永久の無垢なる勇者

神に好かれてしまった人間の末路なぞ皆偏に同じこと。
後味悪い仕上がりにしたかった(過去形。

選び吟味した言の葉。神聖な島に横たわる生命の女神に粗相をしてはならない。
相手は比べるのも烏滸がましいほど尊き存在。命芽吹く新緑の体、甘く香りを匂わす花輪、慈悲深き瞳は何処までも優しくあたたかい。

余程の事が無い限り近づくことさえも憚れる神の島。
久方ぶりに命溢れる島に降り立った少女は身も心も引き締め命の女神のもとへ歩を進める。
島中に満ちる生命の息吹。青々と茂る木々を分け入り、丁度横たえた女神の顔の前に立てば萌える緑の瞼が数度震え、その眼を緩やかに開けた。
そして、此方の様子を窺がう客人の存在に気付き柔和に笑う。
女神が目覚めたことで少女は静かに膝を着き頭を垂れた。瞬間、女神が一層笑みを深くした気配が空気を伝い少女の頬を撫ぜる。
無礼だと分かっていても少女はチラリと上目遣いで見ずにはいられなかった。予想違わず微笑む女神につられ少女も朗らかに笑い、おずおずと口を開いた。
「あの、よろしいでしょうか」
女神が緩慢な動きで瞬きしたのを是と受け取り少女が続ける。
「感謝します。その、島に招かれた事についてお尋ねしたいのです。再び貴女のお目通り出来た事とても有難く存じ上げます。ですが、私には招かれた理由が分かりません」
何か怒らせてしまい罰を受けるのであれば友好的な態度で出迎えてくれるのはおかしい。
知らぬ間に女神が気に入ることをしてしたのなら何とも言えないが。
不安げに眉尻を下げ見上げる少女に女神の笑みがより一層深まり、地面に置いていた右手を徐に動かす。巨大な手が動き出したため、木々がざわめき鳥たちが舞う。
そして、ゆっくりその緑の手を少女の上に翳した。
日が遮られ影の中に立つ少女の顔は困惑と戸惑いに彩られ、それをあやし宥めるように女神が少女に向かって息を吹きかける。海風と違い淡い色の花びらが入り混じる新緑と花々の香り漂う吐息は見る見る内に少女の体に巻き付き覆う。
肺いっぱいに女神の吐息で満たされた少女。咽返るような重厚な命の吐息に眩暈が起こり、ついにはその身を若い芽が敷き詰められた地に伏せた。
一見して穏やかに眠る横顔に女神が満足気に頷き、再びその慈悲深い瞳を閉じ雄大な山の一部と化した。

やわらかな風が少女の髪を撫ぜ遊び、少女の髪には島に来るまで無かった筈の赤い花がその存在感を表すように髪と共に揺れていた。