ダベミ
2021-05-24 19:45:43
10282文字
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【FGO風】幕間/今日も彼を愛そうか

英霊としまえんシリーズ、(暫定)最終章です。最初から読まないと全然意味が分からないので、必ずなんとか読んでください。

───ノウム・カルデア 廊下


【なかなか寝れないな……

(時刻は日本時間でもう深夜1時だ。当然ながら、カルデアの廊下も電気が落とされている)

(薄暗い……転倒防止に足元が仄かに光っている……)

コツコツコツ……

【?】

(あれ……あの部屋、扉の下から明かりが漏れてる。まだ寝てないのか?確かあの部屋は……)

プシュー……

───とあるサーヴァントの部屋

【ここは……

■■■「いらっしゃませ、お客様(マスター)。」

(そこにいたのは、としまえんさんだった。いつものように、優しい笑みを浮かべて俺を見ている)

黒髪「……何してんのよ、今もう夜中だよ?」

【なんだか寝付けなくて】

黒髪「ダメダメ、育ち盛りが何してんだか。いいかい、寝れる時に寝とくのも君の仕事だぜ」

黒髪「気力が無いと何もできないからね、自分の機嫌は自分で取らないと」

【それがなかなか】 →【案外難しいね】

黒髪「だろうねぇ」

黒髪「だってお客様(マスター)、その若さで両肩に世界が乗っかってんだもん。そりゃあ大変でしょ」

【まあそれほどでもある】

黒髪「あんのかよ」

黒髪「……はぁ。自覚があるのは大変結構だけどさ、それがね?軽すぎても重すぎてもダメじゃん」

【どういうこと?】

黒髪「んー、なんつうのかな……

黒髪「張り切りすぎても俺みたいに空回りするし、力抜いてリラックスしすぎても酒井みたいになっちゃうよ、ってこと」

(酒井……としまえんさんとほぼ同時期に現界した、【酒井兵庫】さんのことだ。依代の人と、としまえんさんのオリジナルには浅からぬ縁があるらしい)

(……って、酒井みたいに、なんて言い方してるけどみたいにって何だみたいにって!)

→【ふたりとも】 【すごいのでは】

黒髪「まさか。お前、ちゃんと見てる?酒井のこと。落ち込むことがない平気な鋼メンタル、お外で鬼ごっこして疲れて帰ってくるようなキッズ感、そんでパワーフードはおにぎりだよ?頼れるか?あんなの」

黒髪「それに、何かの間違いで、俺みたいなのを尊敬なんてされても困るぜ?忘れてると思うけど、俺は形のない遊園地の概念なんだから」

【としまえんってすごいじゃん】

黒髪「いや、そらぁね?確かに、すげぇとこもあんだけどさ?」

黒髪「つうか、すげぇとこが無かったら、俺のオリジナルも「俺自身がとしまえんだ」なんて言わねえだろうしさ?」

黒髪「けどさ、悪いことがないわけじゃないじゃん。事故も、あったし……やけくそ広告も作ったし……あと俺が全面協力して作った映画がボロクソ言われたし……

→【ノーコメントで】 【映画はフォローできない】

黒髪「せめてなんか言ってくれよ!俺も何も言えないんだから!自分で何言ったって評価に含まれねえんだからさあ!」

黒髪「……仮にそれを差っ引いたとしたって、『俺』はただみんなに迷惑かけてばっかりで、やる気を空回りさせてるだけの、ただのうざ絡み脱臼おじさまだよ」

→【ゴーレム……】 【としまえんさん……

黒髪「お前絶対知ってるよな、この霊基に関して!絶対に!俺よりも遥かに詳しく!」

【そんなことないです(棒読み)】

黒髪「まぁ、いいけどさ、別に……知ってることあんなら言ってくれよ、お客様(マスター)……

黒髪「で?どうしたの、わざわざ俺のところに来るなんて。他にもたくさん、お前のサーヴァントはいるのに、わざわざ俺のところに来るなんて」

黒髪「……ほんとに寝れないだけ?」

【それは……

黒髪「言ってごらん、何かあるなら」

【少し気になることが】

黒髪「……気になる?」

【どうしてとしまえんさんは】

【『自分』について知識がない?】

黒髪「……

黒髪「………、は?」

黒髪(……どういう意味だ?いや、聞きたいことはわかる。聖杯ってのは英霊に対して、召喚された時に不都合がないような知識を付与するらしい)

黒髪(だから、俺が『俺』について……正確に言えば、『英霊としまえんが形どってしまう、この姿についてなぜ知識がないのか』と聞いてるんだろう)

黒髪(……当然に決まってる。あくまでこの姿になるのは、呪いのような言霊のせいに過ぎない)

黒髪(或いは、その呪いのせいで無形が有形になったことによる弊害か?聖杯からの知識共有が上手く行っていない?)

黒髪(それとも何か。イレギュラーな状況、人理白紙化に伴って『俺』の歴史そのものが読み込めない?……いや、いや。そんな理由はどうだっていい。)

黒髪(答えはひとつだろう。……『俺』自身が歴史に名を残すほど優れたわけじゃない……から……)



??「いえ。それでは、説明できないことがあります」



黒髪「? お前は」

紫式部「夜分遅く、申し訳ありません。マスターに呼ばれまして……、こうして此方に来させていただきました」

黒髪「え?ちょっ、いつ呼んだんだよ」

【としまえんさんがなんか考えてる間に】

黒髪「なんでそういうことするかね、お前は」

紫式部「お待ちください、そこは本筋ではないのです……!」

紫式部「私が来たのは、貴方について、貴方が知らなければならないこと。それを伝えるためなのです」

黒髪「……?」

スッ……

黒髪「……本?これは、」

紫式部「あったのです。……電子書籍としてデータが残っていました。そう、『貴方』の記した、愛の言葉が」

紫式部「これは『貴方』が人理の中で活躍した証にほかなりません」

紫式部「今回は電子の情報を、私の魔力にて物理書籍に変換してお持ちしました。さあ、どうぞ」

(ウェーブがかった髪型の男性が写った本を受け取った。メガネが似合うなあ。そして)

【大胆な表紙だァ……

黒髪「うっさい、うっさい!それで?……これ読んでどうしろって?」

紫式部「貴方が『その姿』───『としまえんとしての今形どるその姿』について学べば、もしかすれば。貴方に未だ眠る力が開花するかもしれません」

紫式部「ですよね?マスター」

【せやねん】

黒髪「ホントかよ」

紫式部「わからないので、試してみましょうか?という話になった次第です」

黒髪「(絶句)」





(というわけで本を読んでもらうことになったのだが)

ぺらっ

黒髪「……

黒髪「………(真顔)」

ぺらっ

黒髪「………(苦悶)」

ぺらっ

黒髪「……………

ぱたん

黒髪「………………………………(目瞑り考え中)」

【どうだった?】

黒髪「これほんとに『俺』が書いたの?あまりにも……読みやすすぎる。まさか、誰かゴーストライターでも雇ったんじゃないの?」

→【信じなよ】 【本人だよ】

黒髪(疑わしいな……俺を騙そうって魂胆か?こんな夜中に……はぁ……)

紫式部「間違いなくこれは貴方の物語です、としまえんさん。貴方が疑おうと、自信がなくとも」

黒髪「…………あ?」


黒髪(……自信、か)

黒髪(確かに俺は……自信が、持てない)

黒髪(自信がないから、何かで被っていないと我慢できない。自分が傷付くことに、俺は慣れてない)

黒髪(図体でけえのに、なんでそんな臆病なんだと笑われる)

黒髪(人を見た目で判断すんなよ、俺は俺なんだから)



黒髪「そもそもだけど。なんで俺の思考を読めてんのよ」

紫式部「あ、いえ、それはその」

(そういや説明してなかったな。式部さんは簡単な陰陽術が……)

黒髪「……? ひょっとしてお前、陰陽術の類が使えるのか」

紫式部「……え?」

【知ってるの!?】

黒髪「いや、なんとなく、なんとなくだけど確か、そんなのどっかで聞いたような……

黒髪「あー!そうだ!そうだよ、確か紫式部は、藤原道長の伝で……

【としまえんさん!】

黒髪「何!?」

【シュミレーターに行くよ】

黒髪「なんで!?」


◆→移動/【シュミレーター・とある家】


黒髪「………(諦めの表情)」

マシュ『……出力安定しています、マスター。』

【夜中にごめんね】

マシュ「い、いえ、元より備えていましたので!はい、問題ありません」

黒髪「は?いやちょ、どういう意味……

マシュ『この空間はお好きにお使いください。音声は一度切りますので、会話を盗み聞いてしまうこともありません。何かあれば手を振って呼んでくださいね』

プツンッ

黒髪「説明がないなぁ!それで?ここは……

紫式部「本にあった『出会いの場』を再現したものです。いかがですか?」

黒髪「いかがって言っても、俺は本人じゃないからなんにもないんだけど……

???「何もない、と言うことはないかと思います」

黒髪「!」

シェヘラザード「本には……物語には、人の思いが込められています。それはどんなものでも同じ、例えば貴方の恋愛本だったとしても」

シェヘ「そしてここは、その思いを擬似的に再現した場。何か心境に変化が起こるのではないかと思ったのですが」

黒髪「不夜城のキャスター、シェヘラザード……語り部のキャスターか、ってねえ……巻き込む人数増やしてんじゃないよ、お客様(マスター)」

シェヘ「いえ、いえ。いいのです。貴方の精神の死を見過ごすほど、私も臆病では無くなりましたから」

黒髪「………



シュウウウウ

シェヘ「ところで……

×××「………

シェヘ「あの方はどなたでしょう?」

黒髪「! え?あれは……

(キレイな女性だ。黒い長髪の、美しい女性。シンプルな白のワンピース……あれ?もしかして)

黒髪「……見たことがある、気がする、ような、しないような……

紫式部「としまえんさん……の関係者、ではないのでしょうか?」

シェヘ「恐らくそのはずですが、心当たりは」

黒髪「ぜんっっっっっぜんない。本人じゃないから」

【ですよね】

紫式部「誰かが出てくるとか、そのような設定はしていないはずですが……マシュさん!」

シーン……

シェヘ「ジン(精霊)!外への経路を確保して!」

ぼんっ!すたすたすたすた……
ガチャガチャガチャガチャ!!!!!!

黒髪「……おい、外にも出れなくなってんじゃねえか」

シェヘ「死んでしまいます……死んでしまいます……

紫式部「……はわ、はわわ……はわわ……

【隔離された!?】

黒髪「マシュ!」ふりふりふり

黒髪「あー、手ぇ振っても反応なしか。ほんとに隔離された可能性があんな」

黒髪「……誰だか知らないけど、こいつを排除して……

×××「───」

黒髪「…………

(としまえんさんの動きが止まった)

【どうしたの?】

黒髪「いや、その……何だ、これ」

×××「───!」

ゴォォッ!!

シェヘ「私達に向かってきます。このままでは皆さん、本当に死んでしまいます……!」

紫式部「……としまえんさん!構えて!」

黒髪「わかってる、わかってるけど……!」





  アルフ・ライラ・ワ・ライラ
シェヘ「『千夜一夜物語』───!」

ズドォンッ!
シュオオオオ………

シェヘ「これにておしまい、です」

【撃破したけど……

黒髪「………

【ステータス異常!?】 →【魅了!?】

シェヘ「本調子ではない、ようですね」

紫式部「はわわ……!何か、されてしまったのですか!?」

シェヘ「……これは……

(しかし、自分との魔力パスは正常だし……ステータスにも異常が見られない。一体何が……?)

黒髪「……ああ……追体験、なのか」

紫式部「え?」

黒髪(あの娘は……もしかして、さっきの本にあった、運命の───)

ヴヴヴンッ……

黒髪「……あ?なんだ、世界が乱れて……!」



◆───【シュミレーター・ファミレス】



→【場面が……】 【変わった!】

紫式部「やはり。ここは、あの本にあった大切な場所。本の記憶に刻み込まれた、思い出の場所を再現しているのでしょう」

黒髪「んなの、なんのために……?」

紫式部「ひょっとすると。貴方自身が一番わかっているのではないですか?」

黒髪「何?」

紫式部「貴方の功績。そして、貴方の良い部分、です」

シュウウウウ……

×××「………

【また出た!】

黒髪「シンプルな白のドレス……ナチュラルメイク……、いや、まさか……!」


×××「───『    』────」


(その人が、呼んだ。何かを、誰かのことを)

黒髪「……呼ぶな、それを。呼ぶな、その声で、俺を……

黒髪「『俺』を!『俺の真名(な)』を!呼ぶなっつってんだよ!」

ゴオオオッ!!

黒髪「なんで……何でこっちに来んだよぉ、来るな、来るなよ!」

紫式部「魔力が揺らいでいる。やはり、荒療治でしょうか……?」

紫式部「いえ、いえ。本を愛する英霊として、貴方の本も、貴方の愛も……守りたいのです……!」

シェヘ「お供いたします。私もまた、物語に救われ、物語を語ることを宿命とした霊基。それならば」

シェヘ「この男の物語も、鮮やかに読み聞かせて差し上げましょう───」

【倒すしかない……!】

黒髪「……くそっ!!」





紫式部「ハッ!」

ぱしゅぱしゅ

シェヘ「……!」

ぴゃー

(何とか撃退したけど……)

(なんで襲い掛かってくるんだろう?)

(だって、あの人は多分、としまえんさんにとっては───)

ヴヴヴンッ……

紫式部「またシュミレーターが!」



◆───【シュミレーター・”テレビ局”】



黒髪「……っ!?」


ワーワーワー


(……気付けば俺達は、舞台の上にいた。真ん中には、一本のマイクが立っている)

(まばゆい光が降り注ぐ。光が、人の目が、カメラのレンズが、大量にこちらに注がれている)


黒髪「ここ、は。ここは……!」

シェヘ「これは……大舞台ですね。貴方の物語の中でも、のちへ語り継ぐべき素晴らしき日々を表しているのでしょう」

紫式部「此処が所謂、ターニング・ポイント。貴方が打ち立てた功績の一つ。たとえ英霊と呼ぶにはちっぽけでも、貴方の中では輝かしいに違いありません」

黒髪「ああ、そうかい、そうかい!俺らはこっから始まったってか!」

シュウウウウ……

×××「………

黒髪「ここにも出てくんのかい」

黒髪「いや、おかしい。本来ならお前は、ここにはいない。だけど、お前の魂は俺とともにあった、そう言いたいわけ?だからここにもいる?」

黒髪「俺に何を伝えたい?『俺』をどうするつもりなのよ。そんなの思い出してまで、俺は前に進まなきゃなんねえのか?」

黒髪「……本当は。本当は……としまえんに根深くリンクしてるのは、俺じゃなくて……

×××「───!」

黒髪「……なぁ、どうしてなんだ。どうして俺に襲いかかってくるんだよ。もしもお前が、嫁ならば……!」

シェヘ「今は説明する言葉を、誰も持ちません。抗うしかないのです、ここで物語に幕を下ろしたくなければ」

黒髪「……………ああ。分かったよ」

黒髪「せめて、俺が何とかしてやる」





(………荒れている。戦い方も、息遣いもだ)

ドゴゴゴンッ

黒髪「おらあああ!!」

黒髪「スナッピー!」

ばしゃぁっ!

黒髪「フロッグホッパー!!」

どがぁんっ!

黒髪「ッ……!サイクロン───!!」

ドガガガガガガ……


黒髪「まだ、まだぁぁぁぁっ!」

紫式部「……としまえんさん!」

黒髪「あぁ!?」

紫式部「……もう、終わっています」

黒髪「……く、ハァ、ハァ……っ」



【としまえんさん……

ヴヴヴンッ……

シェヘ「まだ……場面が変わるようですね」

黒髪「なんだ、なんだ、ええ?俺に見せる必要のあるものって、そんなにたくさんあんのか?俺に『それ』を思い出させて、なんのメリットがあんだ?」



◆───【シュミレーター・舞台】

黒髪「───ッ!!」

紫式部「ここは、あの本にはない場所。だけど、貴方には欠かせない場所。だからこうして出てくる、だからこうして貴方は此処に呼ばれる」

紫式部「そう、貴方という霊基が避けて通れない場所です。おわかり、ですよね?」

黒髪「ここは、俺、は……俺は、そんな」

シェヘ「そして、ここに立っていると言うことは。貴方はもう既に、おぼろげながらに取り戻しているはずです」

シェヘ「自分が何者なのか。人として、どういう在り方をした者なのかを」

……コツコツコツ

黒髪「靴音……? まさか、まさか!?」



スーツの男性「───」



(……現れたのは、『いつか見たことがある顔』の男性だった。どこか不機嫌な唇、黒い目がこちらを見る。同じく黒い髪を目元が隠れるか否かまで伸ばしていて)

(肌は……褐色。日焼けと言うには焦げすぎている、きっと地黒なんだろう。それにしても)

黒髪「……お前…………!」

スーツ「は。まぁーーーだうじうじやってんすか、アンタは。そうやってうだうだうだうだ、テメェが傷付きたくなくて、テメェが落ちたくなくて」

スーツ「理想は結構。美しいもんを見るのは悪かねえでしょうよ。アンタの姿だって、輝かしい夢の中に残された強い情熱なんすよね」

スーツ「けど、俺にも情熱はあんすよ。なにか、アンタに踏み躙られた俺の情熱なんて、どうだっていいと?そんな汚え記憶、座からもらわねえでいいとでも?」

黒髪「それ、は」

スーツ「アンタは俺を傷付けた。そうして、真っ向勝負からも、俺の追撃からも、全部から逃げた。その汚点が!」

スーツ「座に、霊基に!刻まれてんのが納得行かねえって言いてえんすか!」

黒髪「あ……

スーツ「当然、『今の俺ら』からすりゃ、そんなのもう過去の過去、どうしようもねえ」

スーツ「だけどそれとこれは違う」

スーツ「アンタはテメェの上澄みだけ掬って、いいとこばっか見てやがる。……俺は?アンタの汚え部分を知ってる、俺の気持ちはどうすりゃいいのよ?」

スーツ「アンタのことを覚えてる。アンタのことをちゃんと知っている。俺が、アンタのことを今教えてやる、全部、全部!」

スーツ「アンタって人を、アンタと言う人格を!」

スーツ「イヤってほど刻んでやる!!」



黒髪「……【酒井】。」



黒髪(ああ、そうだ。そうだよな。お前は全部、何もかも知ってんだ)

黒髪(俺が何故こうなったかも、俺が何故過去を持ちえないかも。全て俺の責任だってのに)

黒髪(耐えられなかった。何もかもに。それは全部、俺がはじめにやらかしたことなのに。必要ないと、手放してしまった。俺の汚さ故に)

黒髪(そうだ。今はっきりと理解する。これは『俺』の、そして俺の、せいだ)


……ちゃんと話そうよ】


黒髪「………

スーツ「まだなんか言いてえことあんすか?」

黒髪「いや……そうだな。」

黒髪「……酒井。お前には、謝っても謝りきれない。迷惑かけた、お前を泣かせた。お前のやりたいことも全部台無しにした……らしい。まだ全部思い出せない」

黒髪「だけどお前は俺の隣にいて、俺の相方で、俺の大切な存在で……あー……とにかく」

黒髪「だからさ……

スーツ「だから?」

黒髪「来いよ。殴り合おうぜ」

スーツ「そう来なくちゃな!」





黒髪「スナッピー!」

ばしゃ

スーツ「なっ、にすんの!」

ヒュンヒュン

シェヘ「剣戟を全ていなしている?」

黒髪「イーグル!」

スーツ「いやいや、くらえねえすよっ」すかっ

黒髪「逃げんなクソ!【夢を乗せ輝く回転木馬】!」

ギュオオ………!!どっがぁぁぁぁん

スーツ「っぶねっ!!何すんの!」

どごっ

黒髪「ぉふっ!?おっ、前!少しは手加減しろ!」

どがぁんっ

スーツ「や、テメェから本気で宝具開放しといてよく言いますわ!」

キィンッ!

(剣を抜いた!?来る……!)

スーツ「……【浅葱埋葬】───」

黒髪「ちょっ、お前、ずるっ……!」

【オシリスの塵!】

カキィンッ!!(硬いSE)

黒髪「っぶ……!ありがとな、助かった……!」

スーツ「くっそ、なんなんだよ!アンタは!何でそんな風に!持ち上げられてんだ!」

スーツ「自信ねえって口で言ってセーフティ作って、そのくせ自信満々に出てって!ウケりゃテメェのもんで!スベりゃ受け手のせいか?」

スーツ「答えてくれよ!なぁ!平子さん───!!」

黒髪「違う!それは……!違う……っ!!」

ォォォォォ……!!

紫式部「これは……!」


【魔力上昇!?】 →【宝具開放!?】


黒髪「違うんだ、酒井。俺は本当に自信がなかったんだよ。ウケててもスベってても、生きてるだけで、そこに立ってるだけで」

黒髪「ただ、自信がなかったんだ」

スーツ「だったら……!」

黒髪「だけど。なんの因果か、はたまた呪いか。俺はこうしてここに立っている」

黒髪「俺はテーマパークとしての概念でありながら、芸人の核も持ったままここに来た。人を楽しませることは、俺の至上の喜びであることに変わりない」

黒髪「笑顔が見たい。人の、誰かの、笑顔を見るために、俺はここにいる」

黒髪「だから、だからさ、俺が謝ったってきっと遅いし、今からどうにかなるわけじゃないのもわかってんだけど!」

黒髪「……笑ってよ、酒井」

紫式部「宝具が来ます。マスター、お覚悟を」

【えっ?】


黒髪「回れ、回れ。全ての人の笑顔のために」
黒髪「走れ、走れ。この世を風を切るように」
黒髪「歌え、歌え!愛する者の笑顔を讃えて!」

黒髪「百年の恋よ、届け!」


   カルーセル・エル・ドラド
黒髪「【夢を乗せ輝く回転木馬】───!!」


 カ ッ ! !


スーツ「ああ、なんだよ畜生。絶対嘘だって分かってんのに」

スーツ「ちょっとだけ。ちょっとだけ……

スーツ「……泣きそうになっちゃった」

ちゅどぉぉぉぉぉぉんっ!



【爆発したーー!?】



黒髪「………

シュウウウウ………


◆───【シュミレータールーム】


シェヘ「これにておしまい、のようですね」

【戻った……!】

シェヘ「記憶の旅は、いかがでしたか?」

黒髪「……ああ、うん。ほんのり、うっすらと。大切なことを思い出した気が、する」

紫式部「その本も、綴られた愛の言葉も。貴方が彼に持っている思いも。全て、『貴方』を構成する要素です」

黒髪「そう……だな。忘れちゃいけない部分と言うか、『俺の芯の部分』……

黒髪「……もう忘れねえよ」


◆───移動/としまえんの部屋


黒髪「つっかれた……腰イカれたかと思った……

黒髪「まぁ……うん。いい時間だった……んじゃない?知らねえけど」

黒髪「つうか、何度も言うようだけど。俺は『本人』じゃないから。あそこにいた本人じゃない、だから全部、ちゃんとは思い出せないのよ?そこ分かってる?」



紫式部「前提として無理があったのでしょうか……いえ、少しでも記憶できたのなら、上出来だと思います」

シェヘ「ええ、ええ。忘れているストーリーよりは、少しでも。ほんの僅かでも、貴方の中に物語が綴られたのならば」
 


黒髪「あの子らはそんなこと言ってたけどね?」

黒髪「嫌なことに、なんか霊基も調子いいからなぁ!なんでなの、これぇ!」

【よかったじゃん】

黒髪「……結果的にな?ったく、夜中になにしてんのほんと!いろんな人まで巻き込んで……

黒髪「まあ、いいや。俺は……うん、俺として。お客様(マスター)に呼ばれた遊園地(サーヴァント)として、そして芸人(サーヴァント)として」

黒髪「貴方の役に立つように尽力を尽くすだけですよ」

黒髪「……まぁ、なんだ。」

黒髪「その……ありがとうな、マスター」

【なにが?】

黒髪「俺の……、違うな。『俺ら』のこと、ずっと気にしてくれていて。助かってる。……お前なら、」

黒髪「来園する『お客様』としてではなくて、未来を作っていく『仲間』として。ちゃんと一緒に戦える気がする」

黒髪「じゃあ、まあ、相変わらず完全には記憶取り戻してないけど、酒井ともども宜しく頼むわ」

(こくり、頷いた)

(これからも彼は、夢を乗せて輝き続けるだろう)

(俺のために、誰かのために───自分のために)






備考:
『彼』は『本人』ではない。ただ『彼の姿をトレースする、遊園地の概念を人化したサーヴァント』である。
しかし、もしも。もしもその影法師を理解できたなら。
もしも、その姿に関連した記憶を全て取り戻せたなら。

……カルデアでは、無限コント地獄が始まるだろう。

……ごめん、やっぱ思い出さないで。