ナスカ
2021-12-29 13:50:27
1654文字
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王と客星の幕間劇 エピローグ

エピローグなので短いです。これにて本編終了となります。

悪い夢を見ているものだと思った。そうだ、これは悪夢だ。彼が自分の前からいなくなるなどありえない。認められない。信じられるはずがない。
せめて、せめて姿かたちだけでも残ってくれれば。冷たくなった身体のひとつでも残してくれれば、彼は死んでしまったのだと受け入れられた。だが彼はどこにもいない。跡形もない。

「許さぬ……許さぬぞ小僧!よくもオレからアストルを奪いおったな!」

悪い夢は続く。気が遠くなるほどの長い時間、ずっと眠っていたと思い込みたいくらいに。覚えているのは、自分の中で憎悪が溶岩のように沸々としていたことだけ。何を求めていたのか、何故こんなことになったのか、いつしかすべてが記憶の彼方へと消えていった。

……いや、考えたくなかった。考えることを放棄した。そうでもなければ、喪失感に耐えられなかった。自分の非力さ故に彼を失ったことを受け入れられなかった。

彼の言った、一万年後とはいつなのだろうか。その頃まで、自分は自分でいられるのだろうか。






見覚えのある、痩せ細って頼りなさげな背中。
あぁ、とうとう「お前」に会えた。
今は蛇腹状になってしまった足を伸ばし、尖った三つの足先で彼の服の裾を引く。

「ひっ……!?な、なんだ……!?……古代遺物?!王家の刺客か!?……それにしては……やけに静かだが……

怯えた目でこちらを見てくる彼は自分のことを知らなかった。少し悲しい思いはしたが、彼の知らない部分を見れていると考えれば随分と楽しかった。最初は余所余所しい姿を見せていたが、側にいる時間が長くなるにつれて彼は心を開いていった。いつか、まだ自分が人間だった頃に出会った彼がそうしてくれたように。

「厄災よ……どうか私の側から離れないでほしい……そうでなければ、私は、もう……

必死に自分を掻き抱いてくる彼に、拙い電子音で愛を伝える。声にならない声でも、生物のような温かみは欠片もない腕でも、それでも彼は自分を愛してくれた。
だが、この装甲の中に潜む正体を彼はまだ知らない。彼を信じていても、その姿を見せれば嫌われるのではないかと恐れていた。

そんな心配は不要だったと、程なく知ることにはなるのだがな。


❋❋


アストルが目を覚ましたのは、体感的にして十数年ぶりに見る我が家の寝室だった。家具の位置も何ら変わっておらず、何より大きなベッドに敷かれた布団の中では伴侶がぐっすりと眠っている。
「帰って、きた……?」
確かめるようにつぶやいたあと、軽くカーテンを開いて窓から外を見れば朝が始まりつつある。暗闇を照らしていた星たちは眠り、太陽が目を覚ますのだ。
……帰って、これたんだ……。でも、帰って、来ちゃったんだ……
あのあと彼がどうなってしまったのか、アストルに知る術はない。あの彼に触れることも、話しかけることも、もうできないのだ。
……アストル、起きたのか」
「!ガ、ガノンドロフ様!」
ゆるゆると身体を起こす少し老いた姿を見、年月に削られて丸くなった声を聞いたが、アストルは思わず「先程」までの呼び方をしてしまう。しかしそこでハッとした。このガノンドロフのことは「ガノンさん」と呼んでいたのだ。もう厄災でもその信奉者でも無いのだからと、お互いでそう決めたのに。
……久しぶりにその呼び方を聞いたな」
「えっ……
「お前は一万年後にと言ったが、それより待たされたぞアストル。いや、正確な年数はわからぬが……うおっ!」
アストルは嗚咽を漏らしながらガノンドロフに抱きついた。その勢いのままガノンドロフの身体はベッドへと戻る。
この中に「彼」は残っていた。「彼」は確実に時を重ね、自分の元へと戻ってきてくれた。過去と未来の彼は一つとなって、ここに存在している。
「やっと、やっとお会いできました」
「あぁ、あの時お前がその身を呈して我を救ってくれたお陰だ。ありがとうアストル」


幕間劇は終わりを告げ、次の物語が動き始める。


終わり