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ナスカ
2022-05-21 18:44:44
2621文字
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バナナ・モード
アストル君とアストルちゃんが13歳差兄妹であること前提の話。スパアスアス。ド健全。短め。
スッパが熱を出した。そうお兄ちゃんから話を聞いた。
「スッパ!大丈夫なの?!」
スッパは医務室の布団で横になっていた。いつも付けている仮面は流石に息苦しくなるからか外され枕のすぐそばに置かれていた。浅黒い肌だから、熱があるのか無いのかパッと見ではわからない。けれどその苦しそうな表情から、かなりの高熱であることが伺える。
「
……
アストル、殿
……
」
ぼんやりと開かれた赤い目に、私の顔が映っている。こちらに伸ばされてきた手を握ると、燃えるように熱い。その熱さに思わず「きゃっ!」と言って、スッパの手を落としてしまった。
「ご、ごめんなさいスッパ!」
「いや、良い。手を出したのは、オレだ」
「それにしても
……
本当にすごい熱
……
。なにかしてほしい事とかある?冷たいタオルとか、消化にいい食べ物とか
……
」
スッパは首を横に振ろう
……
として動きを止める。何か思いとどまったらしい。
「
……
バナナのアイスを
……
食べたい気分だ」
「バナナのアイス?」
私が言葉を反芻させると、スッパはゆっくり頷いた。
「わかったわ。作ってくるから、ちょっと待っててね」
「かたじけない
……
」
スッパの返事は消え入るようで、とても心配になった。本当はずっと側についていたくて、後ろ髪を引かれる思いをしながら私は医務室を出た。
バナナのアイスは、小さい頃私もよく食べていた。食べられるのは風邪を引いた時だけだったけど、その甘さとひんやりとした温度、なめらかな食感で、食べればたちまち元気になった。スッパも私と同じ思い出があるのかもしれない。
私はアジトの厨房に顔を出した。割烹着を着た今日の炊事担当が狭い中を忙しそうに行ったり来たりしている。けれど彼らは私を邪険にすることなく、「おっ、アストルちゃんじゃないか?どうしたんだ〜?」とにこやかに話しかけてくれた。
「スッパが熱を出して、バナナのアイスが食べたいって言ってるの。ちょっとだけここを借りてもいいかしら?」
「スッパ様が熱を御召に!?そいつぁ大変だ。すぐに作ってやっとくれ。材料は、特にバナナは山ほどあるからな」
ありがとう!と言って、私は厨房の一角を借りて早速調理を始めた。
まずは水瓶の中の水を柄杓で掬い、手をしっかり洗う。スッパの熱感がまだ残る手にかけた水はびっくりするほど冷たかった。厨房の食料庫にはバナナだけが大量に積まれた場所があり、私はその中から皮に黒い斑点が浮かび上がっているバナナ数本を頂戴する。この斑点が、バナナが完熟した証拠。そうでないと甘いバナナアイスはできないのだ。
皮を剥いたバナナをボウルの中に落とし、擂粉木で元の形がわからなくなるまですり潰した。完熟のバナナは面白いほどあっさり潰れてぐちゃぐちゃになって、ちょっと悪い気がしてくるほどだった。
厨房の床下は氷室になっていて、なま物はそこに保管されている。バナナの本数に合わせた量のフレッシュミルクを量り、ボウルに入れた。さらにそこへきび砂糖を加えてよく混ぜる。
ほんのり黄色い、やや粘度のある液体になったところでボウルごと氷室に置いた。これを数回繰り返せば、バナナアイスの完成だ。
厨房で働いているみんなも私が作っているバナナアイスが食べたくなったのか、仕事をする手が止まって私の方をジーッと見てくる。
「厨房貸してくれましたし、出来上がったら皆さんもどうぞ」
にっこり笑ってそう答えると、「うぉおおおっ!!やったぜ!」「いいコトすると自分に返ってくるもんだ!」と狂喜乱舞して喜んでくれた。
大量のバナナアイスを作り終えた頃にはもうヘロヘロになっていた。混ぜるだけではあるのだけれど、その回数が増えれば増えるほどなかなかに大変なもので
……
私は器に自分のげんこつ3つ分のアイスを盛って医務室に向かった。
中に入ると、スッパの布団の近くに誰かいる。コーガ様かなと思ったけど、違う人だった。
「あっ、お兄ちゃん!」
「アストルか。スッパからそれとなく話は聞いた。ありがとうな」
お兄ちゃんにそっと頭を撫でられて、ちょっと恥ずかしくなって、「
……
うん」とそっけない返事になっちゃった。スッパは私が戻ってきたことに気が付いたのか、まだハッキリしない意識の中で起き上がっていた。おでこに冷やしタオルが載っているのに気がついていなかったのか、身体が垂直になったことで鼻にタオルが引っかかっている。
「アストル殿
……
助かった
……
」
「ふふ、どういたしまして。スッパも昔、私のためにお兄ちゃんとアイスを作ってくれたでしょ?お返しよ」
「そんな事もあったな」
私はスッパの直ぐ側に座って、お兄ちゃんは私の後ろに腰掛けた。私はお匙でアイスを掬うと、「はい、あーんして」と言った。スッパはその事に少し恥ずかしそうにしていたけど、これもお返しかと呟いて口を開けた。
お匙を咥えて静かにもそもそと口を動かす様子に私は少し不安になった。美味しくできなかったのか、そこがどうしても気になって仕方がなかった。
「
……
どう?美味しい?」
「あぁ、美味だ。ありがとうアストル殿。本当に美味い」
熱で少し蕩けた顔が、ふにゃりと笑顔になって私は少しだけドキドキした。スッパがこんな顔をするところを、私は見たことがなかったから。
「もっとくれるか?」
「えぇ、もちろんよ」
何度かそれをするうちに、なんだかスッパを餌付けている気分になってきた。ちょっとだけ可笑しくなってクスクス笑っていると、お兄ちゃんが私の後ろから接近してきていた。
「
……
お兄ちゃん、どしたの?」
「
……
私も食べたいのだが」
真顔で言われて私はどうしようかと思ったけど、スッパが顎をクイとお兄ちゃんの方に動かしたので私は頷いた。
「うん、いいよ!はいお兄ちゃん、あーん」
それから私は二人に交互にアイスを食べさせて、なんだかくすぐったい気持ちになりながら過ごした。スッパはおかわりを頼んできて、私は厨房に戻ってアイスを盛り直してきた。
翌日にはスッパはすっかり元気になって、私が起きたときには一日出来なかった分をと筋トレに精を出す姿があった。やっぱりツルギバナナの効能って凄いんだなぁと呑気に思っていたら、スッパが「お前の兄上はどうした」と聞いてくる。お兄ちゃんは布団から出てこない、と言ったところでまさかと気がついた。
お兄ちゃんはスッパの風邪が移ってしまっていたのだった。
終わり
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