ナスカ
2023-04-25 22:29:24
1312文字
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恋とはどんなものか

弟子のリンクに恋をしていると認めたくない、恋そのものが何なのかわからない拙宅ダギアニスの話。短いよ。

恋とはどんなものなのだろう。私にはそれが理解できない。
もちろん、愛についてはよく知っている。愛とは女神様が我らハイリアの子らに与えてくれる「慈悲」のことであり、また民同士が「きょうだい」として互いを慮る感情のことだ。
しかし恋とは何だろう。政務に携わっている年若い者に問いかけたことがある。恋とはなんなのですか、と。
すると彼は答えるのだ。
「恋こそ人生最大の喜びですよ」と。
私にはますます理解できなかった。私にとっての人生最大の喜びとは民や女神様のために生きることであり、「恋」というものに捧げるものではないからだ。
私は彼だけではなく、視察先の若者たちに訊ねることにした。無論、公務の時間をそれに費やすわけではない。公私混同をするつもりはない。私的な時間をようやく作って滞在先の宿からこっそり抜け出すのだ。そして街中で問いかける。恋とは如何なるものなのかと。
突然そんなことを問いかけてきたおじさんが、ハイリアの地の代理権者と知った若者は最初こそ驚いていたが、こう答えた。
「やっぱこの年まで独身だと、そういうことに疎いんすね」
また違う若者はこう答えた。
「そういうことをお聞きになるということは、閣下は既に恋をされているのではありませんか?」
そう言われて驚いた。私が恋をしているというのだろうか。
いったい誰に?
「先生?」
……リンク君」
「お疲れですか? すみません、先生もお仕事がありますのに、おれの話も聞いてもらって」
若くして騎士団の要職を任せられたリンク君はよく私の元を訪れる。自分はまだ若いから、なかなか自信が持てないから、そう言って私の元に足繁く通ってくるのだ。
我が子も同然の可愛い弟子にこうして頼られるのは本当に嬉しい。そのはずなのに、どうしてこんなにも落ち着かないのか。
「いいえ、私は君の話が聞けて嬉しいですよ」
ソファに隣り合って座り語らう私たち。リンク君は落ち着いた様子で、私の肩に頭を乗せてきた。昔は白く柔らかかった小さな手は、鍛錬を重ねいつの間にか筋張った大きな手になっていた。その手が、私の手に重なる。
「おれ、先生がいてくれると安心するんです」
「それはよかったです。大きくなった君に頼られるほど嬉しいことはありませんからね」
そう語りかけながらも、私は自分からリンク君に触れられずにいた。彼の方からこうして縋られているだけで、どうしようもなく胸が苦しい。うまく息が出来ず、ひたすら動悸する心臓に意識が向いてしまう。
おかしい。リンク君が小さな頃はこんな気持ちにはならなかった。
そういえば、最初に恋について問いかけた者はこうも答えていた気がする。
『それまで相手に抱いていた感情と、全く異なる気持ちになることですかね。それが恋だと思います』
リンク君に恋を? 何と馬鹿馬鹿しい。彼は私の息子も同然であり、剣技と意志を継いでくれた弟子なのに。既に私とあの子の関係性は確立されている。そのはずなのに。
「あり得ない」
何故私がリンク君に恋をしなければならないのだろう。

「それ」がいつしか、歪んで発露されることになるとは、あの頃の私は思いもしなかった。


終わり