【クロマカ】臆病恋心

欲しいと思っている時に欲しいものがやってくると大抵狼狽える。

静かな室内の片隅。一人膝を抱え蹲るクロナは本日何回目かも分からない深いため息を吐いた。
今日は本当にダメだった、ダメダメだった。どのくらいダメかというと偶々近くを通ったブラック☆スターがクロナから発せられる黒く澱み沈んだオーラに中てられた瞬間、教室の隅へ向かってふらふら歩きだし力なく体を壁に寄り掛り「俺、全然輝いてない」と呟いちゃうくらいダメだった。
さしての原因は定かではなく。そもそも事の元凶がクロナにあり彼自身が悪いのかと思いきやそうでもない。
普段なら茶々を入れてくるラグナロクも今日の鬱っぷりはお手上げ状態なのか、単純に面倒で関わりたくないだけなのか姿を見せない。
自己嫌悪の渦にのまれ、不安と嫌な気持ちが堂々巡り。唯一の避難場所であるヘヤノスミスに居ても気持ちは軽くならず逆に重くなる一方だった。

時折聞こえる溜息と独り言だけがぽつぽつ無言の空間に漂う。
終わりの見えない暗く重苦しい時間は扉の向こうから明るい声の来訪と共に消え去った。
「クロナー、いるー?」
控えめに数回ノックしたあと、扉の開錠音に続き開いた隙間からひょっこりマカが顔を覗かせる。
「お、いたいた」
快活な視線は部屋の主を見付けるなり、もの言いたげな目になった。
「(噂通りというか噂以上)」
マカの脳裏に過る鮮やかな光景。あの超ポジティブ職人が一気に鬱まっしぐらになるに足る理由を目の当たりにして尚、彼女の顔から明るさは消えない。それどころかどんどん強まっている。
「色々言いたいことや聞きたいことあるけど、まずは――
軽い足取りで部屋に備え付けられたベッドに歩み寄り腰掛けた。
その様子を首を捻り窺っていたクロナの頭上に疑問符が散りばめられる。
……マカ?」
思わずクロナが声を掛ければ、当然のようにマカが自身の右隣のスペースを叩いた。
おずおずとヘヤノスミスから腰を上げ、そろそろと既にベッドに腰掛けている隣に座る。
「あ、 ちょっと目論見間違った」
そう言うやクロナから距離を取るマカに彼の胸に黒いトゲが深々と刺さった。痛い、心理描写だとしても本気で痛い。胸元を掴む手に変な力が入る。下手すれば口もとから黒血が垂れ落ちそうだ。突き付けられた現実に容量オーバーして小刻みに震えだす体。戦慄く口からは言葉にも満たないか細い声が漏れ、焦点が全く合わない目は未だ縋りつくように彼女を見詰めている。
「マ、マ……?」
再び相手の名前を呼ぼうとしてクロナは自身に起きた違和感に気付いた。
緩やかに動く視界。力強く、されど優しく誘われる動きに抗う暇も気持ちも余裕もなく――横たわる体はベッドに沈み、その頭は柔らかなマカの太腿の上に着陸した。
暫し茫然したのち、ふわり香るいい匂いにクロナの靄がかっていた意識が覚醒する。
意識が覚醒すると同時に広がる罪悪感が胸の中に犇めき合う。はやくはやく頭を退かさなければと、脳が指令を出すが心はもっとこのままでいたいと駄々をこねる。
理性と本能が鬩ぎ合っている間、顔は真っ赤動きたくても動けない半ば挙動不審な動きをするクロナに対してマカは目を閉じ彼の不揃いに切られた髪を梳き頭の形に沿って頭を撫でつけた。
何度も何度も。くり返しくり返し。
いつしかクロナの心と体は落ち着きを取り戻し、ただただこの時間が永遠に続けばいいのにと胸中呟き同じく目を閉じた。