───時は令和。今やこの世にはものが溢れる時代となった。あらゆるものが手に入り、どんな不可能もやがて可能になる世界、それが現代だ。
が、その裏である組織が暗躍していた。
『因循社(いんじゅんしゃ)』……普段は様々な工具、DIY用のアイテムを販売する大手の会社であるが、その実態はあらゆる工具の知識や技術を衰退させるべく、粗悪かつ意思を持つ工具【悪器(あっき)】を作り出し、人類の文明を破壊しようとしている悪の組織である。
事態を重く見た政府組織は、あるプロジェクトを進行する。
古くから日本で使用されている工具に意思と魂を吹き込み、人の形を取らせ、悪器を破壊する。
即ち、工具のさらなる進歩、【KOUGU維新】である。
◆
「一丁、上がりぃ〜!」
ずしん!と言う大音を立て、大槌が敵の体を破壊する。彼は『鉄槌(てっつい)』くん、普段はぼーっとしているが、いざ戦う時には強い意思で以て敵を潰す力を持っている。
「クカカッ!そなたの剛力はいつ見ても恐ろしいのぅ」
「いやぁ、旗金のおかげで楽ぅ〜に倒せたぁ、ありがとうなぁ〜!」
鉄槌の後ろで笑っている、両肩に締めネジが見える細目の男は『旗金(はたがね)』……さん。特殊な力で、敵を拘束することができる。
「世辞は良い……これ、頭。死合は終わった、早よう帰るぞ」
はい、と私は返事をする。彼ら、人の姿に変わった工具……『KOUGU男士』を取りまとめている私は、政府組織から任命された『親方様』と呼ばれているらしい。
悪の組織を倒す、なんていうからもっとかっちりしたものを想像していたんだけど、まさか仲間が全員男性の姿を取っているなんて……想像していなかった。
「えー?もう帰んのぉー?やだぁ、俺まだ敵切りたりねえんすけどぉー」
「heavyなこと言うんじゃねえゼ、糸鋸。死合が終わりゃGo Home、それはルールだろ?」
語尾を伸ばす癖がある、少し小柄な男は『糸鋸(いとのこ)』くん。常に薄ら笑みを浮かべており、敵を痛めつけることにのみ全力を出す。正直、怖い。
それを制したのは、金髪の男。黒の衣裳を身に纏い、サングラスをかけている彼は『タッカー』くん。海外の人……なのかな……?
「クカカッ!なんじゃ、ここは保育所か?そなたも頭が痛かろうて」
「そんなんじゃあ、ないけど……」
「奴の気持ちは分からないこともないがの。そなたのために力を尽くそうとして、空回っておるのじゃろう」
「気持ちは嬉しいんだけどね?」
「だけど、帰らないとだめだぁ。腹も減ったしなぁ」
鉄槌くんは少々困ったように眉をたらして言った。全く、普段はこれだからちょっと心配になるんだよなぁ。だけど、戦いでは本当に頼りになる……!
「糸鋸くん。今日の任務は終わったから、帰ろう?」
私も少し勇気を出して話しかけてみる。が、糸鋸くんはちょっと嫌そうに首を振るのだった。
「やだよぉー、あっちにまだ悪器いんじゃんかー、俺あれ壊してくるー」
聞き分けのない子供のようだ。と呆れていると、
「こら、糸鋸!親方様を困らせるんじゃない!」
「全くだ。俺達の使命を忘れたのか?」
金の線が入った白い服の男がふたり、並び立つ。この工房にはじめから派遣されていたKOUGU男士、『プラスドライバー』くんと『マイナスドライバー』くんだ。
「兄様、どうしましょうか。糸鋸のやつめ、捕らえましょうか?」
「何、我らの使命を袖にして暴走する工具に価値はない。我ら、親方様のために集いしKOUGU維新なのだからな」
冷静にマイナスくんがそう言い放つと、糸鋸くんはしゅんとしてとぼとぼ帰り道を歩き始めたのだった。
「ち、ちょっとマイナスくん、言いすぎじゃ───」
「親方様は優しすぎるのです。それでは我々のためになりません」
「けど、言い方ってものがあるでしょ!」
「それは、申し訳ありません」
素直に謝るマイナスくんに、言葉が出なくなる。もうまったく。仲良くやってほしいんだけどなぁ。
「ですが我らKOUGU男士、世界を守るべく、そしてなにより貴方を守るべく、こうして人の姿になったのです。わかってください」
◆
「おう、お帰りよ!飯ならできてるぜ」
真っ赤な髪の毛を奮い立たせて、厨房で『やっとこ』くんが料理をしていた。
「いつもありがとうね、やっとこくん」
「いやぁ、礼を言われる筋合いはありませんぜ、親方様。俺が完全修復されれば、親方様のお傍に居られるんですが……」
無理しちゃだめだよ、と告げる。彼らKOUGU男士は、人の姿こそしているが、その本体は手に持っている工具の方だ。そちらが傷つけば、当然死にかけるし、回復には工具の修復が必要になる。やっとこくんは先日の大規模戦闘で傷ついてしまい、修復を待っているところだった。
「えへへっ、ぼくも手伝いましたぁ〜。褒めてください、親方様っ」
「オメェはただ皿に盛り付けただけだべ。親方様ぁ、ピンセットのヤツ、仕事サボっでんだ」
にへらと笑う『ピンセット』くんを、隣で『めがねレンチ』くんが諌めた。私が見ていないところで、ひと悶着もふた悶着もあったんだろうな、とすぐわかる。
ピンセットくんは桃色の髪をふわふわとさせて笑っていた。普段はこんなにゆったりした性格なのに、戦闘になると別人だ。めがねレンチくんはその名の通り、黒縁の太いメガネをかけている。口調は……方言?なのかな。
「ピンセットくんはちゃんと手伝って、料理を運んであげて。やっとこくん、まだ完治してないんだよ?」
「うう、そうだよねぇ……ごめんなさぁい」
「親方様、そんなに気ぃ使わなくても俺は……」
「やっとこくんも!あんまり無理しちゃだめだからね、本当に!」
「……面目ねえ」
「何を言っているんだ、やっとこ。お前は使命を果たし、そして名誉の負傷をしたのだ。もっと胸を張れ」
うつむいたやっとこくんを、帰ってきたばかりのプラスドライバーくんがなぐさめる。実際、大規模戦闘で私が悪器に襲われそうになったのを、身を呈して守ってくれたのがやっとこくんだ。
「へっ、お前も優しいねえ、プラス」
「当たり前の言ったまでだ。親方様も同じ気持ちでいてくださっている」
「親方様……!」
「そうだよ。私もみんなも、やっとこくんには早く良くなってほしいんだからね」
泣きそうになるやっとこくんの顔を見て、プラスくんとふたりでちょっと笑いそうになってしまった。
「……なァにくっちゃべってんだ?飯食うんだがらよ、そっちさ行げ」
「おっと、すまない。そうだな、細かい話はお前の飯を食いながら」
「そうするかぁ!」
それにしても、この工房にもKOUGU男士が増えてきた。最初はドライバーのふたりとやっとこくんしかいなかったのに、今じゃ修復中の人も入れれば20人くらいいる。
すごい大所帯になってしまったなあ。
「それでは親方様、号令を」
「はい。みんな手を合わせて……いただきます」
「「「いただきます」」」
みんなで手を合わせて食事を始める。この瞬間は、本当にみんなただの人間なのではないかと思える。これで変な組織がなくて、敵なんていなくて、ただ平和なだけだったらいいんだけどなぁ……。
「ええ、ええ。戦闘など無用、皆派手に!豪華に!暮せば良いと言うのに、全く……本当に、なぜ相手を潰す必要があるでしょうか?」
『浮造(うづくり)』くんは嘆いていた。もとになった浮造自体が木目を強調する、いわば仕上げに使われていたものだからか、戦闘には興味がないようだ。
「賛同しますよ、浮造殿。ほんっと、戦いとかやめたらいいのにねえ、あいつらも。仲良くできないんすかねぇ」
ひときわ大きな体を揺らし、『油圧トルクレンチ』くんが嘆いた。
「出来るならはじめからしているだろう。そもそも、やつら悪器の目的は、親方様を始めとした人間の文明衰退だぞ?交わることはあるまい」
「いかにも、その通りだよ、弟よ。故に我らKOUGU維新がその野望を止めねばならんのだ。分かっているのか?お前達は」
プラス、マイナスの兄弟が立て続けに聞き、皆黙ってしまった。しかし、すぐに気を取り直した糸鋸くんが口を開く。
「だったらー……やっぱー、全員切り刻めばいいじゃないすかー、俺にやらしてくださいよー」
「オメェはうるせえな、黙っとくっでのが出来ねんか?」
「よぉおし、そんならおらも敵を叩くぞぉ〜」
「ぶ、物騒な話ばっかりしないでくださぁい!戦いなんて……」
「いやはや全くそうですよ!戦いなど無駄無駄!なぜ手を取り合って生きていくという選択肢が取れないのですかねぇ!?」
「クカッ、浮造。貴様は黙っておれ」
「奴らが話の分かるやつならいいんだけどよぅ」
「そ、そうですよぉ!話し合いしてみても、い、いいんじゃないですかぁ?」
「But、いつかactionしなきゃならないのがTruthだゼ。もし話し合いの最中にMASTERが狙われたらどうすんだ、ピンセット?」
「それはぁ……」
「いいのですよ、ピンセット。人にも工具にも適所があります。無理をする必要はありません」
ピンセットくんを慰めたのは『キリ』くんだ。頭からぴこんと生えているのは狐の耳、らしい。
「そうじゃな、適材適所。我らKOUGU男士にも通ずる言葉じゃよ」
「そうだぜピンセット。俺ァ掴むことが得意だが、ノコみてぇに切れないし、鉄槌みたいに何かを潰すことはできねえ」
「おらは、ドライバーみたいになんかを回したり、できねえぞぉ〜?」
「私が旗金のように何かを固定することができないように、旗金には私のような何かに穴を開けることができません」
「そっか、誰かができないことが……ぼくにはできる……」
「そういうことだ。我らはできることが少ないかもしれないが、できることは誰よりもできる。そのために生まれた、工具なのだからな」
「いんやマイナスの旦那、あんましピンセットをおだってんでねぇって」
「何を言うかめがねレンチ、お前もそうだろうに。回す、という方向性は同じながらも、我らと用途の違うお前には感謝しているとも」
互いが互いをほめあっている。あ、これは幸せやなつだ。
ゆったりした時が流れている───と。
ビーッ!ビーッ!
突然、通信が入った。政府からだ。
「はい、こちら工房」
『ああ、お疲れシオリちゃん。親方の仕事はできてる?』
「なんとか」
ご飯もそこそこに政府の担当の方との通話を進めた。あんまり気を使わせたくないのだ、この人はなんせえらい優しい。自分のほうが忙しいはずなのに、私にずっと気を使ってくれるし……。
『それならいっか。悪いんだけどさ、エリア3-Dに敵反応があるから、工具を編成して向かってくれないかな』
「はい!」
◆
戦場に赴き全員に指示を出す。
「ハッハァー!もう逃さないよぉ?ぼく様に掴まれたら一生離れられないんだからァ!」
速攻でピンセットくんが暴れていた。
「これだからお前は!」
「オッケー、超いい感じじゃーん、俺切るー」
「くくくっ、好きに切ればいいよ……ぼく様の力を舐めたこいつらをね!」
糸鋸くんが飛び出し、ピンセットくんの捕まえていた敵を細切れにしていく。
一方で、私の横には、キリくんとプラスドライバーくんだ。
「しかし、敵は大型のバリケードを作っているようだな」
「では……合わせますよ、プラスドライバー」
「了解した、頼むぞキリ」
「……はっ!!」
ぼぼぼっ、とすさまじい勢いで敵のバリケードに穴を開けるキリくん、そしてそこにプラスくんがネジを大量に投げつける。複合工程───ふたりのKOUGU男士の力が合わさり、ネジには強い力が込められていた!
「締め上げる!」
ぱぁん!!
バリケードの奥にいた敵達にネジが突き刺さり、奥までねじ込まれて、消滅していった。盾なんて、ふたりには無意味なんだよ!
「OK、NEXT……俺の出番かな?」
タッカーくんが前に出る。タッカーくんは、いわゆる建築用のステイプラ……おっきいホッチキスみたいなもの、といえば伝わるだろうか?
「Hey,Yo!!悪器滅殺!」
がちん!と音がすると同時に、タッカーくんの手のステイプラから針が発射され、それが敵の体を拘束した。固定するのは得意技だからだ。
「なあにー?こいつも切っていいのー?」
「きちんとrecycleできるようにしてくれよ」
「こ、細かく切って回収すれば、可能かもしれないですよぉ」
「もとに戻っているのですか、ピンセット」
「敵の本丸はどこだ?」
「っ!あそこみたいだけど……あれは!」
みんなで前進し、そうしてついに仮設ながらも作られた本拠地を発見した。色んな素材で組まれているらしく、どう解体すべきか悩ましい。
「っ……工具箱開くよ!」
「その方がいいね、俺は出番ナシだろう」
「ぼくもですかぁ?」
何かと何かを接着して作られた本拠地だ。だから、必要なのはそれを離すための工具!
「KOUGU再編!プラスドライバー、マイナスドライバー、めがねレンチ、ラジオペンチ、鉄槌、ジグソー!」
光とともにもとの工具たちは工具箱へ、新たに編成されたKOUGU男士達が戦地に降り立つ。
「ラジペンちゃんを呼んでくれたの?ありがとー!それじゃあ、まずは一曲聴いてねー!」
『ラジオペンチ』、通常ラジペンちゃん。比較的小柄で愛らしい顔をしており、その出自から音楽やラジオが好きらしい。ひとりいると場が派手になる。
「おや、電動ゆえにコストパフォーマンスの悪い某を用いてくださるのですか、ありがたや。なればこれより、素材切断の儀に移りまする」
こっちは『ジグソー』くん。電動だからパワーは高いけど、そのぶん資材を多く使う。海外の要素があるけど、日本に憧れてるらしくてうやうやしく喋る。
「それでぇ、どこから叩くんだぁ、親方様?」
「まずはラジペンちゃん!周りをぐるって囲んでる銅線を切って!鉄槌くん、その後入り口を破壊!」
「はーい☆」
「わかったぞぉ!」
しかし敵も一筋縄ではない。当然、邪魔をするために部隊がやってくる。
「親方様には指一本触れさせん!」
「やや、まずは悪器滅殺を先に済ませねばならんとお見受けいたしまするぞ!」
『工具……工具はすべて……滅ぼす……』
「何を言っている。人と工具はともにあるべきもの、ともに歩むべきものなのだ」
『黙れKOUGU維新!ぎゃおおおお!!』
「ピンセットのヤツ、こんなんと話し合い持てって言っでたん?こらぁ無理だべ」
「無謀でござろうなあ。和の心を持たぬ悪器では、我らならず親方様とも上手くことをできますまい」
「故に我らがいる。そう、我らこそは」
「人とともに歩み、人を救うためのもの」
「「KOUGU維新!」」
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