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豆炭々炬燵
3479文字
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ポケモンシリーズ
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【ゲー主♀】ようこそ絶望の淵へ
貴女が此方側に堕ちてくるのを蜿蜒待ち侘びておりました。
とっくに心が壊れたゲーチスと壊れかけているのに必死で取り繕ってたけど実はとっくに心が壊れてたトウコちゃんのお話し。
一見冷静を装う振る舞いの裏で隠しきれていない動揺にうっとり目を眇める。
二年という長くも短き月日の流れが幾何かの変化を齎すと思いきや、そんなもの杞憂だと云わんばかりの変わらなさに堪らず笑い声を喉奥で押し殺す。
はじめて出会い、涙と決意が入り混じる面持ちで対峙した頃と何ら変わらない。此方の車椅子姿に対して蔑む貴女の口から綴られる言葉の冷たさでさえ笑えてくる。
因果応報?罰が当たった?今までの報いだと?
「違うでしょう。貴女が本当に口に出したい言葉はこんな在り来りで下らないものじゃないはずだ」
目は口程に物を言うとはよく言ったもの。其の苛烈さを潜めた目の光が頻りに訴えてくる。
何故。如何して。想像以上に正気を保っているのか、と。往々にして語る未だ子供の領域から抜け切れていない少女の目の奥に渦巻く感情を見透かし指摘すれば面白いほど息を詰まらせる。
「おや。図星でしたかな」
「! ちが、図星じゃなんかっ」
「では」
あえて語気を強くして言葉に被せた。遮られて尚、反論しようと
――
抵抗し撥ね退けようとする不愉快な眼差しの懐かしさに気持ちが昂っていく。
「貴女がバケモノを追い掛けイッシュを離れた二年間、それはバケモノを追うためではなく
――
貴女自身此の土地から離れたかったからでありましょう?」
否定を挟ませる猶予を与えず、与える気など毛頭なく、子供ながら必死で目を逸らし耳を塞ぎ意図的に聞かぬようにしていた心を容易に壊す有りっ丈の言葉を舌の上に乗せ語った。
「それはそうでしょうとも。自分の意志に関係なく物事が進み、眼前に広がる世界は望まぬものばかり。友を仲間を救うべく美しくも愚かしい正義感を振るってしまったが故に回避可能だった面倒ごとに自ら首を突っ込み其の小さき背に運命という重荷を背負うことになった。友の一人や二人とは訳が違う。その地全ての者の未来を背負うにはまだ身も心も未熟過ぎた。確かに貴女は英雄となるべき気質を持っていた事は認めましょう。ただ早過ぎた。器が完成する前に貴女は英雄としての道を歩んでしまったが為に
――
、逃げ出した。未完成の器が壊れる前に、貴女自身の心が壊れる前に此のイッシュから逃げ出した。体の良い逃げ口上を添え
……
違いますか?」
「わ、たしは、にげてなんか
…
っ」
「では何故親や友、そしてNの待つ場所に戻らず、こんな辺境な土地で世間から身を隠している老獪の処にいるのです?さっさと感動の再会というものをしてくればいいじゃありませんか」
「だって、それは、ダークトリティたち、が
…
」
「彼らが何だって言うのです?貴女ほどの実力があれば彼らを打ち負かすのだって造作もない。そもそも彼らは無理強いを働いて貴女を此処に連れてきたわけではありません。此処に来たのは貴女の意志。周りの人々の声や視線を気にせず、貴女自身で選ぶことのできた数ある内の選択肢の一つ
――
、如何して私の処へ来たのか当ててみましょうか?」
聞きたくない、言うなと喚き耳を塞ぎ蹲る姿を見下ろすのがこんなにも心地よいものだとは。
逃げるのも儘ならず、恐怖と絶望に身を竦め小刻みに震える
……
そんなトウコを見たかったのだ。
舌舐りして俯き蹲って動かないトウコのもとへ車椅子を動かす。より一層不自由な身になってしまってからというもの車輪を回すのすら困難を極める。心がこんなにも逸っているというのに僅かずつしか距離を縮められないもどかしさ。其の絶望に打ちひしがれている顔を見たいと急く気持ちが私を饒舌にする。
「親に会いたいでしょう、友の声を聞きたいでしょう、あの不愉快で腹立たしいバケモノが恋しいでしょう。そんな募る気持ちを抑え込むほど貴女は大人ではない。所詮は子供ッ。心に巣食う虚しさや寂しさという思いが身を食い尽くすのを止める手段を持ち合わせていない。しかし、一歩でも産まれ愛したイッシュに踏み入れたが最後、恋しさ懐かしさ溜まりに溜まった虚しさや寂しさが解消する以上に貴女は貴女自身の背負った現実という名のっ、英雄という名の重荷に圧し潰される!二年前は圧し潰され壊れる前に逃げ出せたから事なきを得た!だが、今となっては二年前に愛しくも愚かなバケモノを探すためという逃げ口上は使えまい!世界を見る?違う地方に赴き力を試したい?そんなことをトウコッ、貴女の親が友がNがイッシュ地方に住まう者達が其れを許すとでも!?英雄凱旋だと持て囃す愛すべき民達が今度こそ無自覚のまま其の未熟な英雄を、年端のいかない少女の心を壊してしまうです
…
!」
漸くトウコの目の前まで来れた。滲み出る脂汗、息など絶え絶えだにも拘わらず心が気持ちが感情だけが異様に高揚して仕方ない。幾らかマシに動く左手で彼女の顎を掴み強制的に顔を上向きにさせた。
「ああ、よく知ってる分かってる。わたしだってそれこそ嫌なくらい理解してるつもりさ」
此方の手を軽く払い除け、その場で立ち上がったトウコの顔つきは今まで見たことのないものだった。立っても依然余り見下ろすことの叶わない視線が交錯したかと思えばトウコが嘲笑する。
「なに?逃げたのや色んなこと認めて開き直ったのがそんなに不服?それともあんたの所望する絶望する瞬間の顔じゃなかったのが気に食わなかった?」
挑発的で攻撃的。されど、何処か諦めた雰囲気を漂わせるのがいけ好かない。諦観までにはいかないものの、叫びたい縋りたい請いたい感情の息の根を止め切れていない様は滑稽の何物でもない。彼女の言い分を鼻で笑う。また、詰まらない不愉快な笑みを飽きもせず作り向けてきた。
「だってしょうがないじゃん。こうでもしないと、わたしがわたしじゃなくなってくような感覚に圧し潰されちゃうから。今まで好きだったのが、全部が全部でもないけど、嫌いになっちゃいそうで
…
。アハ、
…
嫌いならまだいっか。一番怖いのは何も考えられず思えなくなっちゃうこと、かな」
そういって懸命に笑みを作るトウコに私は一人納得した。
嗚呼、トウコ
…
。貴女という人は
……
。
「さあ、見せてください。此の私に
――
其の目を、」
再び左手を延ばし彼女の頬を捉え、其の蒼穹に似た瞳の奥の奥を覗き込む。すると面白いくらいに見知ったモノが此方を見つめ返してきた。
「ク、ハハ
…
!望んでいたものとは大分毛色が違うがこれもまた一興。いや、此方の方が好ましい」
「あんたがそんだけ上機嫌ってのは、つまり
…
そういうことなんだろうね」
――
ゲーチス
私の名を紡ぐ唇の動きを見入る私の顔はさぞ恍惚としていたでありましょう。
しかし、其れを齎した直接的原因でなかったのが悔やまれる。魅力的な眼差しになるための一匙の色、其の色は是が非でも此の手で注ぎ染め上げたかった。
嗚呼、でも何度見ても飽きない瞳が此れから老い先短い生涯を閉じるまでずっと手元に置いておけるのは実にいいことだ。泣いたとしても涙を流すのも叶わない憐れで美しい瞳を瞼越しに口づけを落とす。憎たらしい態度や面は此処の生活に慣れれば何れ覗かせる。其の時まで珍しく反抗心や抵抗心の薄い英雄様に気づかれぬよう教育を施せばいい。
まずは触れ合うことに慣らさせ疑問自体を抱かないものだと差し向ける。現に此方の手を煩わしく思っているようだが撥ね退けようとしない甘さに付け入るとしよう。腰を引き寄せ此方に覆い被さる形で態勢を崩したトウコの首筋に顔を埋める。急な出来事で暫し茫然としていたが、次第に顔を赤らめ羞恥に身を震わせる辺り開発のし甲斐があるというものだ。
「壊れた者同士仲良くしようではないか」
――
トウコ
殊更色香を孕んだ声で囁けば予想以上の嗜虐心を煽ってくれる可愛らしい小さな叫び声。
事の次いでです。どれだけ私が貴女に御執心なのかを知ってもらうべく蜿蜒と此れまでの恨み辛み節を語りましょう。拒絶したところで逃がしませんとも。
もっとも貴女には逃げる意思はもとより逃げること自体放棄した身ゆえ、愛すべきイッシュのことを共有し尚且つ英雄として背負うものが心を完全に壊すには能いしない老獪しかいないぬるま湯染みた場所に留まるしかない。否、此処以外で懐かしき故郷を語り虚しさ寂しさを誤魔化すことは出来まい。どれだけ口で拒絶の言葉を吐き捨てようが一度知ってしまった此の場所に貴女は戻らざるをえなくなる。
憐れな英雄、我が手に堕ちたり
――
柔い肌に歯を立て軽く噛み付いたことで震えるトウコの体を抱きかかえる自身の光景に此れから先に待つ楽しい日々に笑いが枯れることなく零れ落ちた。
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