ナスカ
2023-05-25 00:15:29
3415文字
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手を繋ぎ、心も繋いで

【【【めっちゃ注意】】】本作品は「厄災の黙示録」の二次創作ですが、「ティアーズオブザキングダム」における地上絵ムービーの要素を含みます。よって、ティアーズオブザキングダムをクリア後の閲覧を推奨します。
また、タイトルがリンゼルっぽく見えますが、ガノアスです。
続くかどうか私にもまだわかりません。クリアした勢いで書いたので、ちょっと様子見でお願いします😇


「貴方が人として生きた時代は、どんなものだったのですか?」
かつて占い師アストルは、信奉する厄災が人の姿を纏えたある日にそう問いかけた。それは赤き月の刻。光を吸い尽くし肥大化した真っ赤な月が星一つ無い夜空に登った日。アストルにとって幸福なひとときであった。
しかし厄災は難しそうな顔をして口をつぐみ、最終的に首を横に振る。アストルはそれの意味がよくわからずに頭を傾げた。厄災はアストルの頭を、その大きな浅黒い手で撫でながら「すまぬな」と一言謝する。覚えていない、とのことであった。
「そうでしたか……不躾な事を聞いてごめんなさい」
アストルは厄災に向けていた視線を逸らす。黄玉の瞳が己を責めるように瞑れて、厄災はそれが居た堪れなくなりアストルの顎を掴んで自分の方を向かせた。アストルは焦るが、厄災はその様子すら愛らしいと思い笑う。
「いや、我の過去が気にかかるのも当然だ。お前にとって、我という存在は途方もない時間を過ごしたであろう『未知』なのだからな」

そんな話をしたのは、今から少し前のこと。この地を支配するハイラル王国に反旗を翻していた、背教者として生きていた時のこと。苛烈を極める戦いの中、王国軍に追い詰められてからくりの依代を破壊された厄災は、己の信奉者を食うことで力を取り戻そうとした。生きたまま食われるともなれば、誰でも恐れ慄くだろう。
だがアストルは恐れることなく、厄災にその身を捧げる覚悟を決めていた。それは紛れもなく、愛の形をしていた。厄災はその愛に触れて、完全に人の形を取り戻したのである。
戦う理由を失った二人は降伏し、一時的な措置として城の地下牢へ投じられた。国家転覆を企んたのだから当然だとそれを受け入れ、次の処遇が決定するのを待つばかりである。今の二人は向かい合う別々の鉄格子に阻まれ、触れ合える距離にはいない。しかし話をすることはできる。それが互いに唯一の慰めであった。
「アストルよ、起きているか?」
「はい、ガノンドロフ様」
地上の光が差し込まないこの場所では時間の感覚も失う。朝も昼も夜も無い。ただ相手と過ごす時間だけが、時の標であった。
「お前は以前問うたな。我がかつて人として生きた日々のことを」
「えぇ。けれどあのときガノンドロフ様は覚えていない、と……
「恐らくあれは、厄災と化していたからだろう。人に戻れたことで、少しずつ思い出してきている」
それは果たして良いことなのだろうか、とアストルは今のガノンドロフの状況を憂いた。彼が人であったのは遥かなる昔。それこそ、最低でも一万年以上は遡る。彼がかつて共に生きていた人間は、もうどこにもいないはずだ。それを思い出すのは、とても辛いことではなかろうかと。アストルは彼の過去を知りたいと思っていたことを恥じた。
「ガノンドロフ様、お話して悲しくなるようであればそんな必要はありません」
「いや、話すべきだろう。我の愚行を、お前は知るべきだ。アストル」
手が届かないこの距離を、ガノンドロフは残念に思った。かつての罪を思い返せるようになり、それが自業自得だと理解できる。
「我の過去の行いを聞いて、逃げるも留まるも、お前次第だ」
「私はどこにも行きません! ……私は決めたのです、永遠に貴方のお側にいると」
鉄格子を掴み、アストルは今にも自分の閉じ込められている牢から飛び出さんとする勢いであった。強気な言葉が地下に響き、ガノンドロフはその言葉に救われる思いになる。
「ではお前に伝えよう。我の、遠き過去の話を」

❋❋

時代はハイラル王国が建国される時よりも少し前。現代から見ると、遥かなる昔である。創造の三大神の創りし大地「ハイラル」の砂漠地帯ゲルドに、ガノンドロフは誕生した。
彼は生まれながらの王。百年に一度生まれてくる男の子が王として民を率いるのだ。それがゲルドの決まりである。幼くして民より祭り上げられ、神のように崇め奉られた。そうされてる内に砂漠だけでなく、より広大で豊かなハイラルの土地すべてを欲するようになった……というのがガノンドロフ自身の記憶である。
ところが間の悪いことに、ハイラルの大地には「ハイラル王国」が樹立してしまった。天より降臨せしゾナウ族の末裔ラウルと、女神ハイリアの血を引く娘ソニア。二人が手を取り合い、新たな秩序を生み出したのである。
このままハイラルの地を狙えば、国家間の戦争になってしまう。神の末裔と呼ばれるゾナウ族を擁するハイラル王国に挑むには、いくら屈強なゲルド族と言えど分が悪い。
先ずは自然現象と思わせるため、砂漠に住む巨大生物のモルドラジークをけしかけた。しかしラウル王とソニア王妃……そして王妃の遠縁だという若い娘の持つ力によって、モルドラジークはあっという間に倒されてしまう。
力押しではダメだと悟り、ガノンドロフは新たな策を講じた。それはゲルドをハイラル王国の一部として組み込んでもらうことであった。幕下に加わり城への出入りを認められることで、より内部に食い込もうと考えたのだ。
そしてそれは功を奏した。ソニア王妃を殺害し、彼女の秘石を奪うことができたのである。王妃がラウル王にとって、どれほどの存在なのかを理解した上で。
ガノンドロフは最早ゲルドの王などではなく、かと言ってハイラルの王でもなかった。魔物を統べる、魔族の王へと変貌したのだ。その時点で人間ではなくなってしまったのである。
そんな自分はもう手の施しようがないと、ラウル王は命をかけて封印してきた。結果こうして悠久の時を経ることができたのであると。


「砂漠の王であればよかったものを、我は強欲であったのだ。そして王妃を手にかけたのも、悔いておる。もしも誰かにお前を奪われれば、我は怒りに狂うであろう。あの時のラウルのように」
ガノンドロフが一人で悔いる中、アストルは情報の洪水に溺れかけていた。一つひとつ教えてくれたのは嬉しかったが、如何せんその一つの重みがあまりにも強すぎる。戸惑うアストルに、ガノンドロフは話をまとめに入った。
「つまりだなアストル。我は厄災として無意識な時だけでなく、明確な欲望と悪意を持って行動していたのだ。これは人として蔑まれるべき行いだ。それでもお前は、我と共にいると申すか」
「何を今更!」
アストルは叫んでいた。本当ならこの牢から抜け出して、ガノンドロフの元まで駆け寄り、彼を抱きしめたかった。叫びは今のアストルにとって、できる限りの愛情表現であった。
「何を今更仰るのですか!ガノンドロフ様は、私を見捨てずにいてくださったではありませんか!私にとって、それで十分です!」
「アストル……
「確かに、いけないことをしたとは思います。けれど私だって同じです。貴方のために、イーガ団の者共を贄にしました。自らの欲のために、私だって動いたのです。貴方とは寸分も違いません」
ガノンドロフはアストルの力強い訴えに閉口した。
「私は貴方と共にになら生きていける。いいえ、貴方としか生きられない。私の罪を知っている貴方としか、生きられないのです。ガノンドロフ様は、どうなのですか?」
アストルが鉄格子の隙間から手を伸ばす。あぁ、彼も自分と手を繋ぎたいのだとガノンドロフは無性に泣きたくなった。ただ利用してやろうと思っていただけの人間に、ここまで心を作り変えられてしまうなど思いもしなかった。心すら存在しないと思っていたはずの厄災たる自分に干渉できるアストルに、不思議な力があるのではと思ってしまう。秘石などよりも、よっぽど強い力が。
「我を知って尚、我を想ってくれるお前と共に……
鉄格子を握り、力を込める。すると握ったところからぐにゃりとねじ曲がり、ガノンドロフが抜け出せるほどに広がった。牢から廊下に出て、正面にいるアストルの手を握る。アストルの黄玉の瞳から涙が溢れる。ずっと触れたかった。牢に閉じ込められてから数日間、触れられないことが何よりも寂しかった。
「生きよう、アストル。お前とならば、我は生きていける。お前に言われて、ようやっと気づけた」
アストルは嬉しそうに笑う。過去が似て、願いも同じ。これでどうして、引き裂かれて生きられると思うだろうか。
叶わぬ事かもしれないが、それは因果応報だと思うしかないだろう。
今はただ、共にいられることを望むばかりだ。