【原型蟹】海を彩る輝き【タマモア】

タマトアさんがモアナちゃんにプレゼントフォーユーなお話。相変わらずねつ造いっぱい。

巨大な鋏で器用に頬杖を付き、ぎょろりとした目玉で目の前をちょこまかと動き回る小さなにタマトアが声を掛けた。
「マウイもそうだが嬢ちゃんたち人間は随分不自由な生き物だな」
「どういうこと?」
声を掛けられたモアナが振り返り自分よりはるかに高い位置にあるタマトアの向かって右目を仰ぎ見る。
「そのまんまだ。特にそれ、そいつ」
鋏の切っ先が指示した先にあるのはモアナのお団子状に纏まれた髪。髪を伸ばしている者達は大概農作業や激しい運動をする際、さっと素早く髪を頭上で一括りにまとめ動きに支障が出ないようにしていた。
「これが、どうしたの?」
まとめられた髪に手を添え尋ねるモアナにタマトアが短く息を吐いた。
「なに一々髪をまとめ上げるなんざ面倒でご苦労なこった」
「もう当たり前で慣れちゃったから面倒とかそういうのはないわ」
快活な笑みで胸を張るモアナ。そんな彼女を見て理解し難いと金色の背中を揺らしていればタマトアの瞳の中に映るモアナの波打つ髪がふわりと広がり舞い落ちていった。
如何やら括っていた紐が切れてしまったらしい。地面に落ちた紐を拾うなりモアナの眉尻が頼りなさげに下がる。
「代わりの物は」
「今丁度手持ちがなくて。どうしよう
切れた箇所を結び直すにしても紐自体が使い込まれた事により大分摩耗している。結び直しても恐らく違う箇所が切れるのは目に見えていた。
ほとほと参ったと苦笑するモアナの前にやおらタマトアの鋏が静かに差し出された。その切っ先には細い紫色の紐が掛かっている。
茫然とした顔でモアナが何度も紐とタマトアを交互に見ていれば業を煮やした大きな鋏が器用に彼女の髪をまとめあげた。終わりだと云わんばかりに鋏が出来上がったお団子を軽く弾く。
「これ、いいの?」
久方ぶりに自分以外の手でまとめ上げられた髪の感触に触れ撫ぜた。
「神々が作った代物より劣るがアンタら人間が作るモンよりずっと丈夫だ」
――ありがとう」
はにかみ礼を述べるモアナにタマトアは満足気にフジツボが付着した歯を覗かせ笑った。

大蟹から贈られた紫色の紐は夜になると淡く発光しその存在を主張するのだった。















その後、モアナはタマトアの元に行くときは必ず紫色の紐で髪を括った。折角貰ったのもあるが紫色の紐を付けていくと贈り物を贈った主が大層喜ぶのでモアナは意図的に付けて行った。
鋏の上に腰掛けタマトアの自慢話に耳を傾けるモアナの髪を彩り括る紫色の紐。日常的にも使える其れはいつも身に着けるのが常となり――

「随分気にってくれたようでなにより」
何時しか紫色の紐はモアナの豊かな髪の一房となった。



頬を撫でる優しい触角に自ら頬を寄せ解けた笑みを浮かべる無垢な勇者。意図して手籠めにしたにも関わらず、存外肝が据わっているのか驚きはしたが怯える素振りを一切見せない。
そんな少女相手に大蟹は多方面で驚き参ったと云わんばかりに両鋏を掲げ、此れから始まる長くも驚き暇や物足りなさとは無縁の暮しに笑みが零れた。