物?俺も資料とかそういうのでしか見たことないんだけど、本物!?カチカチ言ってる?なに?どういう……

平原さんの焦りも分かる。僕もまた、この手に取った爆弾の重量に、手のひらがじんわりと汗ばんでいく。
その時、がちゃん、と。

……?」

鍵のようなものが閉まる音が、した。

「へ?」


◆◆◆


そして、冒頭に戻る。
不審な音がすれば人は取り乱し冷静さを失う。

「動くな、相川 終」

……!?」

よくよく考えてみれば、おかしな話だ。本来、このような密室にできる環境で外に鍵が付いていることはごくごく稀である。
つまり、鍵はブースの内側にあるのでは?と、少し落ち着こうとして何度か呼吸を繰り返し、それから視線を泳がせれば、それらしいツマミが扉についていることを確認した。実際、本番をこなしている時は中にメールを運ぶ関係で扉は開けっ放しにしているはずなので、なんのための鍵かは知らないけど。
ブースに詳しいっぽいが、本当に詳しいかどうかがわからない平原さんが、この扉を開けられないのが道理だったとして、それでは。

……ブースの奥側に僕、テーブルには爆弾。そのテーブル中央辺りに立ち尽くすように平原さん、扉に近いのは坂口。そしてその扉を最後に触っていたのは他ならぬ坂口ではないか。

それより、何よりだ。
彼の様子は明らかにおかしい。

「坂口さん?……いや、お前は……」『なんだ、今までとなんだか……何かが違う……?』

平原さんの顔色もだんだん変わっていく。明らかに坂口ではない口調だったからだ。二人で相対した坂口は、明らかに今までの坂口とは違う。不可思議なくらいに口ぶりは冷静で、別人でしかない。
僕達の慌て方と、それからブースに爆弾があったことを知り、外側がざわついているのがわかった。しかし、外側からも扉は開けられない。中から鍵がかかっているからだ。

「お前は知らんだろうが、『俺』は、『俺達』はな、待ってたんだよ。行方不明になった、お前がこうして見つかるのをな。俺もそうだ、ずっと待ってた……こんな、誰だか知らんパーソナリティに寄生してまで」

「一体なんの……

話だ、と言おうとして、ああ、やはりこいつも心の声が聞こえない。何かおかしい。

「俺はな、相川。お前が『あの事件』の時に、施設を抜け出して逃げたのを知っていた」

「何?ちょっと待て、本当に何の話?僕そんなの、」

「とぼけるなよ」

とぼけるも何も、違う。僕は覚えていないんだ、過去を覚えて……

「ああ、それとも『消された』か?記憶をイジられたか?」

…………

まるで僕の思考が読まれているように、先回りして突っ込まれる。
───こいつは誰だ?僕の何を知っている?どうしてこんなことを……坂口なのか?それとも別の何かか。

「誰だ」

冷静を装う。呼吸を繰り返したおかげである程度取り戻したはずの理性が、別な理由で急激に削られているような気がする。果たしてこいつは何を言っているんだ、僕の何を知っているんだ。
そもそも、誰だ?

「相川」『……なに、お前ら知り合い?』

「いえ。前にも言いましたけど、僕は幼い頃の記憶はありません」

この場で確認するように告げた。
当然ながらあいつにも聞こえるだろう。僕と坂口には一切の面識がない。が、僕の幼い頃の友人なのならば話は別だ。僕が覚えていないと言うだけの可能性がある。
しかし、この目の前にいる、僕の過去を知っている人物が『坂口』なのか、『坂口の姿をした何者かなのか』が問題だ。

「なるほど、消されたか。それなら教えてやるしかないよなぁ?」

そうしてそいつは笑みを浮かべ、語る。

「俺は『冥』、めいだよ。お前の忘れている過去を知る男、【ロストパラダイス計画】に巻き込まれた人間のひとりで───」

なんとも、にわかに信じがたいことを。

「故人だ」


◇◇◇


その計画は、あまりにも荒唐無稽で、あまりにもファンタジーで、あまりにも有り得ないと、多くの人間が否定した計画だった。
戦後間もない頃から計画の芽が出ていたという。

ロストパラダイス。

失われた楽園を取り戻すための戦いをするための計画。
曰く。
武装を許されないこの日本で、武器などではなく、人の力により全てを制圧し、開放し、強い日本人による日本という楽園を取り戻そうとするための計画。
おとぎ話にしちゃあまりにも物騒だし、アニメにするにしたってテーマが陳腐だ。漫画にしたところで売れるかどうか、手塚治虫も、藤子不二雄も、みんな鼻で笑ってふっ飛ばすような。一次創作でも、まして二次創作でも有り得ないような。
そんな計画が、ずっとずっと昔から存在していた。

……まあ、その成り立ちから聞いてほしい。
かつてロシアでは……いや、旧ソ連だっただろうか、とにかくかつてのその国では、多くの科学者が大真面目にエスパーについての研究をしていた。
脳波の測定、人類の限界点の突破。ひいては、人類にはついぞできることのない、理解不能な不可思議な現象の再現を。
軍用に転移しようとして、最終的にそれは成されることはなかったが、もしも本当にエスパーが戦地に送り込まれていたのたなら、大変なことになっただろう。
心臓発作の原因は何一つないのに突然心臓が止まり倒れる将軍、死にたくないと言いながら自分に引き金を向けて引く兵士達、大きな落雷が拠点を貫くかもしれないし、大きな動物のようなものが襲い掛かってきたかもしれない。
ただ。
真面目に、超自然的な能力を研究していた人間は、確かに存在していたのだ。
最終的な目標は、当初の予定通り軍用だったかもしれないし、はたまた人類の限界点の超越という純粋な挑戦だったのかもしれない。もしくは人類の進化、進歩と言う壮大なプロジェクトだったのかもしれない。

果たして、それを大真面目に取り組んでいた人たちがこの国にもいたのだ。
そうして、それを今の世でも続けていた大馬鹿が、人道やら倫理やらをどこかにおいてきた頭のおかしい連中が、ここにいたのだ。

なぜそんなことが続けられたのか、今となっては答えは分からずじまいだが。
少なくとも、彼らにはそれが「正しい」ことだった。
そう思っていた。
思ってしまっていた。
だからこそ、ただ続けた。
きっと当初はもっと崇高な目的があったんだろう、もしかしたら誇り高いものだったのだろう。
けれど創設者は死に絶え、設立から六十余年経ち、最初の記憶は次第に薄れていった。
日本を取り戻す───見てくれはいいが、その発言の中に潜んでいる目的は、意識は、どこまで皆に伝わっていたのだろうかと怪しむ人がいてもおかしくない。

目指していた楽園は遠く離れ、今や残っているのは人間を人間とも思っていないような、学者の中でもことさら倫理観の崩れた連中だ。
自分達の私利私欲のために、身寄りのない子供や出生届を出しておらず戸籍謄本がない子供などを、見つけては連れ去り、実験台とした。
おおよそ検討できるあらゆることを試し、ある程度のマニュアルが完成し、それに則ってさらに進化を極めていると本人達は思っている。
それがどれだけ、人間と言う生物に対しての行いではないとしても。許されることではないとしても。

そんな連中は『組織』と呼ばれていた。
もとから誰かの主導で集まったとか、どこかの会社に所属しているとか、そういったまともな身分なんて誰一人持っていなかったから、当然団体として纏まっているかどうかも怪しく、自分でも周りからも不審がられ不安がられ、一つの『組織』として認識されていた。
きっかりとした、ちゃんとした名前はなかったが、いつか誰かが『望郷の組織』と自らを名乗ったらしい。
失ってしまった楽園へ帰ることを目的とした団体。故に望郷の組織。自分達はそのために人間を研究し、人体に眠る可能性を引き出し、特殊な能力を目覚めさせる。
手段を問わず目的に邁進する。異常者の集まり。

……望郷。笑える話だ。

帰るべきふるさとなど、もはや思い出せやしないのに。


◇◇◇


「そしてあの日が訪れたんだ」

男の語り口調を聞きながら、それでもなお僕はなにひとつ理解ができなくて、呆然としていた。
何を言っている?そんなおとぎ話みたいな、作り話としか思えないことが、この日本で起きているはずがないじゃないか。まして、僕が信じると思っているのだろうか?
いいや、それでも冥と名乗った男は、坂口の口を使って僕にすべてを語ろうとしていた。

「事の発端は、お前がその特殊能力に目覚めた日だ」

ブースの中は防音で、マイクのボタンを押さない限りは中での会話が漏れ出る事はないらしい。まあ、それはあとから知ったのだが。
外側の人間の心の声は相変わらずうるさかったし、外から何かをブース内のスピーカーへ叫んでいる物理的な声も聞こえていたのだが、それどころではない。
頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなる。理解できなくて、理解を拒んでしまって、脳が現実を拒絶している。

……相川が覚えてない、つってる、その子供の頃の話と言うことか」

理解不能な話ながらも、平原さんは平原さんなりに、話を整理しようとしている。ぼんやりと、独り言のような声音だ。

『妙だよな……こいつは坂口じゃない、冥……っつったか。それがなんで今更出てきたんだ、っつか、そういうこと以前になんでこいつは……故人、って?』

冥は僕と同じ計画に巻き込まれた、つまり作られた子供、とか言うやつなのだろう。それはいい。じゃあ、さっきのそれはなんなんだと言う話だ。
しかし、それはまだ説明されない。

「お前はその能力を得た。能力開発の結果、人体実験の結果、他人の思考を音声として聞き取る能力を得た。……得てしまった」

「得て、しまった?」

なんとなく言いたいことはわかった。

……まさか」『この間の夢、夢なんかじゃなかったって話?』

「そう、お前の能力はすでに、別なやつが持っていたんだよ。そいつは【最】って呼ばれていた」

「最……

ああ、やっぱり。という顔を平原さんがした。先日僕が生まれて初めて風邪を引いて以来、なんか妙に優しいなと思っていたんだ。
僕がぼんやり寝ていた時に、傍らで大泣きしていたのが関係していると思う。内容をきちんとは理由を説明してはくれなかったが、なんでかそれからは優しかった。

「最は俺達の中じゃ、特に優れていた。自分の能力をよくよく理解していたし、使いこなせていたよ」

「それとこれが、なんの関係があるわけ?なんで僕が狙われなきゃ……

「組織の連中はな、」

僕の抗議を打ち消すように冥が声を上げる。

……常に新しい研究結果を求められていた。お前のことさえなければ、きっと誰しもが……平和、そう、平和だった。」

「何言ってんだこいつ」『そんな倫理観の欠片もねえ生き方、どこも平和なわけねえだろ。辞書の引き方知ってんのか?教えてやろうか?』

「ところがだ。お前も同じ能力を得た。……以前に結果として出してしまった能力と、全く同じ能力を出してしまった。すると連中、どうなるか分かるか?」

わかりもしない。わかりたくもないし、わかるつもりなんて微塵もない。

「クビだよ、物理的に。そいつらも、そいつらの研究成果である俺達もだ」

……こいつ……、何言ってやがる?テメェらの都合をこっちに押し付けて、俺の仲間殺しといて……そんで……なんで被害者ヅラしてられんだ……?』

僕の迷いと同じくらい、平原さんもまた、面食らって困惑していた。開けてしまったパンドラの箱から、怒りも若干滲んでいるんだろう。だが、二人揃って、様々な感情、それ以上に彼が何を言っているのか理解できなかった。
組織の連中ってやつは芸術家のようなものなのだろうか、自分の作品が気に入らなくて全部壊してしまうみたいなそういう価値観なんだろうか。
被りくらい存在するだろうに、なんて思ってしまう。
けれど、そんな甘えが許されない、割と切羽詰まった状態だったんだろうな。

「かくして、その日は来た。大事件、一大事件だよ。お前を救いたい連中が、施設内で大暴れした。それに乗じてお前以外の人間も、逃げたり、連れ出されたりした」

……つまり、笹塚 永史や、安心院 光進もそのうちの中ってことか」

「あ?違う違う、そいつらは【組織】に残った側の人間だよ。いや、ん?待て、安心院を知ってるのか。まさかお前……

「安心院は逮捕した。きっちり法律で裁くよ、日本の法でね」

「ふぅん?できるのか、お前に」

じっとりと僕を見る。

「裁くのは僕じゃない。できるかどうかは、やらなきゃわからない」

そう返すしか、僕は力がない。
実際、どうやって立証するのかと言われたら難しい。拉致だってテレポートで移動したのであれば、目撃証言が出てくるはずもない。

……いい子ちゃんだな、おしまいコンビが偉そうに。すべてを終わらせた元凶が偉そうに」

「僕には過去はない。今があるなら、今を生きるだけだ」

「勝手にのうのうと生きるな!お前さえいなければ、俺はこんな目に遭わずに済んだんだよ」

今までより一層視線が険しくなっていった。これ以上衝撃の真相とやらが現れたら、僕達はいよいよ呼吸が止まってしまいそうだ。
冥は言った。

「お前があの時、目覚めたりしなければ───」


◇◇◇


その時、と言うのは。

「なかなか上達したねえ、冥くん」

「そりゃそうだろ。俺だって、まあやる方なんだぜ」

ちょうどその時と言うのは、冥が能力開発の成果を披露している最中だったらしい。
自分の力を見せつけ、そして白衣の大人たちが驚くのをニンマリ顔で見ていた。自分は特別だ、こいつらとは違うんだと、幼心によく理解できた。

「さあ、じゃあ次はあれにワープだ。できるかな?」

指を指された方にいたのは、大型犬。バーニーズ・マウンテン・ドッグという種類の、子供からすればまるで乗り物みたいな大きさの犬だ。
おとなしく部屋の隅で座ってこちらを見ている。

「おうよ、俺だぜ?犬だって余裕だよ」

冥は目を閉じ、集中した。意識が一瞬ザザッと雑音にまみれ、それから突然クリアになる。
次の瞬間には、自分で自分の体を見下ろしていた。
それが自分の感覚を手放す最後になるとは露知らず。

冥に目覚めたのは、【自分の意識を別な生物に移す】能力……言ってしまえば乗っ取り能力だ。こう、どうしてこう僕の相手ってのは、強力な能力ばかりなんだろうか。
ゆらゆら、ふわふわ、彼の意識は揺らいで揺らいで、指定された犬の中に溶け込んだ。瞬きをすれば、先程まで浮いていたはずの自分が、四足をきちんと地面につけて立っているのに気付いたらしい。

(おお、俺すげえな。犬もいけんじゃん)

能力の汎用性、さらなる進化。大変満足した冥は期待するように顔を上げる。
その耳に、妙な音が聞こえて、何か言いかけた瞬間───

どかん。

鼓膜が破けるかと思うくらいの音が、聞こえてきた。慣れない犬の体で軽く吹き飛ばされ、ぐええと呻きながら冥はごろごろ転がされた。体がじんじんと痛むが、なんとか全身に力を込めて立つ。
どうなった?何が起きた?一体自分は……
荒い呼吸を繰り返しながら前を向くと、瓦礫の山があった。



「即死だった」

「───」



自分が、自分だったはずのものが、そこで死んでいた。瓦礫が直撃したのだろう、頭が割れている。卵がぐちゃりと潰れるように、物理的に完全に割れている。インターネットでいわゆるグロ画像に指定されるようなものだ。
あまりの有り得なさに、冥自身も最初何が起きたか理解が及ばなかったらしい。とりあえず覚えていたのは、自分の名前と、今自分が何をしていたかと、自分の能力。
それから、それから。

「あ、あ………うわあああああああ!!!!!」

叫んだ。叫び声を上げた。
けれど彼は犬だったし、何よりその部屋には、すでに冥の声を聞いている生者はひとりもいなかった。
何が起きたのか……その瞬間にはもちろん分かるはずがない。
火が周り、危険な建物の中で、とにかく必死に逃げて、逃げて、走った。肉球を何度も焼き、体に重傷を負いながらもなんとか走って出ていった。

同じように、この建物から逃げていく人を何人も見たらしい。この施設が楽園だと信じていた人間も中にはいただろうか。子供達は、壊れるはずのない壁が壊れたことを喜んだ。大人達は戦慄した。様々な思惑が、その夜の中で動き回った。

けれど、こんなことになったところで、外の世界をあまり知らない冥では、ひとりでは生きられない。施設の周囲を彷徨いていると、やはり施設から逃げてきたらしい研究員と出会った。自分が何なのか心当たりがあり、そしてすべての混乱が収まるのを待って、どこかに連れて行かれたと言う。

「前後のことなんて、あまりにも呆然としてたんで覚えてねえんだがな」

それでも。

「それでも……あの姿は二度と忘れねえ。自分が、死んでいるあの姿は」

……冥」

坂口のもともとのものなのか、それとも冥がなせる技なのか。視線だけでも充分僕達を殺してしまいそうなほどだ。
そうか、と僕は勝手に納得する。
冥は、自分の肉体をその事件で失ってしまった。それからいろんなものに乗り移りながら生きていた。だからこそ、だからこそ僕を恨むのはわかる。僕がやったことではないとは言え、やり場のない気持ちをそこに持っていくしかないだろう。
それなら仕方がない、と納得する僕の前で、冥はさらに言葉を発する。

「まさか、俺の死因がお前だって言うのも、聞かなきゃ知らんままだった。お前がこの✕✕市にいるっつうからわざわざ来たんだ。そういう意味じゃ感謝してるよ」

そういえば冥含め、俺達?は僕が見つかるのを待っていたと言っていた。どういうことなのだろうか。僕の行方が隠蔽されていた?
──しかしそんな思考は、唐突な一言で途切れた。

「いや、本当に感謝してる……わざわざこんなことを教えてくれた、了にな」

は?
了?


……………………は?」


直後。
今まで聞いたことがないような低い声がブースの密室で響いた。僕も冥も、意識が乗っ取られているはずの坂口ですら動きを一瞬止めてしまうくらいだ。
ぞくっと総毛立った。突然室温が数度下がったような、ひんやりというかじんわりというか、ものすごく全身が冷たく冷えるのを感じた。
僕の中に何か、今まで感じたことがない得体の知れない意識が流れ込んでくる。【了】と言う名前を聞いた平原さんの、ずっと胸中にひっそり抱え込んでいた痛みと恨みであった。
あの日僕達の結びつきが強くなったせいなのか、今まで僕が無意識に避けていた、或いは平原さんが絶対に読ませようとしなかった負の感情。
こんなにも、一瞬で冷えるのか、この人は、一体。


『何だコイツは……了の名前を軽率に持ち出しやがって。勝手に使いやがって。俺の仲間を、愛すべきだった部下を、自分の目的のために振りかざしやがって。アイツはなぜ死んだ、コイツはどうして了を知っている───了から聞いた、聞いた?ふざけたことを、言うなよ』


ずずず、と何かがこみ上げる。地獄の門が開こうとしている。

「了は死んだ。なぜお前が知っている」

……な、なんだよ、俺は確かに、了に聞いたんだ」

鋭い追求は矢のように飛んでいった。今まで優位に話を進めていたはずの冥が、その気迫に押し殺されてしまいそうな顔をする。

「テメェ……」『……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな……死者を冒涜するな、アイツの魂を汚すな。軽率に触れるな、あと何回俺をキレさせるつもりだ……

「いや、会ってはない、電話だけど、だけどな!」

「あ……?」『ふざけるな……!』

「平原さん!」

今にも坂口を殴ってしまいそうな拳を見て、平原さんを後ろから羽交い締めにした。体格差がありすぎるので、実際どこまで足しになるかはわからない、なんなら一瞬でこの拘束は外されてしまうだろう、と覚悟を決めていたのだが、平原さんは暴れることもせずおとなしく僕に抑えられていた。なんなんだ。
しかし、動きが止まったからと言って何も変わっていなかった。冷たい思考はそのまま流れ込んできている。僕の脳内が暗い怒りに塗り潰されてしまいそうだ。

「はは、お前、平原。本当に了の話が地雷なんだな?」

……一発ぶん殴る」

「できるならな!」

にやりと唇を歪ませて、冥が叫んだ。

……了はお前に、死んでほしいんだぜ!」

瞬間、坂口ががくっと全身脱力して膝から崩れ落ちた。おそらくは、冥が能力を発動したのだ。坂口を乗っ取っていた冥が、坂口から抜け出した。

「!? 冥……

「んだと、テメェ、あ……?」『コイツちくしょう、逃げ   が    』

そして、平原さんが小さく震えた。

「ぐ、」

……な、平原さん?どうしたんですか」

……う」

思考が、読めない。なんだ、何が起きている。
恐ろしくなって平原さんから体を離し、一歩二歩、後ろに下がった。
数秒して平原さんが全身の緊張を解き、両腕をだらんと下ろす。まるで全ての意識を失ったみたいに。
今度は僕が緊張する。何か良からぬことが起きているような気がしたからだ。


そして、


……………………あれ?』


その予想は外れた。

……あ〜〜〜?」『なんか腹殴られたみたいな感じだったけど、なんも起きてないな』

「え、え?」

何が起きた?

……てて、いてて……

さらに雑音が混じった。これは。

「んぁぁ……あ?あれ僕……」『いたたたたた体痛ぁ』

「あれ、えっ?どういうこと?」

なんか知らん間に解決してない!?
それはそれで混乱する。さっきまでのシリアスはどこに行ってしまったんだ。
理解不能な僕の中に、声が聞こえた。

(こいつ!……なんで持ってやがる、【反(アンチ)能力装置】を!?)

アンチ能力装置?
聞き覚えのない声と聞き覚えのない単語だ。恐らくこの声が本当の冥で、何かよくわからないけど、先程乗っ取りが失敗したらしい。

「まだそのへんにいるんだな、冥。どういうことだ?」

僕はどこにいるかわからない、もはやにくたいを失った哀れな存在に声をかける。
ほか二人が「は?」みたいな顔をしたが無視する。

(相川……、コイツは、平原 新立は……ただの人間なんだろうな?なんで特殊能力を無効化する装置を持ってやがる)

「それは知らない。どういう意味だ」

(どういうも何も、そのとおりだよ。特殊能力を無効化し、直接触れたのなら一時的に能力使用すらも不可能になる。研究員達が自衛の為に持ってた装置だ)

「は?僕はなったことがないぞ。どういう理由で……

(そんなもん知るか、つうかまずい、このままじゃあ……あ、ああ、俺が……)

「お前は何を知ってる?僕と平原さんのことをどこまで知っている!?」

(時間がない、もう……肉体も、ないし、戻れ……な、いやだ、こん……な、消え……)

「待て冥、お前には聞きたいことがたくさん……!!」

けど、けれど。
……それきり、もう彼の声は聞こえなかった。
あっけない幕切れ。唐突な別れ。
それはまるで、その時、事件が起きた時のような唐突さで、僕達の前から姿を消した。


◆◆◆


とっぷり日も暮れ、よる。
僕と平原さんは、✕✕FMの駐車場でコーヒーを飲んでいた。署に帰る前に一服というやつだ。
事件の後味の悪さが尾を引いて、車に乗ってすぐ署に帰るという気にもなれず、車の前で缶コーヒーを開けた。ラジオ局のスタッフ達が気を使ってくれたのだ。
ふたりしてすっかりしょげてしまっていた。なんだか、振り回されてしまったな。

……はぁ」『焦り損だったな、爆弾も偽物とは』

「見た目は精巧でしたから、あれは騙されますよ……

ブラックコーヒーを流し込んで答える。ずっしりとした重み、何かの駆動音。あれで騙されない人なんているのかと思ってしまった。
訓練でもどきを見たり、資料で実際の爆破装置を見たり、あれこれやったけれど、やっぱり……反省だ。冷静さが足りていなかった。

「そうかねぇ」『早く帰って風呂入りたい。つうか、まさか過ぎた色々と……何だったんだ今日……

結局のところ、あの文章は坂口の体を乗っ取っていた冥が書いていたものだった。冥の意識が表層化している間、坂口は全く記憶がなかったらしい。実際、ブースに入ってからの記憶が坂口にはなかった。
ラジオブースを指定したのも、坂口とともに来いとわざわざ指定したのも、坂口に憑依している自分と接点を持たせるための苦肉の策だったと見える。
そうまでしなければ、ろくに僕達を呼び寄せるための方法が思いつかなかったのだろう。いや、今となっては憶測で話すしかないのだけれど。
……ああ、それと、防音っていうのが大きかったんだろう。こちらの音声は、マイクを通さない限りはブース外に漏れることはなかったからだ。
全てが終わって、ついでに爆弾が偽物だとわかって、全員してやっと落ち着いた頃、ラジオ局のスタッフ達から次々と安心の『心の声』が聞こえてきてなんとなく懐が暖かくなった気がした。

けれど、何も解決していない。
冥がいつ坂口に憑依したのかも、そもそも了さんにいつ接触したのかも、なにひとつ聞くことができなかった。爆弾もどきもいつ仕込んだのか不明だし、脅迫状だって。運ばせたということは、配達人に憑依していた、のか?

僕達の謎は何も解決していない。

「にしても、平原さん。アンチ能力装置なんて物騒なもの、持ってたんですってね」

「んだ、それ?」『は?こいつ何を……知らねえー、なんの話してんだ』

そういえば、と思い出して平原さんに聞いてみたが、当の本人はなんにも知らないようだった。え、と短く驚きの声を出してしまった。

「え、冥が言ってましたよ。反能力装置。特殊能力を無効化する、って……

あれ?
じゃあ、なんで……

「あ?どした?」『聞いたこともねえ話だけど、突然何言ってんだか……

引っかかったことがあった。
平原さんは、確か安心院の『テレポーテーション』で連れ去られたことがあったはずだ。僕の『心の声を聞く』能力も多分に働いている。
だが、『マイクロ波を操る能力』には無傷だったし、今回の『乗り移り』も完全に防いでみせた。
本人の体質で防げていると言う訳ではなさそうだし、百歩譲って何らかの特殊な装置を付けているとして、それではなぜ僕の能力は通しているのかが分からない。
何が違う?あの時と今と、果たして何が。

……あ。」

外灯でうっすらと輝く、銀の輪っかを思い出した。



「そう、それ。俺のあげたやつのおかげね」



ふたりしかいなかったはずの空間に、突如声が割り込んできたのはその時だった。
声の方を見る。
外灯の下、はっきりとは見えないが、男は間違いなくニヤニヤと笑っていた。
暗がりでもわかるような焦げ茶と表現すべき色の肌、目元が見えないくらい伸ばされた前髪、街のどこにでもいそうなラフな服装、そしてそのどれもに合わないほどの圧倒的な殺気。
……心の声が、聞こえない。
隣を見るのは、なんとなく恐ろしくてできなかった。
いや、きっと僕はもうわかっていたんだ。思考を拾い上げ、読み取った結果が、分かっていたから。

「な……、んで……」『おい、なんだよそれ。俺は聞いてねえ、そんなの、信じるわけ……なあ、嘘だっつってくれ……

「はは、嘘じゃねっつの。忘れたんすか?俺のこと」

「あ……」『だって、だって』

喜ぶべきか。悲しむべきか。
どんな感情を持てばいいのか、分からなくなってしまった。

『いや、そんなわけ……だってお前は、死んだろ』

ぽつり、と。



「───了」


そしてかつての相棒は、その名前を、呼んだ。