あまりにも今週の回ナチュラルにリコがドットと接するので、先週と今週の間にこういう事があったんではなかろうかと書きなぐったもの。以前のふせったーに肉付けしたものともいう。
外の世界なんか出なくても構わない何も問題なんかない、そんな僕にとって彼女が行方不明になり、その後再会できたあの日の記憶があまりにも鮮やか過ぎたのは痛いほど分かっている。
無論立て続けに起きた出来事の数々に自分らしくないことをして感情が昂っていたのも含むけれど、それでも極力以前みたく彼女と扉前でやり取りしていた時のように振舞えば彼女もまた同じように応えてくれると思っていた。
だが、実際の彼女が僕に対する態度は今まで見たことのない──、望んでいたものとは大分かけ離れたものだった。
心当たりは、ある。面倒半分、自分の口から言いたい半分のあれだ。
何処か彼女には正体を教えても普通に接してくれるものだと根拠のない確証染みたものがあったのかもしれない。例え熱狂的な動画配信ぐるみんのファンでリスナーであってもだ。少しというか大分驚いただけで、以前の扉の前でのやり取りやあの日の夜のように接してくれる、なんて甘い考えが頭の中を満たしていた。
そんな頭の隅で「これが推しにあったファンの反応だよ。勝手に期待して勝手に失望して、楽しい?」と誰かがせせら笑う。
──違う、違う違う違う。
頭に響く不快な声を追い出したくて目を逸らしたくて、らしくなく船内を歩き回る。
視線は足元に落としたまま、頭を振るい歩いていたのが不味かった。
「うわっ!?」
「きゃっ!!」
角を曲がった途端、走る衝撃に尻餅をついた。誰かとぶつかった。その相手が誰なのか見上げれば、あの日以来声をあまり聞けていない、──リコにぶつかっていたのだと目を瞠った。
リコと云えばぶつかったのが僕だとまだ気付いていないらしく謝罪の言葉を述べながら手を伸ばしている。
伸ばされたリコの手を掴もうと手を伸ばした瞬間、リコはぶつかった相手が僕だという事に気が付いた。
リコの伸ばされていた手が止まり、サッと胸のあたりに引っ込んだ。忙しなく瞬きをしては目を泳がすリコは此方を一度も見ずに頭を下げ、先程より大きな声で謝罪の言葉を述べそのまま踵を返し駆けて行ってしまった。
「リコ…ッ」
もう見えなくなったリコに向かって伸ばした腕が力なく下がる。
「なんだよ……」
だらりとする袖の中、爪が食い込むほど固く握りしめた拳が僕の中にある苛立ちをかたちにする。
「なんでだよ!あの日、普通に喋れてたじゃん!?たしかにリコは僕の動画のリスナーだし、ファンってのもしってるけど逃げるのは違くない!?」
拳だけではなく喉奥から吐き出た本音はリコに対しての不満塗れのものだった。沸き立つ衝動を如何にかしたくて言葉にならない声を叫びながら頭を乱雑に搔きむしる。
「はーっ、はーっ、はぁぁぁぁ……」
幾らか吐き出したお陰で落ち着きを取り戻す頃には僕はある一つのことを決心していた。
「絶対捕まえる」
ナンジャモ姉さんとのコラボ配信ではリスナー達がリコを追っていたけど今度は違う。
僕がリコを捕まえる。幸いにも空の上では逃げ隠れる場所なんか限られている。そもそも空の上にいるのだから逃げようにも逃げられない逃げることなんか不可能だ。
「さて、楽しい鬼ごっこの始まりだよリコ」
ドットがリコ捕獲に闘志を燃やし彼女捜索に船内を駆けだした頃、思わず逃げ出してしまったリコは謝罪と困惑に塗れ足を止めたくても止められずにいた。
「(何してんの何してんの。思わず逃げちゃった。まだ頭と心が追っつかないから?それでもそれでも逃げるのは違くない?どうしようどうしよう)」
リコは駆けていた足の速度を徐々に落とし、最後は二、三歩進んで足を止めた。自身の胸に手を当て深呼吸。
「(一先ず落ち着こう。落ち着いて落ち着いて、それからそれから……)」
色々考えながら歩いていた為リコは横に伸びる通路の壁に背を預け佇むドットの存在にワンテンポ遅れて気付くのだった。
「やあ、リコ。これから何処かお出かけかい?」
やや怒気を孕んでいるドットの声にリコの体がその場で数センチ浮いた。リコが錆びついた秒針のようにぎこちない動きで顔をドットの顔を、見る前にほぼ反射的に走り出してしまった。
走り出した瞬間リコの心の声は謝罪一色に染まり、何となく振り返った先に見た鬼気迫る雰囲気を纏い追い掛けるドットにまた心の声が一気に賑やかになった。
「(なんでどうしてドットが私のこと追ってるの?!しかも怒ってる?なんでなんで私なにか怒らせるようなこと、したかもしれない。いやした。謝らなきゃ、謝らないと、でも、足が止まってくれないぃぃぃ!!)」
正直いっぱいいっぱいだったリコは知らずドットの部屋の方、袋小路の方向へ誘導されているということには知る由もなく。分かった時にはもうドットの部屋の扉の前で退路が断たれていた。
あの日以来に走ったから息切れする。だけど、もうリコは逃げられない。目を忙しなく動かして逃げようとしているみたいだけど退路は僕が塞いでいるから無理。
同じ距離を走ったっていうのに息切れしないリコにまた別の感情が浮かぶも蓋をする。今はそれは重要じゃない、何故僕から逃──。
「ごめんなさいっ!」
開口一番謝罪するリコが、頭を深々と下げるリコが、僕の目を僕を見てくれないリコが、途轍もなく苛立ち腹が立った。
だからリコの肩がビクっとなるくらい大きな音を立てて彼女の顔横に手を押し付けた。
「なんで謝るの、なんで逃げるの…。たしかに僕はぐるみんでリコはファンだってのは知ってるけど、それでも!あの日みたいに普通に接してよ!僕はドットでぐるみんかもしれないけど、僕をドットとして見てよ!」
我ながら勝手な我儘だと思う。でも、僕はリコに僕として見て欲しいし接して欲しかった。真っすぐ目を逸らさずにリコを見つめ続けた。
どうかどうか……、空より高く海より深い青色の瞳で僕を見てお願いリコ。
あれだけ泳いでいたリコの目が真っすぐ僕を見つめ、申し訳なさそうに伏せられた。
「ごめんねドット。私想像以上にあなたのこと傷つけて、」
「これから前みたいに話して……」
リコの言葉を遮り僕の想いを告げれば、彼女はやわらかく微笑んでくれた。
「…頑張る」
「……部屋にも時々遊びに来て」
「分かった」
逸らさず見つめ返してくれるリコの青い瞳に映る自分の顔は随分情けないものだった。
だけど、僕のことを真っすぐ逸らさず見てくれている事実に僕の心は満たされ、僕から逃げないリコに体から理不尽な怒りが消えていく感覚に目を眇めた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.