【オレめぐ】ハッピーハロウィーン

そのまんまです。

去年は遠く離れた場所から眺めていたような気持だった。
仮装した子供らが元気よく駆けまわり、手ごろな大人を見つけてはこの時期特有の呪文を唱える。笑顔で言う者、悪戯っぽく言う者、少し恥ずかしがりながら言う者。その皆が皆、呪文を唱え甘く美味しい菓子を受け取った瞬間、これ以上ないまでに目を輝かせた。
そして、次の獲物目がけ駆け出していく。

パトロール中であるが、元幻影帝国同期のホッシーワ改め星から分けてもらったケーキ頬張り問題が起きていないか周囲を見渡す。星から貰った三分の一サイズのケーキ。半分ではないのは同じく元幻影帝国同期の生瀬がいたからだ。きっちり分けた割には星の分がやや大きかった気がする。それを指摘すれば懐かしい反応で噛みついてきた。
そんな彼女が逸らした顔の赤みを男2人揃って見ない振りを通す。恥ずかしいならやらなければいい、なんて無粋なことを言うわけもなく、ただ一つのカップケーキを三人で分け合って食べた事実に其々の心があったかくなった。

小さいケーキを一口で食べ指先についた欠片をこれまた行儀悪く舐めた。
不意に肌寒くも爽やかな風がイベント会場内を吹き抜ける。息苦しさを一切感じない秋風にしみじみ秋の深まりを感じていた時、此方を呼ぶ明るい声が後方から飛んできた。
振り返る。つい最近一緒に誕生日を迎えた少女が息を弾ませ駆け寄ってきた。去年とは違う衣装に身を包んだめぐみに表情を緩め真正面から向き合う。
「全力でハロウィンイベント満喫しているようだな。結構結構!」
「そりゃもちろん!」
その場で一回転した後、ポーズをとるめぐみに似合っていると称賛の言葉を贈る。
「ありがとっ」
素直に喜ぶ中に少しの恥ずかしさが入り混じってるのか、仄かに赤く染まっためぐみの顔は可愛らしい。
そこから呼び止めた理由は何だったのかという話になり、ハッと思い出しためぐみが徐に肩から掛けているポシェットに手を突っ込み目当てのものを探す。程なくして目当てのものを探し出しためぐみの手にはこのイベントでは馴染みの、ついさっき三分の一ほどを食べたケーキが乗せられていた。
「約束、って言い切れないものかもしれないし一年越しの大遅刻だけど――半分こしよ?」
差し出されたケーキに手を延ばそうか一瞬躊躇うも真直ぐな瞳に負け、半ば諦め交じりにケーキを受け取り半分に割った。しかし、同一に割れず大きいのと小さいのに分けられた。
「わたしが小さい方で、あなたが大きい方ね。だって街の皆を守っているんだから沢山食べなきゃ」
笑顔で小さい方を取ろうとしためぐみの手は見事に空を掴む運びとなった。小さいケーキを持った手は彼女が跳ねても飛んでも届かない場所へ逃げていき、変わりに大きなケーキを持っていた手が半強制的にめぐみに押し付けた。
反射的に受け取ったのをいいことに、有無を言わせず言わせる気など更々なく言葉を紡ぐ。
「子供が遠慮なんかするんじゃあない。子供だからこそ沢山食べて大きくなるべきだ」
今尚、他の理由探しているのか引く気配のないめぐみに追い打ちを掛ける。
不敵に笑い、制止の声も聞かず小さい方のケーキを口の中に放り入れた。食べて飲み込んでしまえば交換することは出来ない。若干腑に落ちなさそうな顔をしていためぐみだったが、大きな方のケーキを見てから太陽のように微笑んだ。ケーキを一口齧っためぐみがまた笑う。
「おいしいね」
「そうだな」
ふと、ほんの数週間前にも違うケーキを食べ、そこから余り日が立っていないのに気が付くも此れからずっと続くのだと思ったら無性にこそばゆい気持ちが湧いてきた。
無意識に目を細め口の中を占拠しているのと同じものが心を満たしてく。今まで乾いていた分、吸収され満たされていく其れの正体は何なのかはもう知っている。笑えば笑い返してくれるあたたかさ。
遠く離れた場所から眺めていた頃とは違う手の届く当たり前の近さ。胸中色々噛みしめているとは知らないめぐみは自分より大きな男の手を掴み賑わう会場へ駆けて行った。