【マホカビ】浅ましく純粋な呪縛

「君と一緒にいると幸せだなぁって感じるよ」
#この台詞から妄想するなら
https://shindanmaker.com/681121

良くも悪くも平和ボケした星。多くの住人は穏やかで暢気に日がな一日を過ごし。小さないざこざも時折起こるが往々にして楽しさのスパイスを加えられ解決する。
乾き飢えを知らない生命と光に満ち溢れたこの星はある者たちからはとても疎ましく魅力的に捉え、別視点を持つ者たちから見ればなんと時代遅れで不自由な暮らしをする原始的な星に見えた。他にも自身の星とは全く違う文明と世界を持つ星なのだと受け入れる者たちもいた。
ただこの星に住まう者たちを侮ってはならない。そして、この星に危害をちょっかいを出しては決してならない。
なぜならば──。

すっかり毒を抜かれた、とは言い難い。隙あらば機会を窺うのも最早馴染んだ癖のようなもの。
橙色に染まる世界に青色の空と海は存在しない。暮れなずむ空を映した波打ち際に引き寄せられローアから降りたマホロアは徐に空を見上げた。橙色に染まらず流れる軌跡を目で追う。
「フゥン」
平和ボケしたこの星には相応しくない欲深な色味を孕んだどす黒い輝きには少々見覚えがあった。
潮騒に吹かれマホロアのローブの裾が躍り、暫くして馴染み深く忘れようのない眩い輝きが空を駆けていく。見知った輝きの登場に今度こそマホロアは哀れだと言わんばかりにため息を吐いた。
「この星を甘ク見たらイタイ目を見るヨォ」
眩い輝きの行方はいずれこの星から離れ何処か遠くへ行くだろう。この星にちょっかいを出してしまった者達のもとへまっすぐに。
「後悔したって遅いヨ。なんてっタッテ一番厄介な相手ニって、ここで言ッテもしかたないカ」
どこの誰かも分からない。見ず知らずの他人相手に同情せずにはいられない。だが、同情するだけで何もしない。それどころかさっさと軽く甘く見ていた相手にコテンパンにやられてしまえと眩い輝きを見送ったマホロアが笑う。
「さテト、今度の旅ハどれくらいで戻ッテ来るカナ」
既に見えない眩い輝きを背にしてローアに戻ろうとすれば聞こえもしない間の抜けた声が聞こえた。振り返る案の定そこには橙色に染まる海と空、砂浜が広がるばかり。呼び掛けるような影も形もない。
さざ波が砂浜に打ち寄せるたび、マホロアの心に微かな寂しさが募っていく。今生の別れでもあるまいし、賑やかで自由奔放の食いしん坊なお人好しに焦がれてしまう。
なんてことない日々を過ごすのがこんなにも退屈で最高だと教えてくれた星の勇者の名前を呟き目を閉じた。

「ホント。君と一緒にイルと幸セダナァって感じルヨ」
嘗て屠ろうとしていた存在だというのに何を言うか。白い両手で胸を押さえやおら目を開ける。あれだけ煩わしかった声が今となっては焦がれに焦がれて仕方ない。
「馬鹿正直に面と向カッテ言わないケド」
マホロアが満更でもない顔で振り返った。相変わらず橙色の世界は穏やかで平和そのもの。何かしらトラブルが起きたところで眩い輝き達が悉く解決して回っているのは見えなくとも分かる。
本当にこの星にちょっかいを出した相手に哀れみを感じると同時に早く桃色の帰還を静かに願うマホロアであった。