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ナスカ
2020-12-01 23:20:41
3218文字
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孤独なプレアデス その2
続きです。
「姫様、リンクです」
「どうぞお入りになってください」
失礼します、とリンクはゼルダの私室へと入った。ガーディアンや魔物の侵攻で荒らされたハイラル城であったが、ゼルダの私室は城の端にあったためかほとんど被害はなかった。ゼルダは今これまでの遺物研究の資料を纏めているところであった。これからの未来で厄災が復活しても、神獣やガーディアンを人々が使いこなせるように。そして、幼い頃に別れた大切な友を修理するために。
「彼の様子はどうでしたか?」
「当然ですが警戒されていますね。無理もありません。自分の身に何が起きているのかさっぱりでしょうから」
「そうですか
……
」
ゼルダは残念そうに俯いた。ゼルダが何故こんな顔をするのか、リンクはイマイチぴんとこなかった。ゼルダもとい王家の者にとってあの男はこの国を混乱に陥れた、言わば目の上のたんこぶだからだ。
「姫様、何故オレを彼の監視に」
「気になっているのでしょう?彼のことが」
翡翠色の双眸はリンクの本心を見透かしているようだった。リンクはゼルダの前で嘘をつくわけにもいかず、こくりと頷いた。
「姫様は聡明であらせられますね」
「最初は貴方が何を考えているかわかりませんでした。でも、今なら何となくわかります」
「確かにオレは彼を気にしています。けれど姫様も気にする理由は何でしょうか」
リンクはそれを知りたくて問いかけた。ゼルダは何と言おうか言葉に迷っているというか、自分がどう考えているのかについて迷っているようだった。そしてようやく口にする。
「地下空間で言ったとおり、彼が何者で何故厄災を復活させるに至ったのかを知る
……
気になるのはそのためだと思っていました。けれどリンクの話を聞いて、あれが彼の本当の姿なのか
……
考えてしまって」
ゼルダの脳裏によぎるのは男の衰弱した姿。あそこまで痩せ細っているのにも関わらず、男はリンクとほぼ対等に戦っていた。ゼルダはそれがどうにも引っかかってならなかったのだ。
「厄災の怨念はガーディアンに取り憑きました。人間に取り憑くこともできるなら
……
あれは
……
ガノンの復活は
……
」
「彼の意思ではなかったと?」
ゼルダの憶測だったが、リンクはそれは違うと思っていた。あの態度からするに、男が厄災を信奉していたのは本心のはずだ。その理由を割らせるには、だいぶ時間がかかりそうと思われるが致し方ない。
「リンク、辛いことを強いてしまってごめんなさい。けど、きっと貴方なら
……
頑なだった私を変えてくれた貴方なら
……
」
ゼルダは優しく微笑んだ。
❋❋
「
……
見えぬな」
「何見てたの?」
男はリンクに声をかけられてビクリとする。そして次の瞬間には布団に潜ってしまった。
「そんなに怖がらないでよ。会いに来ただけだってば」
「邪魔だ
……
とっとと失せろ」
「あ、強気の返事が返ってきた。ちょっとは元気になった?」
「うるさい!失せろと
……
!」
バサッと布団から飛び出した男はリンクが持っていたものを見て目を丸くする。リンクの手に乗っていたのは、二つの海苔の巻かれた大きなおにぎりだった。
「一緒に食べよ?」
男はリンクの笑顔にあっけにとられた。いらぬと答えようとした瞬間、男の腹の虫が鳴った。リンクはニマーッと笑い、男はむすっとしながらも恥ずかしそうに目を逸らした。
「ほら、お腹空いてるんでしょ?意地張ってないで食べなよ」
リンクは再度男におにぎり一つを差し出す。男はリンクを軽く睨みながら、節くれ立った手を危険物にでも触れるように近付ける。
「別に毒なんて入ってないよ」
「ふん
……
。
……
中身は何だ?」
「焼きマックスサーモンのほぐし身だよ。脂たっぷりで美味しいんだこれが!」
「マックスサーモンか
……
」
どこか懐かしげに男が表情を緩めたのをリンクは見逃さなかった。しかしすぐにさっきまでの硬い表情に戻ってしまった。
「食べたことある?」
「
……
住んでいた村がマックスサーモンの捕れる地域だったからな
……
。よく食べておった」
男はぽそりと小声でいただきますと言うと、小さく口を開けておにぎりを食んだ。すると男は目を見開き、リンクの方を見た。リンクは予想通りの反応をしてくれたと言わんばかりに笑っている。
「どう?美味しい?」
「美味しいどころじゃないぞ
……
!こんな握り飯は初めてだ
……
!」
少しだけ冷えてはいたが、米粒一粒一粒が立っており、潰れていない。しっかりと握ってあるにも関わらず口の中でホロホロと崩れる。海苔もまだ湿気を吸っておらずパリパリとした食感が残っていた。
「へへ、よかった。それ、オレの手作りなんだ」
「料理が上手いのだな」
「食べるのが好きだから、自分で作りたくなるんだ」
男は夢中になっておにぎりを食べ進めた。リンクはそれを横目で見ながら自分の分を食べた。男はあっという間におにぎりを食べ終えてしまった。
「その
……
美味かった
……
。世話になったな」
「どういたしまして。これだけいい食べっぷりを見せてくれてオレも嬉しいよ」
やはりリンクは男に微笑みかける。そう何度も笑顔を向けられると気恥ずかしい。男はベッドに横になるとリンクに背中を向けてしまった。けれど今は頭から布団を被っていなかった。
「ねぇ、何を見てたの?」
「
……
見ようと思ったが見えなかったのだ」
「じゃあ質問変えるね。何が見たかったの?」
「
……
星だ」
「星?」
頷いたのが後ろから見ていてもわかった。ようやくまともに言葉を交わすことが出来るようになってきた。リンクはそのことを嬉しく思った。
「星は良い。何も言わず、私を見ているだけだ。私も彼らを見ているだけで済む。何もしがらみなど無い」
「星、好きなんだ。でもここからじゃあ見れないね。城の明かりがあるから」
「
……
人工の明かりはあまり好きではない」
不貞腐れたように男は言う。彼は心の底から星を愛しているのだとリンクは思った。
「そろそろ名前、教えてくれない?」
「
……
そんなに知りたいのか」
「だって、名前知らないと呼びづらいし」
男はクルリとこちらを向いた。顔の下半分を布団で隠し、聞こえるか聞こえないかの小さな声で答えた。
「
……
アストル、だ」
「
……
アストル?」
ふいっとアストルはすぐにまた背を向けてしまった。それでもリンクは名前を知れた事に満足していた。
「ありがとうアストル。貴方の名前を知れてよかったよ」
「
……
勝手にすればいい」
素直じゃないな、と思いつつリンクはアストルにおやすみを告げて部屋から出ていった。
マックスサーモンなどいつぶりに食べただろう。アストルはそんなことを考えていた。イーガ団と手を組み、アジトに出入りするようになってからは住んでいた村に戻ることは無くなっていた。そこではバナナばかり食べていた記憶があり、ろくな食事を摂ったためしが無い。塩で味付けされたマックスサーモンのほぐし身はふわふわしており、粒のしっかりした白米によく合っていた。はっきり言って、美味しかったのだ。久方ぶりにアストルの腹は満たされ、心地よい眠気に襲われていた。
(退魔の騎士
……
リンク
……
何故あいつは敵だった私に甲斐甲斐しいのだ
……
)
微睡む思考の中、アストルはぐるぐると考えを巡らせていた。アストルにとって、手を組んでいたイーガ団ですら厄災ガノンに捧げる贄でしかなかった。仲間など、友など、アストルには必要なかった。自分を導いてくれる星と、厄災ガノンさえいれば他には何もいらなかった。大切だったはずの星ですら、ほんの最近まで切り捨てていた。
(誰かと親しくするなど、私らしくもない。それに敵だった私などと親しくしようとすれば退魔の騎士の名に傷が付くだろうに
……
)
アストルはベッドの横に置かれたテーブルに揺らめく蝋燭の炎を吹き消した。それでも城の明かりは強すぎて星は見えない。
続く
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