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豆炭々炬燵
3011文字
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ONE PIECE
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「あなたの望む未来に私はなれたでしょうか?」
魚人島編のログコレ発売を機に為りを潜めていたタイヨウの海賊団とコアラ熱が再発しました。
コアラちゃんが夢の中でタイガーと電話越しでおはなしするお話。
胸が締め付けられるような呼び声だったこそ、タイガーが穏やかな口調で話し顔を綻ばせた。
上から差し込む光のカーテンが揺らめく海の中を漂うような、体を優しく包み込む優しい夢から醒めた私の頬には涙の道が出来ていた。
その日も多忙な任務に追われ革命軍が秘密裏に保有する施設でひと時の貴重な休息を味わっていた。建物の其処彼処にガタがきているが、雨風を凌げ体を休めさせるスペースを確保できるだけマシというもの。贅沢を言ってられなければ、そもそも言う気のないコアラが少し埃の匂いがするベッドに腰を下ろし、フッと短く息を吐いた。
本部への報告も終わり、あとは次の任務が下されるのを待つのみ。それまで待機という名のささやかなで何時終わるとも知れない時間の間に少しでも体と心を休めなくては。休むのも仕事、そう教わった新人時代だった頃が懐かしい。
コアラの顔から疲労の色が抜けないものの仄かに笑みが零れた。そのままボフンっと音と埃を舞わせ仰向けに倒れ込む。お風呂やら着替えやら寝る前に色々やりたかったけれども、下りてくる瞼と眠気に抗わず深い眠りに落ちた。
「
……
んー
…
」
どのくらい寝ていたのか。目元を擦りながらポケットに入れていた懐中時計の文字盤を見遣る。大体10分程度ほど寝ていたらしい。随分短い眠りからの目覚めだってのに自棄に冴えている。ググっと伸びをしていれば室内に置かれていた電伝虫が静かに鳴き出した。
はて、あんなところに電伝虫なんかいただろうか。本部とのやり取りで基本ノーマルタイプの電伝虫は使用しない。ここの施設のものと考えるのが妥当だが
…
。
「(幾ら表向き世間から安値で雨風を凌げる部屋を貸し出すとはいえ、電伝虫を部屋に設けるなんて安値で提供する施設の設定には合わない)」
一匹なら維持費が少なくても其れが数を伴えばその分掛かる。安値を謳う施設にしてはちぐはぐな雰囲気が漂い、俄かにコアラの顔つきが真剣なものになっていく。
未だに鳴き声は鳴りやまない。一体何処の誰が掛けているのかも分からない電話をとるのは不気味でありリスクだって伴う。
だが、あえて受話器をとるのも一つの手。直接声なり要求なり聞くことで問題の早期解決の糸口になり得るかもしれない。ベッドから腰を上げ静かに鳴き続ける電伝虫が置かれた机に歩み寄る。
そして、一度呼吸を整えたコアラは意を決して受話器を取り上げた。
「もしもし」
硬い声色の裏に見え隠れする此方の警戒心に受話器口向こうにいる相手の空気がフッと和らいだ気がした。心なしかムッとするコアラだったが極力表に出さず言葉を舌の上に乗せる。
「どちらさまでしょうか」
『久しいなコアラ』
「
――
ッ(私の名前を知っている?)」
どっしりした安心感を誘う落ち着き払った男の声から発せられた自身の名前。まだ名乗ってもないのに如何して分かるのかという疑問は頭の片隅で誰かが
――
小さな女の子が笑って答えたような気がしたが上手く聞き取れず、コアラは姿の見えない相手に対し警戒する構えを崩さない。受話器を掴む手に力が籠る。
「誰?どうして私の名前を知っているの?」
『知ってるとも。一度たりとも忘れたりなんかしない
――
、もっともお前の方は俺のことを忘れちまっているかもな』
「忘れる?一体なにを言って
……
」
途切れ途切れに掠れていた小さな女の子の声が頭の中と云わず全身に響き渡る。途端、込み上がる感情の激流がコアラの思考を一瞬だけ混乱させた。戸惑いをぐっと押し込み尋ねた声は震え、華奢な肩が戦慄く。
「タイガー、さん
…
?」
否定する思考とは逆に、心が、小さい頃の幼い自分が確証も根拠もなしに「そうだ」とくり返す。手に持った受話器を落としそうなくらい力が上手く入らない。
相手の返答を待つほんの数秒。其の刹那に近い数秒が途轍もなく長く感じ。自棄に五月蠅く響く鼓動が受話器口向こうにいる相手に聞こえてしまうのだけが気掛りだった。
『嗚呼、覚えていてくれてたか』
短い肯定の後、明るく冗談交じりに話す相手の正体に歪んでいた視界がより一層歪む。コアラの頬を滑るあたたかな涙がぱたたっと床に落ちた。
前を見ても安宿の壁しか見えない筈なのに彼女の目には優しい眼差しで此方を見詰める嘗て魚人海賊団を率いた奴隷解放の英雄
――
フィッシャー・タイガー其の人が映った。まるで船長室にお邪魔した時みたいに椅子に腰掛けテーブル越しの対面に懐かしさが心を射す。電伝虫越しの会話、しかもありえない状況なのに嘘だと思えない思いたくない。
「タイガーさん
…
ッ」
しゃくり上げるのも厭わず、コアラが彼の者を呼んだ。
『こんなべっぴんさんになって。野郎どもがほっとかないだろ?』
胸が締め付けられるような呼び声だったこそ、タイガーが穏やかな口調で話し顔を綻ばせた。
「あ、あァ
…
」
まさかの邂逅に言葉が思いに追いつけない。沢山喋りたいことがあるのに声の出し方を忘れ、言葉にも満たない声を断続的に漏らすことしか叶わない。口を開けど胸がいっぱいで何も話せず再び閉じるを数回繰り返す間も真向いに佇むタイガーは一切急かさず待ち続けた。
コアラも懸命に気持ちを落ち着かせるため深呼吸をしてみるが、下手くそでぎこちないものになってしまった。其れでもしないより幾らかマシかやおら落ち着きを取り戻せた。
「お久しぶりです、タイガーさん」
まだ小さく震える声だろうとも、濡れた目元を指の背で拭い気丈に振る舞う。ちゃんと大きくなって無力な子供じゃなくなったと胸を張る。
其れを見たタイガーの目が慈しむように眇められ微かに溜息を零した。
『もう俺の知ってる子供じゃないと思ったが泣き方だけは変わらねえなあ。あの時のままだ
…
』
「タイガーさんってば、私そんな大声で泣いていませんよ」
『そうかもな』
「そうです」
『ただな、
――
いや何でもない。それより聞かせてくれ。お前の口からこの世界を、今までの出来事を。どんなことだって構わない。とにかく話をしよう
…
、夜はまだ長い』
一度言い淀むも程なく話題を変えるタイガーにコアラも頷いた。沢山ある話したいことを順を追って話すくらいには心が安定した。楽しいこと、悲しいこと、辛いこと、くだらなくて笑っちゃうこと、話せるだけ話した。
タイガーはコアラの話に耳を傾け頷く程度で口を挟まず聴き入っていたが、たった一つだけ内に秘めた綯交ぜの感情を抑え込んだ声色で問い掛ける。
『お前は”あの時”其処にいたら何か変えられたと、
……
後悔していないか?』
聞かれると思っていた内容だからこそコアラはあえて微笑んでみせた。
「・・・。始めこそ悲しみに暮れて後悔してタイガーさんを殺した海軍を憎んで無知な自分を憎んでばかりでした。何度あの時あの場所に私がいたらって。でも、何もできない子供の私が其処にいたとしてもきっと何も変えられなかったと思います。
其れに”もしも”を考えたらキリがないですし、何より何にもならない。これから先にある未来さえも変えられなくなっちゃう。だから、
――
私みたいな辛い思いをしなくていい後悔や憎しみの連鎖の無い世界にするため前を向いて生きています」
『コアラ
…
』
知らぬ間に立ち上がり見下ろすタイガーに向かってとびっきりの笑顔を向ける。折角止まった涙が再び頬を濡らしているとも知らずに。
「タイガーさん、私は
――
」
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