【グルー一家】いいゆめをみて

普段親子一緒に寝ない文化圏での添い寝は浪漫。


怖い夢を見たわけでもトイレに行きたいわけでもない。
カーテンの隙間から差し込む淡い光。まだ朝ではないのに目が覚めてしまったアグネスは足元で気持ち良さそうに折り重なって寝ているカイルとラッキーを見て何故か胸の中に寂しさが募る。
自分の枕を抱き締め、マーゴとイディスが起きないよう扉を静かに開けて閉めた。

カチャリと聞こえた扉の閉まる音。むくりと上半身を起こしたマーゴが薄く目を開け辺りを見渡す。特に異変無しと寝ぼけた頭の判断に従いマーゴは再び夢の中に旅立ち、イディスに至っては寝返りを打って扉の方に背を向け枕に自身の顔を押し付け埋めた。


灯が全て消えた暗い廊下。暗闇に慣れた目でたどたどしく、されど真直ぐ目的地に向かってアグネスは歩き、目的の場所に着くや背伸びをしてやや高い場所にあるドアノブを捻った。
子供部屋と違い白と茶を基調としたシックな寝室。以前はシングルベッドだったが夫婦となり妻になったルーシーのためシングルからダブルにサイズアップしたベッドが部屋全体を圧迫するように真ん中に居座っている。
未だ寝室に忍び込んだ侵入者に気付かず、グルーとルーシーの二人は未だ深い眠りの中にいる。片やイビキを豪快にかき、もう片やは隣で爆音が轟いているにも関わらず涼しげに寝ていた。
ぐっすり寝ているのを確認して開けた扉を閉め抜き足差し足忍び足。小さな足で一歩また一歩ベッド横に近寄るアグネスは聞こえていたはずのイビキが聞こえないことに気付き歩みを止めた。
――ッ」
ハッと息を飲み見上げる。頬杖を付き瞼を緩く開け見下ろしているグルーと目が合った。
「なんや眠れないんか」
問い詰めるにしては穏やかな声色。されど、寝ているところを起こしてしまった罪悪感にアグネスは気まずそうに枕をギュッと抱き締めたまま何も喋らない。
如何にかして話さないと。
勇気を振り絞って訳を言おうとアグネスがもじもじしている内にルーシーがグルーの後ろから覗き込む形で起き上がりその笑みを深くした。
益々言うタイミングを失ったアグネスの口からは理解するには情報が少なすぎる短い単語を漏らすばかり。
だが、上手く言えずとも夜更けに枕を抱えて寝室に訪れ、相手の様子を窺がい不安げに揺れる瞳だけで大方把握できる。
「おいでアグネス」
困惑しているアグネスをひょいと抱き上げたグルーは当たり前だと云わんばかりに自分とルーシーの間に彼女を置いた。体の向きを横にしてアグネスを見詰めぽんぽんと優しく手を置くグルーにアグネスの顔が綻び。反対側から伸びてきたルーシーの腕に抱き寄せられ頬ずりされれば嬉しげに頬ずり返した。
幸せだけが満ちる光景を見詰め小さな笑い声一つグルーが零している時だった。
やにわ振り返り寝室の扉の前で佇む二つの影に口元に弧を描く。
照れ恥ずかしいのか視線を床とグルーを交互に見るマーゴを他所に瞼を擦り欠伸をするイディスの足はとっくにグルー達のもとへまっしぐら。
一足先にグルーに抱きかかえ上げられベッドの中に潜り込むイディスを見たマーゴもワンテンポ遅れてグルーのもとに駆け寄りベッドの中へ入れてもらった。
夫婦に挟まれた子供たちは其々居心地の良い場所を見付けそこに潜り込む。
「イディスったらずるいっ」
「だって眠いんだからしょーがないじゃん」
「今夜はみんなでおやすみ出来るのね!」
「なんだかワクワクしてきちゃった!」
あっという間に静かだった寝室が賑やかになった。
興奮するアグネスをルーシーとマーゴが挟み、両側から優しくゆっくり手をぽんぽん置き寝かしつけていれば面白いくらいアグネスは発条が切れた玩具のようにコテっと寝に入り。グルーの腕枕を一人占領しているイディスからは既に寝息をたて始めている。
自分からアグネスがいないといって起こしておいて真っ先に夢の中のイディスに少しむくれたマーゴは自分の左隣で寝ているイディスの頬を指で突いた。沈む指先に比例してイディスの眉間に皺が寄る。その何とも言えない表情にマーゴがくすくす笑う。
「はいはい、今日はもう寝よな」
グルーが穏やかな手つきでマーゴの頭を撫でベッドの中心に向かって動けば、察したルーシーも反対側からにこやかに笑い中心に向かって動き距離を縮める。
お陰で間に挟まれた子供たちはぎゅうぎゅう詰め。特に真ん中のマーゴは顕著だった。妹たちに挟まれ更に両親其々腕枕していない方の腕が彼女を抱くように伸びている。
「ちょっと狭すぎない?」
マーゴの本気ではない問い掛けにルーシーの細く柔らかな指先がマーゴの前髪をかき分け自身の額をくっ付けた。
「たまにはいいじゃない」
すぐ近くから聞こえる慈しみの籠った母親の声。まだ慣れず恥しがってしまうけれど、それでもマーゴは微笑み目を閉じて静かに頷いた。
「うぇ~。でも寝苦しいよ~」
「なんや起きとったんかい?」
もぞもぞグルーの腕の中からイディスが抗議の声を上げる。わざとらしく舌を出して嘔吐くのにはもう慣れたもの。
「ほんなら一人で寝るか?」
意地悪染みた問い。世間一般的な父親が絶対しない悪人面がイディスの視界いっぱいに広がる。
眠気と不機嫌が交じり合いあわや暴発寸前、アイコンタクトで示し合わせたグルーとルーシーの二人は寝苦しくない程度に娘たちを抱き締めていた隙間を緩めた。
「これなら如何や」
完全に不意を衝かれたイディスは心の中で呟く。まだちょっとくっ付き過ぎている気がする。
でも、心地よい感覚と普段寝ている時には味わえない人の温もりの近さ。何より胸に満たされていく養護施設では到底味わったことのない気持ちがこそばゆくてたまらない。
「これならいいよ」
不承不承。そんなイディスの態度と声に寝ているアグネスを除いた三人が声を押し殺し笑っていれば、グイッとイディスがグルーの首元に抱き付き彼に耳打ちした。
今度はグルーが不意を衝かれた番だった。目をまん丸に開き手を所なさげに漂わせている間にイディスは頭まですっぽり毛布を被ってしまった。
「イディスは何て?」
一部始終を見守っていたルーシーが声を掛けた。
視線をルーシーから毛布の隙間から様子を窺っているイディスに向け、グルーは浅く息を吐き口元に人差し指を当てた。
「内緒や」
間髪入れず上がるルーシーの問い掛けを宥めつつ、グルーは胸中イディスから言われたことに応えていた。



――明日のホットケーキはとびっきり大きいのにしてだって?
――そんなんお安い御用や

アグネス、イディス、マーゴ、そしてルーシーにおやすみのキスをしたグルーが眠りにつき暫くしてからのこと。
「・・・」
何やら背後から感じる温もりに違和感を覚えた。というより五人だけじゃ済まされない気配の数にグルーの指がベッドサイドランプの灯りを点けた。










「いや~。起こすつもりはこれっぽっちも無かったんだけど起こしちゃったね兄弟アハハハ。あと出来ればもうちょっと詰めてくれない?落ちそうでさって顔怖いけど如何かした?」
「如何したもこうしたもあらへん。それにこの顔は元からや!つか何で此処におんねん?それにお前らもや」
『GRU!GRU!GRU!』
「分かった分かった。静かに静かにせい、みんな起きてしまうやろ」
「そうだよみんな、しーっ しーっだよ」
「お前が言うなや。で、何しに来たん」
「何しにって?人は眠くなったら寝る生き物だって知らない?」
「さよか。だけど残念やったな此処は定員いっぱいや他を当たれ」
「そんな~
『Buuu!Buuu!Buuu!』
「あ~!分かった!分かった!此処で寝てもいいから静かにせい!あとっ――これ以上詰めれへんからそこら辺は我慢しぃや」
「!! ありがとう兄弟……

その晩、夫婦の寝室には娘三人と双子の兄、そして部屋中溢れかえるくらいのミニオン達と一晩過ごしたのだった。