灯火の憧憬

本誌ネタバレご注意。
先代OFAとグラントリノのお話。

記憶に開いた無数の穴。欠けたのか零れ落ちたのか定かではない記憶の破片は気まぐれに穴を塞いではまた何処かに消えてしまう。
もう夕日が沈み夜の帳が街に掛かり始めていたのか、それとも白み始めた街に朝日が顔を覗かせたのかも思い出せない。ただ覚えているのは機嫌が自棄に良さそうな顔が真直ぐ太陽に向かって笑っている光景だけ。

「おまえ何かいいことでもあったか?」

確かそう。気の知れた相手との仕事を終え、他愛ない話をする、そんな在り来りで至極普通な流れだった。
一度隣に佇むグラントリノを横目で見遣った底抜けに明るい瞳が糸のように細くなる。

「この”個性”の受け継ぐに値する後継者を見付けてさー。名前は八木俊典っていうんだ」
「八木俊典?」
「面白いやつだよ、イカレてる」

正面から後方に向かって吹くビル風を受け止め靡く長髪を耳に掛けながら続ける彼女の言葉は殊更明るく楽しげだった。現に淡々と其の後継者になりうる者を語る口は弧を描き続け時折笑い声まで零れた。
其れなりに付き合いが長いからこそグラントリノは隣にいる相手の性格や此れから起こすであろう考えが手に取るように分かる。知らずグラントリノが溜息を吐く。半ば呆れ混じりの溜息は容易に隣に佇む女性から苦笑を誘う。





鮮明に見えていた記憶が消えゆく火の如く色と明るさを失い、終には消えてしまったが代わりと言わんばかりに次の記憶が煌々と灯りと情景を連れてくる。





「はあ!?俺に教員免許を取れだぁあ!?」

随分と唐突で突拍子のない始まり。勢いに乗れずむせ込んでしまうのは致し方ないこと。
両の目に映る世界に意識を集中させれば深々と頭を下げずに飽き足らず、神か仏に祈るわけでもあるまいし頭上で両手を合わせ拝み倒していた。
とりあえず、喉元までせり上がる怒号を理性で抑え込み理由を尋ねるグラントリノの米神はずっと痙攣しっぱなしだ。流石に相手も不味いと思っているのかやや声に勢いがない。

「後生、後生で御座います。朋友のよしみだと思って、お願い申し上げまする」
「まずその慣れない言葉遣いヤメロ」

何時しか土下座にまで発展している相手の傍に近寄り膝を着き様子を窺がう。すぐ傍グラントリノの気配に一瞬顔が優しくなるも彼女はすぐに顔を引き締めた。

……俊典か」
「あの子が立派な英雄になれるよう全身全霊私の持てる全てを教え込むつもり。でも私がいなくなった後、ほんのちょっとさ見てて平気になるまででいいから見ていて欲しい」
「アレはもう話したのか?」
「まだ。いざ言うとなると中々タイミングが難しくて」

伏していた頭を上げ、声のする方へ顔を見上げると思っている以上に”らしくない”顔をしているグラントリノに彼女はわざと表情を和らげた。
グラントリノの瞳の奥、俄かに宿りチラつく失意と悲哀。然程遠くない避けられぬ未来を受け止めようとする奥底で未だに抗う心から必死に目を背けるそんな面持ち。まるで自分事のよう、否それ以上に気遣う彼の優しさに彼女の心が温かく満たされる。

「そんなしみったれた面、あんたには似合わないからやめた方がいいよ?」
「うっせ」

ぎこちないけれど、やっといつもの調子に戻ってきた。
笑いながら膝を払い立ち上がる彼女の顔は何時だって脳裏に焼き付いて離れない。忘れない、忘れたくない忘れるはずがない。
あの辛さ苦しさを全部ひっくるめ笑い飛ばしてしまう、あの、眩しい、……。希望があると信じて疑わず、希望に満ちたあの顔。


















無数の悲痛な声に交じり耳障りで神経を逆撫でする不快な演説にグラントリノは血の混じった痰を吐き捨てた。激しい衝撃に叩き付けられた体に走る痛みに顔を歪める。しかし、視線はある一点から離れない。
とうに限界を迎え世間にひた隠ししていた本来の姿を晒し、瓦礫の中立ち上がるのがやっと。、醜く抗い死にぞこないだと罵られようが、OFAを受け継ぎ譲渡してきた者達の悲願が其処にある。
年老い全盛期の頃の力の殆ど出せずとも、先代の親友の約束を果たすまで死ねやしない。其れにやっと教え子の教え子が育ち始めたんだ。教え半ばに命潰えさせては其れこそあの世にいる彼女に顔向けできない。たとえ口しか出せなくと以前と同じ轍を踏ませなきゃそれでいい。

「その手で切り開けオールマイト!おまえが望む未来を……!!」

誓った友の為、貫いた信念は他の遍く者達の祈りに似た声援に混ざり溶け一部となっていった。