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豆炭々炬燵
4651文字
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モアナと伝説の海シリーズ
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永久の無垢なる勇者2
神に好かれてしまった人間の末路なぞ皆偏に同じこと。
後味悪い仕上がりにしたかった(過去形。
瑞々しい赤色から放たれる鼻腔を蕩かす香り。分かる者が嗅げば一発で分かるどころか頭が大混乱に陥る威力を持っていた。
「マジかよ」
モトゥヌイ近くを通ったから序に顔を出しに来たという見え透いた嘘が可愛く思えるほど、マウイの視界に入ったソレは彼の手からするりと釣り針を落とさせた。
真顔で佇む半神にやっと気付いたモアナは原因であるソレが付いている方の髪を耳にかけながら苦笑する。
「モアナ
…
、それ、如何したんだ
…
?」
「これは、ね。えっと
――
テ・フィティに貰った」
首を竦めおどけたところで距離を縮めるごとに顔が険しくなる半神の表情筋を緩めること叶わず。父親が叱る時と同じ眼光で睨むものだからモアナの視線は泳ぎっぱなしだ。
口籠りつつ事の顛末をマウイに話せば彼は手の平で額を覆い天を仰いだ。低く唸ったあと、ガッとモアナの両肩を掴めば反射的に華奢な肩が跳ねる。
「こいつはなァ証なんだ。あんたはテ・フィティに祝福された」
「祝福? 祝福されると如何なるの?」
「ハァ
…
、いいか落ち着いて聞くんだモアナ。
……
君はもう純粋な人間じゃない
……
」
神妙な顔付で優しく語り掛ける半神の瞳に宿る悲哀の色。それが嘘でなければ冗談ではない紛れもない事実なのだとモアナの心に滾々と降り積もる。
覚束ない手付きで萎れることもなく咲き誇る赤色に触れた瞬間伝わる、生に溢れ満ちる息吹。捥いで付けたとは違う。今尚生きている感触にモアナの瞳が不安に揺れた。
「花はこれだけか」
気遣いの言葉を一つや二つ投掛けたいがそれどころではない。
マウイは傷心しているモアナを慰めたい心を押し殺し問い掛ける。
「試しに取ってみたら簡単に取れて
…
」
「それで?」
「取った花も枯れずにそのままだったから
…
、全部籠に入れてとってあるわ
…
」
「そいつは何処にある」
「ちょっと待ってて。取ってくる
…
」
フラフラした足取りで籠を取りに行ったモアナを見送り、暫くして戻ってきた彼女の両腕に抱えられている籠をマウイは無言で受け取った。
蓋を開けた瞬間立ち込める芳醇な香りに半神の眉根が寄る。籠に詰められた枯れる気配がない赤い花が蓋を開けたことでそよ風にその大きな花弁を揺らす。
「不思議ねこの花」
独り言を呟くようにモアナが視線を籠の中に向けたまま語りだした。
「皆にはこの花が見えていないみたい。でも、もっと不思議なのは私は確かにテ・フィティの島にいた筈なのに目が覚めたらモトゥヌイにいた。始めは全部私が見た夢だってそう思ってたわ。だけど、この花に触れた時うまく言えないけど夢じゃなく現実だったんだって分かったの。ほんと不思議よね」
力なくされどモアナが笑ってみればマウイも控えめに笑い返した。
「どうするのコレ」
「これは俺が正式な手順で還す」
「つまりは捨てるって事だろ? なら俺にも少しと云わず沢山分けて欲しいもんだね」
「こちとら真面目で大事な話をしてるってのに
…
、話の途中で入ってくるなカニカマァアア!!」
「いい香りに連れられて思わずラロタイから這い上がってきちまったぜ」
日光に照らされた甲羅が凶悪的な輝きを放ち、その輝き以上に下卑た笑い声と共に海から現れた大蟹の魔物の出現に半神の米神に血管がビキビキ浮かび上がった。
マウイの話なぞ聞かずタマトアはシリアス雰囲気がやや海風に攫われつつあるモアナに近寄り見下ろした。
「その髪に付いてるヤツ、俺にもくれない?」
「え、ええ別にいいわよ」
「モアナッ!」
「だってこれ取っても痛くもないし、それに」
ポン
「取ったらすぐ新しいのが咲くもの」
本当に先程の謹厳さが嘘のよう。軽い態度で自身の髪から赤い花をもぎり渡そうとするモアナにマウイは吠えそうになったもとい吠えた。釣り針を強く握り締め青白い光の尾を靡かせタマトアに切っ先を向け睨みつけた。
「別にいいだろ。減るもんじゃあるまい」
「減る!」
「減るの!?」
即座に言い切ったマウイにモアナが勢いよく振り返る。
「いや、正確には減らない。減らないが、減る!」
「どっちだよ」
「もしかして命が減る、の
……
?」
「Ah~そんな目をしないでくれ。いいか、あんたの命は減らない。それは本当だ。だからモアナ大丈夫だ」
潤み今にも泣きそうなモアナの大きな瞳にたじろぎつつも、何とかその瞳から涙を零さずに済みそうな気配にマウイは胸中安堵の溜息を吐く、筈だった。
「大丈夫だって分かったところで俺が頂いちまってもいいわけだ」
「おいタマトア、自慢のステップが二度と出来ないよう脚を減らされたくなければ黙れ」
「結局この花って何なの?」
「これはだな、謂わば神性の塊、結晶、具現化したものとでも言えばいいのか」
「それをなんでタマトアは欲しがるの」
素朴な疑問を口にすれば待っていたといわんばかりにタマトアの目がキラキラ輝き愛嬌たっぷりに丸くなる。
「歌い出したら脚を捥ぐ」
半神の釘を刺す一言に不承不承舌打ちした大蟹は少女に語る。何故欲しいのかを。
単純な話。その花はエネルギーそのもので途轍もなく美味い。どれほど美味いか表現すれば百年間何一つ食べずに過ごせるくらい、美味い。
脆弱な生き物や耐性が低い者ならば逆に侵され毒となり寿命を縮めるが、長年生きた強大な力を持つ魔物であれば問題なく取り込める甘露となる。
溢れ出る涎。意図的にべろりと舌なめずり。クツクツ大きな体ごと震わせ嗤えば面白いくらい半神が少女の前に躍り出た。釣り針を持っている手とは反対側の手に抱える籠にはいっぱいの魅惑な赤色が詰まっている。
そもそも大元を攫ってしまえば籠いっぱいの花なぞ取るに足らない数となる。
「と、いうわけでそいつ(モアナ)をくれないか友よ。なに大切に愛でるさ。俺は可憐でか弱い花が大好きなんだ」
「よく言う
…
!お前が大好きなのはその背中に背負ってる輝きモンだけだろ!」
「おやおやおや?よくご存じで。それなら長い付き合いなら分かってくれるよなあ?
――
俺が諦めの悪い大食の魔物だってことをよォ?」
小馬鹿にしていたかと思えば次の瞬間には凶暴な顔付で巨大な鋏をカチカチ打ち鳴らす。
タマトアの厭らしい視線は常にモアナに向けられ続け、完全に戦闘態勢に入ったマウイも一瞥したっきり。
「ちょっと持ってろ」
マウイが振り返らず後ろに庇うモアナに籠を押し付け釣り針を両手持ちに持ち直し構え。
そんなマウイ達の周りをタマトアの巨体がジリジリ回り隙を伺う。鉄脚が砂地にめり込む音と小さな砂を踏み締める音が二つ浜辺に響き渡る。
時折タマトアの嘲笑がさざ波にまぎれ脳内に入り込む。やけに脳内に木霊する不気味なタマトアの笑い声は軽快な音が割り込んだことで相殺された。
ちゃかぽこ
文字で表すならこんな音。
その発生源が何処なのかとモアナが首を回し周囲を見渡す。
すると、足元からその音がまた聞こえたのでふと見下ろした。足元には茶色い物体が知らぬ間にぴたりとくっ付く形で転がっていた。
一目でココナッツと判断できる物体は見る見るうちに手足が生え、何処から取り出したのかも分からない貝殻の兜を被り、銛を携え身軽な動きでモアナの足元から彼女の体に上ったかと思ったら次の瞬間には颯爽とモアナの頭から赤い花を盗りさっていた。
出し抜けの行動にワンテンポ遅れモアナが盗られた場所を手で押さえ叫ぶ。
「花が盗られた!」
「「花!?」」
息ピッタリ。モアナの花を奪い跳ねる小さな乱入者を視界に捉えるや半神と大蟹の攻撃対象が同じ相手に固定された。
「「カカモラァアア!!」」
ココナッツ海賊団(お一人様)相手にマウイは豪快に釣り針を振り回し、タマトアに至ってはその巨体を活かして周囲全てを薙ぎ払う勢いで突進を繰り出している。
このままではモトゥヌイの人々にバレるのも時間の問題。むしろ島の原型すらなくなりそうな怒涛の勢いで追い回す一人と一匹にモアナは背中に冷たい汗を流した。百歩譲ってバレるのは構わない。問題なのは怪我人が出る事だ。
「ちょっとマウイ!タマトア!もっと静かにってもう!!」
こうなったら自分で捕まえる。籠を慌てふためいていた海に預け、モアナは砂浜に立て置いていたオールを掴み駆け出した。
豪快に舞う砂を避け、巨大なヤシガニの足元を潜り抜け、オールを振り被ったモアナにカカモラも此処までと判断したのか定かではない。
ヤシの木を背にピタリと止まったカカモラは持っていた花を彼女に差し出す。
「あら、いい子じゃない」
シニカルに笑い受け取ろうとするモアナだったが、手を伸ばしあともう少しの所でカカモラは花を引っ込めたばかりか
――
食べた。
「あーーっ!?」
「何俺より先に食ってんだ!吐けッ吐けよ!」
「カカモラ!お前一体自分が何したのか分かってるのか!?吐き出せ!はやく!」
椰子の実の繊維に食い込むマウイの太い指。滅茶苦茶に振り回して如何にか吐き出そうとするも
ごっくん
無常なる嚥下する音に二人と一匹は固まり、少し間を置いてからぎゃーぎゃー騒ぎ出した。
「ちょっと待って様子がおかしいわ」
モアナの一言で正気に戻るマウイの目がどんどん焦燥の色に変わり、ミニマウイに至ってはワタワタ駆け回っている。
「言わんこっちゃない。さっきも言ったろ?脆弱な奴や耐性のない奴が食うと逆にのまれるってな」
たっぷり蔑みの目で見下ろしたタマトアは視線を足元から海に向ける。
刹那、挙動不審な水音がした。
「この子、どうなっちゃうの?」
「さてね。俺もはじめて立ち会うから何とも言えないな。少なからず言えるのはコイツはもう元に戻らない、二度とな」
砂地をのたうち回るのは苦しさから逃げたいがためか。悲痛な音を奏でていたカカモラの丸い体はある境を機に全く動かなくなり、不規則なリズムで四肢が痙攣するだけで乾いた音をさせなくなってしまった。
膝を折り腕を伸ばしたモアナはカカモラの体をそっと抱く。だらりと伸びた手足に口を引き結ぶ。
「憐れんでやることは無い。そいつが勝手にやった事だ。
――
あんたは悪くない気に病むな」
「そう、なのかしら
……
」
ザラついたカカモラの体を撫でる慈悲の籠った手。数回撫で悲しみに暮れている最中、何処からか乾いた音がし出した。
難なくそれが何処から聞こえているのか理解したモアナとマウイは腕の中にいるカカモラを凝視した。徐々に音だけではなく体もガタガタ動き出し、ついには彼女の腕から転げ落ちる。
咄嗟にモアナが腕を伸ばすのとほぼ同時、カカモラの足が唐突にボグンっと大きくなった。
「ひっ!なになに!?」
予想の範囲外の出来事に身を強張らせ軽快している間にも腕、胴体とカカモラの部位が大きくなっていく。特に胴体に至ってはココナッツの殻が弾け飛ぶものだから飛んできた破片をマウイは釣り針で叩き落とした。
果たして其処にいたのは
…
。齢6,7の子供と同じ背丈を持った何かがいた。
ココナッツの顔の仮面を被り、調子がまだよくないのか頭をゆるく振るっては手の平を握ったり開けたりしている。
「
……
子供?」
「いや、カカモラだ」
「カカモラ? さっきと見た目全然違うじゃない!?」
混乱で上手く頭が働かないモアナの傍でマウイは深い深い溜息を吐き、
「成程、そうなるか」
二人の知らぬ間に籠を奪おうと海とデッドヒートしていたタマトアは横目でその状況を見遣っては機嫌よく口笛を吹いた。
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