【安易な転生】単純で簡単な考え4【と擬人化があるよ】

モアナが生きていた時代から幾年月が過ぎ人々の生活は自然ありきなものから科学が溢れる生活に変わり同時に神話や魔物の類の話は廃れていった。

※タイトル通り安易な転生パロもの。モアナちゃんは魂だけ受け継いで前世の記憶皆無。対してデミゴッドさんと化け蟹さんはめっちゃ長生きご健在?な特殊傾向モリモリな予定。

夜の間は瞬く釣り針を目指し、日が昇ってからは記録した方角を頼りに船を進めた。
そうして、大きな岩が周囲を覆い尽す島に辿り着いた。何処か泊められそうな入り江を探して島の周りをぐるり回ればどの岩にも多種多様な形をした釣り針の模様が描かれていた。
……ここにマウイがいるのね」
「だろうな。こんだけ釣り針が彫られてりゃ俺だって分かる」
腕を組み鼻を鳴らすタマトアに思わずモアナが微笑んだが、視線を島に戻しその細い眉を潜めた。
「でも、如何しよう。唯一の浜辺もちょっと船を泊めるにはって、タマトア!?」
舳先から海に身を投げ出したタマトアに驚いたモアナが身を乗り出したのとほぼ同時、海に触れる寸前でタマトアの姿が元の大蟹に戻った。派手な入水のお陰で水しぶきを頭から豪快に被ったモアナは水も滴るなんとやら濡れ鼠状態である。
そんなのはお構いなしに元に戻ったタマトアは自慢の鋏で浜辺の一角を掘り出した。それはすっぽり船が入るほどの深いものだった。
――あなた元の姿に戻れるなら先に言ってよ」
「嬢ちゃんの魅力がまた一段と上がっちまったな?ほら、ロープ寄越しな」
文句の一つでも言ってやりたい気持ちは浜辺に船が泊められるよう配慮してくれたタマトアに何とかモアナは胃袋の奥へ押し込むことに成功した。
大きな鋏でモアナから渡されたロープを手ごろな場所に巻き付けるヤシガニの器用さに感心していれば仕事が終わったと云わんばかりに再びタマトアが人の姿に化けた。
「元の姿の方が良かったんじゃない?」
「これはこれで都合がいいんだよ」
「へえー」
「自慢の鋏もスマフォやPC操作すんのには向かないからな」
この蟹意外と現代社会への順応性が高くモアナが昼いない間、ネットでデリバリーものを頼んでいたりする。因みにここ最近のお気に入りはシーフードたっぷりなピザ。

岩だらけで何もない島の浜辺には海から打ち上げられたゴミが砂塗れになって転がり。草木が生えていない所為か生き物の類の声は聞こえない。
ただの釣り針を模ったものだと思っていた模様はよくよく見ると夥しい線の塊だった。五本で一区切りにされた模様、日数は一体どれほどあるのか見当もつかない。
岩壁の一部を憂いた面持ちで撫でていたモアナの顔つきが変わった。誰かに呼ばれているように迷うことなく歩を進めていく。果たして其処に現れたのは暗い口を開けた洞窟の入り口だった。
洞窟の前に立つとまるで中へと誘うように入り口から奥へ向かって風が吹いた。
……胸騒ぎがする)
無意識に胸元のペンダントを握りしめたモアナが意を決して洞窟に足を踏み入れた。
その数歩あとを至極退屈な面持ちでタマトアが続く。
「輝きが全然足りてないばっ――あ?」
モアナと違い頭を下げないと入れない入り口を潜ろうとした時だった。入り口横にあった大岩が突如モアナとタマトアの間に割って入ったばかりかその巨体で入り口を塞いでしまった。
背後からの音に肩をビクつかせたモアナは振り返って入り口が塞がれているのを目の当たりにして更に動揺。塞いでいる大岩を叩こうが、勢い付けてタックルかまそうがびくともしない。
それどころかタックルした肩が痛い。痛む肩を擦り入り口を塞いだ岩を睨んだ。

そんな岩を挟んだ向こう側。出禁を食らったタマトアがぎこちない笑顔で青筋を立てていた。
「ほうほうほう……、俺は入れてはくれないってか?」
苛立ち岩を触れようとするタマトアの手が不思議な力で弾き飛ばした。
「ハハ、ハハハ、ハハハハハッ……!! 友よ、そんなツレない事をしてくれるな」
衝撃で反りかえった上半身を徐々に戻す。額を押さえ天を仰ぎ、肩を小刻みに震わせていた動きがピタリと止まった。
「独り占めは良くない実に良くない、俺も混ぜてくれろや」
指の隙間から覗くタマトアの目は狂気に歪み乾いた笑い声が辺りに響き渡っていた。



岩を叩いても如何にもなんないが叩かずにはいられない。
モアナは数回岩を叩き押してみてやっと落ち着きを取り戻した。振り返る。洞窟の天井から陽の光が差し込み薄暗い洞窟内の一部を照らしていた。
一点に注がれた光の下には崩れた岩の欠片たちが転がっており、一番大きなものは何かの顔を模っているようだった。
塞がれた入り口から一歩また一歩奥へ進む。モアナの視界に崩れた岩の欠片に何者かの影を捉えた。岩に背を預け項垂れる丸く大きな背中。その傍らには巨大な釣り針が立てかけられている。
「マウイ……?」
反響する声に合わせモアナは相手との距離を縮めていく。
降り注ぐ光の道がじんわり薄れ途切れる頃には周囲を闇が広がり包み込む。明瞭でなくなった視界の先、音も無く巨漢のマウイが立ち上がる気配を肌で感じた。
微かな呼吸、普段気にならない鼓動でさえモアナの頭蓋奥に鳴り響く。
「モ、あ、ナ」
数センチ先にある伽藍洞の瞳が悲哀に揺れ、逞しい腕が広がっていくのが分かる。
そして、夥しい刺青が彫られたマウイの腕が細いモアナの腰と肩に巻き付いた。柔らかな抱擁はどんどん強さを増していき次第にモアナの骨を軋ませる位まで力を込めていった。
息苦しさで息が詰まる。下手すれば意識まで持っていかれそうだ。それでも靄が掛かり始めた意識の中、モアナは必死に思いを紡ぐ。
「マウ、イ、海と風を、司る神。人々に数々の、恵をあた、え……英雄だった者。……テ・フィティの心を盗み、世界に闇を広げた、張本人……
一段とマウイがモアナを抱き締める力が強まり、とうとう彼女の足が地面から離れ浮いた。
「しかし、くっ。再び、彼女の、こっころをかえ、しかっは……。ふたた、び英雄にもど、ったも、の……
意識が途切れる寸前、残った力を振り絞り目を閉じたモアナはマウイの額に自分の額を触れ合わせた。



――本当の英雄に あなた(マウイ)に
――戻って

視界と意識が闇色に染められた。そんな闇の中モアナの耳に今まで聞いたことのないされど何処か聞き覚えのある声が聞こえた。



「違う、心を返したのは俺じゃない。心を返したのは――モアナ。君だ」
光の筋が洞窟内に伸び二人を照らし出す。
窮屈な拘束が解かれ地面に下ろされたモアナがマウイを見上げた。其処にあるのは伽藍洞ではない優しい色を纏った瞳がモアナを愛おしげに見下ろしている。
大きなマウイの手がすっぽりモアナの右頬を包み込み撫で、モアナもそれを拒まず微笑み受け入れた。
「やっと本当の英雄に会えた」
「俺も漸く本当の意味で君に会えた」