豆炭々炬燵
2640文字
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【ペニビル】選ばれたくて手を差し出す。果たして君はどの手を選ぶのか【気持ちビル総受け】

当初からかって遊んでいたのに途中から半泣きペヤングとビルのセコム化するルザズ。そして流されそうで流されないビルなリメ版ペニビルのお話。

事あるごとに神経を逆撫でる”それ”の言動にクラブのメンバーはうんざりしていた。体格差を利用してビルを後ろから抱き込み引っ付いて離れない。執拗に顔を撫でまわす白い手から逃れようと顔を背けるビルの顔は終始しかめっ面。何とか両肩を押さえる形で巻き付いている”それ”の腕を解こうにも解けずもがくばかり。
如何にかビルを捕まえている”それ”を追詰めても僕たちの包囲網から”それ”は嘲笑うように抜け出し続ける。攻撃したくてもビルがいるから下手に出来ないのを見越してか終始ムカつく声で笑っている。
「ビルを離せ!」
至極真っ当なことを言えば”それ”は必ず小首を傾げお決まりの台詞を言う。
「何故?ビルは私のものなのに?」
「ぼ、僕はおおおお、お前のものになっ、なっなった覚えは、ない!」
「ツレないことを言わないでおくれよビルゥ~」
ここまでのやり取りはお約束にしたくないし、させたくないけどお約束になりつつある。
あからさまに嫌がるビルの反応を楽しみ、彼を奪還すべく躍起になる僕たちを見て愉悦に浸る”それ”。リッチーが何度か奴のケツ目掛けバットを振り抜き、ベバリーは素早い動きで白い頭目掛け鉄柵を突き立てようとしたか。マイクとスタン、ベンに至っては三方向からじりじり近付きマイクの持つ殺戮銃を筆頭にスタンとベンが鉄パイプを握りしめビル奪還を試みる。結果は散々なものだった。僕の毒も”それ”の顔に吹き付けられず何度歯を食いしばったか。
不毛で不愉快極まりない追いかけっこは”それ”の気持ちが収まるまで続き、満足したらあっさりビルを解放した。今度またビルが捕まらないよう必死に対策を練り実行しようとも理不尽に近いやり方で毎度ビルを捕まえ僕たちをからかい弄ぶ。
そして、僕の苛立ちが溜まりに溜まりある時爆発した。
馴染みでお約束な”それ”の台詞のあと僕は喘息で苦しむかもしれない不安も忘れ咆えた。

「ビルはお前のものなんかじゃない!お前のものなんかになるわけがない!」

気道が狭まり息苦しさが忍び寄る。でも、構うもんか。一瞬動きが止まった隙を見逃さず”それ”からビルを引き離すのと同時に白い顔面目掛け毒を浴びせた。
肩で大きく息をしながら吸入器の口に突っ込み引き金を引いた。視線は自分を捕まえていた”それ”に向けられているがビルは僕の背中を呼吸が落ち着くまで擦り続けてくれた。
「あ、ありがとう、エ、エエエ、エディ」
喉が引き攣って上手く言葉が出ない代わりに目で気持ちを伝えれば彼は小さく微笑んだ。視線を前に戻すと呻き声も上げず、ただ茫然と毒で溶けた顔が此方を静かに眺めていた。ぐじゅぐじゅ音を立て溶ける白い皮膚。毒が広がっているのか肉の色が混じった白い塊がぼとりと下に落ち異臭を放つ。
「もうこれで遠慮しなくていいんだね」
冷たい眼差しで”それ”を睨み付けるスタンの肩に腕を絡ませリッチーも笑いながら続けるが、その眼鏡の奥にある目は一切笑っていない。
「おやおや~?如何したってんだ?綺麗な顔がまたべっらぼうに綺麗になっちまってなあ!?」
リッチーに言われ漸く”それ”が自身の顔に触れた途端、また白い塊が粘液をボタボタ引き連れながら落ちた。触れた元白い手を目の前に持ってきても”それ”は顔色一つ変えず声も発しない。剥き出しになった頬骨。鋭く乱雑で獰猛な歯が覗く。
全く動かなくなったこの機会を逃すわけにはいかない。ベンが僕とビルを後ろに隠し庇う中、残りのメンバーが勇ましく”それ”に立ち向かう、はずだった。
……消えた?」
「油断しないで!まだ近くにいるかもしれない!」
音もなければそんな予兆すら見せず忽然と僕たちの前から消えた”それ”。みんな背中合わせになり周囲を見渡し消えた”それ”の姿を探す。ビルもベンから渡された鎖を握りしめぐるり見渡す。金属のかち合う硬い音に紛れ風の音が耳元を吹き抜ける。
すると、辺りに漂っていた言いようのない不穏な空気が流され消え去った。目視できていない根拠だってない、だが確信する。
”それ”は此処からいなくなった。みんなも同じみたいで安堵の溜息がドッと漏れた。
「またこんな事が起きたらどうする」
やっと落ち着いてきたからビルに問い掛ける。彼は手に巻き付けた鎖を解きながら答えた。
「こ、今度は”それ”につか、捕まらないよう、ききき気を付けるさ」
僕にしか聞こえない小さな声は何処か不安を誘い胸の中で渦巻き、次にビルが笑った瞬間何事もなかったように飛散したので然程気に留めなかった。
それから”それ”の姿を見なくなった。永い眠りに入ったのか諦めて何処かに行ったのかは分からない。
だけど消える寸前、”それ”の金色の瞳がビルを見続けたことが如何にも引っ掛かる。あの何かを訴えかけていたかのような眼差しが、怒りとも悔しさともましてや悲しさとも言い表し難い眼差しが頭に張り付いて離れない。
姿が見えなくなった今も嫌な予感と不安は僕の中で燻り続け、リッチー達とふざけ合いながら笑うビルの背中を見るたびにそれは膨らみ続けた。







エディの毒に手酷くやられた”それ”は涙を空に漂わせながら僕の部屋に現れた。
ベバリーに脳天を貫通された時の比じゃない痛々しい姿。咄嗟に身構えたところで既に抱竦められてちゃ笑えるものも笑えない。
顔の真横から聞こえる胸が締め付けられるような泣き声はか細く弱々しい。完全に出鼻を挫かれ抵抗しようにも出来ず暴れられず。ひたすら相手が落ち着くのを待った。





単なる遊びの暇つぶし。反応が面白くてしていた。
が、知らぬ間に単なる遊びで暇つぶしだったのが違うものにすり替わる。己自身のものだと宣言して捉えた子供含め他の子供らが慌てふためき苛立つさまが楽しかった。必死になる光景はまさに鬼ごっこ。逃げて捕まえ、捕まえて逃げる楽しいお遊び。
しかし、耳を劈くようなある子供の言葉に膨らみはしゃいでいた何かが萎む。此方から単なる遊びの暇つぶしに過ぎなかった理由が言葉が体を凍り付かせた。溶け崩れる顔の痛みでさえ霞む空虚感と喪失感に思考が白く塗りつぶされる。
その後、どうなったのかは覚えていない。意識が鮮明になった頃には散々断言してきた子供を正面から抱すくめていた。冷え虚ろだった場所に何かが満たされていく感覚にまた別の何かが込み上がる。
私はその正体を知らない。そして、その正体を知っているであろう子供は私に教えてはくれない。