神秘的で不確か、恐怖の灯が胸にともるのに惹かれ、理不尽な所業でさえ心を迷わせ惑わせ、正常な判断を曇らせる。夜の世界はそれほどまで恐ろしく危険でありながら暗がりにぬくもりと優しさを求め寂しげな美しさに満ち溢れている。
いつ時か二人で花火を一緒に見た峠から一人見上げる満月の仄かな光を何も考えず見上げていた。雲間の陰から覗く金色の月と虫の音が夏の終わりを告げる。透き通る夜風が後ろで括った髪の尾を揺らす。
どれだけ伸ばしても届かない月に別れを告げた友の姿を重ねた。蘇る楽しい記憶を糧に切り離した真夜中より黒く暗い心が目覚めようと息を潜める。どうせ叶わないというのに健気なものだ。ほとほと呆れながら振り返る。人の手が折り重なり歪な形を成した巨大なナニカの赤い目たちが峠に佇む少女を見下ろしていた。
生気のない死人染みた大きな手が恭しく小さな少女の手を取り、その細い手首に夜露の珠が連なった蜘蛛の糸の輪を潜らせた。肌に触れても壊れることなく形を保ち続ける夜露はまるでガラス玉。きらめく呪縛の腕輪。息を忘れるほど綺麗で魅入ってしまう魂の枷。
月から背き自分の腕に付けられた残酷なまでに美しく輝く腕輪ごと自分の腕をぎゅっと握りしめる少女。何も言わず涙も流さずただただ佇む少女を巨大なナニカは自身の手の中に少女を収め煙のように消えてしまった。
月明りのない星も輝かない暗闇に浮かぶは澱み濁った赤い眼たち。命を深淵に招き弄ぶ虚の主は今宵も無邪気に残忍な遊びを繰り返す。生気のない偽りの骸らが天井から何体もぶら下がり風もないのに揺れる光景を見て気分を害さないものはいないだろう。
全く悪意とは無縁、そう言い切れるのなら目の前に広がる光景をなんといえばいいのか。特に人形遊びのように器無き魂に対して赤い糸を殊更優しい手つきで幾重にも巻き付ける行為は度し難い悪意を感じる。首飾りはたまた首輪代わり、まるで所有物の証でもつけるみたいに。
「ニアッテルニアッテルニアッテル」
壊れ物でも触るように白い異形の手が少女の首を擦り頬を撫でた。熱くも冷たくもない幽玄めいた感触に赤い糸を首に巻かれた器無き魂は静かに目を伏せ小さな体を凭れかせた。異形の主は待ちかねていたのかより優しく慈しみの籠った手つきで亜麻色の髪を撫ぜ続けた。
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