ナスカ
2020-12-01 12:45:33
4459文字
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孤独なプレアデス その1

やくもくED後話。
何故か生きていたアストルがリンクたちとの交流を通して更生していく話。アスリン或いはリンアスになる予定です。

厄災は封じられた。勇者と、姫と、四英傑……そして彼らに連なる者たち。ハイラルに住む全ての者たちが手を取り合って、この国は守られた。
連なる者たちは本来の時代に帰り、大打撃を受けた国の立て直しをせねばならないと皆が意気込んでいた。
立て直しと同時に進められていたのは、ハイラル城謁見の間の地下にあった巨大な空間の調査だった。厄災ガノンとの戦いで発見されたその謎の空間は、長らくその存在を忘れられていた場所であった。封印の力に覚醒めたゼルダはもはや後ろ指を差されることも無く、再度遺物の調査に励むようになった。そして謎の空間も遺物と同じような意匠が含まれていたことからゼルダは王の許可を貰い、リンクとインパを同行させるという条件の元、地下空間の調査に乗り出した。
地下深いそこは少なく見積もっても百メートルはある。三人はパラセールで下降し、戻るときはシーカーストーンの転移機能を使うことになった。
「しかし……まさか謁見の間の地下にこんなところがあったなんて……
「壁に施された意匠は、シーカー族の古代遺物にとても似ています。同じ時代のものと考えるのが自然かもしれません」
インパとゼルダが話し合う中、リンクは異変がないかと静かに耳を欹てていた。ふと、リンクの耳に二人の話し声以外の音が入り込んできた。ここに取り残された魔物がいたのか。そう感知したリンクはマスターソードを鞘から引き抜いた。ゼルダは臨戦態勢になったリンクに驚く。
「リンク!?」
「姫様、インパ殿、私の後ろに隠れていてください。何かがおります」
リンクの言葉通り、ゼルダとインパはリンクの後ろに隠れる。さらにインパはゼルダを庇うように小太刀を構えた。
じりじりとリンクは音のする方に近づいていく。張り詰めた緊張感の中、リンクとインパはいつでも斬る用意はできてると言わんばかりの険しい表情のままだ。一歩、また一歩と歩み寄り、ようやく音を立てたものの正体まで辿りつく。
それは倒れて、意識を失っている人間だった。
リンクはふぅとため息をつき、マスターソード仕舞った。それを見たインパも安心したのか小太刀をおさめる。
「姫様、人間です。気を失っています」
「まあ!それは大変!早く手当をしなくては……
……!いえ、お待ちください。近づいてはなりません。……こやつは……
何かに気がついたのか、リンクはうつ伏せになって倒れている男の体を仰向けになるよう転がした。その素顔を見た瞬間、ゼルダとインパは驚嘆した。
「なっ……この者は……!」
「あの時、ガノンに取り込まれた……
倒れている男は、ハイラルを滅亡へと追いやろうとした大罪人だった。
……間違いありません。あの、正体不明の男です」
「死んでしまっているのでしょうか……?」
「私が確認します」
リンクは男の口元に耳を近付ける。微かな呼吸を確認したリンクは「生きています」とだけ答えた。
「如何致しましょう、姫様」
……生きているのであれば、何故あのようなことを引き起こしたのかを聞く必要がありますね」
「姫様!?」
ゼルダの言葉にインパは驚いて思わず大声を上げる。事情聴取をしなければならないことは頭では理解できたが、数知れない悲劇を引き起こした男の命をそのために助けるのは腑に落ちなかった。
「厄災が封じられた以上、彼が力を使えることは無いはずです。ミファーは城に滞在していましたね?リンク」
「はい。今日は一日城で傷付いた騎士や民の治療に当たると」
「ミファーを呼びましょう。それから、私はこのことを御父様にお話します」
「姫様!リンクまで……!」
インパは解せなかったが、ゼルダの命令に逆らうわけにはいかない。そしてリンクもゼルダの命令に忠実だ。自分だけが反対するのは躊躇われた。
「ガノンを封じてからかなり経っています。一刻の猶予もありません。彼の真意を知るためにも、早く治療をしなければ」
リンクは自ら進んで男をヒョイと持ち上げて担ぐ。自分よりも長身なはずの男はあまりにも軽すぎた。


❋❋


「それで……そのヤバい奴を拾ってきちゃったってわけぇ?」
あんなの放置しておけばよかったのに、と文句を垂れるリーバルにリンクは仕方ないだろと反論した。
「他ならない姫様の意向だった訳で……。それに、どうしてこの人が厄災を引き起こそうとしたのかも気になるし……
「まぁ、それは同感かな。この男だって仮にもハイラルに住む者……ガノンに復活されちゃあ生きていけないはずだものね」
ウルボザの援護射撃にリーバルは軽く舌打ちをした。知らないことをそのまま放置し、排除するのは簡単だがそれは恐ろしいことだ。ゼルダもそれを理解していたのだろう。それに、彼に事情を聞くことで今後ガノンを信奉し復活を目論む者の出現を未然に防げるかもしれない。次に起こるかもしれない大厄災の対策を取るべきなのは、今を生きている者たちなのだ。
「ミファーどうだ?そいつの様子は」
「表立った傷はもう治ってきたよ、ダルケルさん。ただ、かなり衰弱しているみたいだから安静にすることと栄養のある食事を摂るのが必要かも……
傷を治せるミファーでも、それ以上の治療は不可能だった。あとは適切な処置を行い、女神に命運を任せるしか無い、とのことである。
「ハイラルを滅ぼそうとした奴に女神様が微笑むもんかねぇ」
「いえ、女神様には微笑まれてもらわないと困ります」
ゼルダが部屋に入ってきた。フィールドワーク用の散策服ではなく、カッチリとした正装のドレスを着ている。
「!おひい様」
「御父様への報告が終わりましたので参りました。……そうですか、まだ意識は戻りませんか」
「姫さんよ、国王にはなんと報告をしたんだ?」
「厄災ガノンを信奉するに至った経緯、大厄災を何故引き起こせたのか等を聞き出すために保護したと伝えました。かなり衰弱しているので、話してもらうには時間がかかりそう、とも……。彼の保護に関しては父が全面的に責任を持ってくれることになりました。あくまでも彼は罪人。処断は父の役目なので……
「一応、保護は許されたと」
ダルケルの言葉にゼルダはこくんと頷く。そしてゼルダは静かに眠る男の顔を見つめた。
痩せこけ頬骨は浮き出て、目元は落ち窪み、青白い肌色。とても健康そうには見えない。
「ガノンはガーディアンに憑依していました。もしかすると、彼もガノンに憑依されていたのでは……
ゼルダの視線はどこか男を哀れんでいるように見えた。慈愛の心を兼ね備えた封印の姫巫女だからだろうか。どんなに危険な人物だとしても情状酌量の余地を見つけ出そうしているようであった。
「さぁ、集合はこれでおしまい。みんな、そろそろそれぞれの持ち場に戻ろうじゃないか」
ウルボザの一声で英傑たちは解散した。そこにはリンクとゼルダだけが残った。
「姫様、オレは」
「何か彼のことで気になることが?」
ゼルダに問われてリンクは首を縦に振る。
「あの時、ガノンを真っ二つにしたでしょう?」
「えぇ……見ていました」
「彼はその前にガノンに吸収されました。ということは、ガノンと一体化していたはず」
「そうですね」
「でも、彼はこうして生きている。……オレ、思ったんです。マスターソードが彼をあえて斬らなかったのではないか……と」
ゼルダは興味深そうにリンクの話を聞く。
「マスターソードは退魔の剣……。彼が本当に悪鬼の道を辿っていたならばマスターソードは容赦しないはず。なのに……
「リンク、貴方にお願いがあります」
「はい、何でございましょうか」
ゼルダは再度男を見つめたあと、リンクに視線を戻した。
「彼を……


❋❋


何故、何故なんだ。

私は厄災に選ばれたのだ。未来を変えることなど許されない。本来の歴史を歪めることなど、許される事ではない。

厄災復活のために奔走してきたというのに、何故私を、私を……

……!!」
「あ、目が覚めた?」
リンクは目を覚ました男に微笑みかけた。男は頭を動かし、リンクの方を見る。そしてリンクを認識すると顔を強張らせた。起き上がろうとしたが体に力が入らないらしく、寝そべったままか細い声を発した。
「お、おま、お前……!」
「オレはお前って名前じゃなくてリンク。貴方は?」
誰が教えるものか、と男はそっぽを向いてしまった。リンクは素っ気ない態度を取られたのにも関わらず、男に近づいた。ちら、と男がこちらを見てきたタイミングでリンクはニコリと笑う。男はリンクの笑顔を見て鬱陶しそうにしてから掛け布団を頭まで被った。
「どういうことなんだ」
「何が?」
「私は、厄災ガノンに取り込まれてしまったはず……!それなのに、何故まだ生きているのだ……
「生きてるから、生きてるんじゃないかな」
「では何故!お前たちは私をこんなところへ連れてきた!」
布団越しの声は威嚇してきているようで、どこか震えていた。今の彼からしてみれば、自分は完全に敵の包囲網のど真ん中だ。布団を被って己の身を守った気になっている姿は、体躯の割にあまりにも幼かった。そんな男に、リンクは先程の笑顔と比べて辛辣な言葉を投げかける。
「貴方には罪を償う義務がある。死ぬのは簡単だけど、生きるのは大変だ。生きることは、貴方の罪に対する罰なんだ。姫様が貴方には罪を償わせるため、保護するようご命じになった。ここに連れてきた理由はそれだけだよ」
「罪……?あれのどこが罪だと言うのだ。本来の歴史を捻じ曲げることこそ大罪よ」
一度布団から顔を出して自分の正しさを主張した男はまた布団を頭まで被ってしまった。これは当分話は平行線だなとリンクは諦めることにした。
……しばらくはここで休んでいてもらうよ。マトモな証言が出来るようになるまで、この城から出ることは王の名において許されないからね」
返事はなかった。リンクはゼルダに男が目を覚ましたことを報告すべく、部屋から出ていった。


……まだ、生きている」
リンクが去ってから、男は布団の中で一人呟いた。己の手のひらを見つめていると、あの時……厄災に取り込まれた時のことを思い出す。手が少しずつ黒くなり、やがてそれは全身を覆い、崩壊していく。
自分は厄災ガノンに選ばれた者のはずだった。確かに選ばれていた。けれどそれは使い勝手の良い駒として選ばれていただけのことだった。そのことに気が付いたのは、厄災に取り込まれる直前のことだった。
自分は死ぬのだと、厄災の力として吸収されて自我を失ってしまうのだと恐怖した。そのはずなのに、自分はまだ生きている。
「完全に吸収された訳ではなかったのか……?」
あの瞬間から、先程目を覚ますまでの記憶は無い。何があったのかもわからない。男はわけがわからなくなっていた。
「私は、何がしたかったのだ……
男は一人、我が身を抱き締めながら啜り泣いた。


続く