ダベミ
2021-09-15 20:17:42
15917文字
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ダブルハンターXの2話がこうだったら嬉しい妄想

元ネタの勇者ああああ生が視聴期限すぎたので初投稿です


ある日の✕✕市の、朝。

慌ただしい人の流れが、電車の扉の向こう側から一気に流れてきた。
それらのどれもが、様々な事情で✕✕市を訪れる必要のある人々だ。
それらのどれもが、ドラマチックな日常はないかもしれないけれど、それでもこの市に掛け替えのない人物だ。
朝は通勤と通学の時間が重なることから、こんなご時世でも人が大勢乗り降りする。そう、今日もなんの変哲もなく、ただいつもの風景として終わるはずだった。駅の中からは人の濁流が脈々、ぞろぞろと流れていくところだった。
そんな中で、ふいに一人の男がふらり、と駅前の広い空間に足を踏み入れた。
突然目の前の流れが遅くなったことに、後ろから雪崩れてくる人々は訝しみ、苛立ったりもしたけれど、特に声をかける様子はない。助けようだなんて、見守ろうなんて、誰も思っていない風だ。
空間に変なところはない。また、男は焦ったような様子だが体が動かずに、それから震える足取りで一歩、二歩、何歩かは進んだのだという。

足がぴたりと止まって、時間は午前八時四十九分。

突然、男は火柱に変わった。


◆◆◆



.2:ばーにんぐ[もえさかる]


僕の名前は【相川 終】。

【人の心の声が聞こえる】……と言う特殊な能力を持っている、✕✕市の警察署に配属されたばかりの警察官だ。
どうやら【組織】と呼ばれる、特殊能力者達の集まる場所から狙われているらしい。
とまあ、僕の説明はさておいて。

「人体発火現象〜?」『またそんなこと言ってんのかよ。ねえって、絶対ねえのになんだ』

あれから二週間。
二日目でハードモードに突入したはずの僕の勤務は、それからしばらくの間とっても静かだった。
通報を受けて出動してみたり、パトロールしてみたり。近所のおばあちゃんが家出したなんて聞いたから、二人で探して見つけて送り返したこともあったっけな。
凄惨な事件さえ起きない限り、どうも地域課とやってることは一緒のようだ。と言うより、むしろ地域課の仕事を全部やらされてないか……

なんて思ってそう、二週間。

組織のことが気になるけれど特にヒントもないし、僕を付け狙う人間もいないし、とちょっと油断が出てくる頃合いだったと思う。
これだけ一緒にいたおかげが、流石に平原さんの物理的な声のうるささにも、心の声のうるささにも慣れてきた。
ほんとにうるさいんだよ、平原さん。おそらく署内一だと思う。声が出ていることはいいことよ、と署長が褒めていたけれど、そんなレベルじゃないだろう。
……それにしてもこの人は、一度考え込むととことん考えてしまう性質らしく、つらつらずーっと何事か考えていることがある。こないだなんて、晩飯は何だろうかゲームが開催され、一旦中断し、不正が発覚し、最終的に平原さんが優勝するところまで付き合わされたことがある。付き合わされたと言うか、一方的に聞こえてきたから、最後まで付き合わざるを得なかったのだが。


その日も何もないはずだった。
その日も平和だろうと思っていた。


僕はいつものように眠そうな目をこすりながらロッカーへ直行、そこで私服から仕事着へチェンジ、そしていつものように薄暗い廊下の先にある扉を開く直前、室内で報告を受けていた平原さんの声が両方聞こえたというわけで。

「おはようございます」

ゆっくり扉を開いてから、くしゃりと寝癖を手で押さえつけながら頭を下げてそちらを見ると、随分難しい顔をした平原さんが振り返る。

「おう、おはようさん。……聞いてたな?」『聞いてなくても説明すんのが筋ってもんだろうが、まあどうせ読み取るだろ、お前なら。優秀優秀』

平原さんは僕の能力の性質を二週間で何となく把握したらしく、優秀優秀などと勝手に頷く。しかし流石に納得がいかない。

「平原さんの言葉で説明されないと僕、聞きませんよ」

……お前なあ」『これ強情なの?それともなに、疑われてるの?なに、なによ』

「声が聞こえるから説明は無視、じゃ、何かあった時に困るかもしれないじゃないですか」

「何かって、」『……え?なに?何かって何?』

「例えば僕が、この力を使えなくなった時、とか?」

……、そんなことあるのか?」

ポツリと寂しそうにも聞こえる声の後、やっぱり考えすぎる性格が発動していた。


『まぁあるか、ありうるか、相川も生き物だもんな。これからの未来に対して、どうなるっていう約束はできねえしなぁ……ああそっか、突然能力が弱まったり、突然能力が消えてしまったり、そんなことが無いとは言い切れ……


「平原さん、うるさいです」

……!」『いやしょうがねえじゃん、考えちゃうんだから、考え過ぎちゃうんだからさ。繊細なんだよ、俺は意外と繊細なの、お前が思っているよりも遥かにー!』

「分かりましたから。それで……

『つっても……どっから説明したもんか……ああ、ここからでいいかな。じゃ、相川にこれを見てもらって……

さっ、と捜査資料を出しながら平原さんが口を開く。

「人体自然発火現象。駅前で突然、人が燃えたらしい」

……え?」

その日が、【特殊犯罪捜査課】が事件に挑む、最初の日になった。


◆◆◆


現場に辿り着いた。
パトカーは今数が足りなくて使えないらしく、そういった事情で特別に許可を得て、社用車として僕達に寄越された黒塗りの車を使っている。
朝の通勤ラッシュはとっくの昔に終わってしまっていて、人が少なくなっているが、やはり駅前はある程度は騒然としていた。野次馬が現場を遠巻きから見ている……しかし時勢からかあまり人数はいなかった。

現場となった場所に円柱状にブルーシートが張られ、周りには黄色の背景に黒文字で『keepout』の文字が踊るテープが何重にも巻かれている。

関係者以外立ち入ることができないそこには、既に別な団体がいた。こういうのに詳しくない人でも、きっと名前くらいは聞いたことがあるであろう───捜査一課。
主に『凶悪犯罪』を取り扱うのが彼らの仕事である。
そう、例えば殺人とか。


『また誰か来おったんか。……いや、野次馬ちゃうな。こっち入ってきおる、ってことは関係者か』

ブルーシートの内側から漏れ出した『声』を察知した。足音に敏感だな……それとこれは方言、かな。
もちろん周囲の警官や、鑑識官の皆さんの心の声も聞こえていたのだが、一際大きい。周りの声が塗り潰されるほど、強く、大きい声だ。純粋な大きさだけなら平原さんの方が上だろうが、それともまた違う。
周りに頭を下げ、身分を証明しながらブルーシートに近寄っていき、それを開かれてふたり、中に入るとそこに声の主はいた。

「偉い遅いお着きですなぁ、平原「課長」さん」『……なんやこいつらか。ちょづいとんのう』

「はは、どうも。薮茂一課長。平原「課長」です、特殊犯罪捜査課長の」『いつ見ても怖え顔してんなぁ、もっと笑顔作ってくれとは言わねえけど……なんでこんな睨むん』

彼が【薮茂 垓《ヤブシゲ ガイ》】。この✕✕市の捜査一課長と言うポストに就いているキャリア組だ。

「まぁあんさんら、ウエから言われんと動かれへんのでしたっけ?そんならしゃあないなぁ」

口調は優しいが、裏はこうだ。

『はあ……自分らで動けん無能組っちゅうことやろ、その自分で出るような権限もないやつが、何で俺の現場に口出しよんねん、全く最悪や。黙って帰れっちゅうねん』

……薮茂さんも気分悪いんだろうが、ダイレクトに聞かされる僕も気分が悪い。明らかに敵意をむき出しにした心の声を聞いているのは、どうあっても苦痛だ。取り繕っては見たものの、自然と僕の顔は歪んでいたようだった。

「そうなんですよ、はは。俺らも来られるなら初動からきたいんですがねえ」

ちなみに、こちらはこちらでこうなっている。

『んだコイツ……しゃねーねえだろ、俺らは本当に来てもいいのかどうか全く分かんねえ現場には行けねえんだよ、そういう部署なんだよ。そらそうだろ!来れるなら来るわ!お前に!言われなくても!!』

平原さんは内心ビックリするくらいブチ切れているが、顔はとっても笑っている。演技がうまいなあ。
僕なんて、脳内に届く悪意のせいか、顔歪みまくりだ。もううるさいくらいに平原さんの声で意識が塗りつぶされそうなのに、それを上回る殺意と悪意が薮茂さんから流れ込んでくるので、とても口の中が苦い。
それを察してほら、薮茂さんが変な顔してる。こちらを見て怪訝そうに眉を釣り上げた。

「あ?なんやの、その金髪は」『アホかいな。外人か?警察ナメとんのかコイツァ。ちゃんと髪くらい染めぇや』

「新人ですが?うちの課の」

平原さんが僕をかばうような素振りを見せて、

『ああくそ、コイツマジムカつく。相川、コイツの脳に潜ってなんか聞こえねえのかよ。弱み握って脅そうぜ』

と悪魔の囁きをしてきた。いやいや。

……ダメですよ、平原さん……

「あ?コソコソ話はアカンなぁ」『ほんまきっしょいな』

「まあ、やっては見ますけど」

「ああ。うちの新人はすげぇんですから」『目にもの見せてやれ。コイツを黙らせよう』

いつもならこんなことに能力を使わないですよ、と答えるところなのだが、嫌な感じがいまだ抜けない、少しくらいやり返すのは許されるだろう。
恐らく、僕を縛ることはできない。人の脳を覗いちゃいけない、なんて法律がないし、あったとしてその罪を立証する方法が現在時点で存在しないからだ。
まあ、この人に自分達の存在を認めさせるために、いずれ通る道なのかもしれない。そう己に言い聞かせて、行為を正当化しようとした。
すう、と息を吸い、吐き出して、それから手を向けてゆっくり意識を高めていく。そうだ、今は、今だけは僕が……ん?いいや、違うな。次第に全身が違う生命体で染まっていくような感覚が上がってくる。
その生き様すら、思考すら、別なものに塗り替えられていく。見えていること、生きている意味、オレと言う人物が脳内で出来上がっていく。

───オレが、薮茂 垓や。



「貴方の脳に、入りました。」



「あ……?」『きっしょ、ほんまきっしょ。なんやねん、そう言うのは学生時代に卒業して……

こほん、と咳をして、それから。

「家族構成はオレこと垓、妻の【希絵《きえ》】、次男の【櫓《やぐら》】。長男の【錨《いかり》】は既に成人済みで家におらん。それと別にラン、スー、ミキ……メスの犬3匹がいてる。キャンディーズや、知ってるか?」

「な……」『なんや、こいつ、なんや?突然俺の家族構成を、て言うかなんで知ってんねん?』

「趣味は上司との付き合いのために始めたゴルフやねんけど、実は妻には内緒でこないだドライバー買うてん。ええ買いもんしたわ、って満足してんねんけど、上司に睨まれるからまだ使えてへん」

終わらせない、いやオレが止まれへん。徹底的にやったれ、と脳の奥でスピーカーがガンガン鳴っている。読み取れた情報をつらつらと語ってみることにする。

「本当は早く警視庁の要職に就きたいんやけど、なんでか昇進の話が来ぇへんねん。誰も俺を信用してへん。逆に俺も周りが信用できひん」

「ちょっ、待て、何を言い出して……!」『なんや、なんや、や、やめてくれ、突然なんや!?』

流石に周りがざわつき始める。何が起きているかわからないが、とにかくなにかがおかしいと気づき始めていた。
薮茂さんのすぐそばに立っていた部下など、目を見開いて、信じられへんと言う表情でオレを見とった。

「そんで何?突然人が燃えた?何でか分からん、誰かに殺されたかもしれんけど、それも分からん、と。こんなちぃちゃい事件に、俺なんて駆り出すのはアホらしぃて敵わんなぁ───」

「止めろ!!」『止まれアホンダラぁ!!』

一瞬、現場に静寂が訪れた。辺りのざわめきも止まって、二人を……オレ、いや、僕と薮茂さんを見ている。全体からじりじりと、熱線のごとく視線が注がれる。
しんと静まった現場で、さざめきのような心の声が数個聞こえてくる。どれもが困惑しているようだった。きっと野次馬達にもこの声は聞こえただろう、遠巻きにも困ったような声がいくつか混じっている。

『こいつ……何をした、何されたオレは、ああ、何が……

「僕達は、そういう、特殊なことが出来る部署です」

………」『そもそも、そもそも……今のはどうやって、そもそも何のためにこないな事しおった、なんやねん……

「つまり、今回のような意味のわからない事件には、僕達が適任と言うわけです」

そこまで言い切ると、真っ青になった顔で薮茂さんが首を振り、平原さんは少しだけ胸が漉いたようで嬉しそうにしていた。

『やりすぎな気もするけど、まぁいいや。よくやった相川、あのクソ野郎に一発御見舞できて嬉しいよ』

「明らかオーバーキルでしょ……

僕の能力ってこんな使い方ができたんだなあ、とひとり感心していた。あれ?もしかして【心の声が聞こえる】って相当強い?交渉とかなら無敵じゃない?
自分の能力に使い道なんて実は無いんじゃ、と前回以来すっかり落ち込んでいたのだが、ちょっとだけ自信が出た。

……あ、ああ……」『今……と、とにかくこいつは……

「まずは話をさせてください」

勢いが止まった。先程までの悪意がなくなって嬉しい。
同時に、自分の能力の悪用はやめようと、絶対一生金輪際しないようにしようと、強く決めた。

『やっぱ最後は力技よね』

「平原さんは黙っててください」

それにしても、やっと話が進みそうで何よりだ。


◆◆◆


何とか場を収めるのに五分かかった。むしろ五分である程度落ち着くことができる薮茂さんのメンタルの強さに恐ろしいと思ったのだが、ここでは言わないことにする。
平静を取り戻してやっと僕達の話を聞くことにしてくれた薮茂さんと一緒に、脳内から先程読み取れたことと、実際に現場と資料を見せてもらってわかった情報とを総合してみよう。

人体自然発火現象が起きたのは、✕✕市の駅前、広場のようになっている場所。駅前には車が止まるロータリースペースもあるが、現場は駅とロータリーのちょうど中間辺たりだろう。

被害者は【室蘭 鴈乃《むろらん かりの》】、会社員。

警察が総出で経歴を探ったのだが、拍子抜けするくらい、特に変なところはない。年齢は二十九歳。身長が百七十弱、痩せ型。猫背。血液型はB型で、右利き。また、以前に泥酔して転び、左腕を骨折した経歴あり。
普通に働き、普通に会社に行き、普通に生きている。僕とは大違いな暮らしをしているらしい。
職種は家具の売買、その営業部門に務めている男だった。成績も平凡で、売り上げすぎず、売れなさすぎずと標準を地で行っているとのことだった。
それじゃあ、家族が何かしたのか?と思ったが、父は既に他界しており、母は現在京都の方で暮らしていて、もう数年帰っていないと言う。
誰かから恨みを買ったような痕跡もなし、誰かと揉めたような形跡もなし。周りに聴き込んだものの、やはりおかしな点はなし。最近犬に吠えられるとか、ぴかぴか光る石を拾ったとか、ライブイベントに行こうとしたが中止になったとか、その程度の話題しか出てこなかった。
足取りを追ってみたものの、前日も残業せずまっすぐ家に帰っているし、家に女の気配もなし。

手詰まり。なんだ、既に【終わっている】じゃないか。

「これでなんか分かるんか?」『そもそも、いきなり人が燃えたなんて信じられんことやからな』

薮茂さんがこちらを見る。いや、正直なんもわかんない。のだが、そう言うこともできないので何とか頭を働かせようとする。
人体発火現象。それも、自然に、だ。
前回もそんな話があったけれど、あれは犯人が……他人に何かを思い込ませる……という特殊な能力を持っている笹塚が、被害者である黒川室長に何らかのことを思い込ませて、そのまま燃やし殺したことが分かっている。
発火の方、それ自体には特になんの変哲もなかったというわけだ。

「出火原因とかは分からないんですか?」

「んあー、それが多分これや。ほれ、見てみ」『流石に死体、本物見てもビビらんやろと思うけど』

続けて、僕に死体見聞でわかった情報を纏めた紙を手渡しながらビニールシートに包まれた死体の方へと案内してくれた。三人して、ぺこり、頭を下げてから死体を被っていたシートを捲ってもらった。
ひと目見て分かる……ああ、こりゃあひどい。とんでもなく燃えている。炭火で焼きすぎた焼肉、みたいなもんだ。全身がぼろぼろになるまで焼け落ちているなんて。なかなかない光景だし、逆にここまで来るとビックリするを超越している。
資料に改めて目を通す。出火原因は雁乃の持つスマートフォンではないかとされている。と言うのも、尻ポケットの辺りが特に激しく燃えた痕跡があるとの結果が出たそうだ。主に右下半身を中心に、か。

「スマートフォンから、出火の可能性か」

これが万一殺人でないならば、まあ有り得るきっかけなのかもしれない。スマートフォンは無関係と考えるべきなのだろうか、それともこれを原因と捉えるべきかはまだわからなかった。

「んー……スマートフォンから出火ってことは……事故の可能性もある?」

まま有り得る事故と聞いたことがあったので、殺人の可能性を否定する方が遥かに簡単に思えた。しかし単に事故でこうなったのなら、署長は僕達をここに寄越さないだろう。

「そうやな」『やけど、それやと妙やねん。……なんやこいつ、全部読んだんちゃうんか』

「読みましたし、今も聞こえてます。けれど……なんか引っかかって」

「あ?」『えっ、聞こえてんの?』

「はい、聞こえてます。鑑識官の方々は特殊なスーツを着て活動されてるので、ちょっと聞こえないんですけど」

「事故っつっても、それだと分かんねえことが多すぎねえか?」

なんて言ってきた平原さんが、途端に深く考え込む。

『大体、スマートフォンが勝手に燃えるなんて……いや、あるか。確か、スマホ?によく使われてんのはリチウムバッテリーだもんな。多数のア……あぷ、アプリ?……だかを動かしたままカバンに突っ込んで、本体が熱くなる、あるいは発火するっつう事例があった気がする。つうかアプリってなに?ガラケーっつーんだろ、俺が使ってるケータイは。それとは全然違うんでしょ?パカパカしないんでしょ?画面傷付くっしょ?』

文字量が多い……頭が痛くなりそうになるが、以前ほどではないので耐えられる。

「はい、他にも強い刺激を与える、異物がコネクタに挟まるなどの理由でバッテリーや本体内部に異常が起きることがあります。」

「はぁ……」『熱が逃げなくて、高温になったせいでバッテリーから火災か。あー、そういやそんな事例上がってたような』

「あとガラケーについては後で説明するので今置いといてください」

「わざわざ言うなよぉ、お前」『考えちゃうんだから仕方ねえだろ』

「何勝手に話進めてんねん」『ほんで勝手に納得すんなお前ら、二人だけで進めんな』

「あと……ひとつ気に掛かるのは、目撃者の証言ですね」

「おい聞け」『俺の考えてることは音で聞こえてんねんやろ、無視すなボケ』

「説明すると長くなるので。……発火直前、被害者はふらふらと歩いていた、という証言がありますね」

何でも、ロータリーで客待ちをしていたタクシードライバーがその一部始終を見ていたそうで、そこから証言が取れていた。

曰く、雁乃は駅中から出てきた直後までは普通の足取りで、一見して目に止まるような動きはしてなかったらしい。なのだが、そこから突然、一瞬足を止めたかと思えば、驚愕に目を丸めて震える足で数歩歩いたそうだ。それからあちこちを振り返り、何かを探すような仕草をした。
周りの人間は当然、そんな突如として進行が遅くなった雁乃を訝しんだものの、朝のラッシュの時間帯ということもあって誰も彼を気遣う様子もなく、人がざっと全て履けて沈黙した、八時四十九分。
なんのきっかけもなし、男は火柱になった。悲鳴は上げていたような、上げていなかったような、とにかく呻いていたとのことだ。
運転手も驚いて無線を使おうとしたのだが何故か会社に繋がらず、スマートフォンも電源が入らず。ならば自分で助けるしかない、と思っていた矢先に火が一瞬で消え、後に残ったのがこの酷い焼け落ちようの死体だった。

スマートフォンが使えなかった。ここがポイントのような気がする。

「発火現象とスマホが使えないこと、何か関係があると思いませんか?」

そこが気に掛かる。ただの事故なら、他の人のスマホが使えないなんてことも、被害者が抵抗せず燃やされたということも有り得ないだろう。

「ん……」『どっちも突然起きたと考えればそうやろうけど、それやと』

………」『被害者の足取りが突如として遅くなったことに説明がつかないな。どうやってやった?』

二人して同じようなことを考えていたようだ。
僕も、少し考えてみる。一体どうやったのか。
被害者の動きが止まっていたというのが気になる。どうしたらそうなるのか、何をどうすればいいのか。
そうして悩んでいくうち、もしかして、というのがひとつだけあったのだが、だとしたら今回も発火……つまり火を操る能力なんかではないし、ましてやものすごい取り回しのし易い、強い能力だろうと思った。

早くしないといけない。この成功を糧にして、犯人がもっと複数の人物を殺害する可能性は充分に存在している。

一度成功体験をした能力者は強い。自分の異常さを存分に理解し、またそれが他人にとって強い脅威になると言うことを理解してしまうのだから。
早く見つけなければ。近くにいてくれるのなら、探すことくらいはできそうなんだけど。
超能力とか特殊能力とか呼ばれる、こういうものに理屈は存在しない。出来るか出来ないか、ではなく「そうなる」のである。例えば僕が、人の心の声を聞くことが出来るのも、理屈ではない。むしろ理屈が知りたい。よくわからない。

「なんだ、相川」『お前絶対思いついたろ、絶対あ、これだ、ってやつ見つけたんだろ。言えよ、素直に言ってくれよ』

「確証がないんです、まだ。それと……

現場にくるりと背を向けて、一旦は、ブルーシートの外に出る。野次馬はまだ僕達を囲むように存在していた。
それぞれの声を拾ってみよう。
犯人は現場に戻るというが、もしも、この中に犯人がいるとするならば、もしかしたらすぐに分かるかもしれない。
いなかったらまたイチからだけど。やってみる価値はあるだろう。周りの声を拾い上げて聞いてみる。

『うわ……何かあったの?』『なんかくっさーい』『朝からなんだよ、邪魔だなぁ……』『早く犯人捕まるといいけど』『ニュースになってたの、これ!?』『YouTubeに上げよっかな』

雑多な声が聞こえてくる。それらはどれも取るに足らない思考。

『あれが、噂の金髪か』

……いた。その中に一つ、明らかに僕を意識した声があることに気がつく。ハッとして周りを見回して、

『何がいいんだか、生け捕りだなんて』

その発生源を見つけるよりも、先に。
突然、全身が雷に打たれたようにびりびりと痺れた。

「あ、ぃ……っ!?」

ブゥンと、非常に低い音が鼓膜を破らんとばかりに鳴り始める。今まで聞いていた音とも、『音』とも全く違い、それはどこから鳴っているの不思議な破壊音だった。カチカチ、カチカチと頭蓋骨の内部に響いて、あ、ああ、頭が割れ、る……
あまりにも突然の事態に気が動転して、叫び声を上げることもできなかった。
まるで被害者とおな、じ……、息も持たずに、膝から、崩れ落ちる。周りの野次馬が、ざわ……ざわ……し始め、る……入り口に……いた、警察官が……僕の方に来て……
きもちが、悪い……なんなん、だこれ……。ぐらぐら、する、くらくらする……脳がちょくせつ、揺さぶられて、いる……ような……

「相川!?」『んだ、遅えなと思ったら何が……!?』

やっと外のざわつきに、平原……さんが、気付………………


◇◇◇


「な、終」


誰かが僕を呼んでいた。
目元を隠した少年だった。それは前に見た気がする。
これは……もしかして?不意に思いついたワード、失ったはずの僕の、幼い頃の記憶、なのだろうか。
なんで今になって思い出してるんだろう。なんでこんなの、今更僕に見せているんだろう。

「どうしたの?【 】」

僕も誰かを呼んでいる。名前が……ダメだ、聞こえない。覚えていない。

「俺達、どうなっちゃうんだろうね」

真っ白い部屋に二人で体育座り、時分は夜、大人の目を盗んでの逢瀬らしい。コソコソ話で、二人は目配せ。

「分かんないよ……だけど……

「俺は……もう、嫌だ。こんなの、いつまでやんの?」

「僕も分かんない。やりたくない……

すると、褐色がにゅっと伸びてきた。手を僕に伸ばしているのか、まるでダンスにでも誘うように。

「な、終。一緒に、逃げようぜ」

………え?」

それは子供心に浮かれそうになる提案。僕自身が喜んでいるのが、夢ながらにわかる。
ああ、なんだ、これは。


僕は誰と話しているんだろうか。
僕は何を話していたんだろうか。



◇◇◇


『しかしこいつ、いっつも倒れてんな……

また低音が聞こえてくる。なんでそんな毎回毎回って、僕が気絶を得意としているみたいな言い方して。今回ばっかりは不可抗力でしょ、いやマジで。
ようやく世界に光が戻り、視線を声の方に戻せば、めちゃくちゃに泣きそうな顔をした平原さんがいた。

……あ、は、平原……さ、ん」

頭はしっかり回っているが、まだ上手く息が吸えない。どうやら✕✕駅の職員用休憩室に運び込まれたようで、真っ白いベッドの上に寝かされていた。今更思い出したように全身からどばっと大量の汗が出てくる。
僕の声を聞いて、再び驚きに悲鳴を上げそうになった平原さんが、その場で驚くのをなんとか堪えてから両手をぐっと握って拳にする。え、殴られるの?
と、思ったら。

「っ、お前、相川……何してんだよほんとに……!」『こいっ……つ、ずっとずっとびっくりさせやがって、あ、あぁ〜〜〜〜〜、よかったぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜………!』

ぶわっ、と。
そこが涙の雨模様。
めっちゃくちゃ怒ってるし、めっちゃくちゃ泣いてるし、なんか色々ぐちゃぐちゃになっていた。そしてうるさい。
けれどなによりも僕は、この人が、この間知り合ったばかりのはずの平原さんが、とってもめちゃくちゃな感情を振り回していることに驚いている。
二週間で、僕にこれだけ思い入れを感じてくれたこととか、なんか、その……そんなに僕に何かあったからと言って、ここまで感情がぐちゃぐちゃにならなくてもいいじゃないか。
とりあえず頭を起こそうとしたが、寝ているのにくらっと立ちくらみみたいな感覚がしたのでやめておくことにした。正直、ものすごく辛い。休みたい。それでも言うべきことは言わないといけない。
横たわったままで、なんとか思考を回転させる。

「無事、ですよ……一応、ね」

…………、」『どこが無事なんだよバカ……つうか、突然倒れるとか……何が起きて……

「それ、なんですけどね。自分で受けたおかげで……分かりましたよ。犯人の……特殊能力が」

「あ?」『何がわかったって、なこと言ってねえでちゃんと寝てた方が……

「犯人は……火を起こしたんじゃない……【電波を操った】んです」

………何?』

「正確には……そのうち、電波の一種、【マイクロ波】です、多分。……分かります、マイクロ波?」

まだガンガン痛む頭で簡単に説明する。


【マイクロ波】は応用の幅がとても広い電波の一つだ。

身近なところで言えば、テレビや携帯電話の電波もマイクロ波。例えば電子レンジはマイクロ波による『マイクロ波加熱』と言う現象を用いて、ものを温めている。マイクロ波が、その物質の分子運動を起こし、イオンが……理屈を説明するのは僕にはちょっと難しいけれど、検索すればすぐに出てくるような簡単な情報と言える。
このマイクロ波、こうして利用する分には大変有用なものなのだが、残念なことに人体に与える影響も大きい。
実際、化学兵器として応用が進んでいるらしく、高出力で放てば三十分も持たずに殆どの人間が無力化できるらしい。中国軍が、インド軍に高出力マイクロ波兵器を使って瞬時に倒したなんて情報をインターネットで見つけた。
ちなみに、だが。アメリカによれば2016年に大統領選挙があった際、ロシアからの妨害を受けたと認定しているとのことだ。眉唾だが、火のないところに煙は立つまい。

マイクロ波兵器による症状として挙げられるのは、頭痛、めまい、乾燥及び皮膚の痛み───または、幻聴。

「あの時、僕も変な音を聞きました。マイクロ波兵器による幻聴には種類があるらしいので……その一つかもしれません」

スマートフォンが操作できなかったのも、おおかた、そのマイクロ波が乱れていたからかもしれない。とはいえどこまで操作できていたのかはわからないのだが。
遠くからではなく現場にいたのは、ピンポイントに僕へマイクロ波を当てる必要があったからだろう。雑多に電波を飛ばすことは可能だろうが、その中から僕だけを選ぶなんて不可能に近い。

『すると、犯人は被害者にマイクロ波を当て、幻聴か何かを聞かせた。驚いて立ち止まった被害者の尻ポケットにスマートフォンを発見、犯人が今度はそこに向かって能力を発現する。するとマイクロ波加熱によって、スマートフォンが加熱されて……最終的に、そこから出火……?』

「おおよそそんなとこだと思います。人体にマイクロ波加熱をすれば、燃えるより先にタンパク質が変性して、そもそもひどいことになってそうですね」

「うわ……えげつないこと言うなよお前……」『人体のタンパク質に影響及ぼす熱量とかヤバそうだな、インフルエンザで四十度超える熱出た時ですら脳にダメージがうんぬんでヤバイって聞いたもんな』

「でも、そんな危ない能力があるなら……早く捕まえないと……

さすがに立ち上がらなければ。いくらなんでも気持ちは焦る。視界がまだグラグラしているけれど、それでも平原さんに心配をかけられないし、と思ったら、意外なセリフが飛んできたのだった。

『やべ、言ってなかった、犯人捕まえたの』「そっか、まだ伝えてなかったが……

「あ、今伝わりました」

「あ」『……考えないってのは無理だもんな、先に読まれちゃうよなー』

………

え?

「た、逮捕!?どうやって……

「え?ああ、それは……」『や、まああれ逮捕って言っていいのか?逮捕っていうか、なんていうか……


◇◇◇


曰く、だが。
僕が倒れてすぐ、平原さんはそばに駆け寄ってくれた。周りの警官に怒鳴りつけ(これは良くないと思うけど)、僕の安全を確保するように促したそうなのだが、マイクロ波での攻撃はそちらにも及んでいたそうで、寄ってきた警官達も頭を抱えたり胸を押さえたりしながら膝を着いてしまったそうだ。
何が起きたのか全く理解できない。いや、もしかしたらこれは何か、得体の知れない攻撃かもしれない。
悟った平原さんは、すっくと立ち上がる。その目で、周りを見回す。

───いる。こちらを見て明らかに驚愕した素振りの人間を、見つけた。

「そこの黒フード、動くな」

……!」

「動くなっつってんだろ!!」

野次馬の中から逃げようとしたそいつへ、平原さんが走って追いかけ、おおよそスポーツか何かでなければやってはいけなさそうなタックルをかました。
……スピアタックル、って言うのかな……僕はあまり分からないけれど、肩口から一気に敵に、それも柔らかい部分を狙って瞬間的な暴力を奮った。

「がふっ……!?」

ごろごろ、とコンクリートの上を華奢な体が転がる。

「おおっと、学生時代の癖が出ちまった。さぁて」

うずくまる青年の前には、明らかに凶暴そうな男がひとりいる。

……犯人はお前か?おおかた、自分の能力の試し撃ちか、或いは相川をおびき出せれば誰でも良かったって感じだな」

「ぐ、が、ぐっ……

「お前に取っちゃ誰でもいいのかもしんねえが……被害者は、あの人にとっては!掛け替えのない日々を送ってたんだ!」

転がる体を無理やり仰向けにさせて、その上に馬乗りになった。己の体重で腹部を圧迫されているし、筋力的に反撃も難しいだろう。
格闘技で言うところのマウントポジション、馬乗りになって相手の反撃を完全に塞ぎながら、自分は相手をボコボコに殴れるというわけだ。

「あぁ?そのかけがえのないものを、人の命を奪った感覚はどうだ、あ?クソ野郎が、テメーが……

「なぜ……

「あ?」

そこで、妙なことを言われたらしい。

「なぜ、俺の……能力が、効かない……

はて?

「意味が分かんねえんだけど?」

「お前は……なんだ、何なんだ、組織の……人間では、無いはず」

「あぁぁぁ〜〜〜???」

眉間に深いシワを刻み、ますます意味不明で苛立ちながら平原さんが大声上げて悩んでいた。
なぜ効かないって言われても。
僕含め、これらは常識を超えた能力なのだから、常識を超えた何かで阻まれているとしか思えない。
原因を突き止めるのは、もう少し後になりそうだけれど。

……まあ、いい……お前に見つかったなら……

「おい、お前、」

そこで、黒フードの犯人は、自分の手をトン、とこめかみに当てる。突然のことで、平原さんも止めるという選択肢が思い浮かばなかったらしい。

「俺の、負け……が、が、…………あぁぁぁぁ………

突然苦しみ始めた。今だったらわかる───マイクロ波攻撃!まさか自分にも使えただなんて。
脳がぐちゃぐちゃに揺さぶられ、神経のあらゆる部分が異常をきたしてしまい、両目から血を流しながら……犯人は、目の前で死んだ。

………………?」

あとに残された平原さんと、そこに追いついた捜査一課。一部始終を見ていた薮茂さんも、なんと言っていいかわからないと言うように、両手を組んで言葉を探している。

……あ、の……

しどろもどろ、平原さんが慌てて立ち上がり、それから振り返って捜査一課の皆さんと向き合った。気の毒そうに眉を垂らし、薮茂さんが首を振る。

「まぁ……その、何や、あんさんが殺ったわけちゃう、っちゅうのは、俺も見ててわかった」

……

「なんで犯人、死んだん?わかる?」 

…………わかり、ません」


◇◇◇


逮捕じゃないじゃないか。

「一度は逮捕しかけた」『え、俺だってこんなことになるなんて思ってなかったし、っていうかなんで死んだのかと思ってたけど、自決?しかも能力で?ああもうめちゃくちゃ怖かったんだからな、わやだわや』

「わやって何ですか……

「何でもいいだろ」『やべ、なんか出た。いやいや、気を切り替えなきゃな』

……なんで、」

「あ?」

僕も同じところに引っかかったので、つい聞いてしまう。

『まあ、そうだよな、お前も気になるよなあ。』

……効かなかったんですか、犯人の、能力」

「知らねえよ。全然分かんねえ」『俺が強いってことじゃなさそうだし、俺には超能力全般が効かない……んじゃ、相川に心の声を聞かれてることに説明ができねえし。なんなんだ?』

やっぱり、理屈じゃないのかもしれない。
少し悩み始めた僕を背に、まだ事後処理があると言って、平原さんは先に部屋を出ようとした。僕に、具合が良くなるまでは寝てろと厳命して。
遠ざかる姿を見て、初めて下半身に注目した。下半身、と言うとなんか響きおかしいな、靴とか、足首とかだ。平原さん、いい革靴履いてんだな。あれは相当磨いていないと出ない味じゃないかな……なんて思って。
ふと、彼らしからぬアイテムを、視界に捉えた。

「平原さん」

「んだよ、寝てろって」『可愛いとこもあんじゃないの相川よ、俺がいなくなるのが寂しいのか?ん?』

「それは無いです。ところで……

それを、指差す。

「なんです、それ」

平原さんの足元、右足首。ブランド物の高級素材であろう靴下の上から、彼の趣味と全く違う足輪がついていることに気が付いた。銀色のシンプルな見た目をしているそれは、サイズぴったりにハマっている。

「ああ、これか」

そうして顔を上げた平原さんは。

「アンクレット、って言うらしいぞ」

どこか心の無い声で、そう言った。

『───ああ、そういや、毎日つけてるから……はは、無意識に付けちまうんだな。やめるタイミングが無いんだよなぁ、こうなると』

続けざまに聞こえたのは。

『これも貰い物だった。前のバディの……

その、名前が。

『【リョウ】からの、大事な贈り物だよ』

名前が。


……、リョウ」


何故だろう。妙に、僕の脳を揺さぶった。もうマイクロ波攻撃なんて受けていないはずなのに、猛烈に喉が絞まって、胸が苦しくなる名前だった。
何故だろう。僕は、どうして泣きそうになるんだろう。
どこかで聞いたことがあるような、それともただの空想なのか。
分からないけれど、息が詰まってそのまま永久になってしまいそうな、辛さを感じた。


◆◆◆


さらに数時間経過、すべての処理を終えた僕達は署へ戻ってきた。
事件は、容疑者死亡で幕を閉じた。
始末書云々は、今回もナシで済んだ。仮に書くとしても何を書けばいいかわからない。
薮茂さんが、「まあ容疑者追いかけて捕まえたら突然倒れた。ってことは……はぁ、自然死ってことで処理するしかあらへんな」と答えてくれたが、内心はその処理があまりにもめんどくさいのでブチ切れていた。
ブチ切れていたが、やってくれるという。実はいい人なのかな。

「んなわけねーだろ」『そもそも嫌味言ってたのは忘れてねえからな』

「いつまでもこだわりすぎですよ……

やれやれ、と首を振る僕に、平原さんはまだじとりと鋭い目つきを向けている。
こちらも内心ブチ切れていた。なんで?

「ったく、今何時だと思って……」『………は?』

そして、あとに残ったのは。

『え、えっ。ちょ、ケータイ、携帯電話よぉ、なんでぇ?なんで電源入んないの?ちょ、ちょ、困んだけど、お前が頑張ってくんなきゃあ!』

……マイクロ波攻撃を受けた余波、平原さんの体にはなんの影響もなかったはずの電波によって、破壊されたガラケーだけだった。