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ナスカ
2020-12-02 22:37:58
4011文字
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孤独なプレアデス その3
続きです。
『ごめんなさいねアストル。女神様のお膝元でいい子に暮らすのよ』
かあさん、どうして?
どうしてぼくをおいていっちゃうの?
ほくがわるいこだから?
おねがい、ぼくをすてないで。
『アストル!一緒に遊ぼうよ!』
『ダメダメあんな奴誘っちゃ。いつも本ばっかり読んでてどうせ断られるに違いないって』
そうだ。こんな奴らとつるんでいる暇なんてない。僕はもっと星を知りたい。彼らは何を伝えようと輝いているのか。それを解明したいんだ。そのためには遊ぶ暇なんて無い。
『アストル君、こんな寒い時間に外に出るなんて
……
』
『風邪を引いては大変ですよ』
大人は自分たちの都合ばかり押し付けてくるから嫌いだ。僕のしたいことを何一つ尊重してくれない。どうせ女神様の教えがナントカ、なんて言うんだろうけど、もし女神様が優しいなら僕はこんなところにいるはずないんだ。僕と母さんを引き離した女神ハイリアは、無慈悲だ。
『独り立ち?まだ16歳じゃないの』
『それに占いで生計を立てるなんて
……
あまりにも無謀だとしか
……
』
早く一人になりたかった。ここにいるのはもう耐えられない。星がよく見えるところがいい。人工の明かりは嫌いだ。
一人になって、小さな家だったけど衣食住に困らない生活を送り始めた。人肌恋しいという感情が芽生えたのはいつのことだったか。こんなところで一人で寂しくないのかい?そう問いかけてきた男は僕をすぐ近くにあるベッドへ連れ込んだ。男は僕に占ってもらうためにはるばる僕の住むタバンタ村まで来た人間だった。
その時何をされたのか、僕にはわからなかった。けれど深い関係を作らない、刹那的な触れ合いに僕は虜になった。
それから昼は占いで、夜は誰かと肌を合わせて身銭を稼ぐようになった。どちらも好きなことだったから構わなかった。けれど一度肌を合わせた人と、二回目もすることはなかった。親密な関係は嫌いだ。たった一度だけ交わるからこそ、気楽でいられるのだから。
❋❋
アストルが保護されている医務室の扉を叩く音がする。どうせまたあの退魔の騎士だろうと思い、無視しても入ってくると予測したアストルは無言を貫いた。しかし扉の向こうから聞こえた声は大人しげな少女の声だった。
「あの
……
入っても、いいかしら?」
「
……
お前は何者だ」
「リンクの代わりに来たの。今日は姫様に一日付き添うから、代わりに貴方の元へ行ってほしいって」
「答えになっていない。何者だ」
「私はミファーよ。ゾーラ族だけど、リンクのことは昔から知ってるの。入ってもいいかしら?」
リンクを昔から知っていると聞き、アストルは僅かに警戒を解いた。自分と幼馴染の少女を派遣してくるなど、お節介にも程があるという呆れも含めて。
「勝手にしろ」
「じゃあ入るわね。失礼します」
扉が開き、ゾーラ族の可憐な少女が姿を現す。鮮やかな紅色の体色に精巧な石細工の装飾品が映えていた。その姿をアストルは見たことがある。運命を変えようとする一人として、目障りに感じていた者だった。ミファーはリンクがよく座っている椅子に座るとアストルをまじまじと見つめて言った。
「体の調子はどう?傷があったところは痛まないかしら?」
「
……
何故お前がそんな心配をする」
「ここに運ばれてきたとき、傷だらけだった貴方を私が治したの。それきり会っていなかったから、ずっと気がかりで
……
」
ミファーの表情はリンクと同様、作ったものでないことはわかった。けれど自分にそんな顔を向ける理由がわからない。アストルはミファーを訝しげに見つめた。その視線が珍しい物を見るようなものに感じられたミファーはクスリと笑う。
「ゾーラ族は珍しいかしら?」
「いや
……
そういうわけでは
……
」
アストルは口ごもる。ゾーラ族が珍しいというか、年頃の少女と話すことなど十数年もなかった。ハイリア人では無いけれど少女であることに変わりはない。よって何をどのように話せばよいのかわからなかったのである。
「ふふ、リンクの言ってた通りね。ちょっぴり意地っ張りさんみたい」
「!退魔の騎士がそんなことを!?」
寝転がっていたアストルはガバッと起き上がる。その反応を見たミファーはニコニコしながら「元気なようで何よりだわ」とうんうん頷いた。
「はぁ
……
あの騎士め
……
」
「リンク、相当貴方を気にしているみたい。だからどうか、あまり邪険にしないであげてほしいの。そして、貴方には自分を大切にしてほしいわ」
先程までの微笑む姿から一変、ミファーは真剣な目をしていた。目覚めたとき、リンクが自分に向けたような目をしていた。アストルは膝にかけられていた布団を握りしめる。
「
……
何故私を気にする」
「その
……
貴方のしたことは許されることじゃ無いし
……
いなくなってしまった人は帰ってこない
……
」
ミファーの言葉がアストルの胸に刺さる。おかしい、これまで自分を糾弾するような言葉など平気なはずだったのに。運命を変えまいとするためにしてきたこれまでの行動が、少しだけアストルにとって耐え難いものに思えた。
「でも、私、貴方を治療したときに思ったの。貴方がどれだけ傷付いてきたのか、私は知らないって
……
」
ミファーのその言葉のあと、二人の間には気まずい沈黙が流れた。ミファーは勝手にアストルの心に踏み込んでしまったかと後悔した。アストルは俯いたまま何も言わない。
「ご、ごめんなさい
……
!私ってば
……
」
「
……
別に、構わぬ。お前の言葉で傷付いたわけではない」
「
……
厄災を復活させようとしたのには何か理由があるはずって、姫様も仰っていたわ。貴方がよっぽどの思いをしたんじゃないかって
……
私は思うの」
「お前も、退魔の騎士も姫も、お人好しよ。理由は何であれ、私のしたことはわかっておろう?」
「それでも!」
ミファーは思わず声を荒げた。穏やかそうに見えたミファーの大声にアストルはビクリとする。
「それでも、リンクは貴方を知ろうとしている。だから、私も貴方を知りたいわ。無理しなくていいの。私はまだ貴方にとって信用できるような相手じゃないだろうし
……
」
「退魔の騎士をよっぽど信用しておるのだな」
「リンクのことは彼が四歳の頃から見てるもの」
風貌と年齢が一致しないことをアストルは不思議に思ったがすぐに思い出した。ゾーラ族はハイリア人に比べて長命で、成長が遅い種族なのだ。リンクはミファーの隣で、何倍もの速度で成長したのだろうとアストルは思った。
「さぁ服を脱いで?傷が無いか確認するから」
リンクとはまた異なるミファーの魅力に、アストルは少しばかり心惹かれた。
❋❋
「ミファーと話したんでしょ?どうだった?」
「
……
もう少し食事をしろと言われた」
外出をするゼルダの付き添いから帰ってきたリンクはアストルの元へ直行した。そのリンクの手には大きめのバスケットが握られていた。すん、と鼻を動かすとバターの香ばしい匂いがした。
「また食事を持ってきたのか」
「うん。一緒に食べたくてね。お腹空いてるでしょ?」
以前、アストルはその問いかけに対してぶっきらぼうな態度を取ろうとした。しかしミファーのかけた言葉を思い出してしまうと、そんな態度を取るわけにもいかなかった。否定もせず肯定もせず。今のアストルにはそれが精一杯の肯定の表現だった。
「
……
まあ、こんな時間だしな」
「へへ、よかった。今日はフィッシュパイを作ってきたんだ。アストル、この前のマックスサーモンのおにぎり気に入ってくれたみたいだから
……
。さすがにこの前と同じじゃつまんないし、パイにしてみたよ!」
じゃーん!とリンクはアストルの目の前で中身を隠していた布を取り払って見せた。フィッシュパイは見た目が完全に可愛らしい魚の形をしており、つぶらな瞳が愛らしい。
「パイなど
……
また凝ったものを
……
」
「うん。実はちょっと来るのが遅くなったのはこれを作ってたからなんだ。ちょっと冷め始めてるから早く食べよ?」
アストルは言葉を紡がなかったが、こくんと頷いた。それを見て満足そうにリンクは笑うと早速切り分け始めた。フィッシュパイはかなり大きく、リンクの顔よりも大きかった。二人で食べるには多すぎるとアストルは思ったが、目の前の騎士は食べることが大好きな男だ。自分が半分も食べなくても残りは全部彼が平らげてしまうだろうと思った。
そしてその瞬間に思う。いつから自分はこの騎士のすることを予測できるようになったのかと。
「はい、アストルの分」
リンクはパイで出来た魚の頭の部分を切り分け皿に盛ると、フォークと一緒にアストルに手渡した。アストルはそれを黙って受け取り、リンクが自分の分を盛るのを待つ。
「それじゃ、いっただっきまーす!」
「
……
」
アストルは切り分けられたフィッシュパイを食べやすくするためさらにフォークで小さくしてから、口に運んだ。
外はサクサクしたパイの食感が、中はほぐした魚の身のふんわりとした舌触りが絶妙だった。おにぎりとはまた異なる料理にアストルは新鮮な気持ちになった。一人暮らしをしていたころの自炊はひどいもので、肉があればとりあえず塩をまぶして焼くだけ、野菜も切って調味料をかけて焼くだけ。料理と呼べるようなものではなかった。
「ゾーラの娘が、私のことを知りたいと言ってきた」
「ミファーが?」
「
……
お前も、私のことが知りたいのだろう?」
ちみちみとフィッシュパイを食べながらアストルは言った。リンクはアストルと対照的に口いっぱいにフィッシュパイを頬張っている。アストルの問いかけに答えようとリンクはごくんと口の中のパイを飲み込んだ。
「そりゃあ知りたいよ。だって貴方は
……
」
「私は?何なんだ?」
「マスターソードが斬らなかった存在だから」
続く
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