東雲は激怒した。かのどでかいシュークリームを齧った際、豪快に齧った箇所とは真逆の場所から情け容赦なくカスタードクリームの殆どをぶちまけてしまったことに、激怒しそして深い悲しみと喪失感に包まれた。
「お、おおぉぉぉおぉぉ……」
不幸中の幸いか衣服にはクリームが付着しなかったが、シュークリームを乗せていた皿が見事にクリーム塗れになり、美味しさの大半を占める中身のクリームを失い柔らかで虚無しかないシュークリームをシューの部分だけが東雲の手の中に残った。
あれだけ幸福感に溢れていた重みが全く無くなり、その重さと中身が消えたことを確かめるべく両手で持ったシュークリームの為れ果てを上下に動かす。
やはり抜けたクリーム分の重さが無くなった事で、寂しいくらい軽くなってしまった元シュークリームに東雲は喉奥から諦めきれないされど無くなってしまったものは如何にもならないという悲哀に満ちた言葉にすらなれない呻き声を絞り出した。
その蛙でも潰したような呻き声を喉奥から細く長く伸ばしている東雲の隣で同じくどでかいシュークリームを器用に食べているカミキリがチラリ横目で見遣る。小さな口でかぶりつき頬にはクリームが付着しているものの、反対側からシューを破り溢れ出ようとしているクリームを掌に開いた口がぺろりと舌で舐め取ることでクリームが零れ落ちる惨劇から免れていた。
「スプーンでいっそ掬うか…?いや、でも…おぉん……」
シューの内側に残っていたクリームを味わいながら、随分貧相になってしまったシュークリームを頬張る東雲は目の前にぶちまけられてしまったクリームの海を如何しようかと咀嚼しながら考えた。
食べ応えのないシュークリームだったものは見た目通り食べ応えが無さ過ぎて、あっという間に考える時間なぞ殆どないくらい短い内に食べ終わってしまった。本来であればもっと楽しめていたであろう甘いひと時は呆気なく消え去り虚しさが東雲の心に巣食う。
未練がましく指先に付いたクリームを悲壮感漂わせ舐める東雲の前に半分に割られたどでかシュークリームの片割れが差し出された。東雲が差し出してきた手元に視線と意識を向ける。果たして其処に居たのは自分が食べていたシュークリームを半分こに割り、東雲に食べてもらおうと分け与える心優しき神様がいた。
「いやでも、これカミキリさんの分──」
単純に自分の食べ方が悪くて招いた事態に東雲の心は申し訳なさでいっぱいだった。分けてくれるのは嬉しいけれど、受け取れないと東雲がカミキリに見える形で右手のひらを見せるが、カミキリは構わずその右てのひらに掴ませる形で半分こにしたシュークリームを渡した。
「大家サん食べて」
「だけどよぉ…」
渡されたものの、まだ食べるのを躊躇っている東雲にカミキリは逡巡し言葉を選んだ。
「一緒ニ食べよ」
「うぐぅ…」
「一緒に食べレバもっと美味しい。だから一緒ニ食べテ」
「わ、分かったよ」
とうとうカミキリに根負けした東雲は渡されたクリームが零れ落ちそうなくらい中に詰まったシュークリームを二の轍を踏まぬよう慎重に頬張った。瞬間、広がる多幸感溢れる甘味に東雲の目が輝きだす。
クリームの味がこんなにも美味いなんて。シューと合わさった時の美味さは先程の薄っぺらくクリームの残骸しかなかった時の比じゃない。はふり、はふりと。クリームが零れないようシュークリームを頬張る東雲の口元にもまたクリームが付着し、それをカミキリが指摘すれば東雲もまたカミキリの口元に付いていると指差すので二人揃ってクリームを指で拭い取り、その拭い取った指先を美味しく舐め取ったのだった。
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