【原型蟹】またたく海面【タマモア?】

ほのぼのよりなタマモア。先の反動です。ノリと勢い、ねつ造万歳変わらず。

塒の天井から揺らめき照らす海面が白い砂地をキラキラ光らせ、その上を優雅なリズムで踊り舞う動きに合わせモアナの波打った黒髪がワンテンポ遅れて靡き。その左側には金色に輝く髪飾りが飾られている。
普段より落ち着き払った雰囲気を纏うモアナに塒の主であるタマトアが静かに感嘆した。巨大な鋏で器用に頬杖を付き、頭から伸びる二本の触角が彼女の動きに合わせ揺れる。

「今日はお礼に私が躍るわね!」
「???」

開口一番。タダ飯真っ最中に勢いよく塒に現れたモアナにタマトアは暫し茫然したあと、行儀悪く食べかけシーフードを口から零してしまった。
よくよく見れば彼女はココナツの葉で編まれた籠を両手に抱えており、鋏で其れは何だと指差せばお土産だとこれまた快活な顔で塒の砂地に下した。色取り取りの貝やサンゴがこんもりと中に収められていた。新しく見付けた島で拾ってきたという。
「あなたのシャイニーな背中にどう?」
「嬢ちゃんにしては中々の上物見付けてくる」
落ちてしまったシーフードを頬張り答えるタマトアにモアナはその小さな胸を張る。
いやしかし、この人間しょっちゅうラロタイに来ているが彼女を気に掛けているあのデミゴッドがよく許したものだ。もしかしたら内緒で来ているのかもしれない。
「(・・・めんどくさ)」
タマトアは考えることを放棄した。

賑やかさとは程遠い歌と踊りはタマトアの好みとはかけ離れいた。
だが、黒髪を靡かせなめらかな腰つきで踊るモアナの姿は見ていて飽きなかった。時折見える金色が黒髪を更に際立たせ、タマトアの機嫌を良くしていく。キラキラ、ピカピカ。輝いているのを眺めるのは気分が良い。
そして、気分がいいと知らず勝手に体が動き出し、かつ意図的に普段あまり使わない触角がモアナを挟み込むように彼女に触れてしまったのはタマトアにとっては誤算の何ものない。
くすぐったく身を捩るモアナがその触角の一本に手を触れ添えた。
「な~にコレ?一緒に踊りたいの?」
瞬間、鋭すぎる感覚が触角からタマトアの巨体に走った。鋭角過ぎる感覚は時に不便さを齎す。何より大抵のことは自慢の大鋏で如何にかなるためタマトアは極力使用を控えていた。
「悪いな嬢ちゃん。踊りの邪魔しちまった」
「平気よ。それより、あなたのコレはじめて触ったわ。ヒゲ?」
「触角だ」
「へえー。結構柔らかいのかと思ってた。しなやかさはあるけど予想以上に硬いのね」
「それ見た目以上にデリケートなんだぜ」
「そうなの? ごめんなさいペタペタ触って」
触っていた手を後ろに隠してモアナが謝罪する。とても申し訳なさそうに顔を俯かせる彼女の頬をタマトアにしてはぎこちなく撫で上げた。その感触はいつもの硬い鋏の先端ではなく、細くしなやかな触角であった。
普段何事も器用にこなすタマトアにしてはもたもた動く彼の触角にふっとモアナが小さく微笑む。
「なに笑ってんだ」
「あなたにしては不器用なのねって」
……そうかい」
顔を思いっきりモアナから逸らす割にタマトアの触角は彼女の左右から包み触れ撫で続けていた。








「普通喰われそうになった相手から勧められた物警戒せずに食うか」
深く溜息を吐いたタマトアはこれまた安心しきった顔で大蟹の塒で寝息を立てるモアナを見て、また溜息を吐いた。
お昼ご飯を食べずにやってきたモアナのお腹が可愛らしく鳴いたのでタマトアは彼女の反応見たさにラロタイに自生する人間界では有り得ない食べ物を勧めた。それは科学が発展しネット社会と呼ばれる時代にその映像を投稿しようものなら一発で削除対象レベルの代物(動植物の可否すら不明)。一体どんなリアクションをしてくれるのか悪い顔でニタニタ嗤うタマトアを他所にモアナは相手から勧められた得体の知らない食べ物を躊躇なく食べた。
「見た目の割に此処の食べ物おいしいのね!」
「そりゃよかったな」
「あれ? タマトア元気ないみたいだけどお腹空いてる?これ食べる?」
「い~や、腹いっぱいだ。色々とな。それは嬢ちゃんが全部食べな」
「そう? じゃあ遠慮なく」
ありがとうと満面の笑みでお礼を云われるなんて産まれてこの方経験した事のない体験だった。
鉄脚を折り畳み大鋏で囲った間で食べるモアナもモアナだが、口を開き舌でぺろりと掬い上げれば食べれてしまう位置にモアナがいても彼女を喰わないタマトアもタマトアであった。
もぐもぐ食べているモアナごと砂を巻き込みながら大鋏を自分の元に引き寄せる。タマトアの頬に当る部分にモアナの体が当たるほど隙間が狭くなったにも関わらず、彼女は気にせずもぐもぐもぐ。たまに食べ物の感想を述べる始末。順応性が高いというレベルではない。

「しかも、腹が膨れりゃ寝るとか肝が据わりすぎてんだろ」
巨岩を砕くのもわけない鋏に身を預け寝息を立てるモアナに眩暈がする。彼女が寄り掛っていない鋏で目元を押さえたタマトアが唸った。
「はあ。ほんと嬢ちゃんには驚かされっぱなしだ」
ギョロギョロ動く二つの目に映るモアナの寝顔。まだぎこちない動きの触角が彼女の頬を撫ぜれば其処から得られ伝わる情報にタマトアの瞼がゆるり閉じられた。
密着した体もそうだが此処のに自生する食べ物を食べた所為か、モアナの体か微かに香る彼女のものではない匂いにタマトアは顔を覆い隠すように鋏を自分の元に引き寄せあったようで無かった隙間を完全になくすのだった。