【カミ東】『また譚 縺ヲ縺ュ』

カミ東で夏の欲張りセット話(書きたいところだけ)(箇条書きもどき)

「お祭りニ行きたい」
時計の針が17時を差すか差さないかの時間。
そろそろ夕飯の準備をしようとツヅミが台所に立った時、部屋の中でふわふわ浮いていた有希が放った言葉にツヅミは足を止め振り返った。まだ現役高校生にもかかわらず、割烹着を着こなす姿はまさにオカン。
「お祭り?」
「ソう」
「そういや、今日隣町の神社でお祭りやってんな」
汗の搔いた麦茶入りのグラスを傾けながら東雲が応える。
そういえばツヅミと一緒に買い出しに出かけた際、何人か浴衣姿の人たちとすれ違っていたのを東雲は思い出した。風情ある浴衣姿にカラコロ鳴る下駄の音は皆楽し気で、これぞ夏の風物詩といったところ。
「今日ノ夕ご飯、出店のヤツ食べたい」
お好み焼き、たこ焼き、イカ焼き。興奮気味に空中で回転する有希が口々に出店に並んでいるであろう食べ物を連ねていく。
それを困り顔で眉尻を下げながら見ていたツヅミの視線が東雲に投げ掛けられる。
ツヅミと視線がバチりと合い、彼女が言わんとしていることを察した東雲は自身の膝を叩きつつ立ち上がった。
「んじゃ~ 今日の夕ご飯は出店で決まりっと」
「イエ────イ」
グルルルル。有希の回転速度がこの日最高速を叩きだした。

浴衣を着て行けば更に雰囲気は増すものの、別段浴衣を着るまでもないもとより浴衣を持っていないため普段通りの格好で夏祭りに行く運びとなった。
祭りの出店で何を食べようか談議に花を咲かせていれば、丁度仕事帰りのカミキリとマンション入り口の前で鉢合わせた。
「たダいま」
「お、か……おーす」
如何にも”ただいま””おかえり”のやり取りが恥かしくて誤魔化す東雲にツヅミの何やらもの言いたげな眼差しが刺さる。更にはツヅミの無言の圧に加え、有希も「オ、なんだなんだ」と乗っかってくる始末。
東雲の挨拶の代わりに軽く上げた右手が気恥ずかしさでゆるゆる下がっていく。
この居たたまれない状況を打破すべく、東雲は自分の部屋に帰っていこうとするカミキリに声を掛けた。
「そうだ! カミキリさんも一緒にお祭りに行かない?」
「お祭リ?」
「丁度隣町の神社でやってんだ」
カミキリが歩を止め聞き返してくれたことに内心ガッツポーズをする東雲。
だが、有希は既に先のことから興味を失ったらしく一人勝手にふよふよ浮かび行こうとしているのをツヅミが懸命に宥め止めていた。
「大家はやくハヤく」
ぶんぶん両腕を上下に振るう有希から早く行きたくてしょうがない気持ちが駄々洩れだ。
「って、事で荷物置いてさっさと着替えて行こうぜ、な?」
「僕ハ……
やや急かす東雲に少し言い淀むカミキリだったが少し逡巡したあと小さく頷いた。
「分かっタ。チョット待ってて」
マンション入り口前で三人が待っていれば仕事着の袴姿から甚平に着替えたカミキリが合流。
四人揃って隣町の神社に向かうべく歩き出した。隣町の神社とはいっても徒歩圏内のため、四人談笑しながら歩いていれば同じく神社に向かっているのか同じ方向へ向かう人波が増えてきた。
誰も彼も楽し気な雰囲気は自然と四人の足取りを軽くさせる。
まだ日が暮れないうちに隣町の神社に到着すれば賑わう人々の喧騒と祭囃子を聞いて我慢できず、有希が一人飛び出してしまった。器用に人々の頭上を飛んでいく姿は人込みなど一切関係ない。
それにぎょっと驚くも間髪入れずツヅミが人込みの中に突っ込んでいった。
「ま、待ってくださ~い!」
ツヅミは内心この人込みの中、もしも有希が他の人に見つかったら不味いという気持ちと単純に有希がはぐれてしまう心配でいっぱいいっぱいだった。気合で人の波をかき分けるツヅミの声がどんどん遠のいていく。
とっくに見えなくなった二人に置いてけぼりをくらう東雲とカミキリは暫し鳥居の前で佇んだ。
「いざとなったらスマホで連絡取ればいっか。んじゃ、私らも行きますか」
ん、と東雲がカミキリに手を差し出す。
それを見たカミキリが小首を傾げる。
「この人込みの中、はぐれないようにな」
差し出された手の意味を理解したカミキリは兎角自分が子供扱いされていることを気にすることもなく、東雲から差し出された手を柔和な笑みを浮かべつつぎゅっと掴んだ。
そして、二人も賑わう人込みの中へと進んでいった。
………
ただ鳥居を潜る際、カミキリだけは何処からか此方を見ている気配に一人周囲を見渡した。



結局、ツヅミたちと合流できず二手に分かれてお祭りを楽しむことになり。
金魚すくい、射的、輪投げと堪能した後、十二分に堪能した東雲とカミキリは祭りの期間中設置されているベンチに腰を下ろし休んでいた。背には境内の植わった木々たちがゆらり立ち並び灯りのともらない其処は何処までも暗い。
東雲はイカ焼きを片手に持ちながら器用にお好み焼きを頬張り、カミキリはその隣でたこ焼きを味わっていた。
二人の視線の先にはお祭りを楽しむ人々とその奥に出店の派手な暖簾が並び目からも音からも賑やかさで満ち溢れていた。
「(神社、お祭り)」
久方ぶりに味わう祭りの雰囲気を満喫するカミキリであったが、ふと以前自身が祀られていた神社を思い出し心が寂しくなる寸前、隣でプシュッとプルタブが開けられる音がカミキリの意識を引き戻した。
「ぷはーっ!やっぱ濃いソース味にはビールが合いますなあ!」
いつの間にかキンキンに冷えた缶ビールを買ってきた東雲が乾いた喉を潤していた。
本当に美味しそうに食べ飲む東雲の姿にカミキリの心に広がりつつあった寂しい気持ちが霧散する。
知らず微笑んでいたカミキリの目の前に冷たい雫を滴らせているラムネ瓶が差し出された。
「はい、カミキリさんの分」
「ありガとう」
カミキリがたこ焼きをベンチに置き、東雲からラムネ瓶を受け取る。しゅわしゅわと炭酸の中に転がっているビー玉を眺めてから一口飲めば、カミキリの口の中にラムネの味が広がった。
「おいシい」
「だよな~。ウチで飲むのとお祭りの時に飲むのとじゃ全然ちが──」

『縺昴l縲∝ヵ縺ォ縺。繧�≧縺�縺�』

不意に聞こえた声は人々の雑踏の中でも切り取られたかのようにはっきり耳に届き、その声の相手に意識を向けた途端静寂が大きく口を開け他の音を飲み込んでしまった。
東雲とカミキリが振り返る。果たしてそこに居たのは白い狐のお面を被った着物姿の男の子だった。
年と背丈はカミキリと同じくらいか。
人間が発する言葉ではないノイズの掛かった声に東雲が怪訝な視線を投げかけ、カミキリは静かに狐面の少年を見つめる。

『縺ゅl�溘″縺薙∴縺ヲ縺ェ縺�シ�』

わざとらしく首を傾げる狐面の少年にカミキリの目つきがやおら鋭くなった。

「ゴメン、なに言ってるのか全然分かんねぇんだわ」
二人の少年の間に走っていた緊張が東雲の一言で無くなり、ふっと軽くなった空気に狐面の少年が笑い出した。

『お前、おもしろい』
「つーか、この感じだとあんたもオバケか!?おっひょひょ~」
『ヘンな気配がして覗いてた。そしたらお前たち来た。お前人間なのに人間じゃないのと一緒にいるヘンなの。だけどそれがおもしろい』
この世ならざる相手だと分かった途端、営業モードに入る東雲の目は輝きに輝いていた。

「なあ、あんた何処住み?今なら丁度」
「大家さん」
「ちょっと待ってカミキリさん、今大事なところ」
「そのモノ、家持ち」
「──は?」
「此処の神社に祀られている、神」
「マジか~」

東雲があからさまに残念がる様子を見た狐面の少年がケラケラ笑う。

『やっぱり、お前おもしろい。だから、お前が僕のところに来い。そこの零落したやつより僕の方がいい。お前も僕と一緒の方がいいに決まってる』

零落と言われカミキリの顔が曇る。
俯き口を閉ざし前髪に隠れて見えないものの、恐らく眉根を潜めているであろうその姿に東雲の営業モードが一気に解かれた。
「え、私あんたのトコ行かないけど」
冷たく吐かれた東雲の言葉に狐面の少年が纏う空気が変わる。
断られるなど毛頭なかったがゆえに狐面に隠された瞳の炎が揺らめく。
『なんでだ?綺麗で大きい社ある、食べ物沢山お供えされる、毎日遊べる、いいことだらけ』
「あのなあ、ウチのマンションの住人悪く言うやつのところには行きたくないし、私は大家だからマンションから離れる気更々ないんだわ」
きっぱり断る東雲をカミキリは片時も目を逸らす事は無かった。
重苦しかった心すら軽くなる感覚に、凛々しい顔付をする東雲に薄闇溶ける夜明けを見た。

『繧�▲縺ア繧翫♀繧ゅ@繧阪>縲∵ャイ縺励>縺ェ縺ゅ€ょヵ縺ォ縺翫¥繧後h縲√↑縺�』
「だから何言ってんだてめぇ」
喧嘩腰になりがベンチから立ち上がる東雲にカミキリが右腕で遮る形で彼女を止めた。
だが、カミキリの宵闇の瞳は狐面の少年を睨みつけている。
「駄目」
「止めんなってカミキリさん!」
東雲は単純にカミキリは自分が手をあげようとしていたのを止めたと思っているがそうではない。
前に前にと乗り出す東雲を押さえるカミキリの手は腕は一寸たりとも狐面の少年のもとへ行かせまいとしている。
まるで大事なものを護るように、大切なものを取られないように。
そんな様子を狐面の少年の声は残念だと云わんばかりに両手を頭の後ろで組んだ。

三者無言のまま向かい合っていたその時、花火の打ち上がる音と共に歓声が沸き響き渡る。
いつの間にか花火大会の時間になっていたらしい。
東雲の意識がそちら側に向かったのを見計らい、狐面の少年が暗闇に溶け込ませるように姿を消した。

『じゃあ、またね。花火楽しんでいって』

狐面の少年が消える間際聞こえた声に東雲が振り返るも既に少年の姿はない。
未だに見られている気配はするものの、一先ずカミキリは警戒を解き上げていた右腕を下ろした。
何んとも言えない空気の中、一先ず買ったものを食べてから自分らも花火を見に行こうと東雲とカミキリはベンチに腰を下ろし直した。



皆考えることは同じか少しでも花火が良く見える場所へと人がごった返していた。
右に左に、前に後ろに。人の動きに合わせて東雲とカミキリの体も流される。
「私でこんなんだから、カミキリさんはわああああ!?」
身動きが取りづらい中、首を捻りカミキリがいる方向を見た瞬間東雲は声を上げた。
東雲は人の波に溺れ最早伸ばされた腕でしか認識出来ていないカミキリのもとに人をかき分け近付き腕ごと沈みかけていたカミキリの体を引っ張り上げた。心なしかぐったりしている。
このままでは、花火どころではないのでどうするかと考えた後東雲はカミキリを自身の肩に乗せた。
ぷはっと漸く息ができるカミキリの視界いっぱいに広がる大輪の花火。打ち上がる花火の振動が重低音と共に耳と肌に伝わる。鼻を掠める火薬の匂い。
綺麗だとか、大家さん重くないとか、色々浮かぶカミキリだったがとても楽し気に「たまやー!」と叫ぶ東雲につられカミキリも「たマやー」と叫んだ。


最後の花火が打ち終われば、人々は口々に感想を言い合い其々家路に着いていく。
漸く人の波が引き始めたので東雲は肩車していたカミキリを下ろすべく両手で掴み持ち上げた。
気の所為だろうか。心なしかカミキリが東雲の頭にがしがみ付き、足を軽く胸元で交差させたかのように思えた。下りる際のバランスが崩れるのが怖いのかもしれない。
そう考えた東雲はカミキリに声を掛ければ、ゆるゆるとカミキリから力が抜けた。
東雲がカミキリを肩から下ろしている最中、後方からヘロヘロした声が掛けられた。
「やっと合流できたー
疲弊しきりへたり込むツヅミの隣で上機嫌なのか不機嫌なのか定かではない有希がふわふわと浮いている。
「おーい。ツヅミ大丈夫か?おぶるぞ?」
疲労困憊。まともな返事すらできないツヅミをおぶり東雲はカミキリ、有希と共にマンションへと帰っていった。



東雲はマンション敷地内に折り畳みテーブルの上に市販の花火を並べ、水が入ったバケツを二個等間隔に置き、火を付けた蝋燭を地面に立て、ふぅと息を吐いた。
準備は万端。マンション住人全員での花火大会を始める切っ掛けは有希が前日の花火大会で良い思いをしなかったからである。
早速各々楽しんでいるのを見て自分もやりますかっと東雲が袋を漁るが線香花火しか残っていない。
「減るのがマッハで速いな!?」
そう突っ込まずにはいられない。
致し方なく派手な手持ち花火組から少し離れてやりますかと腰を下ろした。
もう一本蠟燭を立ててもいいが自分一人だけならと東雲はポケットから百均ライター取り出し、シュポっと火を付けた。
「侘び寂びだねぇ。この地味な感じが……、くっそ花火もうワンセット買ってくるんだった」
ドラゴン花火を囲ってはしゃいでいる有希たちにぶつぶつ愚痴を零す東雲の前に線香花火を持ったカミキリが現れた。
「一緒ニやっていい?」
「もっちろん!あっちより断然盛り上がっていこうぜ」
東雲の言うあっちとは手持ち花火を両手で持ち駆け回る組のこと言っている。
危ないからやめて下さいとツヅミの悲痛な声が響く。

ただ線香花火で盛り上がるわけもなく、淡々と本数を消費していくだけ。
パチパチ弾ける火花と潤いのある橙色の光の玉が小刻みに揺れる光景をぼんやり東雲が眺めていると、カミキリが自身も線香花火の弾ける火花を眺めながら話し掛ける。
「大家さん、昨日はありガとう」
「昨日?──ああ、あれね」
東雲の線香花火の玉が落ち、新しい線香花火を袋からガサゴソ探しながら続ける。
「言ってる意味はわかんねぇけど、な~んか嫌な言い方してたしな」
遅れてカミキリの線香花火の玉が落ちた。カミキリも新しいのを貰おうと東雲の隣にやってくる。
「そもそも私が此処残して出て行く気なんてこれぽっちもないわけで」
隣に来たカミキリに線香花火を渡す東雲。そのまま二人向かい合うかたちでしゃがみ、東雲がライターで火を付ける。
パチパチ弾ける火花が柔らかく二人を照らす。
「途中で投げだすなんてことは絶対しないし、最後まで責任もって一緒にいるっての」
礼金貰ってるしね、とちょっとはにかみ話す東雲に以前祀られていた神社を懐かしむ心は残っているものの東雲に誘われてこのマンションに住んで本当に良かったと改めて思った。
「そうだ! カミキリさん、線香花火おっきくしようぜ」
「どうやっテ?」
悪だくみをする子供のように笑う東雲がカミキリの隣に寄る。肩が触れ合うか触れ合わないかの距離。
「こう、二人の線香花火の先端をくっつけて……。じゃーん! 玉がおっきくなったぜ。まあ、その分落ちやすくなるのがネックだけど」
「火花が多くナッタ気がする」
「だろ~?」
二本分の線香花火の火の玉が滴るか滴らないか絶妙なバランスで揺れ動く。
真直ぐにされど余計な動きで玉を落とさぬよう真剣に線香花火を見つめる東雲の横顔をカミキリが見遣る。
線香花火が放つ灯りが東雲の瞳に揺らめき映り込む様に見惚れていたことにカミキリが気付いたのは東雲から発せられた焦り声が聞こえた時だった。
「あ!?落ちる!」
カミキリは視線を手元の線香花火に戻せば、頼りなくくっ付いてた火の玉がじりじりと落ちるところだった。
線香花火二つ分の火の玉が呆気なくアスファルトの上に落ち息絶えた。
「線香花火の終わりって他の花火と違ってなんか寂しいよなぁ」
「僕、線香花火好き」
とっくに黒くなってしまった線香花火の火の玉から視線を東雲に向けるカミキリ。
「弾ける火花の色、キレイ」
東雲の髪、そして瞳と同じ色という言葉は終ぞカミキリの口から出る事は無かった。
「私も今日で更に好きになったよ」
カミキリの言葉にニカリ笑う東雲。こういう思い出作りはいいことだもんな。
そう続ける東雲にカミキリは頷いた。