しろくまたたくはくしゅんさん
2023-05-27 15:59:15
4430文字
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【勝デク】そして僕らは花になる 続【未完】

これは支部に上げていた話の続編なんだけど書きかけのままで放置していたもの。完結もしていない

その次の日のことだ。
まだなれない花根っこのせいで呼吸が苦しいかと思えばそうでもなく、睡眠は快適だった。むしろ暗くなると花が閉じるみたいに、脳の動きが鈍くなっていった。逆に、日がさせばすっきり目覚めた。こんなにも快適な目覚めが今まであったろうか、というくらい冴えていた。残念ながらノートとペンを使った課題はできない。故に朝早くに目覚めたのでやることといえば、基礎体力作りしか無い。
(テスト期間じゃなくてよかった
今は思い切り身体を作ることだけを考えれば良い。幸い視界は色と輪郭が花を通じて視覚情報として展開しているため、通常のロードワークに支障はなさそうだ。むしろ葉隠さんの形が浮き出て見えてしまうことに申し訳なさを覚えつつ、花の視界の生活が始まった。

「むー」
口がほぼふさがっているので、僕の食事はストローからの栄養補給だ。ほとんどが水分で固形物も混ざっている。花面病は生身の人間がかかったとしても、通常通りの栄養補給で構わない、ただし水不足になりやすいので気をつけろ、とだけ病院の先生に言われた。ずるずろずろ、と栄養を得ている僕の斜め後ろ、かっちゃんが食事しているらしい。
「普通の食事で大丈夫なのか。ってか見えるんだな」
「ウルセェ俺の心配すんな!」
昨晩帰寮すると、皆に囲まれ心配された。相澤先生が大まかなことを説明しただけで、あとは僕たちの自主性に任せる、と帰っていった。医師にも僕たち本人にも、花面病はよくわからない病気らしい。
授業が始まる前と後、一日二回は必ずリカバリーガールに検診してもらう以外、特に制約はなかった。といっても、僕は口が開かないので喋れないし、食事もままならない。お風呂に入れば花風呂になり、五感もいつもと違う。午後のヒーロー基礎学はしばらく休みになるかもしれないな、と思っていたが「運動に制限があるわけじゃなし、出ろ」と相澤先生からお墨付きをいただいた。

「なんか変な感じ」
というのは、かっちゃんの隣の席である耳郎さんの言葉だ。
「目が隠れてるから、爆豪、いつもより怖くないや」
とかっちゃんをからかっている。
「あと、いい匂いだもんね!後ろからふわ〜ってくるからいつもより勉強する気になれる!気がする!」
「気がするだけなら嗅ぐな。席につけお前ら」
相澤先生の声だ。先生が黒板の上に立つと、僕らの方を向いている。
「お前らのために特注のチョークを用意してもらっていた。ノートは好きに取れ。一応この授業は録画するから、治ったら好きに見ろ」
僕は一応カバンからノートを取り出した。なにを書いてもいいノートだ。手持ち無沙汰なので出したに過ぎない。
この花面病一番の難点は、目が見えないこと、だ。正確に言うなら、視界はサーモグラフィーのように温度変化を映し出しているだけ。特に生物は輪郭が粒子状で曖昧だった。これ、本当に演習に参加していいんだろうか。
先生は特注のチョークを用いて文字を書いていく。と、赤黄色に文字が染まっている。
「爆豪、緑谷、見えるか」
「ウス」
「むふ!」
どう言う原理なんだろう。先生の持っているチョークは光っていない。黒板に書かれた文字だけ発光している。
「温度か」
かっちゃんがつぶやいて、なるほどと納得する。僕らの視界は今、光の波長、温度、触覚で成り立っている。故に、温度のあるものは視界で存在が成り立つ。どういう仕組みかはわからないが、チョークの粉に仕掛けがあるらしい。鑑みるに、黒板に書くと空気に触れ化学反応を起こしているらしい。皆違和感を口にしないので、僕ら植物の視界にだけ作用しているようだ。あとで聞けば、パワーローダー先生と発目さんの共同開発品という。流石だ。
しかし、それを鉛筆などの芯に活用できる段階ではないらしく、手元のノートは幾ら書いても白いまま。昼になるとみんな僕らの手元を見て苦笑いしているようだった。
「授業、聞いてるだけっていうのも辛いよね。めっちゃ焦る」
「むー……
いつ治るかわからない、けれど止まらない日常。座学はともかく、実技が出来なければ致命的だ。視界が確保されていることから実技は参加してもいいと言われているけれど、どうなるかわからない。
「それにしても、爆豪君と違って固形物が食べられないというのは辛いな」
飯田君の言葉に、僕は首を振る。
「む、そうなのかい?」
こくこく首を縦に振ると、花びらがひらひら何枚か落ちていった。そして、麗日さんがふっきゅ!とくしゃみする。
「むむ〜!」
「うう……ウチ花粉症やねん、うるさくてごめんね」
いや、寧ろこっちがごめんね?!というか麗日さん、僕から離れた方が良くない?
「悪い、待たせた」
轟君が職員室から戻ってきた。かがみ、なにかを拾う。僕から散った花びらだ。
「今の緑谷、どこにいるかわかりやすいな。お菓子の家みたいだ」
「それを言うなら森に迷い込んだヘンゼルとグレーテルやん?」
なるほどな、と轟くんの言葉にうなづいた。
果たして、花粉症とヘンゼルとグレーテルの話は午後の訓練において非常に役に立つことになる。
これはつまり、個性だと思えば役立てることも幾分かできる。

午後からはグラウンドβでの戦闘訓練。本当ならB組と一緒にするはずだったんだけど、花面病は植物個性の人と相性が悪い。つまり、塩崎さんにうつってしまう可能性があることから迂闊に近づけないのだ。最も、塩崎さん自身はこの病にかかってみたいと言っていると噂で聞いた。お花、好きなんだね。

「今日はここまで。課題は62ページのポスターについて、時代背景とその後の影響を調べてまとめてきて。以上!」
 ミッドナイト先生によるヒーロー史の授業が終わると、皆一斉に立ち上がる。脇から出てくるロッカーからジュラルミンケースを取り出し、それぞれ更衣室へと走り出す。演習に少しでも遅れたら大目玉だ。僕もロッカーから取り出し、教室から出る。
 外に出れば秋の柔らかな日差し。光合成が始まったのか、頬から喉にかけて根っこが張る。ぽふ、ぽく、と顔からまた花が咲いた。
「ちっ、うぜぇ……!」
 かっちゃんの舌うちが後ろから聞こえた。切島君たちが「うおお、すげえ紫!爆豪が怒ってる!」「いっつも表情に出てるけど花のせいであんま怖くねーな!」と苦笑しつつ歩いているようだ。
 僕は心のノートにメモする。どうやら感情によって生えてくる花の色が変わるらしい。青は悲しい、黄色は普通。紫は怒り、オレンジは面白い楽しい、緑は苦しい、ピンクは嬉しい、赤は羞恥のようだ。かっちゃんは常に黄色かオレンジ、紫という色が常らしい。黄色だと髪の毛の色も相まって真っ黄色になってしまうのが相当面白いらしい。朝随分からかっていて、かっちゃんは口はそのまま達者なので怒鳴り散らしていたけれど、僕も見たかったし、たぶん上鳴君辺りがそれを撮影しているに違いない。
「ふふ」
 葉と根と鼻の間から漏れる息。ぽんぽん、といくつか花が咲いたのがわかる。隣にいた轟君が「お、笑った」と言って抜けた花びらを拾っている。きっと黄色い花が抜けてオレンジの花が咲いたに違いない。
「緑谷君、大丈夫か?どこか苦しいところがあれば言ってくれ」
 飯田君に聞かれて、僕は首を振る。ふわふわと花びらと葉が揺れる。どこか甘い匂いが鼻腔をくすぐった。咲きたての花から香るものか。なぜ飯田君がそんな事を言うのか不思議で、僕は首を傾げていると「そうか、大丈夫なら急ごう!」と駆け出した。ロッカールームは一応十分な広さがあるけれど、いつもの視界ではない僕は着替えに手間取る自信しかない。少しでも早く、と地面を蹴った。

 演習の前に、相澤先生が僕たち二人をどうするか考えていたようで、訪ねてきた。
「一応聞いておくが、戦闘的にはどれくらい制限がある」
「2割ってとこか。デクのほうは意思伝達がアレだ、5割がた使えねぇだろ」
「むぅ~!」
 そんなことないよ!と思ったけれど、そういえば呼吸もしにくくて激しい運動ダメなんだった、と思い出す。
「あと透明女が見える」
「ええ~恥ずかしい!えっち!」
 葉隠さんの言葉はもっともで、いわゆるサーモグラフィーのような映像で葉隠れさんが見えているのだ。いやでも、葉隠れさん自分の体組織で作ったスーツ着てるっていうし、大丈夫裸が見えてるわけじゃないから!
「あはは、デクくん真っ赤や」
 そう指摘されると一層頬が熱くなる。少しスパイスに近い香り。むわっと蒸気する頬の水分にすぐに吸い付き根を張りだす。勢いよく花があふれ出し、僕は思わず顔を覆う。
「今のこいつらに隠蔽行動は不利だな」
 相澤先生は努めて冷静に言ってくれたので、僕も幾分か落ち着いて、それから班分けになった。
「今回は怪我または敵から何らかの個性を受けたときにどう対処するか、という訓練だ」
 恐らく僕らのこの状態を鑑みての訓練だろう。僕とかっちゃんは既に個性事故に会っているとして、みんなは一体どんな制限を受けるんだろう。
 十分後、皆はそれぞれなにかつけて戻って来た。
「よし、それぞれの状況を説明しろ」

 演習はつつがなく終わった。つつがなく、というか、僕はこの顔面に花という状態を有意義に利用できたと思う。割と顔面に力を入れれば根が張って、にょきにょきと顔から花が生えるのだ。エアフォースを顔の傍で放てば、特性花粉エアフォースがお見舞いできる。花粉症の人はなんとなく把握はしているし、そうじゃなくても細かい粉で気管支がやられるのはたまったモンじゃないだろう。響き渡るくしゃみの声。その間にひとりずつ仕留める。
「くっ!緑谷なかなかエグいことするなあ!」
 戦闘が終わっても目を擦っている上鳴君に、「ぬふん」と謝る。麗日さんもくしゃみをしていて、なんだか申し訳ない。
 今日の演習は問題なく終わった。あとは寮に帰って、ご飯を食べないと。といってもどろどろとした流動食だ。この時ばかりはかっちゃんの口は自由というのがうらやましい。
 ロッカールームから出て、寮に帰る前に図書室に本を返しに行こうと教室に寄ろうと足を向けた時だった。
「む?」
 じわり、と頬から喉にかけて熱が走る。なんか熱いな、と思った瞬間、呼吸が止まった。
「ン゙!??」
 急に呼吸が、息が吸えないというパニック。しかし叫ぼうにも口は封じられているし、ろくな叫びも出せない。首の内側も外側も膨張し、張り裂けそうになっているのがわかる。
 携帯を掴んだけれど、手汗で滑って地面に落ちる。こうなるともうどちらが表で裏か、などという判断ができない。とうとう何もできないまま、僕は地面に崩れた。
 記憶の最後に誰かに足を蹴られた気がした。暴力的な音声に、背中を蹴られて──ああ、けれど誰かに寄り添われるよりもずっと安心できる。

 かっちゃん。