【カミ東】其の御心、神のみぞ知る

いいか、これが🔪🍮に狂い踊る者の末路だ。キス(広義)してるから気を付けてね。

兎角別段変わりなく普通に挨拶を交わした。ただそれだけだった。
「よ、ぶふっ」
軽く上げた右腕がそのまま固定されたかと思えば東雲の視界が何かに塞がれた。
それがカミキリの甚平だと理解するのに数秒ほど掛かり、カミキリを引き剥がそうにもがっちりホールドされ中々取れない剥がれない。
物理的な圧迫感もさることながら、ぎゅ~っと抱きつかれているため息がし難い。カミキリの胸部に顔を埋めるかたちのため東雲が抗議の声を上げるたび、甚平の布地の感触が唇に伝わる。
東雲の頭を抱え込み両足を上半身に巻き付けたカミキリ。それを東雲が振り払うべく体を滅茶苦茶にぶん回すが、カミキリもカミキリで踏ん張っている所為ですっぽ抜けることはなかった。
東雲が暴れれば暴れるほどカミキリの拘束が固くなり、それに比例するように息苦しさが増す。
「(酸欠で倒れるとか、洒落になんねぇぞ……)」
全く変わらない視界の中、荒く熱が籠った息をカミキリの吐きつける東雲の思考は若干ぼんやりし始めていた。
肩で息をしていた東雲は自分の乱れた息遣いに紛れ他の、自分ではない呼吸音が鼓膜を震わせるのに気付いた。
薄暗い闇に紛れた其れは文字通り目と鼻の先から聞こえ、東雲が音の出どころを特定するなり潜めていた呼吸音から湿った、何かが開く音へと変わった。
近すぎて見えないものの、確かに其れは口角をつりあげ笑っていた。
「は、口──!?」
カミキリの胸部から歯茎を剥き出し大きく開かれた口と対面した東雲が目を瞠り、

べちょ

「は?今のな──!?やめ、やめろ!」

湿り柔らかくざらついた感触が頬から瞼上に掛け押し付けられたことに目を閉じせざるを得なかった。
普通の人間の口より大きなカミキリの口から伸びる舌もまた肉厚で長く。狭い空間ながらも懸命に避けるべく顔を背ける東雲の顔をカミキリは容赦なく舐め上げた。
カミキリの舌先が這うたび、東雲の顔に唾液が塗り込まれる。しかも舌先は何かを探すかのように何度も何度も往復するものだから、東雲は舌が入らぬよう口を真一文字に閉じた。結果息が出来ず陸の上で溺れる感覚に陥ることとなった。
「いい加減、気持ち悪いことすんな!!」
だが、息継ぎと抗議の声を上げるべく東雲は口を開いた。
「あが!?」
「見つケた」
それが悪手とも知らずに。
東雲の唇が閉じる前にカミキリの舌がぬるり中に入り込む。虚を突かれるも、中に入り込んだカミキリの舌を押し返すべく東雲の舌が動くも物理的な差から叶わなかった。無力に蠢くしかない東雲の舌の上を我が物顔でカミキリの舌が居座り、そのまま喉の奥へと進み始めた。
舌を咬もうにも閉じれない。それどころか本当に陸で溺れてしまう事態に東雲は声にならない声を上げた。
「気持ち悪いケド、飲んで」
カミキリの言葉は何処までも抑揚が無く、大きな目も直向きに東雲のこと見つめている。
東雲の口に喉に注がれるカミキリの唾液。飲まなければ溺れる、飲まなければ息が出来ない。されど、否応なしに注がれる其れは東雲の喉をお構いなしに上下に動かした。
「ソウ、飲んで。腑に落ちるマで、満たスまで。飲ンで」
ゆっくりと東雲の喉が一定数上下に動く感覚を数えたカミキリが東雲の口から舌を抜き抱きついていた腕と足を緩めた。
軽い身の熟しで着地したカミキリの大きな目が顔を赤らめふらふらと揺れる東雲を見上げる。
すると、東雲は口元を押さえそのまま膝を折り腹の奥から込み上がる其れを吐き出した。
両手を床につき苦しそうに嗚咽する東雲の口から透明な吐瀉物に交じり黒く蠢く紐のようなものが吐き出される。
「ヤット出た」
言うが否やカミキリは右手掌から折れた刀身を出し、黒い紐に突き刺し斬り裂いた。カミキリに斬り裂かれた黒い紐は呪詛めいた断末魔を残し霧散するも、その呪詛すら斬り捨てたカミキリは何が起こったのか全く分からずただ茫然と床を眺めている東雲の頭を抱きしめた。
大事に大切に慈しみに溢れた腕は先程はまるで違い、愛おしげに東雲の頭に頬ずりするカミキリに東雲の思考は追っつかない。
「頑張っタ、エライエライ」
……は?へ?」
「ダイジョウブ、もうダイジョウブだから」
「お、おう……?」
ありがと?終始疑問符を浮かべている東雲は一先ずカミキリに何だか分からないがお礼を述べるのだった。