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豆炭々炬燵
1860文字
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訳アリ心霊マンション
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【カミ東】馨香
🔪🍮で好きな人の上着の話。
夕ご飯を食べ終え風呂も済んだ。あとは就寝時間になるまでゆっくりまったり過ごすだけ。
昨晩途中まで読み進めた文庫本の続きを読むか、それともちょっと気になるテレビ番組でも流そうか。
暫し悩んだ結果、テレビリモコンの電源を押した。文庫本はまた今度。もしくはテレビ番組が面白くなかったら読もう。
丁度CMがあけたのかデカデカとテロップと一緒に何処かの街角が画面に映し出された。見たい番組の放送までまだ時間がある。それまで前番組を適当に流し見する程度くらいの気持ちだったので、お茶のお代わりを入れるべく台所へ。急須に追加のお湯を入れている時、テレビから聞こえる内容を右から左に受け流す。
『──で、
……
は──っていうか──』
若い女性たちのはしゃぐ声は実に仲睦まじい。お湯が入れ終わった急須の蓋をカチリ、と閉めた音に合わせてテレビから聞こえてきた内容を耳が拾う。
『やっぱり好きな人の服を着るって憧れるじゃないですか~?』
『わかる~』
街頭インタビューを受けて楽し気に応える女性たちの黄色い声が頭の中で木霊する。
手元を見ずに急須の取っ手を持つ。視線はテレビにくぎ付けになり逸らせない。零さぬよう注意しながら急須をちゃぶ台に置き思う。テレビの向こう側にいる女性たちは自分たちで言ったことを恥ずかしながらも嬉しそうに話している。
「
……
好きなヒトの服」
自分の口から出た言葉を反芻する。もうテレビから聞こえる音は頭の中に入ってこない。
徐に今着ている甚平の上着の裾を軽く引っ張り見下ろす。それから虚空を見上げ想像する。思い浮かべた先に見えた光景に肩を落とした。幾ら女性と云えど子供と大人。自分が来ている衣服は思い浮かべた相手にとってきつく小さい。
「
………
」
これほどまでに今の背丈と体躯を恨めしく思ったことはない。
なら、逆ならどうか。
「・・・」
既に見たい番組のオープニングが始まったものの、もう興味は無くなり一応画面を見ているがその情報を処理することを頭が放棄。
急須から湯飲みにお茶を注ぐ。縁の手前まで注がれた緑色の揺れる水面。其処に浮かぶ自分の顔が楽し気に悪戯事を企んでいた。
〇月×日 天気は晴れ 気温はそれなり
マンションの敷地内で大家さんを見つける。向こうも此方に気付き手を軽く上げつつ、こっちに来てくれた。
挨拶をして他愛のない話をしている間も先日思い描いたことを何時実行するか窺う。
そして、思い切ってされどさり気なくクシャミをした。風邪というものを引いたことが無ければ引いた試しも無い。どのようなものかもよく分からない。でも、小さくクシャミをした、振りをした。ついでに鼻を啜る動きもしようか。
なんて考えている内に目の前にいる大家さんが実に自然な動きで羽織っていた上着を脱ぎ──、そのまま僕の肩に掛けてくれた。
こういう展開になることを想像はしていた。想像していたが、あまりにも想像していたことが難なくあっさりとされ逆に本当なのか現実なのかと疑ってしまう。
上着を脱ぎTシャツ姿の大家さんが僕越しに後ろから来る竹内さんに声を掛け彼のもとへ。大家さんが横を通り過ぎるのを目で追い、肩に掛けられた上着がズレ落ちないよう両手で掴む。後方から聞こえる会話の声を背中で聴きながら、掛けられた上着の袖に腕を通し、ファスナーを上までジィィィーっとあげた。自分にとって大きいサイズ。大家さんの上着は彼女の温もりが残っていてあったかい。鼻を擽る匂い。僕の体を包み込む大家さんの匂い。ずっと包まれたい匂い。
「・・・」
踵を返して歩く。大家さんとの距離が縮まるに連れ早歩きになり駆け足になり。
そのまま大家さんの背中に突っ込む形で抱き着いた。
「っと。カミキリさん?」
軽く踏鞴を踏んだ大家さんが此方を振り返り見下ろす気配を受け止める。彼女の背中に顔をすり寄せて腕を回す。掛けてもらった上着とは比べ物にならない肺いっぱいに満たされる匂い。上着越しじゃない直接的な匂いに心が満たされていく。
「まだ寒いんか~?」
前に回した腕に大家さんの手が添えられる。此方を案じて数回叩く仕草に抱き締める力を強めた。
まだこのままでいたい。あともうちょっと、あともう少しだけ。
そう粘っていたら大家さんから短い溜息が聞こえる。しょうがないな、って大家さんの気持ちに甘えた僕は目をゆっくり閉じて彼女の背中に顔を埋めた。
「今日もアツいですね」
「そう?私にくっ付いているカミキリさんは寒いみたいだけど」
「
……
ソウですね」
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