赤いボンボンのボタンが付いた白銀の衣装。細くて長い腕が悲鳴すら上げられず立ち竦むばかりのビルの腰に巻き付き容赦なく引き寄せる。前方に突き出す形で空に漂う彼の手を余っている白い手が撫でまわし指同士を絡ませた。有無を言わせぬ官能的な行為に孕む熱がビルの体を舐め回す。
引き攣り恐怖で強張った形相が死に物狂いで抵抗する彼の心の叫びを唯一表に出せた。その絶望に染まった様子を頬骨まで口角をつりあげ笑う相手にエディが吠えた。
ビルからはなれろ!
吸入器強く握り締めた拳が空を切る。勢いをつけすぎて蹈鞴を踏んだが如何にか拘束の緩んだ相手からもう片方の手でビルの腕を掴み引き離すのに成功した。
エディは小柄な体をビルと相手の間にねじ込み、自身より高い位置にある金色の目を睨み上げた。一瞬呆けることも、苦々しい顔付きをするでもなく相手は――ペニーワイズの白く塗りたくられた顔は未だに嘲笑を絶やさない。
『薬の時間だエズ』
枯れ木が風でこすれ合う乾いた声。おぞましい瘡っかき男に化けたあいつの口許から黄色く泡立った涎が零れている。鼻につく饐えた匂いがビルの眉を潜めさせたが、激情に駆られたエディの顔を歪ませられなかった。
膿んだ顔。爛れた皮膚。肉の腐った匂いが周囲に充満してもエディは怯まない。病原菌塗れの汚らしい涎が顔じゅうに吐き捨てられようとも怯む素振りを一切見せなかった。
そして、徐に吸入器を相手に向かって突き付け。
「酸で溶かされたいか!それとも毒を浴びたいか!」
あらん限りの声で怒鳴った。引き金に添えられた指は何時でも引く準備は出来ている。
今までに見たことの無いエディの攻撃的な姿勢にビルの心も輝きを取り戻し始めた。荒い息遣いで吸入器を向けるエディの背に守られていたビルが彼の横に立ち拳を固く握り締め強い意志の籠った眼光でペニーワイズを射抜く。
「ど、どうせなら、りょっりょっりょうほう、味合わせてや、やれ!エ、エディ!」
「君がそういうのなら……!!」
尽きることの無い漲る自信がエディの心を満たしていく。今なら何だって出来る。尊敬するビルが隣にいて彼がそれを望むのなら自分は何でも出来る。吸入器に入ってる疑似薬だって皮膚を溶かす酸になり顔を爛れさせる毒にだってなる。
これは武器。ビルとエディ自身を守り、ペニーワイズを撃退する術。
「お前になんかビルを連れていかれてたまるか」
例え片方の腕が折れていたとしてもエディはビルが連れていかれる姿を黙って見てはいないだろう。
「それは如何かな」
木枯らし染みた声が言葉尻になるにつれ甲高い囁き声にすり替わり、浮浪者だった風貌が朝靄が晴れるように白銀の衣装になった。
一度金色の目がエディを見遣り、その冷たく澱んだ眼差しをビルに注ぐ。ぺろりと舌先が赤い唇を舐める姿はさながら獲物に狙いを定める捕食者のよう。
だが、エディは怯まない。滾々と足元から恐怖が沸き上がろうとも其れを上回る強く激しい感情が彼を支配しているからだ。
「何があったってお前だけには絶対連れていかせない!絶対にだ!」
信じる心が悪魔を倒す力となる。
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