【オレめぐ】箱につめられて

便利シチュエーションのあれです。全てが唐突。全部勢いで進む。それ以外ない。

用意周到にも限度があり過ぎる箱のサイズ。子供一人の場合なら少々の窮屈さで済む箱の中に体躯の良いオレスキーが唐突に詰め込まれた。気分はさながら詰め放題の野菜か何かになったようだ。
「ぐぬぅ!」
肩から肩甲骨、特に箱の側面に沿って強制的に首を曲げているお陰で息苦しくて仕方ない。下半身は箱の奇跡的なサイズにより変に腰が浮いている状態で収まり、両手両足においては詰め込まれた態勢をキープ。両側面に合わせ壁に這う両腕。足に至っては意識して壁に押し当てていなければ自分の顔面に降ってきそうで力を抜くわけにはいかない。
そして、何よりオレスキー一人で狭苦しさの極みにも関わらず、もう一人同じ箱に詰められている現実に思い切り目を逸らしたくなる。
「うー、アイタタタ
笑い話で済まなければ洒落にもならない。
倒すべき相手であるキュアラブリーはどうやら詰められる際、何処かぶつけたのか頭を擦っている。ただ、それが丁度オレスキーの逞しい胸板の上に圧し掛かっているのだから本当に堪ったもんじゃない。
「おいキュアラブリー!俺様の上に乗るんじゃあないっ!」
「え?オレスキーってうわ!?」
詰め込まれた先にオレスキーがいたのを知らなかったキュアラブリーが前方から飛んできた怒鳴り声に一瞬戸惑うもすぐに現状を把握したのか小さな肩を跳ね上げる。
「さっさと退け!」
「どけって言われたってー。うーん、天井と壁、押しても叩いても壊れないよ?」
「貴様、案外冷静に周りを視ているのだな」
プリキュアの力はおろか自身の力をもってしても壊れない無駄に頑丈な設計。苛立ちが一周して称賛に値すると見せかけ矢張り腹立たしいオレスキーの顔が見る見る内に怖くなっていく。浮かび上がる血管、血走るならまだしも完全に据わっている目が彼の怒りを物語る。
そんな折、蚊ほどでもなかった重みが和らいだ。やや見辛い体勢で見上げた先には懸命に壁に向かって手と足を突っ張り空に浮くキュアラブリーの姿があった。
丁度真直ぐけのびをする要領で両手両足をピーンと伸ばしたいのだろうが如何せん距離が足りない所為で膝やら肘やらが曲がっている。よくよく見ればプルプルと震えているようにも思える。
「何をしている」
「んーっ。だってー、私が乗っかってたらー、重いかもってー、思ってー」
目を固く閉じ歯を食いしばり間延びした調子で答えるキュアラブリー。敵である相手に気遣う必死さにオレスキーが口角を歪めシニカルに嗤う。全く以て愚かで馬鹿馬鹿しい。
「んぎぎぎ、うっわ!?」
キュアラブリーのやわい腰を引き寄せる形で下に引き落とした。唐突な出来事に再び戸惑う彼女を鼻で笑い――、意図的に潜めた声量で語る。
「あまり酸素量を使うことをするな。この中にある空気がいつ無くなるかも分からない。俺様は貴様と一緒に犬死するのだけはご免被る。よって、甚だ遺憾ではあるが俺様の胸に乗る許可をやる感謝しろ。……あまり喋るな動くな。息をするな」
「・・・。ぷっ。最後のは無理だって」
オレスキーの最後の言葉で重くないか辛くないか尋ね損ねたものの、乗っていいのなら甘んじて乗せてもらおうとキュアラブリーは一人微笑んだ。
そして、言われた通り息をするな以外を律儀に守る彼女に対してオレスキーはただ自分の分厚い胸板の上に俯せ状態で寝そべる形で乗っかっている相手を何となしに眺めていた。呼吸に合わせ上下するのもそうだが、息遣いや鼓動まで伝わる静かな空間が何故不快ではないのかと疑問を抱く。已然腰に置かれたオレスキーの手を嫌がらなければ振り払う素振りさえない。
それどころか目を閉じ完全に身を委ねている状況に侮蔑した態度の一つや二つとるのが普通だが。どうも適度な重みと温かさに霞んでいってしまう。
小さく、でも力強い生きているという証拠。身じろぎ一つしなくとも存在している規則正しく鳴る音。
――?」
はて。敵が此方の領域に侵入しているのに何故敵意らしい敵意が込み上がってこない。敵意を抱く程でもない無力な相手だからこその無関心なら理解できる。お人好しで損をする輩は総じて嘘を真だと信じ込み、自身にとって得にもならないことを甘んじて受け入れる。すっかりリラックスモードで腹の上に乗っている少女も例外ではない。
だが、腑に落ちない。理由は何かと考えればとても不愉快な答えが顔を覗かせる。
下手に動けば酸素を消費する恐れがあるとはいえ何もせず息を潜める消極的さか?違う。
じっくり作戦を練るべく一人静かに体だけではなく頭を使う時だってある。此処での不愉快な正体は静かで狭い空間と誰かと共有すること。しかも、それがあまり不快でないのが頗る性質が悪い。
ずっと眺めていた結果、視線に気づいたキュアラブリーと目が合ったところで彼女が微笑み此方が視線を逸らすだけ。オレスキーの視線があからさまに逸らされてもも兎角責めたり気分を損ねたりするわけでもなく、やおら虚空を見遣り静かに壁側を何となく見ているだけ。
小さな手を重ね、その上に右頬を乗せ俯せるキュアラブリーを再び見遣る。下手すれば寝てしまいそうな雰囲気を漂わせる油断っぷり。隙だらけな今なら容易に倒すのもわけない。
オレスキーが目を細めキュアラブリーに手を掛ける寸前、眩い光が上部から範囲を広げ差し込んでくる。まるで他人事みたいにこの不快極まりない場所から解放されるのと同時に、開いたところから喜びの声と共に外へ出ていく細い腕に向かって伸ばされた手を逆の手で掴み燻る動揺を抑え込んだ。
他愛のない、下らない、余興にもならない。万全な状態で完膚無きにねじ伏せてこそ完全な勝利。
己自身に言い聞かせている間にも逃げる春色を真っ赤に燃えた夕焼け色が追う。



もし、あのまま出口が現れなかったら如何していたのか。
伸ばした腕を止めず伸ばして細い手首を捕まえていたら如何するつもりだったのか。
単純に倒したいからだと自問自答するが如何も歯切れが悪い。

遠のく穏やかな春色の近さはこれから先二度と体験することはない。俯いた先にある自身の足元に目を落としたのもそうだが、幻影帝国に所属して一度も味わったことのない感情に思わず胸に手を当てた。