ダベミ
2018-07-24 23:59:57
2577文字
Public
 

【葉隠康比呂生誕祭2018】スパイクをチュンと隠して


『こんや 12じ だれかがしぬ』


「いかん……いかんべ、とんでもねえもん見えちまったぞ……!」


葉隠康比呂は狼狽した。
軽い気持ちで、今日の運勢を占うべく集中し、どっかのテレビよろしく「今日のインスピレーション占いカウントダウン」を始めようとした矢先、ぐっと世界が凝縮された彼の脳裏に過ったのが、まさか誰かの死亡宣告だったからである。
たった三割、されども三割。
人命にことかけてはバカに出来ないほどの確率である。今日、それも今日の十二時だって?なんてタイミングが悪いんだ。
……だって、その日は。
言わんとしたことを飲み込む。何とかして忘れようと心がける。朝からこんなイヤなものを見るとは思わなかった。だからアタシ、インスピレーションって嫌い。……いや、やっぱり大好き。脳内で謎の小芝居を繰り出すが、それでも気分は晴れなかった。

とりあえずそう言う時は、二度寝だ。うん、そう頷いて一度寝ることにしたが、どうにも寝付きは悪い。
……仕方がないので、ゆっくりと廊下を歩いて行くことにした。目的地があるかと言われれば、確かにないのだが。

「おーす、おはよう葉隠……んだぁ?なにデビルやべぇ顔してんだ?」

「ややっ!これは何らかのフラグが立っているのでは……?」

「フラグが何かは分かりませんけど、レッスンを受けたみたいに疲れてますよ」

「ふふ、そんなことではすぐに嘘を見破られてしまいます。いいカモですわね」

「全くだ。精神と肉体の健康こそ学生の本分だぞ……聞いているのかね?」

「あ?おい、テメェしゃっきりしやがれって言ってるじゃねーか!」

矢継ぎ早に繰り出される弾丸の数多く。しかし葉隠の耳にちゃんと届いてやいなかった。
今夜誰かが死ぬ。つまりだ。この中にいる誰かが死ぬのかもしれない、ということではないのか。

「そのぉ……大丈夫?あんまり無理しちゃダメだよ?」

「ふ、そうだ。心技体、いずれも揃わねば良き戦士にはなれぬぞ、葉隠よ」

だから最後にこうやってものすごく気を使われた時も、青ざめた顔で「ああー……う、うん、大丈夫」と短く答えるのが精一杯だった。

結局石丸があまりにもしつこいので、周りは放っておいて逃げ出すことにする。
しかし、葉隠に安息の時間はない。
『誰か』が自分ではない、と言う可能性はあった。確実なところまで見えない以上、その部分にも気を配る必要がある。

「随分なもの、見たっすね?」

やっと葉隠がそれを相談できたのは半日後、日も暮れかかった頃で、その相手は優良顧客たる天海だった。

「そ、そうなんだっての!俺はやだぞ、死にたくねえ!それに、十二時ってことは日付またぐだろ?ってことは……

「はは、ヤな日になっちまうっすね」

「そうなんだべ。実際……明日が命日になる可能性もあるんだべ!」

それはいやだ。イヤすぎる!と頭を抱えていると、後ろから声がした。

「それなら巻物を床に置くといいんだよ」

「俺はシレンか」

「違うの?」 

「違いますけど!?っつーか七海っちはいつからいたん?」

「あ、ごめんね。天海君と遊ぼうと思ってきたんだ」

「そういやそうだったっすか。七海さんが新作ゲームをしたいってんで待ってたんすよ」

「ちょっと怖いホラー系ゲームだし、びっくりするタイミングが多くってね」

「はぁー……んなビックリする系、命いくつあっても足りねーべ……

「死んだらエクステンドすればいい、と思うよ」

「俺ペケ字キーねえから!つーか、その前にそれ俺じゃないからね?」

「なんの話っすか……

「葉隠君は体験版で死んで『包丁で死んだ』のシガバネ解放したから死なないんじゃないの……?」

「体験版ってなに!?」


無駄な会話をしたことを後悔した。

意識を失っていたようで、はっと目を覚ますと部屋には誰もいなかった。ひとっこ一人いなかった。しかも若干荒れている。なんなんだ、ここは。

ああ、気付けばもうすぐ今日が終わるじゃないか!
なんてバカな時間を……待てよ、今日が終わる?

つまり───十二時が近付いている?

と、驚く葉隠の前方に人影が現れた。
それは真っ黒に揺らめき、まるで闇そのものが擬人化したようにすら思える。誰だよ、と聞くほどの勇気すら振り絞れない。
ひ、と情けない声を上げてしまう。勿論自分の口から漏れた声だが、自分でも情けないなと思った。

影が、ゆっくりと動いて……まるで時間を測るかのようにこちらにゆっくりと訪れた。


「は?」


せーの、と小さく聞こえた女性らしき声が耳をくすぐった。


幻聴を疑う葉隠が、どすっ、と腹に衝撃を覚えたのは直後。どろり、何かが漏れ出すのが感じ取れた。暗い中でも分かる、これは深い。ああ刺された。
ダメだ、これは助からない。ああ、ヤバい、死ぬ?死ぬ!俺が?俺が死───


「お誕生日おめでとう、葉隠!」

……は?」


時刻、七月二十五日の十二時。
今までの怯えていた葉隠が死に、新しい一年を迎える葉隠が生まれる。

……そう言えば実に詩的だが、現実は血のりで腹周りがべちゃべちゃの葉隠が、仲島花音に腹をフェイクナイフで刺されていると言う状態だ。
ぴょこぴょこ、指先で押すと引っ込む剣先を押して遊びながら花音が言う。

「びっくり、した?」

「そりゃとてもびっくりしたべ!マジに死んだかと……

「じゃ、今までの葉隠は死んだってことでいいんじゃない?」

「はへ?」

「これからは、もっとかっこいい葉隠になりなよ。って言うかなってくれなきゃ困るんですけど」

花音が不可思議な表情を浮かべてそう言うのを、葉隠がこれまた不可思議な表情で見守っているのだった。
あれ、こいつ桑田っちの、でもあれ?なんで俺のところに?

疑問符だらけだから彼はきっと知らないのだろう、さっきまでのが夢なんだって。
学園生活も、顧客とのやりとりも、体験版も、みんな夢なのだ。今は残された花音と、前進を決めた葉隠が、ふたりだけの物語を紡いで戦おうと言うところなのだ。

願わくば彼らの未来に祝福を。そう、例えば近い将来に絶望との戦いに終わりの日が来て、新たな希望を生み出すための小さな一歩を踏み出せますように。