【カミ東】魔除け

現世暮らしで悪知恵こさえてきた🔪様と🍮さんなハロウィンのお話。
※この二人付き合ってねーです。

適当に流していたニュース系列番組で流れる猫特集を東雲はソファに頬杖つき横に寝ころんだ態勢で捲れたシャツから覗く腹をポリポリ搔きながらボーっとテレビを眺めていた。
ツヅミから散々だらしない恰好は有希さんが真似をするからやめて下さいと、口酸っぱく言われた態勢だが東雲は改めることなく彼女がいないのをいいことにだらけにだらけている。不幸中の幸いは今部屋にいるのは東雲だけであり、殊更彼女を真似をする有希は自室で創作活動に勤しんでいるのか顔を出していない。
欠伸が出る程のいいお天気。すわ正面に誰かがいたら喉の奥まで見える程の大口を開け欠伸する様が丁度テレビに映し出されていた猫の欠伸とシンクロする。
このまま惰眠を貪ってもいいかもしれない。横向きにしていた体を仰向けにさせ、意識を放ろうと瞼を閉じ始めたその時、ドアのインターホンが鳴らされた。
「へいへーい。今行きますよっと」
閉じかけていた瞼を開け、気だるげにソファから身を起こし玄関に向かう廊下でも欠伸を一つした。
東雲がシャツの中に手を突っ込み腹を掻いている逆の手で鍵を開錠し玄関扉を開ければ、この時期によく見る仮装の中でも一、二の知名度を誇る衣装に身を包んだ神社に祀られし神様がそこに居た。
陽の光を吸い込むほど黒い外套を羽織り、夜会服、は見繕えなかったのか黒の半ズボンにサスペンダー、白いシャツに身を包み首元にはワンポイントと赤い蝶ネクタイが映え、普段口許から覗かない八重歯がひょっこり顔を出している。
「トリックオアトリート」
開口一番に発せられたカミキリの言葉に東雲は腹を掻いていた手をシャツから出した。
脳裏を過る日本の年間行事のお約束となりつつあるイベント。前回は有希と竹内がいたが、如何やら今回は一人で来ているカミキリに東雲はにやりと笑う。
「トリックオアトリート」
腰元に手を当て秘儀でも何でもないが、トリックオアトリート返しをする東雲にカミキリは目を数回瞬きさせた。双方差し出す菓子が無ければ、悪戯をするに移行するが、そもそも相殺しているので無かった事になる、という東雲なりの考えであった。どうよ、と胸を張る東雲にカミキリは狼狽えず舌先に言葉を乗せる。
「じゃあ、甘いイタズラするから屈んで」
「甘いって菓子の代わりにしても結局悪戯するんかい」
緩くツッコミを入れる東雲だったが拒むことなく言われた通り膝を曲げた。視線をカミキリから逸らさず前屈姿勢になれば、やや爪先立ちをしたカミキリが東雲の両肩に手を置き首筋に顔を近づけ、オフショルダーから覗く肩にかぷり噛みついた。
「(あー、吸血鬼だから?)」
全くもって危機感も何もない率直な感想を東雲が独り言ちる。作り物の牙が肌に突き刺さることなぞなく、だが耳元から聞こえる然程小さくない吸引音と肌を吸われる感覚がむず痒い。
「──ッ」
何の前触れもなく強く吸われた感覚と共に東雲の鼓膜を震わす。強く擦った箇所をカミキリは自身の湿った舌先で舐め上げたのち体を離した。
何食わぬ顔とはまさにこの事。噛まれ吸われた箇所を手で触れれば湿った感触が東雲の手のひらに伝わり、思わず眉根を潜めた。
「こんにゃろめぇ。どこでこういう事覚えて来るんだよ」
「なんかテレビでやってタ」
カミキリのあっけらかんとした物言いにいよいよ東雲は額を押さえ深く溜息を吐いた。ひとつやふたつで済まない言いたい事が律儀に並んで待つ光景に東雲が目頭を揉んでいれば、上着を引っ張られたので意識を其方に向けた。深く澄んだ宵闇色の瞳が逸らさず見上げている。
「甘いイタズラ、ボクにもしてイイヨ」
カミキリの無表情で何処か余裕のある雰囲気に少々カチンときた。全速力で脳裏を過る大人げない悪戯を隅に追いやり、それなりに大人の余裕ってものを見せてやりますかと自分に言い聞かせた東雲はカミキリの前髪を手で捲り上げ現れた額に唇を寄せる。軽く押し付けるだけのキス。カミキリから唇を離し前髪を下ろした東雲は鼻を鳴らし笑う。
「ほらよ、甘いイタズラってやつだぜ」
まさにお子様にはこの程度が丁度いいといった具合。だが、前髪の間に手を差し込みキスをされた場所に触れつつ狙ってはいないだろうが上目使いでカミキリは特に照れもせず言い放った。
「唇じゃないノ?」
「ませガキがぁ~
口端を引きつらせ乾いた笑い声が漏れに漏れている東雲だったが、柔らかい白髪の髪から覗いているカミキリの耳が朱色に染まっているのには気付けなかった。
いっその事、デコピンでもした方が良かったか。などと考えていれば、ふと東雲はある事を思い出し玄関扉を押さえていた手を離し部屋に戻っていった。
「ちょっと待ってな」
そう言われ扉が閉まるのを目で追い廊下に残されたカミキリは彼女が口付けた場所をもう一度触れ、自身の口元に触れた指先を重ねる。額に東雲の唇が触れ残る感触。それを思い出しながら指先で唇を撫でた。到底感触を再現できないけれど、瞼を閉じた裏側に先程顔を寄せキスをする東雲の幻を映し出す。
「ほい、お待たせってどうした?」
「歯がズレちゃって」
ドアノブが下がったと思った瞬間、勢いよく玄関扉を開ける東雲にカミキリは咄嗟に口から出まかせを言った。
「そういうもんなん?まあ、いいや。はい、コレやるよ」
幸い東雲は深く追求することは無かったので、カミキリは心臓をバクバクさせながら唇から手を離し、東雲が差し出してきた物を受け取った。
「プリン?」
「そ。適当なお菓子無くてよー。で、冷蔵庫に私の分のプリンがあったのを思い出したってわけよ」
確かにプリンの蓋には黒い太マジックで≪東雲さんの分≫とでかでか書かれていた。
それをカミキリがまじまじと見ていたので、東雲は頬を掻きながら説明し始めた。
「それ?前に私がツヅミの分食べちまってさ。すっげー怒られてそれ以降、書かれるようになってなー。それはちゃんと私の分だからあげても平気なヤツだから」
持ってけ持ってけと快活に笑う東雲にカミキリは半ズボンのポケットからラッピングされた小袋を取り出して彼女に渡した。カボチャにコウモリと型抜きされたクッキーたちが袋の中からすまし顔で東雲を見詰めている。
「って、お菓子あんじゃねえか」
渋い顔になった東雲だったが、すぐさま力を抜き感謝の言葉を述べ自室に帰っていくカミキリの背を見送った。
一階に降りるエレベーター内。ひとり乗り込んだカミキリは両手で大事に抱えているプリンを見下ろしては目を細め東雲と同じく八重歯覗く口元に弧を描いたのだった。








「あれ?東雲さん首元赤いですよ、季節外れの虫刺されですか?ムヒ塗ります?」
「いや、これカミキリさんに付けられたやつだから大丈夫」
「そうなんですか神斬り様が。……はい?」
ツヅミはその意味自体そのものが何なのか分からず、東雲も東雲で不味った口が滑ったと思いつつ適当に誤魔化し続け、鬱血痕が漸く薄まってきた頃合いを見計らってかカミキリが東雲に「新しく付け直したイ」と言うものの、東雲はそれを一刀両断で断るを何回か繰り返した。