【フィル風】定位置

風子さんのお膝の上をちゃっかり独占するフィルくんなお話。

よくアンディの膝の上に乗っかっていた私って彼から見たらこんな風だったのかもってふと思った。



ソファに座り込み資料と睨めっこ。次々に浮かぶアイディアの数々に優先順位をつけ、それを誰に熟してもらおうか、なんて悩んでいれば膝の上が微妙に重くなった。
視界を遮っていた資料を退かせば、タイミングよく私の膝の上に乗り終えたフィルくんの零れ落ちそうなくらい大きな目と目が合った。吸い込まれそうなくらい澄み切った新緑色の瞳。手袋越しでも容易に分かる柔らかくて指通りの良い髪を撫でながら問い掛ける。
「どうしたの?」
フィルくんは何も答えず、頭を私の方へ傾けたまま上目遣いで見上げてくる。
「それじゃあ、一緒に作戦立てよう」
私の言葉にフィルくんは頷き、先程まで見ていた資料を一緒に目を通した。声が出せないから発言できないけれど、私の提案を聞いたフィルくんの指が資料に書かれている文章をなぞるのでその意図を汲み取り組み立てていった。やっぱりフィルくんは頭がいい。ニコさんとは似ているような、でも違う考え方を持っている。
「ありがとうフィルくん、お陰で助かっちゃった」
にっこり笑いかければ静かにフィルくんは膝から降り手を振って去って行った。軽くなった膝に目を落とし、手を滑らせる。ちょっとした寂しさに小さく笑い声を零した。いるという、存在しているという重みが愛おしさを纏う。
「もっと乗っていいんだよ、って言えないなあ」
もしも、直接肌に触れてしまうような事態が起こったら洒落にならない。不運はアンディだったからこそ大丈夫だったのが殆どで──。

「でも、ニコさんの時みたいに幽体離脱で回避可能だから、んー、それがいつでも出来ればなあ」

すぐには無理無理。そう言い手を顔の前で振い笑う風子の姿を壁に身を隠し大きな新緑色の瞳が見詰めていたなんて当時の風子は知る由もなかった。



その日を境にフィルくんは私が座っているのを発見するや膝の上に乗る事が多くなった。
ご飯を食べる時も、ちょっとした休憩で座った時も、円卓の間の第一席に座っている時にも膝の上に乗っかってきたのは流石に驚いた。
「あのフィルくん膝の上に乗られるの別に嫌ってわけじゃないけど、もしもの時を考えて降りて欲しいなーって。万が一不運が発動しないとも限らないから」
私の言葉を聞いてからフィルくんはポスンと身を預けただけじゃなく、上着をぎゅっと掴み離しません降りませんアピールをしてきた。
これは参った困った。如何しようかと考えていればフィルくんの手が私の腕を掴み、彼の背中に回されるよう誘導された。分かる、背中に腕回してもらえると安定すんだよね、すっごい分かる。
一人納得していれば新緑色の瞳がもう片方の腕も体に回して欲しいと、訴えかけてきている気がしたので肌が触れ合わないよう細心の注意を払ってフィルくんの体を抱き抱えるかたちで両腕を回した。
ようやくご満足いただけたらしく腕の中にいるフィルくんの大きな瞳が瞼裏に隠されたが、その小さな手は上着を掴んだまま離さない。
「私もこんなんだったんだろうなあ
まさか立場が逆になるなんて思ってもみなかった。でも、膝から伝わる安心感を誘う重さに私も眠くなり緩やかに瞼を閉じた。