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豆炭々炬燵
2796文字
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魔法使いの嫁
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【ヨセチセ】いたずらですむとでも?
???「いやはやうっかりうっかり」お題箱リクエスト。
「おはよう、ルツ」
思えば普段聞いている欠伸を聞く前に挨拶していたと、心なしか自分の口から発せられた声の感じがおかしかったような気がしていたと、
言い表しがたい予感が沈んでいた意識を掬い上げてくる。
「ここ、どこ」
チセは漸く目の前に広がる光景に疑問を抱く。
どんどん醒めていく意識と共に湧き出た警戒心が今いる場所が何処なのかと積極的に情報を得るべく周囲を見渡す。
ふかふかの寝床が広がる底。見上げた空は丸く青い。曲線を描く石の壁から等間隔で突き出た階段。
鼻を擽る匂い、無意識に自身の肩を抱いた腕の物足りなさ、目に映る世界の見え方の違いを混乱しないよう噛み砕こうとした矢先、
頭の上から落ちてくる本来の自分の雄叫びに近い絶叫ににチセは小さく「私、あんな声だせるんだ
…
」と自分の声ではない声を漏らした。
不思議かな。自分より他のものが慌てふためいていると静かに物事を察してしまう。チセの中で朧気だった疑惑が確信に変わった瞬間だった。
「(これは、はやく上に行かないと)」
覚束ない足取りで階段の傍まで来たものの、さてどうしたものか。
階段を踏み外したところで如何という事は無いだろうが、一応無い左手の代わりに左肩を石の壁にくっ付けながら一歩一歩上ることにした。
空が近付くにつれ何か盛大に物にぶつかった音や困惑と怒りが混ぜこぜになった声たちがパレードのごとくチセの耳に届く。
いっそここからでも呼んでみた方がいいか。逡巡していたチセの眼前に黒い塊が、ぶわっと飛び込んできた。
それが滅多に見ないルツの半狂乱に近い泣き顔にチセはぎょっとした。
そして、飛び込んできた相手を受け止めるべく腕を広げたが、小さい足場と慣れない体は見事相手の勢いを押し殺すことが出来ず仲良く底に落ちてしまった。
その日はやけに眩しかったのを覚えている。
朝日の鬱陶しさを払うように身動ぎすれば、指先に何かが絡みつく。それは柔らかい獣の毛だった。
最近では触れない感触。思わず長い毛足をひと撫ですれば、湿り気を帯びた何かがひやりと頬に押し付けられ寝ぼけているものの殊更優し気な声色が耳をくすぐる。
そのあまりにも純粋で思いやりのある声色に吐き気を覚えたヨセフが勢いよく体を起こした。
くわぁと大きな欠伸をする黒犬の存在にヨセフは思わず身構え無い左手で自分を抱く。すると、どうだ。無かったはずの左腕がしっかりと自分を抱きしめているではないか。
「
……
は?」
定まらない視点で周囲を見渡し、恐る恐る両手で自分の顔をぺたぺた触る。一回二回と回数が増えるのに比例してヨセフの顔からスーッと血の気が引いていき変換出来得る限りの感情を声にして吐き出した。
間髪置かず隣で寝ぼけていたルツの目もやにわの出来事に驚きながらも目が醒め、半狂乱になっているチセを落ち着かせようと声を掛けた時だった。
「──!?」
ルツは混乱した。目の前にいるのはチセであってチセではないと感じてしまっている自分自身に対し大いに混乱した。
挙動うんぬんの問題ではない。もっと根本的な何かが違う、とルツは部屋の中で物に当たりかねないほど憤慨しているチセに小さな声で呼び掛ける他なかった。
程なくして大きな足音がチセの部屋の前まで迫るや否や勢いよく扉が開け放たれた。
「チセ!どうしたんだ、
………
い?」
扉を開けたエリアスが言葉を詰まらせる。今まで見たことのない、この世の全てに絶望したと言わんばかりに感情を顕わに叫ぶチセとルツ。呆然とするエリアスを正気に戻したのは、やや不機嫌気味に後から来た銀の君だった。
扉の前で立ち尽くしているエリアスの横に立ち朝食が出来たと告げる。ついでチセ達にも伝えるべく顔を覗かせた瞬間、声にならない声で銀の君の悲鳴が家中に響き渡った。
やがて中身と外見が一致しないことに気が付いたルツは急いで主人を探し回り、警戒をしつつもとりあえずエリアス含めた三人は一階に下りた。
そして、今に至る
……
。
「で、これは僕に対しての嫌がらせってやつ?」
もの凄い不機嫌な顔をしてソファに踏ん反り返って座っているのを同じく隣に座りまじまじと見ているチセにヨセフの機嫌がますます悪くなっていくのは言うまでもなく、
その向かい側に座っているエリアスの機嫌も同じかそれ以上に悪くなっていく。
「──君は、チセや僕たちにとって何の意味も無しえない事をすると本気で思っているのかい」
「少なくとも、
…
なんでもない」
怒気を孕んだエリアスの問いにヨセフは視線を逸らし言葉を濁す。なんとなくチセは彼が何を言おうとしていたのか分かっていたが心の中にそっとしまった。
「まあ、お前たちがしたって事じゃないのは分かった。
……
だから、これ如何にかしてくんない」
僕の姿で僕のことをそんな風に見るなと、強めの語気で吐き捨てるヨセフにチセの隻眼が丸くなる。
「いや、どんな仕組みで私とあなたの魂が入れ替わっちゃったのか気になって」
「おいっ!保護者! お前もハッとした顔で見るな!」
学院に通うようになってから自身らの知識にない出来事に対して、良くも悪くも吸収しようとする師弟にヨセフが口汚く罵倒した。
何故こんな面倒なことになり、一体いつまでこの状態が続くのか。皆々悩み唸り原因を考えるも結論は出ず平行線をたどる。
もし、今日中に戻らなかったら学院はどうしよう。いっそヨセフの姿で行くか、自身の代わりにヨセフに行ってもらおうか。ある意味究極の二択を考えていたチセの耳にやや焦り気味の声が届く。
「チセー! いるー!?」
ドアベルを鳴らさず、玄関扉を叩きながらチセを呼ぶステラの声に姿が変わっているのも忘れ、チセは急いで玄関に向かい扉を開けた。
「え?
……
チセ?」
身構えた後、目を細め爪先から頭の天辺まで観察したステラがおずおずと尋ねる。
「あっ、うん。私わたし」
バツが悪そうに頬を人差し指で搔きながらチセが応えた。
廊下奥から「僕の格好で変なことしないでくれる?」と、気だるげにヨセフも出てくればステラが全てを悟ったように声を漏らした。
「やっぱり
…
」
玄関先にエリアスとルツも来たのを確認してからステラが虚空を右手で引っ張り、先程まで見えていなかった灰ノ目を指さした。
「こいつが犯人よ」
「やれ、とんだ濡れ衣よな」
「どこが!」
どうやら灰ノ目に朝から面白いことが起きるぞと言われたステラは嫌な予感がしてチセに会いに来たようだった。
そして、チセを呼んだにもかかわらず玄関先に来たのは見たことのない人であったものの、にじみ出る雰囲気がチセだと思い、更に奥から現れたチセを見て確信したという。
何故ステラと灰ノ目が一緒にいるんだという疑問は二人揃ってはぐらかされてしまったが、時間が経てば元に戻るらしいのでチセはホッと胸を撫で下ろした。
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