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ナスカ
2022-03-02 21:26:41
2022文字
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穢し穢され
旧知前提でまさかのリンアグ。神トラちゃんは大人になってスレてるし、ニムは退廃的。
直接的な描写はないけどやることはやってるっぽい二人。
民たちは僕のことを「女王陛下の騎士様」と呼んで慕ってくれる。
ゼルダは僕のことを「清らかな心を持ち続けた」と仰ってくださる。
けれど今の僕は、国を救った時の僕とは違う。ひどく変わってしまった。退魔の剣の美しい輝きを疎ましいと感じてしまうほどに。
「ただいま、アグニムさん。いい子にしていましたか?」
女王の騎士が古臭い家に住んでいることを、民たちは知っている。その座についても欲を張らず、慎ましい生活を選んだ選んだことに『なんと欲のない方なのだろう』と感心していた。
けれどここに住んでいるのは、豪奢で裕福な生活よりも欲しいものがあったから。僕は清貧の皮を被った、欲深く汚れたケモノ。
「リ、リン、ク
……
」
薄暗い部屋の隅、怯えた目をして僕を見つめてくる彼。僕はその様子に言葉にできない高揚感を覚えた。手枷の影から見え隠れする手首に新しい傷は見られない。どうやら良い子にしていたようだ。
「よかった。貴方が傷ついているのを見るのは、嫌なんです」
白髪が混ざり始めた銀色の髪をそっと撫でると、彼は体をビクリと震わせて目を見開き、涙を流す。息が荒くなり、それは過呼吸に変わっていった。苦しそうにガタガタと痙攣する姿を見ていると、思わず両方の口角が上がる。少しだけ可哀想になって、過呼吸を落ち着けるために口付けた。そのまま腕の中に彼を抱き込むと、気分がおさまってきたのか僕の方に体重をかけてくる。その様子が憐れで可愛らしくて、思わず溜息が漏れた。
「
……
リンク、頼む、お願いだからもう
……
」
「一度ガノンに従った人が、この国で一人生きていけるとでも?」
この国は異端者に厳しく、女神様を信仰しない人は村八分にされる。彼がこの国で生きられているのは、僕に護られているからだ。そうしなければ彼は道行くだけで石を投げつけられ、軽蔑され、迫害される。
けれどそのおかげで、僕は彼に繋がる見えないリードを握ることができているのだ。
「ゔ
……
」
「泣かないでアグニムさん。僕がずっと側にいてあげる。僕は父さんと違う。だから僕から逃げないで」
僕が彼を拾ったのは、あの騒動から七年が経った頃のことだった。ゼルダが女王として即位してから時間が過ぎ、王国の政治基盤も安定して治安も良くなってきた時期。その日僕は何かに呼ばれるように夜の散歩をしていた。まるで七年前の雨の夜、ゼルダに導かれたように。城の地下に続く階段の近くまで来た時、僕は戦慄した。目の前で死んだはずの、両親と叔父の仇が横たわっていたのだ。
最初僕は彼をゼルダに突き出そうと思った。然るべき処遇の決定は彼女の仕事だからだ。けれど僕は彼を、かつて僕と叔父が住んでいた家に隠した。
最初は両親のことを聞き出すためだった。僕は両親のことを何も知らないも同然。二人はどんな人たちだったのかと、僕は尋ね続けた。けれど彼は放心状態で、僕の質問に答えることはなかった。
そんな日々がしばらく続き、彼はふと僕の顔を見て言ったのだ。
「お父さんにそっくりだ」、と。
それから彼は僕に、僕の父への秘めた想いを吐露した。彼が抱えていたのは、なんとも重苦しく、甘美でしかし痛みを伴う感情。
父と母が出会い結ばれなければ僕は生まれなかった。それはわかっている。けれど彼が父に寄せていた想いに、何故父は気が付かなかったのだろうと疑問に思った。彼はただ気付いてほしかっただけ。報われぬ想いに身を焦がすあまり、自分を焼き尽くしてしまったのだ。
弱りきった彼が僕を見つめる目には、父と過ごした幼き日々への郷愁やこの先永遠に成就することのない初恋の悲しみが揺れていた。けれど彼は僕の中に父しか見ていない。
僕は、父さんのように清らかではいられなかった。
❋❋
気が付いたら私はリンクに拾われていた。何故生きていたのかはわからない。リンクは私を王家に突き出すこともなく、危害を加えるわけもなく、ただ匿ってくれた。そんなリンクに、私は私に恨みを抱くことのなかった彼を重ねる。この子はやはり彼の子。大人になっても清らかさを忘れていない。勇者となるに相応しい存在なのだと思っていた。
そう、思っていた。
あの頃と比べて遥かに弱った私と、成長して大人になったリンク。私はリンクに抗うことはできなかった。
いや、抗いたくなかったのかもしれない。
彼の生き写しと言えるリンクに、老いゆくこの身を委ねてしまいたかった。もう私はどうすることもできない。生きることも死ぬことも、自ら選ぶことはできなかった。自分の人生などどうでもよく思えたけれど、リンクは私が生きることを望んでくれた。
「アグニムさん、かわいい、」
低く掠れた声で、あの頃の彼を思わせる声で、リンクが私を呼ぶ。私はまともに返事をすることもできず、床に這いつくばった。
「どこにも行かないよ。だからどこにも行かないで」
あぁ、私がこの子を穢したのか。
fin
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