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豆炭々炬燵
1287文字
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The Night
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【The Night】夜霧に潜むもの
薄気味悪い感じにしたかった(遺言
無機質な音が何処からともなく不規則に奏でられ、鉄錆と腐った油の匂いが至る所から匂いだつ。
白い闇になり損ねた蒸気がぬったり湿った舌で舐めまわす。鼻を劈く饐えた香りの元凶が未練がましいうめき声をあげ横切るものにしがみ付こうと這いつくばる。垢と汚泥塗れの手は皮膚が爛れ腐肉の隙間から白い骨が顔を覗かせていた。
腹を空かせた獣以下の脆弱なそれでいて欲深な声。たとえ何か言葉を発していたとしても到底聞き取れない声は言葉としての存在意義を意思疎通の力を持ち合わせていない。
口端から黄色く泡立った涎と共に膿を石畳に擦り付け近づく輩の脳天を丁度杖の先で貫こうとした矢先。
青白い火柱が立ったと思えば青い炎に包まれた不埒な輩が見る見るうちに灰と化していく。肉はおろか骨すら燃え尽きた途端、炎も消え再び周囲には不快感溢れる蒸気が幅を利かせる。
「なに。その杖を汚したくなかったものでね」
闇を掬い取った外套を大げさに広げ身を翻すのに合わせ僅かに残った塵を完全に吹き飛ばした。わざとらしく肩を竦めおどけた顔で言っているが、躊躇いもなく一つの魂を消滅させたには変わりない。
「だったらこんな道通らなければいいだけの事じゃなくて?」
頭蓋骨を貫けなかった代わりに杖を石畳を異議申し立ての意味も含め強く突いた。可能であれば即刻この場から立ち去りたいところを目の前で宥める男に半ば無理やり連れて来られたため非常に気分がよろしくない。
「この路地の先に腕の良い仕立て屋が店を構えていてね。君に飛び切り似合うドレスを是非見繕わせておくれ」
「勝手にわたしの服を変えておいて。そんなもの勝手に選んで買ってくれば済むでしょ」
風を切り素早く持ち替え杖の柄を男の鼻先に突き付けた。動じる素振りを見せるくせ全く動じていない男は一瞬呆けた後、にんまりと赤い目が弧を描く。
「私好みのドレスを着てくれるのは勿論喜ばしい事この上ない。しかしながら君が君自身望むドレスを選び着飾るところも見てみたい」
白い人差し指と中指が宛ら人間が歩いているような動きで杖の柄を歩いていく。子猫にでも語り掛けるような口調で名前を呼び、スキップをさせているつもりか二本の指が跳ね回る。そのまま杖を掴む手に乗り腕をのぼり肩に到着するや否や肩をやんわり掴みその手を滑らせた。緩やかに肩に添って白い手が首筋に近付き、それに比例して男の顔が静かに迫ってくる。
流れるように手の甲が首筋を撫で、頬を撫で、サイドに分けた髪の一房を取り恭しく口付けた。
間近に見える赤色を冷ややかに睨んだところで相手が堪えるわけもなく。逆に視線を交差させたお陰で機嫌が良くなっていっては世話ない。
「きっと気に入るドレスが沢山見つかる。何なら君が好きなように注文しても構わない」
同じ肌の色、同じ瞳の色、同じ夜の世界で過ごせば過ごすだけ元の暮らしから遠ざかっていく感覚が強くなる。
別にそれを悲しんだり懐かしんだりは一切しない。
ただ、しれっと腰に腕を回しエスコートする存在が煩わしいのと同時に如何やら満更でもない自分がいるようでちょっと複雑な気持ちになるだけ。
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