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ナスカ
2021-06-02 22:04:20
2890文字
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星屑を抱きしめて
リンアス死ネタ「星の最期」の続き的な何か。
これ以上は続きません、たぶん。
「まあ見て、姫様付きの近衛騎士様よ」
「やっぱりいつ見ても素敵だわ」
「近衛に着任したばかりの頃はまだ子どもっぽかったのにねぇ」
「すっかり大人の男って感じ。本当かっこいいわぁ」
リンクのことを見かける度、城に仕える若いメイドたちは色めき立つ。整った顔立ちだの、姫様に勝るとも劣らない小麦色の御髪だの、剣の腕だの収入だの、まるで自分のモノのように黄色い声で語らうのだ。
リンクに色目を向けているのは、何も下っ端の女中たちだけではない。ハイラルの貴族の娘たちは王女殿下のお目付け役のような騎士が欲しいと言いだし、さらには彼を自分の夫にしたいと言いだす始末。彼女らの父親たちは、王女の近衛騎士を迎えるのは不可能に近く困難を極めると我儘な娘を説得するしかなかった。しかし諦めの悪い娘は城で行われる舞踏会に招待されたタイミングで、姫に挨拶をするという建前を使ってリンクに近づこうとした。一緒にダンスを、と言う娘たちにリンクは「申し訳ございませんが殿下の側を離れるわけにはいかないので」と丁重に断りを入れた。内心暴れて我を通したいところを礼儀正しい令嬢の仮面を被り、娘たちは顔を青くして二人の元を離れる、というのがもはや恒例となっていた。
「リンク、私は構いませんよ。イーガ団も王家直轄の組織になって厄災も封印されて、私の命を狙う者などもうどこにも居はしないのですから」
「姫様以上に貴い女性はこの国におりませぬ。他の女にダンスと称してうつつを抜かすなど笑止千万。有り得ませぬ」
「
……
それで、本音は?」
「他の女と踊りたくないのは、本音です」
「それは私とは関係のない思いなのでしょう?」
「
……
無礼ながら、その通りでございます」
「無礼だなんて
……
貴方にとっての唯一は私ではないのですから、無礼などではありませんよ」
王女のために誂えられたベルベット生地の椅子に座りながらゼルダは微笑む。その横に立つリンクは心底申し訳さそうに唇を結んで俯いた。ゼルダは城内でリンクの真意を知る数少ない一人で、リンクの理解者だった。
今から数年前、大厄災と呼ばれるハイラルを震撼させる大事件が起きた。城の地下深くに封印されていた厄災ガノンが蘇ったのである。現在と未来のハイラルの力を結集させ、ガノンは再び封印された。しかしガノンを崇め奉った男は生きていた。厄災の信奉者アストル。彼はガノンに吸収されたはずであったが、不思議と生き延び、そのことに戸惑いながらもリンクの支えもあって改心し更生した。それからずっとリンクとアストルは想い合うようになり、互いに良き伴侶となった。だが厄災の信奉者という過去は彼の命を奪い去ったのだ。抗いようのない運命にリンクは嘆き、最期はアストルに口付けて彼をあの世へと送り出した。
それからと言うものの、リンクは一層仕事と稽古に専念した。悲しみを忘れようとしているかのように見えた。立場上、ゼルダはリンクを慰めるわけにもいかなかった。リンクは己がゼルダに縋ることを良しとしないことをゼルダがわかっていたからだ。ここはリンクが心をさらけ出せるミファーと話してもらった方が良いとゼルダはミファーに手紙を出した。リンクと話をしたミファーから返ってきた手紙には予想通りのことが書いてあった。
『アストルに会いたい、寂しい』
リンクに恋をしているミファーにとってその言葉は辛いものがあったが、ミファーはそれを隠して『姉』としてリンクを慰めてやったという。ゼルダはその手紙を読みながらやはりと思った。リンクは今悲しみの渦中にいる。そして、そこから抜け出せずにいる。自分ではリンクをそこから出してやれないとゼルダは苦しんでいた。生半可な言葉はきっとリンクをもっと追い詰めてしまう。ゼルダはそこで迷っていたが、リンクを長いこと見ていたミファーは的確な言葉をかけた。こう言えばきっとリンクは大丈夫だよ、とミファーの手紙には書かれていた。ゼルダがリンクにミファーから教わった言葉を掛けるとリンクは驚いた様子だったが「ありがとうございます、姫様」と久方ぶりに笑ったリンクを見た。
それからと言うものの、リンクが過度に訓練に身を費やすことも減り、代わりに毎日墓地へと通った。アストルの死を受け入れたリンクは花屋へ赴いて花を買い、墓地の端っこにあるアストルの墓に供えた。
そうして数年間過ごしてきた。
ゼルダは有能な貴族の男児と結婚し、王太子妃となった。王太子妃ではあるものの、まだ父であるハイラル王が王の座に就いているため姫と呼ばれている。リンクは変わらずゼルダを護り、どんな時でも職務に専念した。だがほんの少し
……
ほんの少しだけ自分のために作った時間はアストルの墓参りに使った。優秀な騎士であるリンクに見合い話が来ることは当たり前のようにあった。けれど彼女たちはリンクの見た目や地位、そして財産が狙いたということは明白であった。そこに愛は無いと、リンクはわかっていた。ハイラル王にいつまで経っても身を固められない立場にあると不憫に思われて、何人か見繕ってもらえたものの「陛下のご厚意にお応えできず大変申し訳ございませぬ」と謝ることしかできなかった。
リンクが愛したのは、アストルただ一人だったのだ。
「
……
やあ、アストル」
敵対していた頃よりも、想い合っていた頃よりもリンクは背が伸びた。顔も垢抜けた。体もがっしりして、もう華奢で身長の低い騎士だとは言わせない。アストルの眠る墓の前に、リンクは立っていた。
「今日も見合い話が来たよ
……
全く嫌になっちゃう」
かさり、と今日の花を供える。アストルの瞳と同じ金色の花束が風に揺れてカサカサと音を鳴らした。
「誰も俺を愛してなんかくれないんだ。君だけだよ、俺を愛してくれたのは」
もちろん、支えてくれる仲間や同志はいた。けれど愛を注ぎ、注いでくれる相手はリンクにとってアストルただ一人だった。
「アストル、会いたいよ」
リンクの瞳から溢れた涙が、アストルの墓石にポツリと落ちる。すると不思議なことに、その涙が染みたところから小さな星のかけらが浮き出て地面にコロリと転がった。リンクはそれを見てハッとする。
「
……
アストル、君なの?」
当然ながら答えはない。けれどリンクはその小さな星のかけらを拾って、握りしめた。決して離さないと言うように。
ゼルダが女王として即位してもリンクは変わらず近衛騎士としてゼルダを守り続けた。年老いて近衛騎士を引退してからはハテノ村の小さな家に住まい、小瓶に入れた小さな星のかけらに話しかけた。あたかもそれが伴侶とでも言うかのように。
ある流星群の夜、リンクは静かに息を引き取った。老衰だった。その表情はとても穏やかで、玉座を娘に明け渡したゼルダはそんなリンクの顔を見て「やっとあの人のところへ行けたのね」と涙ながらに言った。
リンクの亡骸は彼の遺言どおり、国葬などは行われず静かな墓地の端っこに埋められた。かつて彼が最も愛した者の隣に。
終わり
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