うずめび
2023-10-30 22:13:07
6702文字
Public 岳博
 

その瞬きに触れる

岳博で互いの瞳に惹かれている話。ただいちゃいちゃ致してるだけの話で、ぬるいですがR18です。お互いの瞳や存在が温かいな、と思っていてほしい何かです。

2023.11.5 追記
翌朝の博士視点の話を加筆しました。彼シャツして朝ごはん一緒に食べてるだけの話です。

 日頃のオーバーワークのせいか、すっかりクセになってしまっている目元のうっすらとしたくまを撫でて、細い首筋を辿って肉付きの薄い胸元を一つ撫でる。重岳より身長も体型も小さく、体力もないせいか熱を受け入れるといつも鼓動を少しばかり苦しそうにあげてしまう。

「苦しくはないか、ドクター」

 間接照明でぼんやりと照らされたドクターの寝室にて。ベッドの上であぐらをかいた重岳を跨ぐように熱を受け入れているドクターに重岳は問いかける。だいじょうぶと上がった息で返された声に頷きつつも、鼓動と呼吸が落ち着くまで背を緩やかに撫でて、尾を体に回して支えてやるのは互いに体に触れるなかでできた習慣だった。
 最初の頃はドクターが苦しそうにする姿が痛ましく、せめて少しでも楽になるようにと体勢の変更を申し出た事があるが、首を横に振られてしまった事は記憶に鮮やかな思い出だ。重岳からすれば見えない相手に体を好きにされるのは怖いのだろうと思っていたのだが、返ってきたのは予想外の言葉だった。

―――せっかく君が近くにいるのに。もっと君の綺麗な瞳を見せて、重岳。

 こうしてる時はいつもは高いところにある君の瞳が近いから、するなら顔が見える体勢がいい。そんなふうにどこかあどけなく笑うものだから、熱を交わらせる最中であったのになんとも言えない気持ちになって抱きしめたのを覚えている。
 テラにおいて赤い瞳というのは他の種族との明確な違いを表すものだ。サルカズのブラッドブルードしかり、自身とは違う存在だと明確に示すものに対して人はあまりよい反応を示さない。それは重岳も同じであり、他種族にはない角や尾も相まって畏怖や忌避の目で見られることは少なくなかった。
 それでも長い時の中では玉門の仲間たち、あるいは自身に果敢に挑んできたワイ・テンペイのように容姿に拘泥しないものも少なからずいたが、綺麗だと称したのはドクターが初めてだっただろう。いつかに怖くはないのかと聞けば、不思議そうに笑われてしまって。

―――それは君の瞳の色がという意味かな?それとも君自身について?答えはどちらもいいえだよ、重岳。

―――君が優しいひとだと知っているから怖くないよ。瞳はきっとそれに合わせた色をしているのだろうね。赤は人を温める命の色だから。

 今も熱に浮かされたままにドクターが重岳の瞳を見つめる。そっと伸ばされた両手に顔を寄せれば、目尻を優しく撫でてくれるのが嬉しい。思わず尾で体を抱き寄せれば、距離が近づいたせいかドクターがあえかな吐息を漏らした。自重もあって奥深くを押してしまったのだろう。

「っ、つ」
「すまない、まだ早かったな」

 宥めるように額に口付けてやるとドクターが首を横に振った。再び問いかけるよりも先に控えめながらも腰を揺らめかせられて、薄暗い寝室に微かな水音が落ちる。拙い仕草ではあるが、確かにドクターから求められた事実が熱を煽る。
 眉間に皺を寄せて衝動をやり過ごそうとするのに、ドクターから顔を引き寄せられて口付けられてしまうからどうにも困ってしまう。口付けの合間に宥めるように名を呼べば唇を離して大丈夫だからとまっすぐに瞳を見つめた。

―――君の瞳にある熱で私を温めて欲しい。

 囁かれた言葉を理解した瞬間に重岳こそが温められたかのように頬に熱が宿る。背中を撫でていた手を腰に添えれば頷き返されるものだから、細い腰を掴んでゆるりと揺らした。せっかく落ち着かせたはずのドクターの息が弾んで、合間に甘く声が漏れるのが愛らしいものの、掴む腰の細さに心配になってしまう。

「相変わらず体重は増えないか。やはり貴公はもう少し食べた方がいい」
「んんっ、こんな体は嫌い?」
「貴公であれば厭わしいはずもないが、あまり細いと儚く見えてしまってな」

 今度温かくて滋養のある物でも作ろう。そう呟けばそれは嬉しいのだけれど、と少しばかり困ったように眉を下げて笑われた。

――今は君でお腹がいっぱいだから、ね?」

 熱を納めた薄い腹を撫でる姿に尾の付け根がしびれるような心地がする。ドクターを支えていただけの尾を体に回し、腰に添えた手とともに力を込めた。湿った音とともに中に納まった熱がゆっくりと引き抜かれ、出ていくギリギリのところでまた尾と手で引き戻す。

「っ、ああ!チョンユエ、っ」

 ぐちゅりと入り口近くを擦り、中を抉じ開けながら押入ればドクターが舌足らずに名前を呼んで快感で背をしならせた。繰り返し中を擦り、奥を押し上げる合間に眼前にさらされた胸元で主張するそれを口に含めば、より感じてしまうのか中が熱を離さないとでもいうように震えては締め付ける。

「あまり愛らしい所作をされると、どうにも困ってしまうな」

 たしなめるように胸元に甘く歯を立て、体の間で熱を溢すドクターの中心に触れてやれば、きゅうきゅうと中が食むように重岳の熱を苛む。欲しがりの中をかき分け、より深くにと埋めていけば微かな膨らみよりも奥にくぷり、と触れる場所がある。

そこ、は」
「嫌なら断ってくれていい」

 奥深くで受け入れる事は快感もあれば、ドクターからすれば負担が強い。以前、偶然に熱を受け入れてしまったときは強すぎる刺激のせいか翌日寝込んでしまったから、許可なしには立ち入らないと決めている。互いを慈しみ合う行為が痛みや恐怖を伴うものでは意味がない。
 声に僅かにためらう気配を感じて、やはり無理をさせたくはないと体を引こうとしたときだった。背中に手が回り視線が合わせられる。とろりとした目の中にはそれでも確かな強い意志が瞬く。重岳の瞳を綺麗だというが、重岳からすればドクターの方がよほど綺麗だと思う。互いの差異を理解してなお、目を逸らさず見つめてはこちらを理解しようとする得難い瞳。

「かまわない。君に温めて欲しいといっただろう?」

 言うが早いが重岳が止める間もなくドクターが自ら腰を進めた。腹の中が強く痙攣して、熱の先端が奥深くに入り込む。声もなく衝撃に震えるドクターを重岳は慌てて抱き止めた。

―――っ、随分と無茶をしてくれる」

 首元に顔を埋めて震えているドクターは受け入れた瞬間に達したようで重岳の腹に熱い飛沫がかかる。帰ってこれない体を落ち着かせるように抱きしめて、背中を撫でているとしばらくして顔を上げてへらりと笑われた。

「ん、ん……少し刺激が強かったかな」
「嫌なら断ってくれていいといっただろう。ただでさえこの行為は貴公への負担がすぎる」
「嫌じゃなかったから断らなかったんだよ、重岳。過ぎる快感が少し怖いことと、君から熱を与えられたい事は矛盾しない」

 さらに言いつのろうとする重岳にドクターはあまやかに微笑む。 

「君だから断らなかった、君だから暴かれても良いと思った。あまり野暮なことを言わせないで、私の愛しいひと」

 私にも羞恥心があるんだよと恥ずかしそうに頬を染めて口付けられてしまえば、重岳の小言はすっかり消えてしまう。かわりに胸の中で渦巻いた衝動が体を動かした。止まっていた尾と腕が動いて奥深くに熱を受け入れたままのドクターを揺らす。
 中で強く求められる快感は元より、本人でさえ触れたことのない場所を許され、受け入れられた事こそが重岳の理性を焼いた。―――望んだものをどうしてこうも簡単に。受け入れられたい心をその美しい瞳で見つけては、そっと手を伸ばしては傍においてしまう。それが人間のものではないと知ってなお。
 言葉にならない感情とともに奥を穿ち、受け入れてくれている愛しいひとに口づける。呼吸を食む間に芯を取り戻して熱を溢し続けていた中心に触れれば、ぽたぽたと過ぎた快感にドクターの瞳から涙が溢れるのが痛ましいはずなのに愛おしくて。

……は、っチョンユエ、もう」

 中は絶え間なく震えドクターの手足が重岳にすがり付き、合わせるように重岳も腕と尾でより深くドクターを抱き込む。互いの距離が限りなくゼロになった瞬間、ひときわ強く中がうねり震えた。
 
―――っ、つ!」

 ドクターが背をしならせた瞬間、重岳も震える中に促されるように最奥に熱を吐き出した。中に出される感触でさえ快感に変わるのか、熱が注がれひくりと震える様が艶かしくもどこかいとけない。
 溢れていた涙を拭うために頬に手を伸ばせば、腕と尾に囲まれた人に穏やかに見つめられて笑われた。―――君は温かいね、だなんて。本当に温かいのははたしてどちらだっただろうか。




 目蓋の裏でゆらゆらと光が揺れるのを感じると同時に耳が規則的に鳴る音を捉える。源石エンジンの立てる振動はドクターの生活に身近なもので、知覚した瞬間にゆっくりと目蓋を開いた。窓辺のカーテン越しに朝焼けの光が差し込み、照らされた寝台の片側は一人分の空間が空いていて、触るとまだ温かかい。
 二人で熱を交わらせた朝、朝練へ出かけることを渋ったのは意外にも重岳の方だった事をドクターははっきりと覚えている。初めて熱を受け入れた翌朝、抱きしめられた腕の中でいつもの朝練へ行かなくて良いのかと聞いたら、珍しく間の抜けた顔をされた後、たいそう眉を下げられてしまって。

―――夙夜夢寐(しゅくやむび)の思いが報われたと感じたのは私だけであったのか、ドクター。

 そんな悲しそうな顔をされるとは思わなかったから、慌てて弁明をする羽目になったのは少しばかり苦い思い出ではある。好きな事をしている重岳が好きなこと、自身がその邪魔をしたくないこと。良い習慣は続けて欲しいことを常にない頭の回転と弁舌を駆使して訴え、何とか事なきを得た。
 確かに重岳からすれば、初めて情を交わらせた相手から翌朝に離れることを惜しまれるどころか、聞きようによってはまだいるの?とでも取られかねない発言だっただろうから、今では自身の情緒のなさに深く反省している。
 それでも今ではドクターの思いを理解し、汲み取った重岳はいつものように朝練に行き、それをドクターが見送っては帰ってくるのを迎える事が習慣になったのだからそれで良しとする。もっとも今朝は昨夜に深くに熱を受け入れたせいで起きられなかったのだけれど。大きな手で腰を捕まれ、体に回された尾で引き寄せられるのは温かく満たされると同時にひどく―――
 朝から思い起こすにはいささか艶っぽい記憶を振り払うように小さく頭を振って、ドクターは寝台で上半身を起こす。いつもの厳重な防護服ではなく後始末もそこそこに裸身で眠ってしまったから早朝の寝室の空気が身を震わせた。

「なにか着るものは……

 昨夜に脱がされた防護服が近くに見当たらず視線をさ迷わせれば、寝台のすぐ傍にある椅子にかけられた見覚えのある服が視界に入る。いつも重岳が道着の上から着ている黒い上着は作りもしっかりしていて温かそうだ。鍛練の間は上を脱いでいることも多いから置いていったのだろう。少しばかり拝借してしまおうと寝台の上から手を伸ばしてドクターは上着を手に取る。

「まずは首元のボタンを外して、ここのファスナーは閉めて……ああ、結構重いし大きいな」

 持ち主の重岳が着ればぴったりの腹は、身長も体重も違うドクターからすればかなり大きく肩幅がぶかぶかで、あまつには袖を捲らないと手が出ないのを見たときにはまがりなりにも成人男性同士だというのに体型差を感じて思わず笑ってしまった。ここまで違うと自らの体型の貧弱さを思うよりもいっそのこと清々しい。
 ひとしきり笑ったところで、動いたせいかふわりと服から重岳の香りが漂っていることに気づく。優しい香りは彼が好む玉門でよく飲まれていたのだというお茶や部屋でときおり焚かれる香が入り交じったもので、包み込むような香りを感じているとひどく落ち着いた。まるで重岳が傍にいるようで。
 なんだかまた眠くなってしまいそうだと小さくあくびをしたところで、控えめにドアがノックされてゆっくりと開く。どうやら日課の朝練を終えて戻ってきたようだ。想像通り上着のない道着姿の重岳の手には朝食なのか二人分の飲み物と湯気のたつ器を乗せたお盆を持っている。

「おはよう重岳」
「ああ、おはようドクター。体は―――

 いつもであれば体は大丈夫だろうかと続く言葉がこちらを見て不自然に途切れたものだから、ドクターは小さく首を傾げた。もしかして勝手に上着を借りたのが良くなかったのだろうか。確かにいくら親しい仲でも普段愛用している物を無断で拝借するのは誉められた行動ではない。

「寒かったからと勝手に借りてしまってすまなかった。君の物なのだから、了解を得るべきだったね」

 重岳に不快な思いをさせたくはないから閉めていたボタンを外し、慣れないファスナーを重岳の尾の跡が残っている腹の半ばまでゆっくりと落として服を体から落とそうしたときだった。足早に重岳が傍にやってきて朝食の乗ったお盆をサイドテーブルに乗せたかと思うと、ファスナーを上げて首のボタンを閉じる。 
 一瞬にして起こったことにドクターが目を瞬かせれば、微かに顔を染めた重岳が困ったように笑う。

―――ううん?君の物なのだから、着替えてすぐに返すべきでは?」
……貴公の言うことは一理あるが、今ばかりは着たままでいてくれないだろうか。着替えもまだ手元に置いてないだろう?」
「確かにそれもそうだね。上着を貸してくれてありがとう」

 体に残った尾の跡もそうだけど、君の物があると傍にいてくれるようで落ち着くのだと告げれば、重岳が寝台の端に座ってドクターの事を抱きしめてくれるのが嬉しい。
 どこかいつもより体温の高い体に手を回すと何故か熱のこもった深いため息が耳元で聞こえる。無自覚というのは、というなんだかひどく疲れた声を聞いた気がして労るように背中を撫でると穏やかに撫で返されて眼前でやわらかに微笑まれた。

「体の方は大丈夫そうだな。目の下のくまも随分と薄れている」
「君が傍にいてくれたから、久々に夢も見ない程に眠れたよ」
「貴公の眠りの番人となれて何よりだ。睡眠がとれたなら後は食事だな」

 睡眠と食事こそが人をつくる。冷めないうちに食べるといい。体を離し、サイドテーブルに置かれたお盆から取った器を重岳が差し出す。受け取った小ぶりの器には玉子が溶かれたとろみのあるスープが満たされ、やわらかく煮まれた青菜とキノコとともに白い塊が浮かんでいる。

「ありがとう。もしかして重岳が調理を?」

「ああ、鍛練の帰りに厨房を少し借りてみた。炎国でよく作られている料理でな、豆腐花という。昨今は果実を添え、シロップで浸した甘味として作られる物の方が知名度が高いが、味付けを変えれば食事にもなる」

 私なりの温かくて滋養のあるものになるな、と笑う人の好意が嬉しくも、少し気恥ずかしい。情事の最中の言葉を引き合いに出されては、少しばかりあの記憶を思い出してしまうから。―――もっともその熱さは、手の中の穏やかな温かさにゆっくりと溶けてしまうのだけれど。

「「頂きます」」
 
 どちらともなく呟いた食前の挨拶とともに添えられていた蓮華で中に入っていた白いやわらかな塊を崩して、具材とスープと一緒に掬い上げて口に運ぶ。料理の名前のとおり入っている白い塊は豆腐で、羽獣から取れただしの優しい味付けのスープと相まって冷えた体を暖めてくれる。

……美味しい」
「朝をコーヒーだけで済ませているのをよく見ていたから、貴公でも食べられる軽いものをと考えたのは正解だったな」

 毎朝のコーヒーが必ずしも悪いとは言わないが、食べられるときには食べた方がいい。そう語って重岳も自身の豆腐花を口にする。―――同じ空間で同じものを食べる事を許されている距離感が嬉しい。こちらの事を思って作ってくれた食事ならなおさらのこと。

「ドクター?」

 見つめている視線に気づいたのか重岳が声をかけてこちらを見る。なんでもないと緩やかに首を横に振って、再び蓮華を口に運んだ。ゆっくりと食事をしながらドクターは思う。―――どうかこの時間が長く続きますように。互いの生きる時間が違っても存在が重ならなかったとしても。互いに触れて、共に過ごす時間が重岳にとって優しい灯火になればいいのだと。いつも優しく傍にいてくれるひとの傍にいたいのだなんて、そんなこと。