ダベミ
2017-01-30 16:21:15
5061文字
Public
 

滅私奉公と団体戦

ニューダン星のおはなし。若干育成計画のネタバレあり。

男には、どうしてもやらなけりゃあなんねー時ってのがある。
それがあの時だった。
……そう言うことに言い訳ってのは通用しない。
俺が決断して、俺が乗り込んで、俺が壊滅させた。
そう、あいつらは俺がやった。
全員、一人残らず、頭を砕いてやった。

俺が、決断して。

その結果が、俺の周りのあらゆる仲間を、全て振り回してしまうことだってのは、後から気付いて少しだけ後悔する。
だが、反省はしちゃいない。
だって俺は、あの時、その業を背負うだけの覚悟をして、【超高校級】を使ったのだ。

その結果がこれだ。
檻の中にぶち込まれて、犯罪者として裁かれ、死刑囚へと成り果てていた。

だってのに、どうして俺のことを放って置いてくれねーんだ。
この学園生活に生死がかかっているのに、殺人犯に余りにも優しすぎる。


*****


「こんなところでうたた寝かしら」

頭上から振ってくる声は、菩薩か聖母のように暖かく優しい。
未覚醒だった意識を徐々に目覚めへ持って行く。
ぐっと頭を上げれば、そこにいるのは東条───東条斬美だ。
【滅私奉公】。掲げるテーマはシンプルで、そしてこいつの才能は【超高校級のメイド】。
あらゆる依頼を精密正確に、しかも随分な速度で完了させてしまうらしい。

「ん……ああ、悪い。少しな」

「食堂が暖かいのは分かるけど、風邪を引く可能性もあるわよ」

大人の女性と遜色ない、深く慈愛に満ちた声色。
一声だけで、ああ、こいつは人に尽くそうとしてるんだなと言うことがはっきりと分かった。

……全く、あんたにゃ敵わねーぜ」

確か俺がうたた寝をしてしまう前は、ひっきりなしに生徒達の個室を走って回り、整理整頓していたはずだ。
確か茶柱がそんなことを言いながら赤松と喋っていた。
こんな完璧なメイドは、才能云々以上に女性の憧れらしい。

ネオ合気道を極めれば、東条さんに並べるでしょうか。
なんて、茶柱はぽつり漏らしていた。
自分の能力は信じているが、けれど、自分がちっぽけだと思えてしまって仕方がないんだろう。

当然、東条のベッドメイキングはとても早い。
全盛期の俺でも、捕らえられるかどうか怪しいほどには。
確かに、そんなものを目の当たりにして、憧れないヤツはいるんだろうか?
時と場合によるんだろうが、茶柱の場合は東条の手際の良さに羨ましさを覚えていたようだ。
あいつ、ああ見えて不器用だしな。

「どうしたのかしら?熱でもあるの?」

「ああ、いや……何でもねー。少し考え事だ」

あんたはこの世界に、求められている。
物騒なことをさせられてる俺達だが、あんたは生きる必要がある。
生きる意味があり、求められている。

一方で、俺はどうだ。
俺は───成れの果て。
【超高校級のテニス選手】の残骸。
生きる意味なんて、もうないんだ。

だから東条、俺はあんたが少しだけ、羨ましいのかもしれねーな。


*****


ついうっかり、寝ちまうほど……俺はこの環境で油断してるようだ。
モノクマと、その子供を名乗るモノクマーズに、コロシアイを強制させられてるってのに。
全く、俺もまだまだだぜ。
殺される覚悟があるやつだけが、殺すことを決意出来るってのに。
そしてそれは、いったいどこから現れるか分からない。
明日には俺達の中の誰か一人が、冷たくなって床に倒れてるっつー可能性が毎日ある。

「俺は……どっちだろうな」

鈍っている思考。ああ、けどこれは確実だ。
俺は殺される覚悟はあるが、誰かを殺そうなんて───

「星」

……あんたか」

不意に廊下で呼び止められた。
相手は【超高校級の宇宙飛行士】、百田解斗。
こっそり不正を働いて宇宙飛行士の試験を受け、10代にして初の訓練生になったって大物だ。
本来、宇宙飛行士のテストってのは大学卒業の資格が必須になる。それ以上にテスト自体がかなり厳しい。
つまり、こいつは見た目や言動で油断ならないほど、頭も切れて体も動くタイプってことだ。

「今すげぇ失礼なコト考えてなかったか!?」

「いいや、そんなことねーよ。……で?あんたが俺に話しかけるなんて珍しいじゃねーか」

俺とこいつに接点はない。

「いや、昔のテメーから随分附抜けたなと思ってな」

……接点がある?

「何の話だ」

「俺は中学時代、テニス部だったんだ」

ああ、そう言うことか。
確かに俺は……いや、俺の仲間も含め、テニス部は異常なほど強かった。
周りもバケモンばっかりだったから、常勝無敗とは行かなかったがな。

「あの時のあんたは、強かった。強かったし、誰もがあんたに憧れたんだ」

「昔の話だろう」

「いーや、違うな!」

妙に強気に、百田は語気を荒げた。

「あの【星 竜馬】に憧れて、テニスを始めたヤツだってたくさんいるっつーのに……今はどうだ?」

……

「あの時のテメーに、恥ずかしくねーのかよ!!」

……この俺に説教か?」

ちっ、と思わず舌打ちをする。
分かってる。お前さんが俺のことを考えてくれているんだってことくらいは。
だが、もう過ぎた時間は戻ってこねーんだよ、百田。

そう言うことじゃ、と言いよどんだ百田を置き去りにして、俺は廊下を歩いていった。


*****


へえ、なかなか興味深いっすね。

そうでしょう?でも、その通りだと思わない?


楽器の音色のように弾む声が聞こえてきた。
ったく、教室か?扉くらい閉めておけよ。
男女のペア───ひとりは【超高校級のピアニスト】の赤松楓、もうひとりは才能不明の天海蘭太郎、だな。
……名前覚えちまったよ。毎回毎回、手元のモノパッド?だかに全員の名前出てくるマップがあったから。


「私がピアノだとすると……天海君や百田君は主旋律をリードをするクラリネットだよ」

「ああ、ありがとうございます。で……東条さんはパーカッション、すか。あれ、小物とかあるっすもんね」

「夢野さんはピッコロで、ちゃんと目立てるメインはアンジーさん……第一ヴァイオリンをやってほしいなぁ」


どうやら暇を持て余した赤松と天海は、俺達をオーケストラに見立てているようだ。
俺はあんまり楽器は分からねーから、それが合っているかどうかも分からねー。


「うん、キーボ君はティンパニで……王馬君がファゴット……

「あはは、次から次へと決まるっすね」

「それから星君は、」


あ?俺の話か?


……星君は、落ち着いててみんなを冷静にさせてくれるから……ウッドベースとか?」


ウッドベース?
……どうやらデカい楽器らしいな?


「それ、星君の体で持てるっすか……?」

「うーん……聞いてみないと分からないけど、聞くだけの価値はあると思うな。星君の声って、すごく……落ち着いてるの。聞いてる側も心が穏やかになる……まるで『G線上のアリア』を聞いている時のような、すごく心が落ち着く声なんだ」

……ちゃんと人の声とか、聞いてるんっすね」

「うん、つい癖でね。だから、星君がいればきっとみんな、パニックになったりせずに……落ち着けると思う」

そして、その言葉が赤松から、放たれる。

「星君は、人を殺すような人に見えないから」


*****


実際に人を殺して牢屋にぶち込まれた俺に言えるせりふじゃあねーだろ。
かえって面白くなってきちまった。
くつくつ笑いながら、その教室の近くを離れる。
まあ、退屈はしなさそうだ。
それでも一抹の不安が俺の脳を掠める。

果たして、俺はこいつらと共に生きていていいのか?

込み上げる不安に、答える者はなし。
俺はただの囚人だ。
才能だの、超高校級だの、もうここには存在しねーんだ。

生きる気力がない俺が、生きることを渇望したあいつらと共に歩んで……

「あら、また会ったわね」

「東条か。今度は何してやがる?」

こつこつ歩いて自分の部屋へと戻ろうとした俺に、再び東条が顔を見せる。
どうも随分あちこち走り回ってるみたいだ。
完璧超人の顔がうっすらと赤らんでいるのを見逃さなかった。

「ええ……真宮寺君を探しているのよ。彼の部屋だけ、個室が開かなかったから」

「モノクマに言えゃいいだろ?」

「それが開けてくれないの。私の才能をもっと見たい、と言ってね」

「何?」

「超高校級のメイドなら、どこにいるか分からない真宮寺君を見つけるくらい簡単でしょう?と言われたの。モノパッドから彼の所在地も消えているし、自力で探すしかないわ」

……ははっ、モノクマも悪い男だ。
ああ、いや……男かどうか分からねーんだった。

「それがモノクマからの依頼だもの」

……あんたも随分真面目だな。からかわれてるだけだろ」

「だとしても、私は依頼されたことを完遂するわ。【超高校級のメイド】としてね」

自分の肩書きに誇りを持ち、自分の経歴に胸を張れる。
本当だったら、俺もこうなっているはずだったんだろうな。
けれど、それは叶わなかった。
俺のバカみてーな裏切りが、人間失格の烙印を押したんだ。
そうして才囚学園に放り込まれて、顔を知ったヤツを殺せと言われて……

「ねえ、星君」

「なんだ?あんたの話なら、少しだけ聞いてやってもいいぜ」

優位に立っている振りをする。
……振り?なんのために?

「貴方、テニス選手だったんでしょう?」

「ああ、そうだが」

「テニスは一見個人競技だけれど、学校単位での試合は団体競技よね」

……そうだな。何が言いたい?」

「いえ、ただ……貴方も団体競技が出来るのだから、私達との生活も団体競技として挑んでみればいいのに、と思ってしまったの」

「この生活を、団体競技に?」

つい素っ頓狂な声を上げちまった。
……いや、そんなの考えたことは、全くなかった。
確かに学校で行ってたのは団体戦だ。
ダブルス2組、シングルス3組……大体そういう流れで試合が組まれる。
全員強くなきゃあ、上には上がれねーんだ。

それをこの学園生活に応用するって?

「言わば私達はプレイヤー、モノクマからコロシアイを強制させられている選手達よね。けれど」

───ああ、なるほど。

「誰も戦う意志を持たなければ試合は成立しない。そうすれば、コロシアイは始まらない」

その通りだ。もちろんそう上手く行くことではない。だからこそ団体競技なんて言葉が出てきたのだ。

「貴方も協力してくれれば、きっと」

東条、お前さんは優しすぎる。
俺のような、イキキル意志のない人間に、そんな優しくしたって、無駄なんだ。

それでも。俺は。

……ああ、考えておいてやるさ」

今までの自分では想像できない言葉を発していた。

「仮にここを出られても塀の向こう側だろうがな……

「けれど貴方はまだやり直せる」

「はっ、面白いことを……

「それなら、私に依頼してくれればいいのよ」

……あ?」

また予想外の展開だ。

「俺を、全うにしてください……だとか、そんな風に。貴方の依頼さえあれば、私は全力で尽くすわ」

「ははっ、それも考えて置いてやるよ」

つい笑いが出てきてしまった。
生きる価値のないはずの俺が、こんなにも周りに思われて、こんなにも周りから声をかけられる。
終わったはずの人生だが、これからを新しくやりゃあいいじゃねーかと励ましてくれる。

許されそうになってしまう。殺人の咎を。

俺は永久に俺を許さねーし、きっと世間も俺を許さねーだろう。
それでも前に進めと誰もが言ってくれるこの環境は、天国でもあり地獄でもある。
この才囚学園が終わりではないのなら、俺の新たな始まりだと言うのならば。
探してみてもいいのかもしれねーな、俺の未来を。終わったはずの次を。

そんな期待は、このあとモノクマの「殺人が発生しなければ、コロシアイ参加者は皆殺し」と言う掟破りで、破綻する───

けれど、ああ、コロシアイなんて起きなきゃいいのにと、俺もどこかで願っていた。

置いておいてくれ。
僅かな望みに、縋っちまう俺を、許してくれ。
俺を、お前さん達と歩ませてくれ。

そのために、俺は生きるための理由を探しながら。

……あんたの推理はまだまだだな」

あんたらと生きるために、言の葉で斬り合うんだ。