Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ダベミ
2021-09-01 22:51:30
9128文字
Public
Clear cache
アイニスタと、私以外も私
ゲス極を聴きながら見てください
『最近何してんのよ、お前』
昔なじみの友人から、そんな電話が来たのがつい最近のように思える。
今となっては戻れない過去だな、それをどうして今思い出してしまっているのだろうか。
「何って、なんにも」
やや上の空な返事をしてしまう。
手元が忙しなかったせいだ。
『はあ?そんなわけねーだろ。なんかすんじゃなかったの、お前』
「なんかって?」
『や、それは俺も覚えてねーけど』
漠然とした夢を、いつだか俺は語ったんだろう。
だけど。
「なんにもしてないって」
カチカチカチ。
点滅する画面、手のひらの中の衝撃。
「あー、死んだ」
『つかゲームやってたんかい』
「
……
うん。面白いよ」
『まぁいいけどさぁ』
「で、どしたの?」
『別に。理由ねーけど、暇だったから』
「ふーん」
再び現れたアバター。俺の分身。
そいつを操作して、敵を倒していく。
別に今ここでゲームをやめて、こいつとの話に集中してもよかった。
大体週2で通話する仲だし、また話せるし。
そう。
どうせ、【また話せるし】、と。
そう思ったらおざなりになる。
『つか、聞いた?あいつの、』
「誰って?」
『阿諏訪!料理本出すんだって。すげーよな』
「
……
あぁー!え、あいつ今何してんの」
『料理人だよ。和食の
……
お前、え、知らないの?』
他人に興味がないわけじゃないが、かと言ってそいつは疎遠になっていて、だからこそそこまで記憶にあるわけじゃなかった。
料理人、かあ。そういや昔言ってたかもしれない。料理が好きだって。
「お前は?」
『ラジオパーソナリティ』
「芸能人じゃん」
『コミュFよ?』
「コミュニティFMのこと、そうやって略すやつなんていねーよ」
大したことない、みたいな口ぶりで言われた。
だけど確かこいつだって、いつだか「やっぱ電波に乗せて喋るような仕事してーわなー」なんて言ってたのが現実になっている。
夢が夢ではなく、具現化している。
それだけで充分じゃんか。
「
……
すごいよ。お前も、阿諏訪も」
『あ?』
「俺なんて、ほんと
……
」
なんもない。なんもなかった。
何してるのか?何もしていない。
やりたいこともない。
ただ生きているだけだ。
それなら、俺は。
「───なんのために、生きてんだろうな。」
気付いたら、反射的に通話を切ってしまっていた。それだけ俺が、喋ることに対して恐怖だったんだろう。
……
なんだ、これ。俺だけ足踏みして。
焦燥する。思わず叫びそうになる。
これでいいのか、俺は大丈夫なのか、果たしてどうなってしまうのか。
だから、だからだ。
「そこの貴方」
だからこそ、きっと逃げられなかった。
「貴方、ぼく達の神になりませんか」
逃げることなんて、考えつきもしなかった。
そう、どんな物語も始まりはなんだって唐突だ。俺の場合もやはりそうだ、前兆みたいなもんがなかった。
その日もバイトを終えて、くたくたになって街を歩いていた。暗い夜道にじゃりじゃりと、砂を噛む俺の靴の音だけが響いている。
その時だった。そこで突然そいつに出会った。
男の髪色は明るめの茶色
……
栗色?ってやつだろうか、やや細めのフレームのメガネ、そしてどんよりした怪しい目つき。
衣服は真っ白、暗い道の中で映える真っ白だ。
「ぼくは、変な人じゃないですよ
……
」
最後の方は囁くように、やや不明瞭な滑舌で。
「話を、聞いてもらえませんか」
そいつは名前を小宮と言った。
「なん、ですか、あなた。」
「いや、貴方に。貴方に、話を聞いてほしいんです」
「聞きませんよ」
すたすた、じゃりじゃり。その足音に、ぺたぺた、という音が加わる。サンダル、か?
「行かないでください、行かないで」
「気持ち悪い!」
逃げるようにその場を去る。
走れば勝てる。だからこそ置き去る。
もう二度と出会わないことを祈りながら走る。
「貴方じゃなきゃダメなんです」
その言葉を闇に残して。
『や、けどバイトして普通に生きるのも、悪かねえじゃん?』
「バイトじゃ生きてけねーだろ」
カチカチカチ。
明転、手の衝撃、遠くから聞こえる叫び声。
『まあ、そうかもしんねーけど?』
「
……
」
『俺みてーに、不安定な仕事っつのもさ。あぶねえもんだぜ?』
「
……
バイトじゃなきゃ、ねえ」
上手く行っている。画面の中では。
『それに阿諏訪もさ。聞いた?』
「何が」
『店。しばらく閉めんだって』
「
……
え、なんで?」
『要請がどうこう言ってたけどな。飲食キッチぃぜ、今』
カチ、止まる手。
目の前には破壊された建物と、そばで泣いているNPC。
「
……
ふーん」
そのNPCが自分じゃないなんて思うのが、傲慢だって言いたいんだろうか。
いや思考が跳躍し過ぎか。NPCはNPC、あくまでもゲームの中の存在なんだから。
この世がゲームならいいのにな。
「相田さん」
明くる日のバイト帰り、暗い道すがらでまた声をかけられた。
まるで自らが発光しているような明るさを持った、白い衣服が目に眩しい。
不気味だ。神々しくも見えるが、その神々しさが回り回って不気味だ。
素通りしようとして、突然目の前に出てこられた。
ばっ、と。
思わず足を止める。
「うぉっ」
「またお会いしましたね、ぼくです
……
」
「
……
あー、えーと、誰だっけ?覚えてないし」
「相田さん、小宮ですよ」
「ああそう」
うんざりしてきた。さっさと帰ろう。
と思って、違和感が一つ。
「なんで知ってんの」
「
……………
はい?」
「俺の、名前。名乗ってないし、教えた記憶ないんだけど、なんで?」
「え、いや、いやいやいや」
ふふ、と小宮は含み笑いをした。なんだこいつ。
「貴方、そちらのスーパーで働いてらっしゃいますよね?」
「
……………
まさか」
「見ました
……
」
「お前、警察に突き出していい?」
すかさずスマホを取り出し、
「ダメです」
「ダメですじゃなくない?」
「貴方には話を聞いてほしいんです」
「意味分かんないよ」
「神になってください、ぼく達の神に」
ぴっぴっぴっ。
すかさず操作するタッチディスプレイ。
「
……
これ以上変なこと言うなら、通報します」
「貴方じゃなきゃダメなんです」
「虫のいいことを
……
」
「本当なんです!相田さん、貴方には才能がある!だから
……
」
ぴっ、と。最後のボタンを押して、通話を開始した。
回線がつながる。
「もしもし、あの、変態に追われてまして」
顔を上げた時には、特徴的な白のローブは消えていた。
「相田」
バイトが嫌いなわけじゃない。働くのが嫌なわけじゃない、理想を選んだわけじゃない。
けれど、やめようと思えばやめれたのに、逃げようと思えば逃げれたのに、なんでそんなことしなかったんだろう。
バックヤード、暗い顔をした店長が俺を呼んだ。
「店長」
「お客様から、」
一息ついて、
「
……
クレームが入った。お前の態度が気に食わんと」
「そんな、俺普通にやってましたよ」
「知ってる。だから困ってる」
店長は、衛生のためにつけている帽子がなるべくズレないように気をつけながら、その脇の辺りを指の腹でゴシゴシ擦るようにかいた。
「まあ、あれだろう。クレーマーだ、割と悪質な」
大仰に溜息すら吐いている。
「言って聞かせますから、とその場を取り繕ってはみたんだが、どうもしつこくてな
……
」
「はあ
……
」
「相田、悪いが、お客様のところに行って対応してもらえないか」
「俺じゃなきゃダメなんですか」
「これに関してはな」
だが、と店長は付け加える。
「こういう奴はな、文句が言えりゃあ相手は誰だっていいんだよ」
「誰だって」
「おう。ただ、それを俺みたいなのに言えなくて、だけど俺とか誰かを害したくて、それで目についたお前にたまたま因縁つけてるだけだ」
俺じゃなくていい。俺じゃなきゃいけない理由がない。
俺じゃなくても、どうだっていい。
そんな運ゲーみたいな理由で俺が怒られてる。
「
……
行きたくねえなぁー
……
」
そりゃそうだ、という顔をして店長が頷いた。
『そんでどうなったん?』
「しこたま怒られた」
『うーわ』
カチカチカチ。
騒ぐ群衆をマシンガンで散らしながら、俺は今日も友人と話をしている。
えーと、確か
……
そいつは、
……
そいつ?
そいつって誰だっけ?
「なんで俺が怒られなきゃいけないわけ?」
『そう言うのって目についたやつ誰でもいいもんな、マジで』
「店長と同じこと言うなよ
……
」
誰だったかもう忘れたけれど、遠い友人からの電話は悪くなかった。週2くらいのペースでかかってきていたというところも含めていい。
『
……
つかお前、■■■から電話来てない?』
あれ、それ誰の話だっけ。
「来てないよ」
『そっかー
……
や、俺も電話してんだけど、一向に繋がんなくてさ』
「へー、そうなの?◆◆と■■■、仲いいのに」
誰と誰の話してたっけ?
『そうなんだよ。なんかずーっと、電源切れてるみたいでさ』
どうして電話したかったんだっけ。
「相田さん」
「またお前かよ
……
」
今度は昼間だった。
休みの日、家から出て買い物をしようとしたところに、小宮はいた。まるで周りはその空間が見えていないかのように小宮を無視している。
「今日はスーパーには、行かない方がいいですよ」
「頼まれなくても行かないよ。
……
で?」
「ぼくには貴方しかいないんです」
「なんで俺なの?」
それにしてもこいつはしつこい。
悪質クレーマーよりも、弱者を狙い打つ強者ゲーマーよりも、遥かにしつこい。俺のことを追い回し続けている。ああ、もう、邪魔だ。
しかし、小宮が、折れることはなかった。
「他の人は、きっと貴方じゃなくてもいい」
「あ?」
「ご友人も、スーパーの店長も、クレーマーも。貴方じゃなくていいんです」
「お前、なんでそれを」
「けれどね、相田さん。ぼくは、貴方じゃなきゃダメなんです」
「
………
」
何を言ってるんだ、と一蹴したい。
そもそも、自分が特別な人間だと思えるような時分はとうに過ぎている。だから自分が凄いとも思ってないし、当然神だとも思わないし思えない。わかってる。
俺には何もない。
なのに、小宮は変に俺に執着していた。
なんで俺なんだ?
理由がわからなくて、熱意がわからなくて。
「ぼくは貴方なんです」
「は?」
「何者でもなかったぼくを助けてくれたのは、貴方なんですよ、相田さん」
突拍子もないことを言われて、驚きに喉が詰まりかける。全く記憶にない。が
……
俺はどうやらこいつを助けたことがある、らしい。わからない。
わからない、わからない、わからなくて。
けれど打算もまったくないことがわかってしまうから、俺は。
「
………
何がしたいんだ?」
「困っている人を、助けたいんです」
逃げられるのに。
無視できるのに。
しなかったのは、
一体なぜだろう。
気付けば俺は、小宮に連れられて真っ白な部屋にいた。
「ありがとうございます」
小宮は丁重に俺をもてなし、それはそれは歓迎してくれた。
無骨な木張りのテーブルに、誰が焼いたのかと思うくらい不細工な形のコップを載せ、豆から挽いて作ったと言うアイスコーヒーを出してくれた。
彼なりの誠意だと思った。
「ああ、本当に、ありがとうございます」
何度も何度も頭を下げてからやっと、お互い革張りのソファに座って向かい合う。改めて彼を見ると、とてつもなく目つきが悪かったことに気づいた。生まれつきなんだろうなと一人思う。
「ぼくはただ、ぼくが救われたように、みんなを救いたいんです」
「でも、どうやって」
「貴方が、神として君臨すればいい」
「そんなこと可能なの?」
小宮がやろうとしていることは朧気ながら理解できたものの、かと言ってそれが正しいのか、そもそも実現できるかが全く分からなかった。
だからこそ俺は聞き返したのだ。そんなことが可能なのか、にわかに信じがたかった。
「できます。ぼくと貴方なら」
「だって、どうやれば
……
」
「貴方は何もしなくていい。いや、正確には『啓示を与えるフリ』をするだけでいいんです」
「
……
え?」
「それをぼくが、翻訳という形で人に届けます」
「それって、」
本当に俺でなければならないのか。本当に俺以外にはできないのか。
不安がよぎる。また、俺でなくてもいい作業ではないのかと。
「貴方にしかできないことです」
小宮曰く。
それは、ただ立っていればいいというわけではない。
人の心を掴み、神々しさを覚えさせる必要がある。
才能がなければ務まらない役割を探している。
それが俺である。と。
「そんなに信じられないのならば、一度やってみましょうよ」
悪魔の囁きはさらに俺の脳を狂わせようとする。
「やってみて、それでもなお貴方がしっくりこないなら、ぼくももう諦めます」
衣装を用意されていた。
「これで完璧です」
カツラ付けさせられた。
「うん、素晴らしい」
これが本当に俺なのか。
「皆貴方を崇拝する」
そうして俺は私になる。
「貴方の名は、そう」
受諾したからにはもう。
帰り道がないだなんて。
分かっている筈なのに。
「啓示を、アイニスタ様」
新たな名を、今ここに。
私の名前はアイニスタ。
しかし、だが、けれど。
本当にこれでいいのか。
まだ迷いながら歩いた。
まだ迷う理性が残った。
それほど苦しいことは、
もうきっと二度とない。
そのまま、舞台に上がれと言われた。
私はその時まであなどっていた。
どうせ嘘だろう、どうせペテンだろうと。
緞帳が上がった先に無数の人がいる。
「───!!」
一体ここはどこなのか。
この人たちはどこから来たのか。
分からないままで、分かるはずもない。
(始めましょう、相田さん)
イヤーモニターから声がする。直前に小宮にねじ込まれたものだ。
真っ白な空間に一つ立てられたスタンドマイクに、スポットライトが落ちている。
そこが聖域であるかのように。
(さあ、歩いて)
言葉通りさ。
(さあ、笑って)
いつものように。
(さあ、歌って)
どうして私は、従っているのだろう。
音楽が流れ始める。もうここから逃げるなんてことはできないだろう。
眩しくて、眩しすぎて目が開かない。
声の指示通りに両手を広げ、歌うような仕草をしてみせると、周りの人間がありがたがって頭を垂れ始めた。
私が唇を開いた瞬間に、空気が震える。世界の色が変わったようだった。
これじゃあ、───宗教だ。気味が悪い。
『今日も世界には悪が蔓延っています』
それはまるで歌うように。
『貴方達はそこで抗うレジスタンスだ』
それはまるで語るように。
『剣を持ち勇敢に立ち向かっています』
それはまるで誇るように。
小宮の声が会場に響く。
気持ち悪いと思っている反面、しかしそれで誰かが救われていた。涙を流して頭を垂れて、この小宮の説法をありがたがって聞いていた。
しかし群衆が祀っているのは、小宮ではなく、全面に立っている私であった。
ああ、そうか。まさしく、まさに。
私は彼らにとって神になったのか。
「こんなもん、茶番だ
……
!」
会場に悲鳴に近い叫び声が轟いて、音楽は止む。
何が起きたのかとそちらへなんとか視線を向ければ、いつだか見たことがある顔が憤怒の表情で私を睨んでいた。
あれは確か、ええと、そうだ。昔なじみ、日本料理の店をやっていて、本を出したとかって
……
。名前は、名前
……
なま、え
……
?
あれ?そもそも、それは誰に聞いたんだっけ。あいつは
……
たし、か
……
?
「こんな、こんなので救われるはずがない!」
(相田さん)
インカムに指示が飛ぶ。
意識が耳へ戻ってくる。
(彼に話しかけましょう)
すっと、私の手は、無意識に彼の方に向けられていた。
『
……
そこの貴方』
「あん!?」
『何があったのですか。そんなに猛って、そんなに怒って』
「理由なんて言う必要あるのか!?」
『
………
』
小宮も私も一瞬、押し黙った。
信じない者も救うのは勝手だが、信じない者にかける言葉が思いつかなくて───
『いいえ、私は貴方を知っています』
「
……
何、が
……
」
『人に騙されたのですね?』
「ッ
………
!!」
確信めいた顔をする男と、何かを掴んだ私達。
『先程から腕を振り回すものの、ものに当てず、何より手を大切にされていると見受けました。指先の繊細さからしても、料理人ですね。そして、その荒みよう
……
恐らくこの厳しい情勢の中、何か起死回生の策を考えついて、或いは誰かから提案されて、乗ったはいいものの資金だけ横取りされたのでしょう』
つらつらとその言葉が出てくる。
普段ならそんな言葉に射抜かれるわけがないが、人は精神が追い詰められていればいるほど、正常な判断が出来なくなる。
そして私はなぜだか、小宮の言葉に合わせて動いている。
拒否もできるのに、なぜか体が自分の思うようには動かない。操られているかのように。
「なんで、それが
……
」
『分かりますよ。アイニスタなのですから』
「意味分かんねえこと
……
言うなよ
……
」
『貴方は今苦しんでいる』
そいつが顔を上げて私を見る。
見ないでくれと、少しだけ願う。
『正しい行いをする者は必ず救われます』
言葉が染み込んでしまう。
『そして間違った者は裁かれるでしょう』
染み渡っていってしまう。
『貴方を騙した人間は、もうじき逮捕されます』
根拠なんて全くないのに。
「そんなこと
……
!」
けれど時に、人生は狂う。
反論仕掛けた■■■の胸ポケットから、けたたましい音楽が聞こえた。電話のようだ。
「はい。
……
はい、俺です。はい、はい
……
、え?」
周りの空気がざわつき始める。
『ほら、ご覧なさい、皆さん』
そして私は、それを朗らかな笑みを作って見守る。
「
……
逮捕
……
、してもらえる、んですか、そいつ」
『誰かを騙そうとするものは、必ず報いを受けます』
正義は、勝ってしまうよ。
「
…………
、っ
…………
ありがとうございます!」
男が電話越しに頭を下げると同時、会場が破裂するかと思うほど祝福の言葉にまみれた。
ステージは成功、いや、大成功と言っても良かった。
私は
……
ああいや、俺は、衣服を脱ぎ去ろうとしながら、今日のことを思い出していた。
周りに集まってきたみんなの笑顔。
何より■■■の、嬉しそうな笑顔。
誰もが私に感謝の言葉を述べる姿。
私はもう、彼らにとっての───
「お疲れ様でした」
ふと、小宮が声をかけてきた。
おもむろに水など飲みながら。
「ああ、いや、お疲れ様です。」
「
……
ふふ、みなさん、喜んでましたねぇ〜。」
「あんたの力でしょ。俺は関係ないじゃん」
「そんなことありませんよ
……
」
「何を根拠に
……
」
「ぼくひとりで語ったところで、誰も信じないんです」
「
………
」
「しかし、貴方と言う説得力のあるアイコンがいるからこそ、これは成り立つ」
「
………
」
直後、俺のケータイも鳴った。まるであの時みたいに、人生を変えるかのように、タイミングを見計らって。
「
……
はい」
『こちら☓☓警察です。相田さんでいらっしゃいますね?』
「
……
はい、そうですが」
そうして、まるでドラマか、作り話かみたいに、それが耳に入る。
『貴方の働いているスーパーで、死傷事件が発生しました。店長の▲▲さんはお亡くなりになられ、』
「
………………
は?」
正気だったはずの今日も、壊れていった。
これは、現実。
それから30分ほど警察の方と話をして、とりあえずのスケジュールを聞く。
恐らく店長不在と言うことで、スーパーはしばらく閉店するだろう。再開されるかどうかは分からない。
オーナーが店長を務めている関係上、新たなオーナーが決まらない限り営業は不可能だ。
その間の金銭保証はされるらしい。まあ、そうだろうな。転職するかどうこうはまた別な機会に、今日はとりあえず事件の報告その他諸々だった。
「行かなくて良かったですね、スーパー」
小宮が唇を歪ませる。
「まさかお前、これ、知ってて
……
」
「そんなわけないじゃないですか」
けれど、タイミングがあまりにも良すぎて。
俺の心もまた、小宮に掴まれていた。
「でも、これを続ければ、もっとたくさんの人が救えます。さあ、相田さん」
その手を取ったらもう、最後だ。
どこにも帰れない。
いや、帰る場所なんてそもそもない。
だったら、だったら。
「相田さん、ぼくともっと多くの人を救うんです」
「
……
俺は」
「貴方がみんなの神になるんだ」
「俺でなきゃいけないんだ」
「貴方がいるからみんな聞く、貴方だから信じるんです」
「俺が
……
私が?」
「相田さん」
小宮の目が俺を覗き込んでいる。
だんだん頭がぼーっとしてくる。
何も、考えられなくなってくる。
「貴方は、この世界を救済する存在だ」
意識が、薄れていくようだった。
「相田さん。いや、これからは、」
そうして小宮が、最後に言った。
「ぼく達の、アイニスタ様」
それを最後に、俺の声は消えた。
………
とある日の、会話。
『お疲れ』
『え?■■■?マジかよ!ひっさしぶり!つか、え、お前何してたん?ずっと心配して
……
』
『いや色々あってさ。店も今は営業資金がないけど、直に帰ってくるらしいんだ』
『マジ?やったじゃん。そしたらまた店に食いに行くわ、お前の料理バカ美味えもん』
『はは、ありがとう。
……
ところでさ、◆◆くん』
『あ?なに?』
『アイニスタ様って、知ってる?』
正気だったはずのみんな、壊れてった。
これが、現実。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内