【カミ東】もう少し警戒心を持って

酔いどれ🍮さんの🔪🍮なお話。こちらはポッ〇ーの日に掠りもしておりません。

東雲薫は久々に会う昔のバイト仲間たちとの飲み会にて、積もる話も相まって普段抑えていたアルコールをしこたま飲んだ。頭と体が浮遊感と幸福感に包まれ、足元に至っては千鳥足一歩手前と言ったところ。
ツヅミには今夜帰りが遅くなるから先に寝ていてと伝えてあり、東雲が自身のマンションに着いたのは午前様を軽く過ぎた頃だった。
閑静な住宅街からカラコロとサンダルの音を響かせ、歩く東雲は常時上機嫌で十八番の歌を口ずさんでいる。
マンションのエントランスに入り、エレベーターホールへと向かおうとした東雲の足が如何いうわけかエレベーターホールを横切り進んでいく。
ふら付いた足で向かった先は101号室前。そう、東雲は自室に帰るまでの僅かな距離ですら億劫になり。

「カミキリさーん、あーけーてー」

とっくに寝ているであろうカミキリの睡眠を妨害するだけではなく、彼の部屋で寝かせてもらおうというツヅミが聞いたら一発で雷が落ちる程の行為に走ったのだった。
寝静まったマンションの廊下に響くインターホンの音。東雲がしつこく鳴らし続けていれば、カミキリの部屋の照明が付き窓からその明かりが漏れた。
程なくして玄関に近付く気配と共に、鍵が開錠され扉が開いた。
……大家サん? どうシたの?」
どう見ても寝ているところを叩き起こされたであろうカミキリが眠たい眼を擦りながら東雲を見上げる。
それを東雲は何の悪びれもなくへらへら笑い、あまりにも身勝手な事を口走った。
「今日カミキリさんとこ泊ーめてー」
一瞬東雲が何を言っているのか分からず、カミキリはその寝ぼけた眼を数回瞬きさせた。
そして、彼からの返事が返って来ず、聞こえなかったと判断した東雲はもう一度図々しいにも程がある欲求を舌先に乗せ綴った。
「泊ーめーてー」
「大家サん、自分の部屋に帰っテ寝た方ガいイ」
至極真っ当なカミキリの意見に東雲は駄々を捏ねる。
「えー、部屋まで戻るのめんどいー」
「デモ……
「いいじゃーん、泊めてったらーお願いー」
酔っぱらいは何言っても意味がない。東雲の言葉の声量が徐々に大きくなっていく事にカミキリは肩で溜息を吐き、泣き上戸になりつつある東雲を自宅に上げた。正直このまま玄関先で駄々を捏ねられ続ければ他の住人達の安眠が妨害されるのを危惧しての事である。
ただ、カミキリの部屋にまんまと上がった張本人である東雲はそのような事なぞ全く気にしておらず、というか分かってはいなかった。
「あんがとー」
サンダルを雑に脱ぎ部屋に上がった東雲は鍵を閉めているカミキリに向かって緩々でなんとも軽い礼の言葉を述べた。
鍵を閉め自分も部屋に上がったカミキリはひとり考える。東雲を一応客人として自分の布団で寝かすとして、自分は適当に毛布でも引っ張り出して隣の部屋で寝ようか、と。
「カミキリさーん」
「なに?」
東雲を和室に案内するべくカミキリが東雲の横を通りかかったその時だった。
呼び止められ目線だけ彼女を見上げれば、ゆっくりと抱き締められた。一気に強くなる酒の香りに紛れ鼻腔を擽る匂いにカミキリの心臓が大きく鼓動を打ち鳴らす。
「ありがとなー」
耳元から聞こえる東雲の声は舌ったらずで、それでいて明け透けだった。
「ウチのマンションに住んでくれてさー。すっげー嬉しくってなー」
……ウん」
改まって言われる東雲の想いにカミキリの胸の奥がこそばゆくなる。
「カミキリさんほんとにいい子だよなーバイトしてくれてー家賃も払ってくれてー」
ちょっとだけこそばゆさがカミキリから消えるも、東雲が背中を撫でる手付きと柔らかな言葉に目を眇めた。
「ほんとにさ、ツヅミの時も私ひとりじゃどうにも出来なかった……感謝してもし切れない」
ありがとう。小さく呟く東雲にカミキリは自身の腕を彼女の背中に回し頬を摺り寄せる。
息遣いと温もりが肌から直接伝わる感覚にカミキリが浸っていれば、明るさを随分取り戻した東雲の声が鼓膜を震わせた。
「だーかーらー。感謝のちゅー」
「──!?」
はっきりと聞こえたリップ音。何かを押し付けられた感覚が頬から感じたとの同時にカミキリは耳まで真っ赤になった。酔っても多少分別ある行動をとる東雲であったが、今回は箍が余裕で外れるくらいお酒を飲みまくってしまっていた。
ありがとう、ありがとうと東雲が繰り返し言う間にキスの雨がカミキリに注がれる。
彼女の名誉のために言うが別に酔うとキス魔になるわけでも、誰それ構わずやるわけではない。
だが、そんな事なぞカミキリは一切分からず、とっくにキャパオバになっている状態では正常に頭が回らないのは言うまでもない。
「オ、オヤさんもう、伝わっタ、カラ、
上手く力が入らない手で東雲の体を押せば、彼女はあっさりキスを止め殆ど開けていない糸目で「んー」と唸った。東雲が纏う雰囲気からカミキリは安堵の溜息を吐き、子供の手を引く大人宜しく彼女の手を掴み和室へと向かった。
「ここデ寝て」
カミキリが指差す先にはさっきまで自分が寝ていた敷布団。
それを半分寝ている頭で頷いた東雲は徐に自分が着ている服を脱ぎ始めたので、カミキリは閃光の如き速さで脱ぎかけていた上着を着直させた。東雲の寝ぼけた頭で寝間着に着替えなければならないという行動により、正直キスの雨で眠気が吹っ飛んでいたが、これで完全にカミキリの眠気は帰らぬ人となった。
「何故脱グ」
思わず語気も強くなってしまうというもの。だが、そんなカミキリに構わず関せず、脱いでは駄目なのだとぼんやり認識した東雲はまた唸りながら敷布団にその身を漸く横たわせた。
やっと、やっとこれで眠気は消えてしまったが寝れる。そうカミキリが踵を返そうとしたら声を掛けられたので振り返った。
「あい、カミキリさんのばしょー」
掛布団を上げ緊張感なぞ無い笑顔で「東雲の此処空いてますよ」する相手にカミキリは何とも言えない顔になり、おずおずと彼女の横に体を滑り込ませた。
カミキリが来るなり上げていた掛布団を下ろし、そのままカミキリの体を東雲が抱き寄せる。
「やわいねー涼しいねーきもちいーねー」
とても楽しそうに嬉しそうに笑っていた東雲だったが、心地よい微睡みに程なくして意識を放った。
完全に寝入った東雲の寝顔を見詰めるカミキリの頭には先程の彼女の言葉が響き渡る。

「カミキリさんのばしょー」

それが今住んでいるマンションという意味なのか、はたまた今包まれている腕の中なのか定かではない。
ただ、どちらにせよ自分は東雲薫という人間の傍にいたいという気持ちに変わりはない。
カミキリは自身の腕を東雲に巻き付け、そして宵闇色の瞳を瞼裏に隠したのだった。