豆炭々炬燵
1879文字
Public SSSS.GRIDMAN
 

【ボラ裕】一端の男

その差はあってないようなもの。

アスファルトを焦がす夏の日差しから半ば逃げ込む形で絢喫茶店の扉を潜れば心地よい涼しさが裕太たちを出迎えた。奥の喫茶スペースでは既に馴染みの顔ぶれが揃っている。特に怪獣が出ない限り今後の方針について真面目に話し合う、と見せかけた雑談が始まるのが常だった。
ソファ向かいのカウンター席に座っていた内海が何かを思い出したのか今していた話を切り上げ話題を変えた。
「そういえば以前この中で一番強いのは~っでマックスさん出撃してくれたじゃないですか」
冗談めいた軽い内海の口調に一瞬で新世紀中学生の四人の視線が彼に集まる。名状しがたい強い意志が込められた視線を注がれているとも知らず、次の言葉を発声しようと内海が口を開けた瞬間、彼の向う脛に激痛が走った。
間髪開けず上がる悲鳴。次いで耐え忍ぶ唸り声に裕太はその痛みを想像して眉根を潜めた。
「誰が一番弱ェだって?」
悶絶する内海の向う脛を固い革靴のつま先が食い込む勢いで蹴り飛ばしたボラーは不服だと言わんばかりに目を眇めている。そんな痛がる内海を睨む剣呑とした目線が何の前触れもなく裕太に注がれた。
「裕太、ちょっと立て」
「は、はい!」
知らぬ間に気分を害してしまったのかもしれない。いつもよりドスのきいた口調で呼ばれた裕太は殆ど反射神経よろしく椅子から勢いよく立ち上がった。ピシッと両腕を横に置き直立する裕太は刑を申し渡される被告人よろしく極度の緊張感に包まれていた。
スーツのズボンに両手を突っ込み上半身を左右に揺らしながら裕太にボラーが歩み寄る。その様子を傍で見ていた内海の頭に「小学生ヤンキーか」という言葉が思い浮かぶも無理くり飲み込んだ。これ以上脛を蹴られたらきっと使い物にならなくなる。彼なりに学習した結果だった。
小柄なボラーが裕太を下から睨み上げる。完全に不良に絡まれた無害な一般人化している裕太の目が忙しなく泳ぎ回っていたその時だった。
「っと」
裕太の足元に軽い衝撃が走ったかと思えば彼の世界が反転した。ふわり体が浮く浮遊感の次に来たのは力強く安定したなにかに支えられる感触だった。
「どうよ」
呆然とする頭で何処となく誇らしげな声がする方向へ裕太が顔を向ける。すぐ間近にあったボラーのドヤ顔に裕太はただただ頷く他なかった。まだ現状を把握しきれていない裕太を軽々両手で抱えるボラーが痛みが引いてきた内海に向き合いしたり顔をすれば内海は諸手を上げ頭を垂れた。
つまるところ。裕太を足元を払い体勢が崩れたのを危なげなくボラーが受け止めたのだ。
じわじわと今自分の置かれた状況を理解し始めたらしく裕太の顔が赤くなり体が羞恥から小刻みに震えだした。
「お、重いですよね!? 俺、おります!」
「オイオイ。俺だって男だぜェ? こんくらい余裕余裕つかちゃんと飯食ってっか? 軽すぎんぞ」
抱えた裕太を上下に揺らし重さを計るボラーに裕太は恥ずかしすぎて両手で顔を隠すことしか出来なかった。
声にならない悲鳴にスマホを見ていたヴィットが「その辺にしておきなよ。彼このままだと茹蛸になるよ」と助け船を出したところで真面目に取り合う気配が無いため、ボラーが裕太を下ろすことはなかった。
裕太を抱えた状態でボラーがクルクル回れば彼から何とも言えないか細い悲鳴が上がる。
そんな裕太の反応が面白くて仕方なく、ボラーはわざと吐息まじりに掠れ囁く声を熱を持った耳に吹き込んだ。
「可愛いじゃねえか裕太」
両手の隙間から見える驚愕と困惑に彩られ見開く青色の瞳、何か言おうと戦慄き開閉をくり返す瑞々しい唇。生娘染みた初心な反応に先程までの機嫌の悪さはどこへやら。完全に機嫌直る通り越し上機嫌になったボラーが極めつけに彼の額に自身の唇を押し付けたのと同時に座っていた新世紀中学生の面々が勢いよく立ち上がった。
「こういうもんは早い者勝ちだろ?」
それでも勝気な笑みを崩さないボラーに無言のままキャリバーが腰に携えた刀に手を添え、ボラー達の後ろに回り込む形でマックスが仁王立ち、ヴィットに至ってはスマホをジャケットのポケットに片付け柔和な笑みを浮かべながらも目が笑ってない。
まさに一触即発の現状に内海が唾を飲み込み、買い出しから戻ってきた六花は「え、なにこの状況」と困惑し、グリッドマンは分かっているのか分かっていないのか定かではないことを力強く言っていた。















「裕太は俺んのだ」
「いーや、俺のだね」
「俺のだ」
「違う、裕太は私のだ。──私のだ」
「二度言った」
「ドヤ顔で言うのずるいだろ」