ナスカ
2021-05-23 11:28:30
661文字
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キスの日掌編 ガノアス

掌編なので短いです。「やくさいのはなよめ」のラストシーンをもうちょっと詳しくした感じです。

地面に転がる小さなからくりにアストルは駆け寄った。退魔の騎士によって何度も斬られた装甲は幾つも傷が付き、歯車や螺子などの中身が露呈してしまっている。火花が散り、橙の瞳からは光が失われていた。アストルの背に悪寒が走る。
「そんな……嫌だ……厄災よ……私を置いていかないでくれ……頼む……!」
アストルは小さなからくりを抱きしめて泣く。孤独だった自分を選び、慰めてくれ、力を与え、褒めてくれたのはこの厄災しかいなかった。これがいなくなったら自分はこれからどうすればいいのかと、アストルは咽び泣いた。
するとひび割れた装甲から、ドロドロとした醜い厄災の怨念が這い出してきた。それはアストルの背の二倍三倍にまで膨れ上がり、どこが目でどこが口だかわからない。その巨躯全てを使ってアストルを飲み込もうとした。
しかしアストルの心は決まっていた。
「そうか、私が欲しいのか。厄災ガノンよ。ならば我が身は貴方のものです。……愛しております」
己を喰らわんとする厄災に、アストルはそっと口付けた。さあこれで悔いはない。自分を食べよとアストルは覚悟する。だが厄災の様子がおかしい。赤黒い怨念は輝く光に包まれ、その光の渦から人間の男が姿を現した。褐色の肌、逞しい体つき、炎のように揺らめく長い赤毛。アストルはその姿に暫し呆然とした。
「アストルよ、我だ」
そう言う男をアストルは見つめた。細められた瞳から感じる、橙の輝き。あぁ、同じなのだ。彼は「彼」なのだ。
「こんなに大きいなんて聞いてない」
アストルは涙を流して言った。

終わり