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豆炭々炬燵
2127文字
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モアナと伝説の海シリーズ
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【原型蟹】差をなくす海【タマモア】
脱皮したてなタマトアさんにモアナちゃん興味深々の図。やや手招く煌めきの続物としても読めたり。
塒の天井から差し込む光の強さでおおよその時間帯が分かる。丁度海の上の世界じゃ日が燦々と照付けている頃だ。
(そろそろか)
殻一枚隔てた内側の状態を最終確認した大蟹の魔物が揺らめく海面から注ぐ太陽光を見上げた。背に背負っていた金銀財宝の山は塒の隅に並べ置かれ、随分と身軽になった背中が頭の先から腹部にかけ割れ目が走り、脚の付け根からも乾き砕ける小気味よい音が鳴りだした。
窮屈な場所から徐々に抜け出る開放感に思わず溜息混じりの声を漏らす。爪先から脱ぎ落ちた古い殻が重たい音を立て塒の砂地に散らばっていき、凶悪な鋏脚も一回り大きくなったのを満足気に目を眇め上に翳し見遣った。
触角の殻をスルスル引っ張り脱ぎ切った殻を砂地に放った大蟹は今一度脱ぎ忘れがないかぐるりと自身の体を見回した。散乱する殻の残骸、真新しくなった体の調子を見て脱ぎ忘れがないのを確認して漸く一息吐こうとした時だった。
(Ah~、こんな時に限ってか)
昼行性の生き物が多い地上と違いラロタイでは夜行性の生き物や魔物が大半を占め。危険性の高さは夜より昼間の方が低く、何らかの理由で無防備状態になる場合、他の魔物達が活発に動かない時間帯を選ぶのが得策であり、今回脱皮する大蟹の魔物も例外ではなかった。
まだ完全に固まり切っていない不完全な状態でどれだけ戦えるか。自慢の甲羅でさえ柔くなっている現状に舌打ちしながら振り返り塒の入り口からする気配と対峙した。
「・・・何だ嬢ちゃんか」
「もしかして、来るタイミング不味かった?」
一気に張り詰めていた緊張を解き砂地にタマトアがその巨体をもそもそ下した。バツが悪そうな顔をしつつ、それでも脱いだ殻たちを興味深げに眺めながら傍に近寄るモアナは近場にあった巨大な鋏の抜け殻に手を添えその巨大さを仰ぎ見た。
「すごいわね」
モアナがノックするように叩けば硬い音が空洞化した殻に反響する。
「で、今日は何の用だい」
「用も何も
――
。あなたのコレのお陰で気付けば此処に足が向いちゃってるんですけど?」
殻の影から顔を出し腰に手を当てていない逆側の手が緩慢な動きで胸元を数回叩いた。胸元を隠している布地の下、すっかり赤い筋が消えた褐色の肌には未だ夜闇で煌々と光るタトゥーが消えずその存在を主張している。
片眉を上げたモアナが短く息を吐けばタマトアは白も切らず愉快に喉奥を鳴らす。
「そいつァ大変だなあ。わざわざ遠いとこから来るなんざ嬢ちゃんにとってさぞ、っオイ何してる」
「いえ、あの、その
……
。今日のタマトアいつもより元気ないなって」
「おーおーおー。それで心配してくれてるってか?そりゃな脱皮ってのは物凄く体力を消耗する命がけのって聞けや嬢ちゃん」
始めこそタマトアの身を案じて抜け殻ではないタマトアの鋏に手を添えたモアナだったが、触れた瞬間手の平全体から広がる今まで触った事のない感触に折角タマトアが説明してくれた言葉も無常に右から左へ通り過ぎていった。
抜け殻は普段のタマトアと同じく硬いのに対し、脱皮したてのタマトアの体はそれこそモアナの記憶の引き出し全てをひっくり返しても出てこず。瞬く海面のようにキラキラと輝いている大きな瞳がモアナの興奮具合を表している。
タマトアとてモアナの行動が煙たくないわけじゃない。可能ならすぐさま追い払うなり鋏で摘んで大人しくさせるなりするところだが、他の魔物がこの機を狙い襲ってくるかもしれない不安要素が拭いきれないため無駄な体力消費は避けたい。そのためタマトアはモアナの無礼な振る舞いを止めさせられないでいた。
非情に歯痒い現状に触角の先っちょでの反撃なら然程体力を使わないかとタマトアが算段していた時だった。普通に手で触っていた動きから柔い体に手を埋め離す行動にすり替わっている。
「これは
…
!今まで触ったことのない感触!ずっと触り続けたくなる不思議な感じ
…
」
「あまり強く押すな手のあとが残る」
「残るの?」
「自慢の強度を誇る俺の体だが脱皮したてのこの体じゃ嬢ちゃんの非力な力でだって痕が残っちまうくらい柔いんだ」
「へーそうなの」
埋めていた手を戻したモアナを見て物分かりのいい嬢ちゃんで助かる、なんて言葉が喉元まで出かかり次の瞬間には勢いよく胃の中に戻っていった。
屈託のない笑顔で彼女がタマトアの鋏脚に手を埋め始めたからだ。先程とは比べ物にならないくらい深く深く押し込まれる手は例え手が退かされ圧迫されなくなっても戻ることはないだろう。
「
――
何してくれてんだ」
苛立ちで低くなるタマトアの声色に臆せずモアナは腕を組み蟲惑的に笑う。
「お返しよ、コレのね」
数時間後、すっかり元通りの硬さに戻った体に再び煌めく金銀財宝を乗せ直している途中、ふと突出した目玉が自身の巨大な鋏にくっきり残った小さな人間の手形を見下ろす。
あの人間は何と言ったか。光るタトゥーのお返しだと言ったのか。
「どうせ次の脱皮の時には綺麗さっぱりなくなる」
逆の鋏脚の先でついと小さな手形をなぞる。記憶とは違いたしかな形として残された手形は記憶より鮮明に容易く陽の光に似た声を顔を温もりを呼び起こした。
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