掴むのを諦めた伸ばした手

ブンビー←のぞみ雰囲気小説

ブンビーさんは前、大人に嘘は付き物だって決まり悪そうに笑って言っていた。
どんなに辛くたって嫌だってその感情を表に出さず胸の奥に押し込む。自分に嘘を吐くのは物事を円滑に進めるために、周囲の空気を悪くさせないために必要なんだって。
不機嫌な顔をすれば周りの空気が悪くなって順調に進んでた物事も停滞する。たとえ腹の中煮えくり返っても沸き立つ感情や自我を抑え込み冷静に対処するのが大人。
子供はすぐに思ったことを口に出したり行動したりする。もっとも我慢の度合いと限界が大人と子供は全然違うから仕方ない、と明後日の方を眺めていた。
「はぁ、私も子供の頃に戻りたい、戻って仕事の悩みとか忘れたい
心底疲れが滲んでる一言を呟いて。

「ブンビーさん、すっごくお疲れですね」
「此処最近、立て込んでるから余計におじさんクタクタァ。でも、仕事が出来るだけ幸せってもんよ。辛いなんて言ってられない」

ダラけた気持ちを振り払い気合いを入れなおすべくブンビーさんが自分の両頬をパチンっと叩いた。短い掛け声の後、彼のやる気の戻った目に胸がキュッとなる。知らず思っていたことをそのまま口に出しそうなのに気づき何とか言葉になる前に飲み込んだ。
だけど、中途半端に伸びた手だけが誤魔化しきれず二人の間に気まずく浮いている。
「え、えーと」
首を傾げるブンビーさん。疑いというか、如何したんだという視線がとっても気まずい。
「よっ社長!今日もお疲れ様です、肩お揉みしましょう~」
「おー、これは気が利くねぇ」
素早く座っていたベンチの後ろに回って肩を揉む。これでも家ではよく両親の肩を揉んでいるので下手ではない、はず。いつもと感覚は違うけどもみもみもみぃ~。
「あー、疲れが和らぐ
「(セーフッ)」
凝りに凝ってる肩を揉みながら内心ほっとしたのと同時にこっちの顔が見えないのをいいことに作っていた笑顔を小さくした。
張った肩が解れるたびにブンビーさんの幸せそうな声が漏れる。本当に疲れてる背中を見てまた胸がキュッと締め付けられた。





――大人になるにはこの胸の痛みも我慢しなくちゃ



精一杯背伸びしたところで子供には変わらない。でも大人に、はやく同じ大人になればもっと近づける気がして。辛いことや嫌なことを沢山我慢すれば大人になるわけじゃないけど、少しでも大人に近づきたいからこの胸を痛める思いに嘘を吐いて蓋をする。
「あーもー!本当に疲れたー!もっと労わって慰めてホシイナー!」
急に聞こえた大きな声にビクっと肩が跳ね上がった。おっかなびっくり肩越しからブンビーさんの顔を覗き込めばナイトメアとして敵対していた頃よく見ていた悪そうな顔がこっちを見ていた。
「うわー悪そうな顔」
「いいから、ちょっと来なさい」
胡散臭そうな顔のまま、手招きされたので再びブンビーさんの隣に座る。
すると、肩を竦め首を振るうやけに大袈裟なリアクションで違うと言われた。ついでに鼻で笑われた。ちょっとムっとなった。
「ちょっとちょっと?そんな頬膨らませて拗ねてないでおじさんを労わって慰めてよー」
わざと顔を反らして目を合わせていなかった。チラっと見てみる。ものすっごい良い笑顔が見えたと思ったら次の瞬間、ブンビーさんの大きな手がぽふんっと軽い音を立ててわたしの頭の上に乗せられた。
視線を頭の上に乗せられてる手から、頭の上に手を乗せてる張本人に向ける。相変わらずものすっごい良い笑顔なブンビーさん。
「なんで撫でてるの?」
「これが一番疲れがとれるのよ」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
撫でてくれる感触が恥ずかしくて、嬉しくて――心地よくて口元が緩むのとめられない。
「(絶対バレてる気がするけど)」
それは綻ぶ顔なのか、我慢していた思いなのか、そのどっちもなのか。
でも、今はそんなことどうだっていい。やっぱり大人には敵わないやってことで、決定。